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原水禁世界大会広島大会 基調提起(被爆68周年原水禁世界大会)

2013年08月04日

原水禁世界大会広島大会 基調提起

被爆68周年原水爆禁止世界大会実行委員会
事務局長 藤本 泰成

 2013年のストックホルム国際平和研究所のイヤーブックによりますと、世界の核弾頭数は、17,265発となっています。また、世界中で稼働する原子力発電所は、429基です。核兵器も、原発も、それ自身が持っている破壊力と放射能は、私たちの「命」を脅かす存在であること、そしてあり続けること。2011年の3月11日、私たちはそのことの現実を知りました。今、私たちは「核時代の終わり」を宣言しなくてはなりません。

 米ロ間で結ばれた新戦略核兵器削減条約は、2018年までに戦略核の30%を削減するとしています。今年6月には、オバマ米大統領は、さらなる戦略核の削減に言及しています。私たちは、プラハ演説における「核なき世界」を前進させようとするオバマ大統領の姿勢を歓迎するものです。

 一方で、ストックホルム国際平和研究所のイヤーブックは「NPT加盟核保有国5カ国は、自国の核兵器を無制限に維持しようとしている」と強調されていますし、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准についても米国は曖昧な姿勢を続けています。核セキュリティーサミットを開催し核テロの被害を強調する米国が、「核なき世界」にむけて努力しようとする米国が、しかし、臨界前核実験を繰り返し、新たな兵器の開発に邁進し、世界に紛争の火種を巻き、核の拡散を呼び込んでいます。軍事大国である米国が率先して「対話」と「協調」の新たな時代に踏み込まなくてはなりません。米ブッシュ政権が悪の枢軸とした北朝鮮やイランは、イラク戦争の現実から核兵器の保有を選択しています。米の核兵器が新たな核兵器を生んでいる現実を直視しなくてはなりません。

 日本は、NPT加盟の核兵器を持たない国で唯一使用済み核燃料の再処理を行い、約44トンものプルトニウムを貯め込んでいます。ざっと計算しても核兵器5,500発分にもなるプルトニウムは、周辺諸国の脅威であるとの指摘もあります。核実験を繰り返す朝鮮民主主義人民共和国とプルトニウムを大量に抱える日本の間にあって、韓国は、韓米原子力協定の交渉において、再処理を熱望しています。原発の多くが稼働停止の状態にあり、新規の原発建設が事実上不可能な状態にある中で、また、高速増殖炉もんじゅや六ヶ所再処理工場の計画がこれも事実上破綻した中で、用途の不明確なプルトニウムを分離することは許されません。私たちが主張してきた東北アジア非核地帯構想の実現のためにも、核燃料サイクル計画からの離脱が求められています。

 日本は、昨年10月22日に国連総会第一委員会において発表された、非核保有国30カ国以上が賛同した「核兵器を非合法化する努力の強化」を求める共同声明に賛同せず、国内外から厳しい批判を受けました。米国の核の下、その抑止を絶対とする日本政府の姿勢は、しかし、実体的意味を持たないことは明らかです。止むことのない局地的な戦争は、核の抑止の外にあると考えなくてはなりません。被爆国でありながら、核兵器廃絶を主張しながら、なお、核兵器の存在を利用しようとする日本政府の主張に、誰が耳を傾けるでしょうか。

 私たちは、「核と人類は共存できない」と主張し、脱原発の社会をめざして運動を続けてきました。しかし、2011年3月11日の福島第一原発の事故を防ぐことは出来ませんでした。原水禁運動に関わってきた多くの人々の心に、忸怩たる重いが、「何で私たちの声が届かないのだろうか」という無念の思いが広がったのではないでしょうか。事故に対する政府の収束宣言は、福島を含め全国から抗議の声が上がりました。昨日の朝日新聞は、一面トップで「福島第一、汚染水危機」と書き、福島第一原発の廃炉作業が破綻する恐れが高まっていることを報じています。放射性物質による高濃度汚染水の海洋への流失を止めることが出来ない、現在42万トンもたまっている汚染水、毎日400トンずつたまる汚染水の貯蔵もフローしてしまう、しかし、溶融した核燃料をこれから先もずっと冷やし続けなくてはなりません。「放射能を消すことが出来ないならば、核をエネルギーとして使ってはならない」福島第一原発では、放射能との闘いが毎日続いています。事故は収束に向かっているのではありません。福島第一原発は、崩壊に向かっているのです。その崩壊は、私たち自身の社会の崩壊に、密接につながっているのです。

