新しい歴史教科書をつくる会編 中学校「歴史」・「公民」教科書(扶桑社)を 採択しないことを求める声明



沖縄社会大衆党

 沖縄社会大衆党(社大党)は、従来から旧文部省による教科書検定制度についての姿勢を批判し、その誤りを指摘してきましたが、今回教科書検定に合格した「新しい歴史教科書をつくる会」メンバーが執筆した中学校「歴史」・「公民」の教科書には重大な誤りがあり、その問題点を県民に明らかにして、採択しないよう、県及び各市町村教育委員会採択委員に要請します。
 われわれは文部科学省の修正要求に応じた後の2冊を吟味、検討して、以下のことを確認したからです。
  1. 日本国憲法・教育基本法の精神の空洞化を目的にしている。
  2. 教育勅語的人間を育てることをめざしている。
  3. 天皇の元首化をめざしている。
  4. 神話を歴史と位置づけることをめざしている。
  5. 国(天皇)のために進んで犠牲になった人物や集団を賛美している。
  6. 韓国併合や植民地を正当化している。
  7. 歴史の真実(侵略戦争)をねじ曲げ、肯定、美化している。
  8. 他国の戦争加害は記述するが、自国(日本)の加害は隠蔽している。
  9. 太平洋戦争の原因は他国にありと、歴史的事実をねじ曲げている。
  10. 沖縄戦の実相を歪曲している。
  11. 皇国史観に基づく復古調で、戦前の教科書を想起し、悪夢が呼び覚まされる。
  12. 住民運動を否定するような表現をしている。
  13. その他、指摘しなければならない個所が多数ある。
 以上のことに加えて、今沖縄の多くの市町村が中国・韓国はじめ多くの国々の都市と姉妹関係を結び、友好の輪が拡がっているので、私たちの子どもたちに誤ったことを教えることは厳に慎まなければなりません。

 県民並びに採択委員の皆さん。
 「新しい歴史教科書をつくる会」執筆の2教科書を採択しない運動を共々に巻き起こしましょう。
 そして、採択前の教科書展示会は各市町村教育委員会単位で実施し、現場教職員や父母、市民に開かれたものにするため、場所、時間、意見書用紙、机、椅子等の十分な配慮をすると同時に、採択の理由については、情報公開するように各市町村教育委員会へ要請いたします。

 なお、以下に主だった誤りや問題点を抽出し、われわれの見解を付記します。

  1. 「歴史は科学ではない。」との考えで執筆されている。このことについて、さすがの文部科学省も削除を要求した。

  2. 古事記や日本書紀に書かれた神話が歴史のように記述している。

  3. 神話に登場する日本武尊や弟橘媛が実在したかのような人物として、また聖徳太子、石田梅岩、二宮尊徳、明治天皇、東郷平八郎、大久保利通、伊藤博文、陸奥宗光、小村寿太郎、昭和天皇等を神格化して、記述している。

  4. 国(天皇)のために進んで犠牲になった人物や集団を美化して記述している。
    (1) 「日清戦争の平壌占領いちばんのりとされる原田重吉一等卒」や、「戦死したラッパ手の木口小平」、「第一次大戦でドイツ潜水艦から発射された魚雷に対して連合国船舶の前に出て盾となり撃沈されて責務を果たした。」、「神風特別攻撃隊は故郷の家族を守るため、この日本のために犠牲になることをあえていとわなかったのである。」
    (2) 「大学生や高等専門学校生は徴兵猶予が取り消され、心残りをかかえつつも、祖国を思い出征していった。(学徒出陣)。」
    (3) 「アリューシャン列島のアッツ島では、わずか2000名の日本軍守備隊が2万の米軍を相手に一歩も引かず、弾丸や米の補給が絶えても抵抗を続け、玉砕していった。」

  5. 歴史の真実(侵略戦争)をねじ曲げ、肯定・美化して記述している。
    (1) 「従軍慰安婦」「731部隊」など残虐行為の内容には全くふれていない。
    (2) 「南京を占領した。このとき、日本軍によって民衆にも多数の死傷者が出た」と記述し、事実を歪曲している。
    (3) 「沖縄では、鉄血勤皇隊の少年やひめゆり部隊の少女たちまで勇敢に戦った。」とあるが、「ひめゆり学徒隊」が通称であり、部隊ではない。また、勇敢に戦った事実はない。
    (4) 教科書では「10万の島民が生命を失い、日本軍の戦死者も11万を数えたとい われている。」とあるが、沖縄戦では、一般住民が約9万4千人、県出身軍人軍属が約2万8千人、県外出身日本兵が約6万6千人、米軍が1万2千5百20人死亡している。(沖縄県史第10巻)
    (5) 東京大空襲や広島・長崎の原爆投下による惨状については記述されているが、沖縄戦の惨状についての記述はない。

  6. 韓国併合や植民地化を正当化して記述している。
    (1) 韓国併合は「日本の安全と満州の権益を防衛するために必要である。」
    (2) 「満州国は、五族協和、王道楽土建設をスローガンに、日本の重工業の進出などにより経済成長を遂げた。」
    (3) 「・・・日本軍の南方進出は、アジア諸国が独立を早める一つのきっかけともなった。」
    (4) 太平洋戦争初期の「この日本の緒戦の勝利は、東南アジアやインドの多くの人々に独立への夢と勇気を育んだ。」
    (5) インドネシアは「戦時中、日本によって訓練されたインドネシアの軍隊が中心となって独立戦争を開始し、1949年独立を達成した。」

