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被爆67周年原水爆禁止世界大会基調

2012年07月28日

被爆67周年原水爆禁止世界大会基調

1.はじめに──核社会を問う原水禁大会に!
 2011年3月11日の東日本大震災とそれによる津波が東日本一帯を襲い、甚大な被害をもたらし、東京電力福島第一原子力発電所では、日本の原発史上最悪の事故を引き起こしました。これにより日本の原発の「安全神話」は完全に崩れ去りました。事故による大量の放射能の拡散は、海・空・大地を汚染し、人体や環境に大きなダメージを与え続けています。今もなお多くの人々が故郷を奪われ、肉体的にも精神的にもさらに経済的にも多くの苦難を強いられています。あれから1年5ヵ月が過ぎようとしていますが、いまだ事故の収束には至らず、事故に起因する様々な問題が噴出し続けています。一刻も早い事故の収束と事態への対応が求められています。
 私たちはこれまで原水爆禁止世界大会で「核と人類は共存できない」と、繰り返し訴え、反核・脱原発・ヒバクシャ連帯を基本に「核(依存)社会」がもたらす状況を告発してきました。そしてフクシマの事態を前にして昨年の大会でも「核社会」からの離脱を強く訴えました。「核社会」が人類の生存(いのち)に関わる重大な問題をはらむ実態を訴えてきました。その基本は今年も変わっていません。むしろフクシマ原発事故から1年5ヵ月が過ぎ、ますます「核」が抱える問題が、人間の「命」という基本的な問題であることが鮮明になっています。核兵器や原発がもたらす「核社会」からの離脱は、人類にとって重要な課題となっています。

2.脱原発へ舵を切ろう
(1)フクシマ原発事故から脱原発へ
 核被害に軍事利用や商業利用の区別がないことが、フクシマによって改めて示されました。ヒロシマ─ナガサキ─ビキニ─JCOと続いた核被害の歴史に新たにフクシマが加わりました。ヒロシマ・ナガサキの被爆者は、被爆から67年たった今でも苦しみ続けています。そしていま、福島原発事故で新たなヒバクシャが生まれています。辛く悲しい現実に目を向け、核被害の実態を見つめなければなりません。
 フクシマ原発事故の原因は、国会の事故調査委員会の報告でも、政府や東電による人災であることが厳しく指摘されました。長年の馴れ合い体質、技術に対する奢りなど「原子力ムラ」が抱えていた負の部分が、事故調査委員会やマスコミの手によって明らかにされてきました。さらなる原因究明と再発防止にむけた議論が深められることが重要です。
また、環境に放射能が大量に拡散し、環境や健康、社会、経済に大きな影響を与えました。被災者に対する賠償が今後の大きな焦点になってきます。金銭的なものだけでなく精神的な面までも含めて十分賠償する必要があります。特に国策による「人災」である今回の事故は、東京電力や政府が国家賠償にもとづいて被災者の健康維持と生活保障の対策を講じるべきものですが、その負のツケを電気料金の値上げなどに転嫁することは許せません。
フクシマ原発事故の収束の見通しはいまだ見えないなかで、私たちも被災者を支援すると同時に二度とフクシマを繰り返させないためにも脱原発の運動をさらに強めていくことが必要です。

