2005年7月13日
日本教職員組合
書記長 中村 譲
本日、7月13日、栃木県大田原市教育委員会において2006年度から使用される中学校教科書採択で、「新しい教科書をつくる会」主導によって編集された扶桑社版歴史・公民教科書の採択が決定されたことが報道された。この教科書は、人権を軽視し、アジア太平洋戦争において日本が行った侵略・植民地政策を肯定し、戦争責任を否定した記述に対して、中国・韓国などアジア諸国との深刻な外交・経済問題に発展し、各方面からも批判の声があがっている。
報道では、大田原市は1市単独の採択協議会であり、同会の調査員会は、8社ある中学歴史教科書のうち2社を推薦したとされている。そのうち「つくる会」主導の扶桑社版教科書が「日本文化に対する誇りと愛情をはぐくむよう配慮されている」などの声が多く、望ましいとする報告書をまとめたという。しかし、12日の大田原市教科書採択協議会も本日13日の教育委員会も非公開で開催され、また、教育委員会で正式決定後、マスコミには情報公開されたものの市民団体等には一切説明がなかったとされている。このような不透明な状況下で教科書採択が決定されたことは、極めて問題である。
日教組は、教科書採択については、「より多くの教職員の意向が反映されるべき」とした97年3月の閣議決定に沿った採択制度改善をするよう働きかけるとともに公正・透明な採択制度の確保、教科書調査研究の条件整備等を求めてきた。
教科書採択は、密室で子どもたちが使用する教科書が決定されるのではなく、地域の学校の教職員や保護者・地域住民の意見が十分反映された公正・透明な「より開かれた」採択制度が重要である。そのためには、採択の調査表(選定委員会、選定審議会、教育委員会の文書)の情報公開は当然であり、教育行政には、教科書調査研究の条件整備、採択過程における情報公開の一層の推進などが求められており、政治的な圧力こそ排除すべきである。
しかし、非常に問題なのは、各地の教科書採択が、政治的な動きの中ですすめられていることである。「つくる会」と行動をともにしてきた「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」による教科書選定資料への働きかけや、地方議会での教科書採択の請願結果が教職員に配布されるという実態が報告されている。これらは、教育基本法第10条が禁じている「不当な支配」に該当する恐れがある。
また、この扶桑社版教科書の検定申請本(白表紙本)が文科省検定中にもかかわらず、規則に反して教育委員会関係者に流出した問題で、扶桑社は文科省から3回にわたり指導を受けていたことも判明している。
日本は、先の戦争の大きな犠牲の中から、「平和主義、民主主義、基本的人権の尊重、男女平等」などを国の基本理念に据えた。私たちは、これらの基本理念を社会で実現させ、21世紀を生きる子どもたちへしっかりと引き継いでいく責任がある。国際社会においても戦争を違法化する努力が前進し、この地球上から戦争をなくしていくのが人類の課題となっている。21世紀の国際社会で生きていく子どもたちにとって、歴史を正しく認識することは大変重要なことであり、そして、憲法・教育基本法、子どもの権利条約、女性差別撤廃条約・人種差別撤廃条約などを遵守した教科書、子どもたちにアジア諸国をはじめ、世界の平和、共生社会の実現をめざす実践力を育む内容豊かな教科書の採択が望まれる。
一人ひとりの子どもたちが市民社会で多くの人びととともに生き、平和な未来に向かって歩むために学校教育は、子どもたちにゆたかな学力を保障することが重要である。
私たちは、アジアをはじめ、世界の平和と安定、共生の社会を実現する主権者を育む教育実践にいっそう取り組んでいく。