中央教育審議会「答申」に対する会長声明(日弁連)
1. 中央教育審議会は、本日、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基 本計画の在り方について」と題する答申を、文部科学大臣に対して行った。
この答申において、中央教育審議会は、文部科学大臣による教育基本法の「見直し」 の諮問に応えて、はじめに「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成を 目指す観点から、今日極めて重要と考えられる教育の理念や原則を明確にするため、 教育基本法を改正することが必要である」と結論づけたうえで、教育基本法の前文及 び各条文について、「引き続き規定することが適当」なものと「新しく規定すること が適当」なものとを挙げて、具体的な改正の方向を示している。
2. しかし、教育基本法は、憲法の保障する教育への権利を実現するために定めら れた教育法規の根本法であり準憲法的な性格を持つ法とされているのであるから、そ の在り方について答申するにあたっては、憲法が明示する原理・価値や子どもの権利 条約などが示す国際準則を指標として、これらに抵触することがないよう慎重に行わ なければならない。この観点から、答申には、次のような問題がある。
(1) 「21世紀を切り拓く心豊かでたくましい日本人の育成」をめざす観点から教育 基本法を改正するとしている点は、教育を国家に有為な人材作りとして行うことをめ ざすものであって、憲法の保障する「個人の尊重」に基く人権としての教育への権利 の実現を危うくするものである。
(2) 「法改正の全体像を踏まえ、新たに規定する理念として」、「まず自らの国や地 域の伝統・文化について理解を深め、尊重し、日本人であることの自覚や、郷土や国 を愛する心の涵養」を加えるとしている点は、公教育の場において「国を愛する心」 を押し付けて個人の内面価値にまで立ち入る結果を招き、内心の自由を保障する憲法 19条に抵触するおそれがある。
(3) 家庭(保護者)の果たすべき役割や責任について新たに規定するとしている点 は、本来私事である家庭教育に国家が介入することを認めるものであり、親が教育に 関して責務とともに権利を有しているとする国際準則に照らしても、疑問がある。
(4) 他方で、男女共学の規定(5条)を削除することが適当とする点は、男女共同参 画社会を実現し、教育制度・教育課程になお存するジェンダー・バイアスの問題を払 拭する観点から問題がある。
(5) 国・地方公共団体の責務について規定するにあたり、教育行政が「教育内容」に も積極的に介入することが認められているとする点は、「教育内容に対する国家的介 入はできるだけ抑制的であることが要請される」と明示する最高裁判決にも反するも のである。
(6) 学校の教員に関し、現行法(6条2項)が「自己の使命を自覚し、その職責の遂 行に努め」るとあるにもかかわらず、更に「研究と修養に励み、資質向上を図ること の必要性」を規定すべきとしている点は、教員の自主的研修権を制約し、教員の管理 を一層強化して、子どもたちと向き合う教育を困難にするおそれがある。
(7) 国公立学校における特定の宗教のための宗教教育や宗教的活動の禁止についての 規定(9条2項)は引き続き残すとしながら、他方で、宗教的情操に関連する教育を 「道徳を中心とする教育活動の中で」行うとしている点は、同規定が本来宗教的情操 教育を禁止している趣旨に照らすと問題があり、憲法20条に抵触するおそれがある。
3. 当連合会は、2002年12月6日付「『新しい時代にふさわしい教育基本法 と教育振興基本計画のあり方について(中間報告)』に対する意見」においても問題 点の指摘をしたが、本日の答申は、これらを十分に踏まえておらず、看過することが できない。
答申は最後に、「今後、政府においては、本審議会の答申を踏まえて、教育基本法の 改正に取り組むことを期待する」としているが、「改正」に取り組むことには以上に 指摘したような問題があるので、今後、政府や国会など関係機関においては、答申の 取り扱いには慎重を期し、十分に検討と議論を重ねるように、強く要望するものであ る。
2003年3月20日
日本弁護士連合会
会
長 本林 徹