(2)再稼働を許さない!
 5月5日、日本の全原発が停止しました。「原発が止まれば、日本は止まる」と喧伝された電力不足は起こりませんでした。しかし、原発全停止に危機感を感じた原発推進派は、夏の電力危機をあおり立て関西電力大飯原発3・4号機の再稼働を強行しました。再稼働を強行した政府・原発推進派は、電力不足の喧伝を強化し、脱原発を主張する政治家などに圧力をかけ、伊方や泊などを中心に更なる原発再稼働を目論んでいます。
 大飯原発の再稼働には、周辺市町村や滋賀県、京都府、大阪市などが、安全対策が完全ではないとして強い反対の姿勢を示してきました。しかし、政府・電力会社その他の圧力の中で、再稼働を「限定」容認しました。しかし、原発の安全が確保されたわけではありません。フクシマ原発事故の事故原因もいまだ究明されず、震災後の十分な知見を反映させることができない中にあって、新たな活断層の危険も指摘されています。防災対策も不十分で、住民の「安全・安心」への説明責任も果たさず、経済効率のみをとらえ政治判断を優先させたのです。私たちは再稼働ありきの強引な進め方を許すことはできません。各地で予想される再稼働の動きを、全国的な課題ととらえ現地と連帯し再稼働を許さない取り組みが重要となっています。
 6月5日、東京電力は、柏崎刈羽原発に向けて東海村から230体の核燃料を輸送しました。東京電力の再建計画では、柏崎刈羽原発の稼働が前提となっていますが、フクシマ原発事故の原因・対応さえ不明確な中で、再稼働の準備を進める東電の姿勢は、5年前の中越沖地震の被害と重ね、地元として到底受け入れがたいものです。東電の再建計画に福島第二原発や柏崎刈羽原発の再稼働が前提になっていること自体が問題で、柏崎刈羽原発の再稼働を認めるわけにはいきません。

(3)破綻するプルトニウム利用路線
 これまで日本が進めてきたプルトニウム利用路線は、六ヶ所再処理工場や高速増殖炉もんじゅの計画が破綻しているにもかかわらず、いまだ放棄されていません。政府がこの夏にまとめようとするエネルギー・環境会議の議論でも、全量再処理は放棄するものの、直接処分と再処理を併用する路線を推し進めようとしています。高速増殖炉技術の確立されるとは、米・英・仏・独など多くの国が開発を放棄している世界の現状からは困難としか言いようがありません。プルトニウム利用そのものが技術的にも経済的にも破綻し、軽水炉でのMOX燃料としてしか利用できないのが現状です。このことは「原発に依存しない社会をめざす」とする政府の姿勢と大きく矛盾するものです。将来にわたって禍根を残すプルトニウム利用路線の放棄を強く求めるものです。

(4)原発「0%」の選択を
 政府のエネルギー・環境会議は、この夏、国民的議論を経て新しいエネルギー政策をまとめようとしています。2030年の原発依存度を20~25%、15%、0%の三つの選択肢を提示して国民的議論をしようとしています。仙台、名古屋での意見聴取会では、発言者の中に電力関係者が含まれるなど、公平性の確保や運営方法に大きな問題を起こしました。だからこそ、市民からの圧倒的な原発「0%」の声の結集は極めて重要です。この夏のエネルギー環境・会議に対して全力を上げて原発「0%」の声を集中させ、同時に政府が言う2030年という年月を待つことなく、速やかな全原発の廃炉を実現することが重要です。
 原発なしでも可能なことは、先の「5月5日」が示した現実を見ればわかります。私たちは「脱原発は可能だ!」ということを具体的に示さなければなりません。節電を実行し安易に電力に頼る生活を見直し、加えて省エネや再生可能エネルギーを積極的に進めることが必要です。