  7. 太平洋戦争の呼称について
    (1) 「太平洋戦争」を戦前、戦中のスローガンであった「大東亜共栄圏」を根底にした、「大東亜戦争」として記述し、
    (2) 「戦後、アメリカ側がこの名称を禁止したので太平洋戦争という用語が一般的になった」と記述している。

  8. 太平洋戦争開始の原因が相手にあると記述している。
    (1) 「日露戦争終結の翌年、カリフォルニア州で日本人移民の子どもを公立小学校からしめ出すという法律が制定された。勤勉で優秀な日本人移民への反発や嫌悪が大きくなったのである。」
    (2) 「・・・第一次大戦後のパリ講和平和会議で、日本は唯一の提案である人種差別撤廃案を会議にかけた。この案は日本人みずからが重視し、世界の有色人種からも注目を浴びていた。投票の結果、賛成成が多数を占めたが、議長役のアメリカ代表ウイルソンが、重要案件は全員一致を要するとして、不採決を宣言した。」
    (3) 「・・・ハル・ノートは、日本が中国から無条件で即時撤退することを要求していた。この要求に応じることが対米屈服を意味すると考えた日本政府は、対米開戦を決意した。」

  9. 他国の制度や残虐性については、記述するが、自国のこれらについては記述しないか、美化している。
    (1) ソ連や中国の社会主義、ヒトラーやムッソリーニの率いるファシズムを全体主義と位置づけるが、日本の軍国主義に対しては全くふれていない。
    (2) ヒトラーやスターリンやポルポト派の残虐性については記述しているが、日本の軍国主義の残虐性については記述していないか(例えば南京大虐殺や731部隊や従軍慰安婦やインパール作戦など)または美化している。
    (3) 「・・・リトアニア駐在領事の杉原千畝は、約6000人のユダヤ難民にビザを発行、日本を経由して逃れる道を開いた。」と記述しているが、このことは杉原千畝の人道愛によるものであって日本政府の考えではなかった。

  10. 大日本帝国憲法を存続したかったような記述である。
    (1) 「大日本帝国憲法においても、天皇は元首であり統治権の総覧者であったが、直接政治を行ったわけではなかった。」と記述し、御前会議が存在していたことを記述していない。
    (2) 「政府は当初、ポツダム宣言の内容から見て、大日本帝国憲法の改正が必要とは考えていなかった。しかし連合国軍最高司令官マッカーサーが、憲法の改正を政府に示唆したため、政府は大日本帝国憲法をもとに改正案を作成した。」と記述し、当時の政府の中にはポツダム宣言内容を十分に認識していなかった人々がいたことを示唆している。ならば教科書のコラム欄にでもポツダム宣言を全文載せる必要があるのではないか。

  11. 日本国憲法、教育基本法を否定的に捉え「教育勅語」を全文載せ、「これは、父母への孝行や、非常時には国のために尽くす姿勢、近代国家の国民としての心得を説いた教えで1945(昭和20)年の終戦にいたるまで、各学校で用いられ、近代日本人の人格の背骨をなすものとなった。」と記述している。

  12. 日本国家とその文明の優秀性を過度に強調し、これまでの歴史学の研究を無視した記述となっている。
    (1) 「7世紀に聖徳太子によって十七条憲法が制定された。これは近代的憲法と性格を異にするものであったが、政治が独断ではなく話し合いに基づかなければならないと説かれた」と記述している。当時は飛鳥の豪族間の権力争いへの牽制策であって、これを今日の民主主義社会の話し合いと同じにしている。
    (2) 「・・・また、国家の基本秩序が、祖先の努力によって長い歴史をへてできあがったことをよく理解しなくてはならない。そして、この秩序を次の時代に受け渡し、子孫たちもまた享受できるように努力しなければならない。」と記述し、戦前の国体を暗に示唆している。

  13. 住民投票について
    「・・・住民投票の直接民主主義的手法は日本国憲法や地方自治法が原則としている間接民主主義の意義や議会の存在を軽視するものであるともいえ、住民の意思自体がマスコミや市民運動団体の考えに扇動されやすいともいえる。さらに、行政の責任者が判断を避け、住民の判断をみずからの責任のがれの口実にしているとの指摘もある。」と記述し、住民投票を否定するような表現である。

  14. 自衛隊について
    (1) 「・・・国民の多くは今日、自衛隊をわが国の防衛のために不可欠な存在だととらえており、政府も自衛隊を第9条の禁止する『戦力』ではないととらえて、日本国憲法に基づいた存在だとみなしている。」と記述し、反対の立場の意見は記されていない。
    (2) 「さらに、自衛隊が積極的に国際協力できるよう、集団的自衛(同盟国が侵略された場合には、同盟国が集団で侵略を排する権利)を憲法に明記すべきとの主張もある。」と記述し、反対の立場の意見は記述されていない。