高校教科書検定に対する活発な動き


  文部科学省は、2002年度の高校教科書にたいする検定結果の一部を4月8日に公表しました。これについて、内外ニュース速報でも紹介しましたが、詳しい内容は載っていません。そこで、以下に補足情報をお知らせします。

●「つくる会」は激怒、「超党派の会」もうごめき開始

  サンケイ新聞による今回の高校教科書検定に対する反応は、ニュース速報に掲載しておきましたが、「偏向、反日的記述」という見出しがよく示しているように、きわめて否定的で、強い不満を示すものでした。さらに、「つくる会」とその教科書について触れた記述が3つの教科書に登場し、海外から批判を受けたことや、採択がほとんどなされなかったとされました。
  これに怒ったのでしょう、「つくる会」は4月15日、遠山文科相に宛て、抗議と記述の訂正を求める要望書を提出しました。この記事は、なぜかウェブ上に掲載されていません(恥ずかしいからでしょうか?)ので、ぜひ詳細を16日のサンケイ新聞でご覧ください。昨年の「つくる会」総会で打ち出した会員倍増計画が思うように進まない藤岡新体制にとって、また一つの頭痛の種が…。
  とはいえ、転んでもタダで起きない「つくる会」のこと、しっかり議員を動かそうとしています、内外ニュース速報(4/16)にある「検定委員を国会同意で」とする動きは要注意です。「超党派の会」(中川昭一会長)は、「つくる会」が要望書を提出した翌16日に総会を開き、高校の教科書記述が不適切で南京事件や慰安婦問題が書かれたり「つくる会」批判がなされている、などとして、文科省を追及することなどを決定しています。今回の動きは、その延長線にあるものといえます。


●いっぽう、子どもと教科書全国ネット21は、今回の高校教科書検定について、以下のような見解を発表しています。

              学習指導要領と政府見解を押しつける検定は許されない
                 ─2002年度高校教科書検定結果についての見解─


 2003年4月8日             子どもと教科書全国ネット21常任運営委員会

 文部科学省は、2002年度に行った高校教科書にたいする検定結果の一部を公表した。それについて、以下の通り見解を表明する。

1.今年度も国語1点、理科2点、外国語3点の計6点の不合格が出た。不合格処分については点数制をとっているとのことであるが、「申請図書の合格または不合格の判定要綱」の「欠陥区分」の配点すら情報公開されていない。教科書としての使用を禁止するという重大な行政措置であるにもかかわらず、それがどのような基準と実際の運用にもとづいてとられたのか、依然として国民の前に明らかにされておらず、表現の自由という基本的人権の保障の点での根本的な制度上の欠陥が依然として改められていない。

2.1点当たりの平均検定意見数は前回の1997年度検定の21から30に増加し、全体として検定強化の傾向が危惧される。なかでも理科は38から97へと約2.5倍に増加し、前々回の1993年度をもはるかに上回る数となっている。また、不合格となった「生物」の教科書1点については反論書が提出されているが、109箇所の反論に対し反論を認めた箇所数がわずか1箇所しかないというのも異常である。理科の学習指導要領の欠陥については、すでに多くの自然科学研究者・教育者から指摘されてきたところであるが、文部科学省はこうした声に耳を傾けず、相変わらず学習指導要領にかたくなに固執していることがうかがえる。

3.文科省は、学力低下対策として学習指導要領を超えた「発展的記述」を今回から認めることにした。しかし、「発展教材」であることを明記させたことからも明らかなように、「発展的記述」は全員が学ぶものではなく、本文と切り離して断片的な知識を載せるもので、「学力低下対策」には結びつかない。むしろ、教科書が一部のエリート教育の道具に使われるようになることが危惧される。また、これは検定緩和に結びつくものではない。文科省は、従来、学習指導要領を基準にして検定を行ってきたが、今後、指導要領の枠と発展教材の枠という二つの検定基準の枠で検定が行われることになる。「発展的記述」についても、文科省が認める記述しか許さないという姿勢がはっきり示されているように、指導要領以外の内容についても検定するようになり、検定の位置づけが変化し、この二重基準によって検定がいっそう強化されることになる。

4.地理歴史科・公民科については、主に政府見解などに示されている特定の価値判断にもとづく記述を強制している。このような言論・思想・表現の自由を侵す憲法違反の検定が強行されているのが特徴である。まず現在の問題にかかわる部分について、その具体例を示す。

