[アピール]憲法否定・国際孤立の道へ踏み込む教科書を子どもたちに渡してはならない(一) 国内外で問題とされてきた「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーの編集執筆による中学歴史・公民分野教科書の検定合格が明らかとなり、採択に供されることになりました。 検定によって一部修正が行われたとはいえ、この教科書の全体をつらぬく基本姿勢は本質的に変わっていません。 第1に、アジア太平洋戦争を「大東亜戦争」とよび、それが侵略戦争だったことを認めず、アジア解放のために役立った戦争として美化し肯定する立場がつらぬかれています。韓国併合・植民地支配への反省はなく、むしろ正当化する考えは残っています。「従軍慰安婦」の事実は無視し、南京大虐殺についても否定論の立場を一方的に記述しています。 第2に、神話をあたかも史実であるかのように描いた記述については、一部の字句修正がおこなわれたとはいえ、「神武天皇東征」の地図をそのまま掲載するなど、内容・分量ともほとんど変化がありません。 第3に、日本の歴史を天皇の権威が一貫して存在していたかのように描き出し、一方ではアジア諸国の歴史を根拠もなく侮蔑的に描き、その上に立って国際的に通用しない偏狭な日本国家への誇りを植えつけようとしている点も、検定意見すらつけられなかった部分が多く、ほとんど変化がみられません。 第4に、第2次大戦後に廃止・失効となった旧大日本帝国憲法や教育勅語を礼讚する記述は変わらず、大日本帝国憲法のもとでいかに人権が抑圧されたかについての記述はみられません。 第5に、日本国憲法第9条「改正」論を基調に、国防の義務、国家への奉仕を強調する記述も変わっていません。 戦後の歴史学や歴史教育は、戦争遂行に歴史教育が利用されてきたことへの反省をふまえ、科学的に明らかにされた歴史事実を何よりも重んじてきました。ところが「つくる会」の教科書は、今日の世界の動向を無視して国際緊張を過大に描き出し、歴史事実を歪めて戦争を美化し、国家への誇り、国家への奉仕、国防の義務を強調しています。これは、子ども・国民をこれからの戦争に動員することをねらうものです。 「つくる会」側が若干の修正に応じたのは、ともかくこれを教科書として採択の市場に出すことを優先し、それが採択されたならば、次にはより鮮明にかれらの主張を打ち出したいっそう危険な教科書を発行しようとの戦術にほかなりません。「新しい歴史教科書をつくる会」の本来のねらいの危険性が、若干の教科書記述の修正で消え去るものではないことを強調しておかなければなりません。 戦争への痛切な反省から生まれた日本国憲法の理念をこのように敵視する教科書が公教育の場に登場するのは戦後はじめてのことであり、公教育として許されないことです。時あたかも日本を戦争参加にみちびく新ガイドライン関連法が成立し、改憲をめざすうごきが本格化するなかで、このような改憲のすすめともいうべき教科書が登場したことは、21世紀の日本を左右する重大な問題がその根底にあることを示しています。
(二) そもそも日本国憲法は、日本がふたたび侵略戦争はしないという国際的宣言であり、国際公約でもあることを想い起こす必要があります。また、1982年に教科書検定による侵略の事実の隠蔽にたいしておこったアジア諸国からの抗議を契機に、教科書検定基準に「近隣のアジア諸国との間の近現代史の歴史的事象の扱いに国際理解と国際協調の見地から配慮がなされていること」という条項が政府によって付け加えられたことも、忘れてはなりません。さらに最近では1995年の村山首相談話で、アジア諸国に与えた「多大の損害と苦痛」にたいしお詫びと反省を表明しました。1998年の日韓共同宣言でも、「両国民、特に若い世代が歴史への認識を深めることが重要」と表明しています。これらの言明は日本政府の明確な国際公約です。しかもその考え方は、侵略戦争を否定し諸民族の平等と平和を重んじてきた第二次大戦後の世界の潮流に照らしても当然のことです。日本政府はこのような国際公約を守る当然の義務があります。 ところが「つくる会」の教科書は、こうした日本政府がこれまで公式に表明してきた国際公約に明らかに違反する内容を含んでいます。こうした重大な問題に関し、諸外国の政府・国民が日本政府の対応について意見を述べるのは当然であり、政府としても真摯な対応が求められるところです。これを内政干渉ということはできないことは、外務省自身が国会でも正式に答弁しているところです。 このような日本国憲法否定・国際公約違反の教科書が出現したことについては、日本政府の責任は重大です。 第1に、教科書検定制度を廃止するならばともかく、文部科学大臣が検定権限をもつ検定制度を維持している以上、検定合格がその教科書を教室で使用することを公的に承認する結果となることは、なんびとも否定できないからです。そうである以上、政府の責任は免れることができません。 第2に、このような教科書を検定に合格させ、採択させるために、全国的な政治活動をこの間展開してきたのは、ほかならぬ政府与党の政治家です。さらに既存の教科書から「従軍慰安婦」の記述や「侵略」の用語を削除させるべく、さまざまな政治的圧力をかけ、「自主規制」の名のもとに事実上の強制を行ったのは、政府・文部科学省であり、現文部科学大臣をふくむ政府与党の政治家です。この点での政府の責任はなおいっそう重大です。政府がこのような責任に頬かむりすることは許されません。 ところが、政府与党の人々はアジア諸国からの批判を内政干渉などと騒ぎ立てて、事実上、国際公約破棄を公然と叫んでいます。これを政府が明確に否定しないのであれば、日本は国際的に孤立の道を歩む過ちを繰り返すことになるでしょう。私たちはひきつづき、このような政府の責任をきびしく追及する決意です。
(三) 私たちは、日本国憲法を否定し国際孤立の道へ踏み込む危険な教科書が、子どもたちの手に渡されることを許すことはできません。危険な教科書が検定に合格したいま、各地域でこの教科書を採択させないよう声をあげ、関係機関への働きかけを強めましょう。それによって、日本国民の良識を世界にむかって示そうではありませんか。 また、既存の教科書の侵略加害と植民地支配に関する記述が大きく後退した問題について、その真相と責任を明らかにし、アジア諸国と共通の歴史認識をもてるよう、教科書記述の充実改善を求め、実現させようではありませんか。 2001年4月3日
「教科書に真実と自由を」連絡会 連絡先:子どもと教科書全国ネット21 kyokashonet@a.email.ne.jp |