 「フクシマ」抜きの脱原発はあり得ないと、私たちは主張します。いまだ15万人が避難をし「命」に関わるほどのきびしい状況に置かれているのです。しかし、政府は、国会で全会一致で成立した「福島原発事故子ども被災者支援法」の基本計画さえ作ろうとはしていません。除染作業も当初計画の年間被曝量1ミリシーベルト以下を達成できずに、「除染作業が目標値に届かなくても、新しい線量計を渡すので、被曝線量を自己管理して生活しろ」と強要しようとしています。再除染は行わないとする政府の姿勢は、広島・長崎の被爆者を切り捨てようとしてきた姿勢と同様です。
 「国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任 並びに これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み」と、「福島原発事故子ども被災者支援法」には明確に記載されています。支援法の施策の実現を求めるフクシマの人々を、「左翼のクソども」と罵倒した官僚の言葉は、実はこれまでの、これからの政府の姿勢を端的に表しているのです。
 
 安倍首相は、経済再生のためにと称して「原発輸出」のトップセールスを世界に向けて展開しました。「フクシマ」の被災者を置き去りにしながら「過酷事故を起こした日本の原発は、それ故に世界で一番安全だ」とする厚顔無恥、「あに芳杜(ほうと)をして顔を厚くし、薜茘(へいれい)をして恥ずる無からしむべけんや。」との、南北朝時代の孔稚珪の「俗悪な官僚」を非難した言葉、そのものを首相に送らせていただきたいと思います。昨夏の国民的議論の中で生まれた民主党政府の「脱原発方針」をゼロベースから見直すとしながら、全くそのことを放置したままに「再稼働」を実現しようとする姿勢にも当てはまるものだと思います。
 「2011年6月10日 1時30分 大変お世話になりました。私の限度を超えました。ごめんなさい。原発さえなければと思います。残った酪農家は原発に負けずに頑張って下さい。仕事をする気力を無くしました」。

 南相馬市の酪農家が残した言葉です。本大会の前に開催されました「原水禁フクシマ大会」の翌日、私は飯舘村、南相馬市へのフィールドワークに参加しました。やませ吹く冷涼な大地に立ち向かい、幾多の冷害を乗り越えた「日本一美しい村」飯舘は、今や、茫漠とした痩地の広がる、放射性物質に汚染された土地だけが残されました。この村に人の営みが戻るのは、何時のことになるのでしょうか。

 今日から、長崎大会の終了まで、多くの議論を積み上げていただきたいと思います。私たちは決してあきらめません。私たちは、「命」の尊厳を基本にした、再生可能で平和な社会の実現をめざして、着実に歩んでいきましょう。

 今年の、原水禁広島大会・長崎大会は、意見の相違から「連合・核禁会議」のみなさんとは共同開催が出来ませんでした。労働運動と市民運動を結んでの社会変革をめざす私たちは、極めて残念に思います。
 しかし、私たちは意見の相違を非難することなく、私たちがめざす目的のために「脱原発」「核兵器廃絶」「ヒバクシャ支援」の運動の拡大を図らなくてはなりません。
 三団体は「意見が異なることを理解し合いながら、しかし、被爆国日本の国民的願いである核兵器廃絶とヒバクシャ支援に三団体で積極的にとりくんでいくこと」を確認しています。2015年のNPT再検討会議に向けては、意見の相違を乗り越えて全国的な運動の展開を図らなくてはなりません。

 連合は、自らのエネルギー政策を見直し「原発に依存しない社会をめざす」としました。その意思を具体的運動につなげていくことを期待し、原水禁世界大会広島大会での基調提起とさせていただきます。
 

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