愛媛で「つくる会」教科書採択の「教訓」
 
上杉 聡

 さる8月15日、愛媛県教育委員会は、来年4月に開校する中高一貫校用に、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書を採択した。対象となる学校は3校で、計48O人。昨年採択された「つくる会」歴史教科書が全国で521冊だから、あっというまにそれに匹敵する冊数が愛媛県だけで上積みされたことになる。
 今年の夏は、ほかに高校『最新日本史』(明成社版、かつての『新編日本史』が改訂され出版社も変更)も採択の対象となった。 こちらは微々たるものに終わったが(別掲)、愛媛については考えさせられるところが多かった。
 高嶋さんと共に私は、「つくる会」歴史教科書にまだ143箇所の誤りがあることを指摘して、現地の教育委員会へ最後まで働きかけたが、力及ばなかった。今、冷静に考えてみて、いくつもの問題点が浮かび上がる。昨年は、<広範なマスコミの取り上げ><運動の統一><教育委員会の初体験>という3つの条件が重なって「つくる会」を惨敗に追い込むことができた。
 しかし今年は、マスコミが愛媛地方版に限定してしか取り上げなかった(最終局面で少し変化のみ)。運動も、日教組・全教合わせて県下で100人に満たないところに、労働運動と市民団体との間に足並みがそろわない面があった。いっぽうの知事・教委の側は、昨年の採択の際、激しい抗議を体験済みで、今回ブレはほとんどなかった。栃木県の下都賀地区のように、たくさんの抗議が初めて来て、驚き撤回するという事態は起らなかった。
 また「つくる会」自身も、昨年の失敗を反省し、今年7月の第5回総会で新しく打ち出した「組織動員方式」を愛媛に適用、全国から現地へ多人数の宗教団体を送り込み、戸別ビラ入れや街頭宣伝まで行った。また全国各地でも統一行動として、署名・ビラ撒きを実施した。メール・葉書なども組織的に愛媛へ送った。そして極めつけは、私たちを「左翼過激派」とみなすキャンペーンを現地で徹底して張り、暴力や爆発物の危険性があるなどとして警察への警備要請まで教育委員会にやらせた。
 労組が動かず、市民だけが頑張ってもそこにはおのずと限界がある。また、教育委員会だけに焦点を当てる運動も今後検討を要することが判明した。教委が断固とした態度で「つくる会」を支持すれば、撤回は不可能なのだ。そして何よりも、「つくる会」の下部組織である「宗教右翼」が組織動員をかけ、おまけに私たちを「左翼過激派」などと呼ばせしまった(彼らから見ると大多数が「左翼」にもかかわらず)。これら今回の敗北要因を突破する方策は、当然にもある。そのための話し合いが、今広範な形で始められる必要があろう。
    
   (日本の戦争責任資料センターボランティア編集部『Let's』36号より)