3.核兵器廃絶に向けて
 今年4月、NATO(北大西洋条約機構)の外相・国防相会議は、米国オバマ大統領の「核なき世界」の声明や「核態勢の見直し」に呼応して、核兵器非保有国に対して核兵器を使用しない「消極的安全保障」の導入を決めました。米ロの核兵器削減交渉の進展次第では、射程の短い戦術核の削減の用意があることも表明されています。今後、イランでのウラン濃縮問題や北朝鮮の核開発問題などの解決を含めて、核兵器廃絶の動きを加速させなくてはなりません。被爆国日本が、核兵器廃絶、中でも東北アジアの非核地帯構築に向けて、イニシアチブを発揮していくことが重要であり、その意味で国内の反核運動の責任は大きいと言えます。
 一方で、今年3月にソウルで開催された「核セキュリティサミット」の最中に、米国オバマ大統領は、韓国外国語大学で演説を行い「テロリストの手に渡ることを防ぐためにも、分離したプルトニウムを大量に増やし続けることは絶対にしてはならない」と述べました。背景には、韓国に対する強い意向がありました。現在、分離プルトニウムは世界で250トン、核兵器に直すと約3万発分にものぼります。日本はその内約45トン、5,000発分ものプルトニウムを所有しています。核不拡散の視点からも、プルトニウム問題は重要な課題となっています。
 2011年8月の「報道ステーション」などで、自民党石破茂衆議院議員(当時政調会長)は、「潜在的な核抑止力」を持ち続けるためにも原発を止めるべきではない旨主張をしました。また6月20日、民主、自民、公明3党はほとんど議論することなく原子力基本法に「日本の安全保障に資する」との文言を挿入しました。根強く日本国内に存在する核武装論の反映ともいえます。政府は、使用済み核燃料については全量直接処分とせず、再処理によるプルトニウム利用路線を残す方向にあります。NPT(核不拡散条約)加盟国の中の非核保有国にあって唯一プルトニウム利用路線を走る日本は、世界の中で極めて突出している存在です。日本はNPT非加盟国で核を保有するインドとの原子力協力協定を結ぶべく交渉を重ねています。このこともNPT体制を空洞化させるものとして許されません。
 2015年にNPT再検討会議が開催されます。日本政府は真に核兵器廃絶を世界に訴えるために何をしなくてはならないのかを厳しく自らに問わねばなりません。また2010年のNPT再検討会議で確認された中東非核化会議の実現にむけて努力しなければなりません。私たちもまた討議を重ねたいと考えます。「脱原発」のためにも「核兵器廃絶」のためにも、プルトニウム利用路線からの決別が求められています。

4.あらゆるヒバクシャへの援護・連帯を
(1)ヒロシマ・ナガサキの被爆者の権利拡大へ

 被爆者の援護施策の充実を求める運動の中で、「原爆症認定」を訴えた裁判闘争が各地で取り組まれてきました。その結果、被害者団体と政府の間で解決にむけた合意がなされ、「基金」の創設や厚生労働省と日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)などとの「定期協議」などが確認され、原爆症認定の課題は前進しました。一方で、改定した「新しい審査の方針」に沿って行われる審査の中では、多くの審査滞留や認定却下が出されるなど問題も多く、日本被団協は、原爆症認定制度の抜本的改善を当面の緊急課題として「援護法」の改正を求めており、更なる取り組みが求められます。
 ヒロシマ・ナガサキの被爆者の残された課題として、在外被爆者課題、被爆二世・三世課題、被爆体験者の課題などの解決が待たれています。在外被爆者の課題は、日本の戦争責任・戦後責任の問題と重なります。在外被爆者と国内の被爆者との援護内容に差があり、国籍を問わない被爆者援護法の趣旨からも問題があります。「被爆者はどこにいても被爆者」であり、差別のない援護の実現に向けてさらに運動を強化していかなければなりません。現在、在外被爆者がこれまでの政府の402号通達によって権利を侵害されたとする裁判が各国から提訴されています。政府は提訴されれば和解に応じますが、あくまで提訴があった場合のみにとどまります。政府は、自ら積極的に在外被爆者への補償に取り組む責任があります。さらに、政府は在朝被爆者に対して、これまで国交がないことを理由に一切の被爆者援護の取り組みを放棄してきました。政府は在朝被爆者が亡くなるのをあたかも待っているかのようです。これまで確認されていた384人(2008年)の被爆者は、年を重ねさらに減少しています。高齢化する在朝被爆者への援護が急がれています。日本の戦争責任・戦後補償が問われる問題でもあり、以前に増して取り組みを強化する必要があります。
 全国に散らばる被爆二世は、これまで援護なき差別のなかに置かれるという状況にありました。被爆者の子どもに生まれ、無理解な差別や健康不安を抱えながら生活してきました。現在もその実態が明らかにされない中で放置されています。実態の解明と共に被爆の影響を否定できない以上、国家補償にもとづく被爆者とみなした援護が求められています。二世・三世の問題は、フクシマ原発事故での被曝と次の世代の問題にもつながります。
 長崎の「被爆体験者」は、これまで当時の行政区域の違いだけで被爆者援護法の埒外に置かれてきました。長崎では「被爆体験者」は司法の場に訴えましたが、6月25日、長崎地裁は訴えを却下しました。判決は5㎞以内でしか被爆を認めず、健康被害に対しても因果関係の説明責任を被害者に押しつけるきわめて不当なものであり許し難いものです。爆心地からの距離は違わないのに、行政区域の違いだけで被爆者健康手帳の交付に差が出るという、公平性に欠ける状態は変わっていません。原告はさらに闘う決意を固め、福岡高裁に控訴しました。判決が5㎞以内の被爆者しか健康被害を認めないことは、今後の福島原発事故の被害補償にも大きく影響をすると考えられます。被爆者の権利の前進には全国から連帯して取り組んで行かなくてはなりません。

