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【要請書】学校での「放射線教育」実施に関する要請

2012年03月27日

福島県教育委員会
委員長 遠藤 由美子 様

学校での「放射線教育」実施に関する要請

2012年3月27日
原水爆禁止日本国民会議
議  長 川野 浩一
事務局長 藤本 泰成

 文部科学省は2011年10月、小学校から高等学校の児童・生徒を対象とした放射線副読本を公表しました。全国的にも2012年4月から放射線教育の実施が予定されていますが、福島県では全国に先駆け、一部の学校ですでに実施されているものと存じます。
 この「副読本」は、そもそも電力業界との深い繋がりが指摘されている「日本原子力文化振興財団」が作製したものです。また、福島原発事故についてほとんど触れることがないばかりか、放射線被曝の人体への影響について他の一般的な健康リスクと同列に扱い、一方で放射線の(工業的)利用のメリットについての解説に重点が置かれているなど、その問題性が各所から指摘されているところです。
 現実に福島に生き、また学んでいる多くの子どもたちにとって、2011年3月11日の福島原発事故以後、放射線の問題は、子どもたち自身の現在、そして未来にかかわる重大事です。上記の「副読本」の内容では一面的すぎて、子どもたちが放射線の問題について理解を深めるためのものとして、まったく不十分であると言わざるを得ません。
 一方、貴委員会が、教職員に対して、この「副読本」の内容から逸脱しないよう指導をしているとの報道がされています。さらに原発の是非についても触れないようにとの指示を出されているということですが、事実ならば、そのような方針には大きな問題があると考えます。
 教育の現場で、子どもたちとともに、3.11福島原発事故以後の現実に向き合ってきた教職員に、被災の原因である原子力発電所の存在、そしてその背景にあるこれまでのエネルギー政策を黙認することを強いることに他なりません。子どもたちの健康と安心のために必要になるであろう、子どもたち自身が安全について判断できる力を獲得していくためには、福島原発事故の被害の実相に関するデータなどに基づく、現場での多様な教育実践こそが、大きな手助けになっていくのではないでしょうか。
 貴委員会におかれましては、教職員の現実に即したさまざまな教育実践の検討と追求に対し抑制を加えることがないよう、強く要請いたします。


《資料》
東日本大震災:福島第1原発事故 放射線教育で混乱 被ばく触れぬ副読本 (毎日新聞)

◇福島県教委「内容通りに」/現場「リスクをどう説明」
 東京電力福島第1原発事故を受け、全国に先駆けて放射線教育を実施している福島県教委が、原発事故やそれに伴う被ばくに触れない国の副読本から逸脱しないよう教員を指導していることが分かった。「原発の是非に触れるな」とも指示。学校現場では、指示通りに教えると被ばくに不安を抱く親から批判され、危険性に言及すると違う立場の親から苦情が来るといい、実情に合わない指導で混乱も生じている。放射線教育は4月から全国で始まる見通しで、同様の事態の拡大も懸念される。【井上英介】

 福島県内の放射線教育は、小中学校で週1時間の学級活動を使って計2~3時間教える形で、郡山市や会津若松市などの一部の学校で実施されている。

 県教委は実施前の昨年11月以降、県内7地域で各校から教員を1人ずつ集めた研修会を開いた。参加した教員によると、指導主事から「副読本に沿って教えよ」「原発には中立的な立場で」などと指導を受けた。会場から「被ばくのリスクや原発事故を子供にどう説明するのか」など質問が出たが、何も答えなかったという。

 研修を受けた教員は「副読本は放射線が安全だと言いたげで、不安に苦しむ住民は納得できない。県教委に従えば、県議会が県内の原発の廃炉を求めて決議し、県が廃炉を前提に復興計画を作ったことにも触れられない」と疑問を示す。

 小中学校の教員で組織する福島県教組によると、親の間では被ばくの影響について見方が割れ、学校や教委に「放射線の危険性について認識が甘い」「不安をあおり、過保護にするな」など正反対の苦情が寄せられている。放射線量が高い地域の小学校教諭は「親の意向で弁当を持参して給食を食べず、屋外での体育を休む児童がいるが、他の親たちに批判的な空気も生まれるなど厳しい状況にある。副読本や県教委の指導は福島の現実に即していない」と指摘する。

 県教委学習指導課は「大半の教員は放射線の素人で、教え方がばらついても困るので副読本に沿うようお願いしている」と話す。

 副読本を作成した文部科学省開発企画課は「地域や教員によっては物足りないと感じるかもしれないが、自治体教委の要請もあり、放射線について最低限必要な知識を伝えるために作った。使うも使わないも自治体教委の自由だ。来年度も作ることになれば、意見を踏まえて充実させたい」と説明している。
 

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