(1) アメリカのアフガニスタン侵攻については、それが国連決議にもとづくものだとの見解をたてに、「侵攻」を「攻撃」と修正させている。また「おごりの目立つアメリカに反省をせまるのも同盟国日本の役割」を「おごりの目立つ大国に反省をせまるのも日本の役割」と修正させ、アメリカ擁護の姿勢をあらわにしている。自衛隊の海外「派兵」も「派遣」と修正させている。こんな検定を許すならば、「政府見解」絶対視して検定を行ってきた「前歴」をもつ文部科学省は、現在行われている米英のイラク侵略戦争についても、今後の検定では、国際法違反のアメリカの侵略戦争を正当化し、国連決議にもとづくものと強弁して「侵略」と書かせない検定がまかり通るのではないかと危惧される。(2) 新ガイドライン、周辺事態法などによって日米安保体制が「『地球的規模』に拡大強化」されたのは、まぎれもない事実であるが、検定はそのような記述を認めず「しだいに拡大強化」と修正させている。
(3) 昭和天皇の死去にさいして、戦争責任問題の処理や、祭りの「自粛」などをめぐって海外でもさまざまな報道がなされ、そのなかで多くの疑問や批判が出されたのは、明らかな事実であるが、検定では「疑問と批判が出された」を「疑問がおこった」と修正させた。また、「皇太子明仁」「昭和天皇死去」などの表現も、敬語を使っていないために「明仁皇太子」「昭和から平成へ」に修正させられた。
(4) 「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書をめぐる問題に関する記述への検定はきわめて異常である。「…そうした主張にもとづく教科書が新たに発行された。その教科書が2001年に文部科学省の検定に合格すると、それを採択すべきでないとする大きな市民運動が各地におこり、結局、市区町村立中学校ではまったく採択されない結果となった。」という記述は大幅な修正を求められ、「そうした主張にもとづく中学校歴史教科書が文部科学省に検定申請された。文部科学省は多くの検定意見を付して修正させ、2001年、この教科書は検定に合格した。いっぽう、その採択の是非をめぐって大きな市民運動が各地におこった。その教科書はほとんどの中学校で採択されなかった。」となった。この検定意見の裏には文部科学省の「つくる会」擁護の姿勢が見え見えである。
(5) 戦後補償については、政府の責任を免罪する検定がまかり通っているが、今回とくに注目されるのは、「未解決のまま残されることになった」という記述が「1980年代以降対外的な問題として提起されることになった」と修正されたことである。これでは戦後補償問題が客観的に存在していたのではなく、あたかも1980年代以後に新たに持ち出されたものであるかのような誤解を生徒に与えることになる。また、「日本政府が内外に解決を約束した課題」という表現も削除された。従前と同様、国家間では解決済みとの記述を入れるよう求める検定意見も付されている。
(6) 原爆投下についてアメリカの責任を問い、さらに国体護持にこだわって終戦を遅らせた日本の指導層の責任を問いかけた「倫理」の記述は、政治的責任の問題にほとんどふれない記述に全面的に修正させられた。戦後政治の根幹にふれる問題は検定によってみごとに葬り去られた。

5.次に戦争の歴史に関する検定結果の特徴を示す。

(1) いわゆる「慰安婦」問題については、「日本軍」の表現を消す検定が行われた。「日本軍は…多数の女性を強制連行し、耐えがたい苦痛を与えた」との注記は「日本軍」の主語が消された。また、「日本軍慰安婦」という表記は、一般的ではないという理由で「慰安婦」と修正された。これらは「慰安婦」問題の責任をあいまいにするものである。また、南京事件についての記述のなかで用いられた「レイプ」という表記は、「教育的配慮に欠ける」という理由で「暴行」に修正された。なお、今回申請された日本史教科書(A,B含めて)12点のうち、最近でははじめて「慰安婦」を記述しない教科書が1点あらわれた。世界史では9点中3点が「慰安婦」を記述していないが、そのうち2点は「慰安婦」を記述しない日本史教科書と同一の出版社発行のものである。「慰安婦」問題の今日的重要性と、「慰安婦」記述に対する激しい攻撃の存在に照らしてみたとき、これがどのような理由と事情によるものであるのか、注目せざるを得ない。
(2) 「アジア太平洋戦争」の用語の使用は、依然として「一般的とは言い難い」との理由で拒否されている。多くの歴史書でこの用語が使われ、すでに半数の日本史教科書が「アジア太平洋戦争」の用語を使用して検定申請している実態をみても、「アジア太平洋戦争」の用語が歴史研究の場で合理性・客観性をもつ用語としてひろく認定されていることを示している。百歩ゆずってかりにまだこの用語よりも他の用語のほうが使用頻度が多いとしても、もはや検定という強権をもって「アジア太平洋戦争」の用語を教科書から排除しなければならない合理的理由はまったく存在しない。この問題は、まさに学説への権力的介入の実態を示す以外の何者でもなく、明白な憲法違反である。
(3) 明成社版『最新日本史』が日本の「満州」侵略を正当化するためにとりあげていた中村大尉事件や万宝山事件について、ある教科書で、「不正確」との検定意見を受けた後に、新たにくわしい記述が付け加えられることになったのは、きわめて不可解である。

6.前述の日本史のうちただ1点「慰安婦」を記述しない教科書は、南京事件について次のような記述を行って検定申請した。「日本軍は非戦闘員をふくむ多数の中国人を殺害したとされ、のちに非難された」。これに対しては「現在の学説状況に照らして、南京事件の実否について誤解するおそれのある表現である」との検定意見が付され、「日本軍は非戦闘員をふくむ多数の中国人を殺害した」と修正された。同じ教科書は「朝鮮・台湾でも『皇民化』政策がすすめられた」とだけ記述して検定申請し、実態について説明不足との検定意見によって「日本語教育の徹底、神社参拝の強要など」という記述を付け加えた。また、同じ出版社の別の日本史教科書では、植民地支配下の朝鮮について、重化学工業が発展し、その中堅幹部には朝鮮人も登用されたこと、初等教育の就学率がフランス統治下のアルジェリアと比較してかなり高かったなどと記述して検定申請した。これも検定によって一定の修正が加えられたが、このように植民地支配と侵略戦争を正当化・美化する点で「つくる会」や明成社版と共通点をもつ記述が、歴史教科書では大手の出版社の教科書に登場したこと、その出版社が昨年来「つくる会」側からとくに南京事件の記述をめぐって激しい攻撃を受けていたことなどを勘案すると、重大な関心をもって注目せざるを得ない。

7.地理歴史科、公民科以外の教科書に対する検定についても、さらに関係者からの情報、意見の収集につとめ、今後、その問題点を明らかにしていく所存である。

以上
            

子どもと教科書全国ネット21
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