イラク情勢Watch vol.1 05年6月29日
        発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲
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Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イラクのジャーナリスト達、報道の自由を求める
3)米軍、イラク人女性拘束者たちを解放
4)停電に悩まされるイラクの学生たち
5)米人権団体とジャーナリスト団体、イラクでの検問所での誤射対策を要請
6)失速するブッシュ大統領の対イラク政策



1)週間イラク報道Pick up

6月27日 日の丸黒く塗りつぶす サマワの「友好道路」(共同通信)

  26日  サマワ陸自被害「偶発的」 再発あり得ると警察本部長(共同通信)

  25日 陸自のイラク支援隊、第4次要員が羽田から出発(読売新聞)

  24日 サマワ陸自車列わきで爆発 走行中破損、日本標的の可能性(産経新聞)

  23日 陸自活動地で初の復興会議=会場周辺は厳戒態勢(時事通信)

  22日 <イラク派遣>第7次復興支援群の編成命令 防衛庁長官(毎日新聞)

  21日 米下院、イラク戦争など向けに450億ドルの追加支出を承認(ロイター)



2)イラクのジャーナリスト達、報道の自由を求める

 今月14、15日、バグダッドで「イラクの通信とメディア独立委員会」(INCMC)の主催のイラク人報道関係者による会議が催され、200人以上が参加し報道の自由の必要性を訴えた。IRIN(国連統一地域情報ネットワーク)が15日に報じた。

 サダム・フセイン体制下のイラクでは、厳しい検閲が行われ、衛星放送の放送・視聴も禁じられていた。現在は、100以上の新聞が発行され、何百という衛星放送の番組が視聴できるが、依然、検閲への懸念は残っているという。会議に参加した「ジャーナリストの権利保護機構」の理事、Hashen Mahsen氏は「何十というジャーナリストが検閲を受けた。特に、新イラク軍の問題について報じようとすると妨害を受けました」と語った。

 INCMCによると、2003年の4月以降、29人の記者が殺害され、53人の記者が誘拐されたのだという。INCMC のMufid Jazaire代表は「イラク政府は、多国籍軍の行動の自由を認めるだけではなく、イラク人ジャーナリストの権利を認めなくてはいけません。今回の会議は、ジャーナリストの権利を法的に確立させるための重要なステップとなるでしょう」と語った。



3)米軍、イラク人女性拘束者たちを解放

 19日付けのイスラム系ニュースサイト「イスラムオンライン」によれば、イラク北部の都市モスルに駐留する米軍は「交渉カード」として拘束していた女性21人を釈放した。

      
      怯えながら様子をうかがうイラク人女性 (C)志葉 玲

 モスルでは解放の三日前から、有力スンニ派政党イスラム党や他のイスラム団体の主催で、女性拘束者の解放を求める大規模なデモが行われていた。参加者たちは拘束されていた女性達の写真を掲げ、占領下のイラクで米軍に拘束された全ての女性達の解放を訴えた。

 デモに参加したあるイラク人女性は「米軍は私の息子を探しに来ましたが、見つけられなかったので、彼の妻を拘束していきました。その際、まだ生後6ヵ月の孫を地面に叩きつけたのです」と証言した。さらに、米軍に拘束されていたという女性も「真夜中に米軍が私達の家に突入してきて私の夫の兄弟を殺害しました。私や夫も負傷させられた上、逮捕されたのです。拘束中、私たちは酷い扱いに苦しめられました」と過酷な体験を語った。

【解説】 イラクでは、米軍に武装勢力メンバーと疑いをかけられた男性の妻や娘、姉妹であるイラク人女性が、人質として拘束されることが相次いでいる。米軍は襲撃したイラク人の家々に「家族を解放して欲しければ降伏しろ」との置き手紙を残し出頭を促すのだが、アムネスティ・インターナショナルやイラク占領監視センター等の人権団体は、拘束された女性達が性暴力を受けるケースもあると報告している。
こうした米軍のイラク人女性の拘束・虐待は、家族の女性に危害を加えられることを
最大の恥とするアラブ文化において激しい反発を買っている。



