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原水禁世界大会長崎大会 基調提起(被爆68周年原水禁世界大会)

2013年08月07日

原水禁世界大会長崎大会 基調提起

被爆68周年原水爆禁止世界大会実行委員会
事務局長 藤本 泰成

 「コリン・パウエル」。この名前を覚えているでしょうか。湾岸戦争の統合参謀本部長、実質の戦争指揮責任者で、ブッシュ政権の国務長官でした。ブッシュ政権は、北朝鮮・イラン・イラクを「悪の枢軸」ならず者国家と非難し、2003年に大量破壊兵器所持を理由にイラク戦争に突入しました。北朝鮮やイランは、米国との対抗上「核保有」を選択しました。パウエル元国務長官は、その要職を退いた後、自由な立場からオバマ大統領を支持し、発言を続けています。彼は、核廃絶へ向かう道は「日本が核兵器を持たない意志を再確認することだ」と発言しています。私たちが主張してきた「東北アジアの非核化」の道は、まさにそこから始まるに違いありません。彼は、理想主義者でもなく、私たちとは核に対する考え方・立場も異なります。しかし、彼の発言は重要な意味を持っています。

 米オバマ政権は、ロシアとの間で戦略核の30%を削減するとする新戦略核兵器削減条約を締結・批准しました。また、今年6月にはさらなる削減を提案しています。しかし、一方で、兵器開発を促進し、臨界前核実験を繰り返し、軍事大国としてのプレゼンスを変えようとはしていません。その米国の姿勢は、世界に紛争の火種をまき、核の拡散を呼び込んでいます。米国が、軍事大国であるが故に、軍事力に頼ることなく、「対話」と「協調」の新たな時代に踏み込んで欲しいと思います。 

 日本は、NPT加盟の核兵器を持たない国で、唯一使用済み核燃料の再処理を行い、約44トンものプルトニウムを貯め込んでいます。長崎型の原爆に換算すると5,500発分にもなるプルトニウムは、周辺諸国の脅威であるとの指摘もあります。
 核実験を繰り返す朝鮮民主主義人民共和国とプルトニウムを大量に抱える日本の間にあって、韓国は、2013年に期限切れになる韓米原子力協定の交渉において、再処理を許可するよう米国に強く迫っています。
 米オバマ大統領は、2012年の核セキュリティーサミットにおいて「これ以上分離プルトニウムを増やすべきではない」と主張しました。テロリストの手に、原爆の原料であるプルトニウムがわたることに、9.11同時多発テロ以降の米国は恐怖を感じていると思います。
 日本においては、原発の多くが稼働停止の状態にあり、新規の原発建設が事実上不可能な状態にあります。また、高速増殖炉もんじゅや六ヶ所再処理工場の計画がこれも事実上破綻しつつあります。用途の不明確なプルトニウムを分離することは許されません。私たちが主張してきた「東北アジア非核化」の実現のためにも、核燃料サイクル計画からの離脱が求められています。「再処理をやめて、核燃料サイクル計画を放棄すること」このことが、日本は核兵器を持つ意志がないことを、世界に示すことなのです。

 日本は、昨年10月22日に国連総会第一委員会において発表された、非核保有国30カ国以上が賛同した「核兵器を非合法化する努力の強化」を求める共同声明に賛同せず、国内外から厳しい批判を受けました。米国の核の下、その抑止を絶対とする日本政府の姿勢は、しかし、実体的意味を持たないことは明らかです。止むことのない局地的な戦争は、核の抑止の外にあると考えなくてはなりません。被爆国でありながら、核兵器廃絶を主張しながら、なお、核兵器の存在を利用しようとする日本政府の主張に、誰が耳を傾けるでしょうか。