(2)フクシマ原発事故による核被害者への連帯を
 福島第一原発事故は、いまだに収束していません。原発は極めて高い値の放射能に汚染され、周辺環境への放出はいまだ続いています。農畜産物や海産物などへの被害も広がり、社会・経済にも大きな影響を与えています。フクシマ原発事故の収束は、野田内閣の重要課題となっています。事故の収束への対応と同時に事故による賠償や健康に関する対応の強化が求められています。
 私たちも、現地被災者の方々の要求に対応して、政府や事業者などへの働きかけを強化していかなければなりません。とくに被曝と健康については、子どもや妊産婦に対する援護と同時に、被害拡大を防ぐ事が必要です。さらに、事故の収束にむけて懸命に作業に従事する労働者の被曝にも目を向けなければなりません。多くの労働者が働き累積被曝線量も膨大に増えています。今後も事故の収束作業が長期化する中で被曝労働による事故も心配されます。被曝の低減や被曝労働者の権利の確立が求められています。
 国策による事故であり、根本的には国家賠償にもとづく「原発事故被害者援護法(仮称)」の制定が必要です。

(3)あらゆるヒバクシャへの援護・連帯
 ヒロシマ・ナガサキの原爆被害にとどまらず、あらゆる核開発の過程で生み出される核被害者への連帯や援護の取り組みは原水禁運動の重要な柱です。これまで原水禁世界大会で多くのヒバクシャとの交流を通じて、沢山のことを学んできました。そしていまも多くのヒバクシャが生み出されていることも確認してきました。原発事故や軍事機密のなかで行われた核実験によるヒバクシャの実態などを明らかにしていくことが必要です。海外の核被害者(団体)との連携では、昨年に引き続きチェルノブイリ原発事故の被害者・支援者を招きました。フクシマ原発事故による被害が明らかになる中で、チェルノブイリ原発事故から学ぶべきものはたくさんあるはずです。

5.終わりに──核社会の終焉を目指して
 フクシマ原発事故は、「核と人類は共存できない」ことを、現実として示しました。核の軍事利用も商業利用も、核開発過程の全てにわたって核被害を生みだすことでは同じです。私たちは事態の早期収束を強く願っていますが、現実は極めて困難な状況です。事故と事故による放射性物質放出、そして全ての原発から作り出された使用済み核燃料などは、きわめて長期にわたって、将来の世代に大きな負担をかけるものになっています。私たちは、フクシマ原発事故を踏まえて、少しでも負担を軽くするために、将来の世代に対して、原子力中心のエネルギー政策を転換し原子力によらないエネルギー政策に移行させる責任があります。歴史的な転換点としての3・11のフクシマ原発事故ととらえ、核社会、核文明を問う原水禁運動にしたいと考えます。その起点として被爆67周年原水禁世界大会で反核・脱原発そしてヒバクシャの援護・連帯をあらためて確認したいと思います。さらに世界に2万発以上の核兵器の存在と250トンのプルトニウムの存在は、人類に対する大きな脅威です。核社会の終焉が人類史的課題であることはもはや明らかです。
あらためて私たちは宣言します。核廃絶は可能だ! そして、脱原発は可能だ!
 

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