「つくる会」は「強制連行」問題で活路を模索

  一般の新聞紙上にはほとんど掲載されていないことですが、「つくる会」を全面的にバックアップしてきたあの「産経新聞」に、先月末からこっけいな議論が掲載されつづけています。それは、今年1月17日に行われた大学入試センター試験の世界史の問題に、「強制連行」を正解とする出題があったことを、「拉致問題を帳消しにし、北朝鮮に呼応するもの」などと、言いがかりに等しい主張するものです。

  肝心の試験問題は次のようなものでした――「(1)朝鮮総督府が置かれ、初代総督として伊藤博文が赴任した(2)朝鮮は日本が明治維新以降、初めて獲得した海外領土だった (3)日本による併合と同時に創氏改名が実施された(4)第二次大戦中、日本への強制連行が行われた」――という4つの選択肢から選ぶ問題。入試センターが発表した正解は(4)となっていて、何の問題もありません(間違えやすいのは、伊藤博文を初代韓国統監でなく初代朝鮮総督と考えて(1)とするものでしょう)。

  産経新聞は、「『強制連行』は高校教科書のほぼすべてで記述がある」、しかし「当時の言葉としてはなかった」と、「慰安婦」問題と同じやり方で食いつき、さらに日韓条約以前の古い外務省文書を引っ張り出しては、「昭和三十四年に外務省が在日朝鮮人の実態について発表した調査結果では国民徴用令による戦争徴用者はごく少数に過ぎず、大半が自ら日本国内に職を求めてきた渡航者らや鉱工業や土木事業の募集に応じて自主的に契約した人たちで占められている」(1/21)などと報じました。

 「つくる会」副会長の藤岡信勝氏は、さっそく「拉致解決妨げるセンター入試問題」と題し「北朝鮮の宣伝に呼応するかのよう」(産経1/22)と、拉致問題に絡める言いがかりを展開。以後、同新聞は社説でとりあげ、「つくる会」も要望書を提出、さらに「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」(略称「救う会」、会長・佐藤勝巳)までが、北朝鮮の主張に通じる出題と非難声明を発表。そして「つくる会」は、「高校世界史教科書全二十九冊のうち十二冊、実に41%にあたる教科書がセンター試験の設問通りに記載してはいない」(産経2/2)と文科省を追及しました。

  これらに呼応して「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(代表・古屋圭司自民党副幹事長)も動き、2月13日に鬼島康弘・大学入試センター副所長を同議連の総会に呼びつけ、センター試験出題者の氏名公表について「文部科学省とも相談して検討したい」と約束させるという暴挙(もし出題者名を公表すれば、入試制度に重大な問題が生じるでしょう)まで行いました(以上の経過は「つくる会」のホームページhttp://www.tsukurukai.com/に)。

  そもそも「強制連行」の研究は、日韓条約以前の上記のような外務省の考え方を批判して成立、発展してきたもので、十分な資料開示を日本政府が行ってこない中、研究者の努力により学問的な領域として定着したものです。「強制連行」という用語も、その中で確立してきました。当時、その言葉がなかったからといって歴史用語に使ってはならないということでなく、むしろ歴史の渦中にあって当時使われなかった言葉が、後に歴史用語として一般に定着し、使われるのは当たり前のことです。一例を挙げれば「明治維新」という言葉さえ事後に作られたものです。当時はむしろ「御一新」と呼ぶのが一般的で、江戸城明け渡しの後、ようやく「維新」という言葉が少し出始め、「明治」の語がそこに冠せられるのは、はるか後のことになります。しかし今は、「つくる会」の歴史教科書さえ「明治維新」の語を使っています。そうしたものが歴史における用語なのです。

  ついでに誤解を訂正しておきますと、いくつかの高校教科書が「強制連行」の語を使っていないのは事実です。ところが、「つくる会」の主張する「41%」とは、教科書の点数(種類)の比率であり、実際に使われている冊数の割合(占有率)は、「強制連行」としているものが93.1%にも達しています。山川出版をはじめ、東京書籍、三省堂、帝国書院なども使用していて、これが研究上の趨勢を反映したものであることを知るべきでしょう(「つくる会」がこれからもしつこく言い続けるなら、「強制連行」研究の歴史をこのホームページに掲載したいと思います。)

  ところで、「つくる会」は、さ来年度から使用される分を、まもなくこの三月中に検定申請することでしょう。その後約一年間の検定期間を経て、いよいよ来年は採択をめぐる闘いになります。「つくる会」の情報を、これからできるだけ多く、このホームページに掲載したいと思います。