 私たちは、「核と人類は共存できない」と主張し、脱原発の社会をめざして運動を続けてきました。しかし、2011年3月11日の福島第一原発の事故を防ぐことは出来ませんでした。原水禁運動に関わってきた多くの人々の心に、忸怩たる重いが、「何で私たちの声が届かないのだろうか」という無念の思いが広がったのではないでしょうか。
 福島第一原発では、懸命の作業が継続されています。しかし、高濃度の放射線の存在が溶解した燃料の取り出しを阻み、冷却し続けなくてはならない状況は、今後何十年と続くでしょう。放出される放射性物資を含む汚染水は、毎日400トン、現在42万トンも貯まっています。地下水は汚染され一部は海洋に流出することとなっています。1万3000人を超える労働者が、白血病の労災基準である年間5ミリシーベルトを超えたとの報告もあり、人的にも、技術的にも行き詰まる事故収束作業の実態が浮かびます。原発事故は、崩壊に向かい、それは日本社会の崩壊も予感させるものです。

 「フクシマ」抜きの脱原発はあり得ないと、私たちは主張します。いまだ15万人が避難をし「命」に関わるほどのきびしい状況に置かれているのです。しかし、政府は、国会で全会一致で成立した「福島原発事故子ども被災者支援法」の基本計画さえ作ろうとはしていません。除染作業も当初計画の年間被曝量1ミリシーベルト以下を達成できずに、「除染作業が目標値に届かなくても、新しい線量計を渡すので、被曝線量を自己管理して生活しろ」と強要しようとしています。再除染は行わないとする政府の姿勢は、広島・長崎の被爆者を切り捨てようとしてきた姿勢と同様です。
 「国は、原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護すべき責任 並びに これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み」と、「福島原発事故子ども被災者支援法」には明確に記載されています。支援法の施策の実現を求めるフクシマの人々を、「左翼のクソども」と罵倒した官僚の言葉は、実はこれまでの、これからの政府の姿勢を端的に表しているのです。
 
 安倍首相は、経済再生のためにと称して「原発輸出」のトップセールスを世界に向けて展開しました。「フクシマ」の被災者を置き去りにしながら「過酷事故を起こした日本の原発は、それ故に世界で一番安全だ」とする厚顔無恥、この言葉は「俗悪な官僚」を非難した言葉と伝えられます。昨夏の国民的議論の中で生まれた民主党政府の「脱原発方針」をゼロベースから見直すとしながら、全くそのことを放置したままに「再稼働」を実現しようとする姿勢にも当てはまる言葉だと思います。

 「2011年6月10日 1時30分 大変お世話になりました。私の限度を超えました。ごめんなさい。原発さえなければと思います。残った酪農家は原発に負けずに頑張って下さい。仕事をする気力を無くしました」。

 南相馬市の酪農家が残した言葉です。本大会の前に開催されました「原水禁フクシマ大会」の翌日、私は飯舘村、南相馬市へのフィールドワークに参加しました。やませ吹く冷涼な大地に立ち向かい、幾多の冷害を乗り越えた「日本一美しい村」飯舘は、今や、茫漠とした痩地の広がる、放射性物質に汚染された土地だけが残されました。この村に人の営みが戻るのは、何時のことになるのでしょうか。

 明日からの分科会において、多くの議論を積み上げていただきたいと思います。私たちは決してあきらめません。私たちは、「命」の尊厳を基本にした、再生可能で平和な社会の実現をめざして、着実に歩んでいきましょう。

 今年の、原水禁広島大会・長崎大会は、意見の相違から「連合・核禁会議」のみなさんとは共同開催が出来ませんでした。労働運動と市民運動を結んでの社会変革をめざす私たちは、極めて残念に思います。
 しかし、私たちは意見の相違を非難することなく、私たちがめざす目的のために「脱原発」「核兵器廃絶」「ヒバクシャ支援」の運動の拡大を図らなくてはなりません。
 三団体は「意見が異なることを理解し合いながら、しかし、被爆国日本の国民的願いである核兵器廃絶とヒバクシャ支援に三団体で積極的にとりくんでいくこと」を確認しています。2015年のNPT再検討会議に向けては、意見の相違を乗り越えて全国的な運動の展開を図らなくてはなりません。

 連合は、自らのエネルギー政策を見直し「原発に依存しない社会をめざす」としました。その意思を具体的運動につなげていくことを期待し、原水禁世界大会長崎大会での基調提起とさせていただきます。
 

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