子どもと教科書全国ネット21のホームページより転載

アピール

私たちは自国の歴史を正しく知る権利があります
「新しい歴史教科書をつくる会」の関わる教科書は問題です



 私たち青年団は戦前・戦中をとおして、多くの青年を戦場に駆り立てた苦い経験をふまえ、侵略戦争の反省の上に1951年日本青年団協議会を再結成しました。以後、地域から平和と民主主義を実現することを目指して、運動を展開してきました。また、私たちは、まだ国交の回復していない1956年に中国との交流を開始するに際し、日本の侵略戦争で多大な犠牲を強いた中国の人々への真摯なお詫びと反省の気持ちから、「青年は二度と再び銃を持たない」という不戦の誓いを交わし、相互理解と友好を深めてきました。

 2002年度版の教科書検定作業が最終段階にはいっている現在、「かつての戦争は侵略戦争でない」という立場から書かれた歴史教科書の申請本が、140あまりの修正意見を受け容れて、検定合格するといわれており、国内はもとより、アジア各国からも批判の声があがっています。この教科書は、戦争中子どもたちに軍国主義を教え込み、天皇への忠誠を誓うことを教え込んだ教育勅語を讃美したり、韓国や台湾などの植民地支配は正当である、かつての戦争はアジア解放の戦争だったという主張を展開しています。神武天皇即位の日を「太陽暦になおしたのが2月11日の建国記念の日」とするなど、神話と歴史的事実を混同させて、極めて非科学的な記述をしています。
 この教科書申請本に深く関わっている「新しい歴史教科書をつくる会」は、1990年代半ば以降、現在使われている歴史教科書を「自虐的」だと非難し、「自国の正史を回復するため良識ある歴史教科書」をつくるといい、そのパイロット版として『国民の歴史』を出版してきました。今回の申請本での検定意見がついた箇所では、韓国併合を「合法的だった」とする点や、南京虐殺についての記述を「ホロコーストのようなものではない」と記述した点が削除、書き換えられるといいますが、この教科書がたっている基本的な立場は変わらないでしょう。
 
 1982年の「侵略」を「進出」と書き換えた教科書検定で、日本はアジア諸国から大きな非難を受け、教科書検定基準に「近隣諸国条項」を盛り込みアジア諸国との歴史認識をすりあわせてきました。こうした努力と、1990年代に入ってからの元「慰安婦」の方々の告発などによる戦後補償や戦争責任の問題の認識の深まりのなかで、近年の歴史教科書には「従軍慰安婦」などの記述が盛り込まれるなど、教科書記述に一定の成果がありました。しかし、今回の教科書検定の申請本では「従軍慰安婦」を記述した教科書は一社のみであり、三光作戦や沖縄戦などの記述も大幅に削減されるなど、大きな後退となっています。
 私たちは1992年から1995年にかけて、沖縄、長野・松代、韓国の地を訪ね、沖縄戦で本土決戦の防波堤として国の捨て石とされた沖縄、その陰で松代では大本営を移転するために巨大な地下壕を建設するために朝鮮半島や中国の人々が連行され強制労働に従事させられた事実、その朝鮮半島では不当な植民地支配をうけ、少女までもが「慰安婦」とされ今日に至っても癒されない大きな傷跡となっていることを知りました。この学習から、私たちが受けてきた歴史教育の中でこれらの問題を教えられずにきたことに憤りを感じるとともに、次の世代には正しく伝えていく責任があることを痛感しています。
 「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書で、21世紀を担う子どもたちが授業を受け、誤った歴史認識を持ちかねないことを強く懸念するとともに、2002年度版として申請されたその他の歴史教科書の記述にも大きな不満を禁じ得ません。

 さらに、「新しい歴史教科書をつくる会」の公民教科書では核兵器廃絶について、「核兵器廃絶は絶対の正義か」というコラムを掲載し、核抑止論の立場にたつ主張を展開しています。これまで日青協は核兵器廃絶と被爆者援護の運動を、被爆者とともに進めてきました。日本は唯一の被爆国として、その惨禍を再び繰り返させないために、核兵器廃絶の強力なイニシアティブをとらなければなりません。これまでの被爆者のいのちをかけた運動は人々の心を動かし、核兵器廃絶を望む声が世界の大きな流れになっています。修正が加えられたとはいえ核抑止の立場に立つこの教科書の主張は、こうした歴史の流れや人類の進歩に逆行するものとして、許すことができません。

 「新しい歴史教科書をつくる会」は、問題の教科書が検定を通過することを前提にして、教科書採択に向けて地方議会へ「教育委員の専権」で採択させるよう請願や陳情を展開してると聞きます。これらの主張は、行政改革委員会が政府に提出してきた意見書や、それを受けて文部省が出した通知が「採択地区の小規模化や採択方法の工夫改善など、採択のあり方の改善」を求めていることにも逆行します。本来、教科書は、教える側、教わる子どもやその保護者の意見を反映して選ばれるべきです。教科書採択にあたっては、現場の教職員や保護者を含め幅の広い人々の意見が反映されるような仕組みをつくることがなにより不可欠です。

 1999年には、民間も軍事協力が求められ紛争に巻き込まれるおそれのある新ガイドライン関連法や「盗聴法」とよばれる通信傍受法、国旗・国歌法など、憲法との矛盾が懸念される法律が相次いで成立しました。そして国会には憲法調査会が設置され、私たち青年団が一貫して活動のよりどころとしてきた平和憲法が「改正」の方向で議論されています。これら一連の動きは個人の人権を抑圧する危険をはらんでおり、今回の教科書問題がこうした傾向に教育を通して一層拍車をかけることを私たちは危惧するものです。私たちは2002年度版教科書検定にあたり、「新しい歴史教科書をつくる会」による歴史、および公民の教科書とそれを採択させようという動きを憂慮します。
 21世紀は共生の時代です。アジア諸国の人々と真の友好を深め共生するためには、共通の歴史認識に立ったうえで相互の理解を深めることが不可欠です。私たちは自国の歴史を正しく知る権利があります。かつての戦争をアジアへの侵略戦争と認め、反省する立場から歴史を正しく知ることのできる教科書がうまれ、広く普及されることを強く願います。

                           2001年3月24日
日本青年団協議会常任理事会