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原水禁世界大会福島大会 基調提起(被爆68周年原水禁世界大会)

2013年07月28日

原水禁世界大会福島大会 基調提起


 


原水爆禁止日本国民会議
事務局長 藤本泰成

  私は、福島県いわき市で生まれ育ちました。
  多くの時間をすごした母の実家は、小さな港の前でした。
  原発事故がなければ、いまごろ、これまでのように海風に魚を干し、
 こつこつと水産 加工で復興をめざしていけていたはずです。
  毎年、おいしくできた干魚(ひもの)を送ってくれていました。
  その豊かな海、豊かな野山、豊かな心をはぐくむ暮らし…………。
  これ以上、何を奪えば原発が止まるのでしょうか。

 この匿名の手紙は、「さようなら原発1000万人署名」とともに送られてきたものです。この手紙の中には、原発の事故の、いや原発そのものが持つ「非人間性」が語られています。原発がなければ、豊かな海の幸をもって、こつこつと復興に向けた努力が行われていたと、この方は語っています。
 自然災害から、復興していく道筋は、私たちの長い営みの中で、いつも、そうしたものだったのではないでしょうか。そのことを許さない原発事故・放射性物質による汚染、人間の努力ではどうすることも出来ない事故を、人間の力で引き起こした絶望、その慟哭が静かな語り口から聞こえてきます。
 実家から毎年おいしくできた干物を、送ってもらっていたと書いています。その干物には、故郷の香りがしたのではないでしょうか。もし、子どもが食べていたら、おじいちゃんやおばあちゃんの、においがしたのではないでしょうか。原発は、人々のつながりを奪い、生活を奪い、故郷を奪い、地域社会を崩壊に導いたのです。

 「これ以上何を奪えば原発は止まるのでしょうか」この手紙を読むと、胸が詰まります。この手紙を、読まなければならないのは、原発政策を推進してきた政治家であり、官僚であり、電力会社ではないでしょうか。

 しかし、政府は、将来のエネルギー政策を、原発をどうするのかを語らずに、再稼働に走ろうとしています。昨年の「国民的議論」を全く無視をする態度は、私たちを愚弄しているとしか思えないものです。政治は、いったい誰の立場に立っているのでしょうか。

 福島県田村市の除染作業では、少ないところでも毎時0.32マイクロシーベルトにとどまり、目標とされた毎時0.23マイクロシーベルトには届きませんでした。 政府は、住民説明会において、「目標値は、1日8時間戸外にいた場合を想定し、年間1ミリシーベルトを超えない数値であり、0.23マイクロシーベルトを実際に個人が浴びる線量に結びつけるべきではない」としながら、「新型の線量計を希望者に渡すので自分で確認して欲しい」と述べたとされています。
 除染作業への財政負担を減らすために、「除染作業が目標値に届かなくても被曝線量を自己管理して生活しろ」と強要しているものです。
 一方で、国直轄の除染事業は、先行して行われた除染モデル事業を受注した大手ゼネコンが、他の入札者がなく競争がないまま受注する契約が続いています。予定価格に対する落札額の割合も95%と極めて高額なものになっていると報告され、談合と言われてもしかたのない状況がおこっています。
 除染作業という一時をとってみても、およそ被災者の側に立っているとは言えない政府の姿が浮かびます。

 「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」いわゆる「原発事故子ども被災者支援法」は、参議院から議員立法として提出され、2012年6月21日、衆議院本会議において全会一致で可決・成立しました。
 その第3条は、「国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任 並びに これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み、前条の基本理念にのっとり、被災者生活支援等施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」とされています。しかし、全くその具体的施策が進んでいないことは、みなさん承知の通りです。法の適用範囲さえ決定されないで放置されています。
 そして、そのような中で、原発の「新規制基準」だけが極めて短期間で決定され、再稼働へ向けての申請が、電力会社4社10原発から提出されるという状況を向かえています。水野靖久復興庁法制班の参事官は、支援法に関わる市民との協議の後「左翼のクソどもから、ひたすら罵声を浴びせられる集会に出席」などとツイッターで暴言を吐き、処分されました。「白黒つけずに曖昧なままにしておく」などという彼の発言は、復興庁自体に共通した姿勢ではないかと考えざるを得ません。フクシマをそのままに、事故の責任を曖昧にし、事故の原因を曖昧にし、将来のエネルギー政策を曖昧にしたままの、「再稼働」を、私たちは絶対に許すことは出来ません。

 「さようなら原発1000万人署名」に寄せられた、水村次子さんの手紙を紹介します。

  日本のトップにいる人たちは、どんな日本にしたいのでしょうか。
  どこを見て“国”と言うのでしょうか。
  “国”とは、多くの人が、心ゆたかに暮らせるところではないでなけれ 
 ばいけません。  
  心がゆたかだったら、少しの不自由(便利でない)は大したことではな 
 いと思います。   
  3月11日後、何が一番大切か、確認しました。
  苦しみを無にしないように、がんばります。

 この中には、追いつき追い越せと暮らしてきた、経済成長を求める日本社会への批判と新しい社会への哲学があります。日本の政府が、自民党政府が持ち得ない哲学があります。便利ではない、けれどもゆたかな社会、原水禁は、原発震災の直前に、「持続可能で平和な社会をめざして」という脱原発社会へ向けての提言を行いました。まえがきの一部を少し長いのですが引用します。

 「エネルギーと資源の大量消費を基本にした社会のあり方が、そのことをリードしてきた先進資本主義国において限界を迎えている。その後を猛追している新興工業国が、次代に新しい豊かさを得ていくのかというと、必ずしもそうはならない。地球全体のキャパシティーが、多くの場面でフローしつつあるからである。地球の資源を再生産・有効利用できる循環型社会を形成していくこと、そして人類が飽食と飢餓に、貧困と富裕に分類されず、命を削って闘うことのない世界にしていくことが地球規模で求められている。人に『やさしい』営み、豊かさを広く再分配いく世界のあり方が、平和をつくることにおいても求められている。」

 私たちは、この考えに立って、新しい社会をつくりあげることに、全身全霊を傾けたいと思います。

 今日の、福島大会に始まり、原水禁世界大会はヒロシマ・ナガサキへと、議論を紡いでいきます。被曝68周年を迎えた今年の「大会基調」は、8ページにわたります。事務局案を提示させていただいてから、多くの方の意見をいただきました。全体の考え方を調和のとれたものにしていくために、かなりの努力を傾けましたが、まだまだ不十分ではないかと思います。どうか、8月9日の長崎での最終日まで、みなさんの真摯な議論を通じて、補完していただきたいと思います。

 今年の、原水禁広島大会・長崎大会は、意見の相違から「連合・核禁会議」のみなさんとは共同開催が出来ませんでした。労働運動と市民運動を結んでの社会変革をめざす私たちは、極めて残念に思います。しかし、私たちは意見の相違を非難することなく、私たちがめざす目的のために「脱原発」「核兵器廃絶」「ヒバクシャ支援」の運動の拡大を図らなくてはなりません。三団体は「意見が異なることを理解し合いながら、しかし、被爆国日本の国民的願いである核兵器廃絶とヒバクシャ支援に三団体で積極的にとりくんでいくこと」を確認しています。
 2015年のNPT再検討会議に向けては、意見の相違を乗り越えて全国的な運動の展開を図らなくてはなりません。連合は、自らのエネルギー政策を見直し「原発に依存しない社会をめざす」としました。その意思を具体的運動につなげていくことを期待し、原水禁大会福島大会での基調提起にかえさせていただきます。
 

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