教育基本法改正を推進する宗教者の動向
山内小夜子
一、日本の宗教界、教育基本法の「改正」を推進する
現在、日本には約75,000の伝統仏教の寺院・教会・布教所等があり、いずれかの宗派(教団)に所属しています。財団法人全日本仏教会は、主要
な58宗派を中心に、都道府県仏教会・各種仏教系団体等も包括した、伝統仏教界における唯一の連合体です。現在、同会に加盟する102の宗派・団体
に所属する寺院は、全国寺院数の9割を超えています。
一方、教派神道連合会、日本キリスト教連合会、神社本庁、新日本宗教団体連合、全日本仏教会の5つ団体の協賛により構成された財団法人日本
宗教連盟は、日本の宗教界を代表する政界・官界との折衝の窓口となっています。この間、日本宗教連盟、全日本仏教会ともに教育基本法改正を推
進。「モラルの低下、青少年の犯罪、いじめ等の解決には、適正な宗教教育が不可欠」と、日本の宗教界あげて教育基本法「改正」を推進しているこ
とは、あまり知られていません。
二、経緯
中教審の中間報告が出される頃から、日本宗教連盟は、「『新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画のあり方につ いて(中間報告)』に対する要望書」(2002.12.21付)を提出し教育基本法「改正」に賛意を表明。さらに、翌年2003年1月22日には、 同名の「意見書」を出しています。
全日本仏教会においても、中教審の中間報告が出る頃から、「改正」に積極的に賛意を示し、京都で開催された公聴会で(2002.12.14)、
理事が「改正」に賛成の意見陳述をしたり、中教審に「要望書」を提出、「改正案」まで提示しました(2003.2.4)。
さらに、全日仏の常務理事会を緊急招集して宗教教育推進特別委員会(正式名称:「適切なる宗教教育実現のための教育基本法第九条改正推
進特別委員会」)を設置( 2003.2.17)。教育基本法「改正」問題に対応する体制を整え、改正案の実現を期しています。加盟各宗派や県仏教会へ提出した「要請書」に賛
同するよう呼びかけ、それに応じて滋賀県仏教会が「賛成」表明をしたり(2003.7.16)、理事が各宗派管長、代表者を個別に訪問し宗派内に趣旨徹底す
るよう依頼しているという報告もあります。
三、仏教界の中から反論が続く
このような全日仏の動きに対し、全日仏内部からも批判が出ています。全日本仏教会信教の自由に関する委員会の岡 田弘隆氏(真言宗豊山派・専福寺住職)は、「宗教教育推進特別委員会を設置を白紙に戻すことを強く提唱」(2003.7.26)、「教 育基本法改悪推進政策の中止要請」(2003.10.1)など、理事会内の審議経過の不透明さ等を指摘した意見書を何度も提出しています。
また、浄土真宗本願寺派(西本願寺)の備後靖国問題を考える念仏者の会(事務局長・小武正教)が「全日仏の要請書の撤回を要求」(2003.7.27)
。また同派の宗務総長に宛て「宗門内での教育基本法の論議をすべき。宗派として改正反対の姿勢を示すべきだ」と、全日仏を構
成する各宗派内での論議を尽くすよう要請。浄土真宗本願寺派真宗遺族会(代表・大分勇哲)は「教育基本法「改正」に関わる全日
本仏教会に対する要請文(2003.7.29)」を提出し「心の国家管理化に無防備に、ますます混迷を深くしている現状況にあって、決して
国家に取り込まれることのない精神をうち立て、国家の国民の内面への介入を排する精神を一人ひとりが確立しようとする営みこそ仏教
徒としてのありよう」とし、教育基本法改正の動きを速やかに中止するよう強く要請しています。
また、真宗大谷派(東本願寺)でも、宗議会議員の約半数により構成された教育基本法「改正」に反対する会が、「教育基本法「
改正」に関わる全日本仏教会の対応についての要請」(2003.9.12)を提出、教育基本法の改正に強く反対することを表明、構成員の一員として全日仏に対して、速やかに「改正」に向けての働きかけを停止するよう求めています。
四、全日本仏教会「改正案」の問題点
全日仏の「改正案」は、教育基本法全体の改正でなく、第九条「宗教教育」の部分の改正を求めるというものです。限定され
た改正案ですが、中教審ですら入れられなかった内容と合致し ており、全体の改正への道を開くものとなるでしょう。
教育基本法第9条には、「宗教に関する寛容の態度、宗教の社会生活 に関する地位は宗教上これを尊重しなければならない。国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教ための宗教教育その他宗教
的活動をしてはならない。」とあり、これは子どもたちに対する宗教を尊重せよという強制ではなく、教育の現場で、宗教に関する寛容
の態度と宗教の社会生活に関する地位を、教育する側が侵害することのないように、つまり、国民や生徒の信教の自由を侵害してはいけな
いと戒めている条文です。また二番目は、過去の歴史を踏まえ、教育の場で「大いなるものへの畏敬の念」や「人智を超えたものに対する畏
敬の念」(かつては国家神道や天皇の権威だった)の強制を排除するための条文です。
全日仏の改正案は、「一、日本の伝統・文化の 形成に寄与してきた宗教に関する基本的知識及び意義は重視しなければならない。」「一、宗教に関する寛容の態度及び宗教的情操の涵 養は、これを尊重する。」「一、国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教ための宗派教育その他宗教活動をしてはなら ない。」という内容です。この改正案は、教育基本法及び日本国憲法の理念を根本から読み間違えていると言わざるを得ません。
教育勅語と教育基本法との大きな違いは、遵守する義務を負うのが誰かという点です。教育勅語を遵守しなければならなかったのは
国民(臣民)でした。しかし、とりわけ日本国憲法20条、また教育基本法第9条において、遵守義務があるのは国及びその機関です。全
日仏の改正案は、これら改正の論議がそうであるようにその部分が転倒してしまい、「日本の文化・伝統に寄与した宗教」を尊重する態度を
子どもたちに教えよ、というわけです。ナショナリスティックな「日本の宗教」を尊重せよと教えることが、果たして宗教教育といえるでしょうか。
全日仏の要請の背景には、過去の戦争の歴史を総括していない日本の宗教教団の姿が透けて見えてます。かつて、「僧侶が信仰を国
家の犠牲にした」(河上肇)時代を再現させてはなりません。