4)停電に悩まされるイラクの学生たち

 独立系ニュースサイト「インステュート フォー ウォー&ピースレポート」(IWPR)は、停電に悩まされるバグダッドの学生たちの状況を紹介している。

 6月5日から月末まで行われる試験はイラクの高校生たちにとって彼らがどの大学に行けるかを決定する重要なものだ。しかし、気温43度、扇風機を使えるのは数時間に5分程度という状況では、勉強することは不可能なことと学生たちは言う。高校生のKhalid Sa’eedは「頻繁な停電が集中力に悪影響を及ぼしている」とIWPRに語った。Sa’eedは、停電が原因でしばしば授業を休むという。

 Farhad Salmanの娘は、きちんと期末テストに備えることができた。Salmanが頻繁な停電に失望して、自家用発電機を買ったからだ。他方、バスドライバーのAdnan Hadeeは発電機を買うことができない。「私の息子は頻繁な停電に苦しめられています。そして、それは息子の学業にも影響します」とHadeeは言う。

 バグダッドのal-Karkh電力事業所のAbdul Jabbar al-Janabee所長は「試験期間中に電気を提供する計画がある」としながら、「様々な破壊活動が我々の人々に対する“中断されない”サービスを妨げているのです」と話した。



5)米人権団体とジャーナリスト団体、イラクでの検問所での誤射対策を要請

 米人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」(HRW)とジャーナリスト団体「記者を守る委員会」(CPJ)は17日、共同でラムズフェルド国防長官に対し、イラクで頻発する米軍による検問所での誤射事件に対して、対策を行うよう要請文を送った。

 要請文は「検問所での銃撃はイラク市民を怒らせ、米軍への信頼を失わせた」と、イラク占領が始まった2003年4月以降、イラク市民やジャーナリスト達が、検問所で銃撃されていることに対策を取らない米軍の姿勢を批判。その上で

・「(向かってくる車に対し)スパイク片や減速のためのワイヤや緩衝装置など、非殺傷手段を使うこと」
・「ドライバーに警告するために、英語・アラビア語、国際的なシンボルを用いた標識を使うこと」
・「検問所を通過する際の注意を教育するためのキャンペーンを行うこと」

 等の誤射を減少させるための対策を提案している。これらの提案は、2003年10月にHRWが提起したものとほぼ同じものであるが、先のイタリア人記者・治安当局者銃撃事件に関しての米軍の内部調査もまた同様の勧告を出していた。



6)失速するブッシュ大統領の対イラク政策
 
 今月13日、米国防総省は2003年3月のイラク戦争開戦以来の米軍死者数が1700人を突破したことを発表した。今年1月末の直接選挙後も、米軍への攻撃が続いており、米国においても、イラクからの撤退を求める声が大きくなりつつある。

      
      バグダッド中心部で爆発した自動車爆弾 (C)志葉 玲

 同日公表された米調査会社・ギャラップ社の世論調査では、「一部かすべてのイラク駐留米軍を撤収すべき」との回答が59%と、3月の同調査の47%から大きく増加している。16日には共和党のウォルター・ジョーンズ下院議員が、民主党のニール・アバクロンビー下院議員らと共に、イラク駐留米軍の全面撤退計画を年内に作成し、来年10月までに撤退を開始するよう求める決議案を提出。ブッシュ政権は即座に決議案を即座に拒否したが、熱烈なイラク戦争支持派だったジョーンズ議員が叛旗を翻した背景には、米国民に広がる厭戦気運があるとされている。

 米軍は特に米軍へ攻撃が激しいイラク中部・西部で掃討作戦を繰り返しているものの、10日付けのボストン・グローブ紙が「米軍幹部の間からも掃討作戦の継続だけでは武装勢力を抑えきれないとの見方が出てきている」と報じるなど、軍事一辺倒のブッシュ政権の対イラク政策は袋小路に陥っている。米軍の攻撃に関与しているとされ、直接選挙〜移行政権発足の過程で孤立させられたスンニ派の取り込みも模索されているが、スンニ派の政党に大きな影響力を持つイラク・イスラム法学者協会は「米軍の撤退期限を明確にすることが重要」としており、ブッシュ政権との隔たりは大きいままだ。