中央教育審議会答申に対する日教組見解

2003年3月20日
日本教職員組合中央執行委員会

中教審は3月20日、「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」答申した。この答申にもとづいて教育基本法の改定作業に 入ることは容認できない。今後の検討とされた学校制度や、教育振興基本計画などと合わせ全体構想を示し、あらためて改定すべきかどうかを再検討すべきである。 理由は、次のようなものである。

1.子どもや青年の要求に応えていない

 (1) ゆとりを大切にする視点が不十分
   答申は、いじめや不登校、あるいは就職できない青年の増加などをあげ、「教育の危機」としている。しかし、改革の方向性や、ゆきとどいた教育をすすめる 具体的な施策は不十分である。一人ひとりの子どもや青年を尊重し大切にすることは重要であり、「生きる力」をはぐくむ教育課程、条件整備、学校体系、 学習権の拡充など構造的な検討が必要である。

 (2) 国際的な人権概念の発展に沿っていない
   国際社会は、子どもの権利条約や社会権規約など、人権概念を発展させ、学校自治の確立と子どもを教育の参画者と位置付けることもすすんでいる。また、 国連子どもの権利委員会が日本政府に勧告したように、「過酷な競争からの解放」を重視すべきである。

 (3) 「未来への先行投資」の推進を
   教育は「未来への先行投資」という点は評価するが、 1999年比較で、教育に対する公費の投入は、 OECD 諸国平均が GDP 比 4.9 %であるのに対し、日本は 3.5 %と 1 ポイント以上も低い。なによりもまず、この点を是正し、少人数学級編制の実現や、遅れている施設・設備の整備・充実にとりくむべきである。

2.国民的な議論が尽くされず、合意が不十分

 (1) 拙速な審議
   昨年11 月の中間報告公表後、賛否半ばする世論が明らかになりながら中教審は今年に入り、急速に審議をすすめ答申を行った。国民的な論議がほとんどなされない ままである。基本法制定当時は、新制中学校の設立に 200 万通もの賛同投書が国民から寄せられたが、今回は、そのような盛り上がりもなく、国民的な合意が十分とはいえない。

 (2) 基本法見直しだけが突出
   諮問は、教育振興基本計画の策定と教育基本法のあり方についてであった。しかし、教育振興基本計画の具体的内容は例示にとどまり、その中には問題の あるものもある。また、学校制度などは今後の検討とされ、教育基本法の見直しだけが突出した。

3.基本法改定の理由には根拠がない

 (1) 欠けている総括と展望
   教育基本法の理念が実現されたかどうかの総括はない。子どもの課題が、教育基本法に起因するのかどうか、どう解決するのかという展望などについ て示されていない。

 (2) 見直し理由にならない時代の変化
   情報化、グローバル化など時代の変化を理由としてあげているが、それらは、教育基本法を変える理由とはならない。具体的な施策によって可能なことで ある。むしろ普遍的な広がりをもつ教育基本法の方が、時代の変化を受けとめる深さをもっている。

 (3) 家庭の役割は法で規定することではない
   確かに家庭教育は重要であり、社会的な支援策の拡充が求められる。しかし、家庭の役割を法で規定することには、重大な疑念をもつ。

 (4) 国家に矮小化する「公共
   今日「公共」は、国家から区別し、市民が自発的に組織するものとして、また、世界的な視野も含めたオープンな空間として論議されている。しかし、 答申のいう「公共」には、国家に矮小化する閉鎖的な観点がある。

 (5) 内面を侵害する「国を愛する心」の強調
  「伝統」と「国を愛する心」によって、あらゆる教育の場を通じ国などへの精神的帰属性を強めようとしている。心の有様は、法律で規定すべきではなく、 憲法で定める思想・良心の自由を保障すべきである。

 (6) 男女共同参画は積極的に推進されるべき
   「男女共同参画社会」は、教育と社会のあり方にとって重要な課題である。しかし、男女共同参画社会基本法によって男女平等教育がすでにすすめられており、 教育基本法改定の理由とはならない。また、男女共学は積極的に推進されるべきである。

 (7) 宗教教育の規定を変える必要はない
   「宗教の持つ意義を尊重することが重要」との見地から、宗教教育の規定を変えようとしている。何をもって「意義」とするのか不明であるが、客観性に欠ける 用語であり、信教の自由に踏み込む恐れもある。現行の「地位」の尊重を変える必要はない。

 (8) 財政措置こそ重要
  教育振興基本計画の策定と、これによる財政措置は重要である。しかし、これは、補則第 11 条を根拠として、条件整備を推進する別法を制定することで可能と考える。

以上、日教組は、憲法に抵触すると危惧される部分もあり、中教審に対しては再検討を求める。また、教育基本法は憲法的な性格を有していることから、広範な 議論をすすめながらその意見を反映させるため、国会に憲法調査会と同様の機関を設置することを要求するなど、あくまでも教育基本法の改悪に反対し、基本法 の理念を実現する運動を強めていく。