被申告人甲は、2002年度から使用される中学校「歴史」「公民」教科書の発行予定者であるとともに編集協力者であり、被申告者乙と同丙と1997年末から密接に協力する関係にある。
被申告人乙は、2002年度から使用される中学校「歴史」「公民」教科書の申請者であるとともに編集・発売者であり、1997年末から被申告者甲と同丙と密接に協力する関係にある。
被申告人丙は、2002年度から使用される予定の中学校「歴史」「公民」教科書の執筆者であるとともに、1997年末から被申告者甲と同乙と密接に協力する関係にある。
以上の判断根拠は、被申告人丙の機関紙である『史』の1997年11月号と1998年1月紹介された三者の「覚書」、被告人甲による『産経新聞』1998年1月9日付「社説」(「主張」)などによる。
さらに被申告人乙(扶桑社)は、被申告人甲(産業経済新聞社)の出版部門であるサンケイ出版が、フジテレビの出版部門であった旧扶桑社と1987年に合併して作った出版会社で、同社は、フジサンケイ・コミュニケーション・グループ(FCG)の構成会社であるので、「同じグループの出版社として、産経新聞の動きをフォローしていくのが当然」とし「扶桑社としても『新しい歴史教科書をつくる会』のキャンペーンに産経新聞と共に同調している」と、同社取締役の石光章氏は語っている(『創』1998年6月)。
同社の編集部は四部門に別れ、産経新聞社関連を取り扱う部門がこの「教科書」を担当し、担当する星野俊明編集長は、「今回の出版計画は、『新しい歴史教科書をつくる会』と産経新聞社、そして扶桑社が一体で進めているもので、私としては単なる本(の出版)ではなく、ひとつの運動として取り組んでいます」(同前)とも語っている。
現に被申告人丙の編による『新しい歴史教科書を「つくる会」という運動があるという書籍があって、これにより丙の会員は飛躍的に増えたと言われている。この本のは扶桑 社発行であり、はがきが二葉挟み込まれていて、一枚には「つくる会」入会案送付希望を書き込む欄(宛先は扶桑社書籍編集部)があり、もう一枚は「つくる会」の購読者であることを表示した「産経新聞ご購読申し込みカード」で、宛先は産経新企画開発室お客様係、料金受取人払いになっている。この本は、現在も店頭で売られり、被申告人丙が編集し被申告人乙が発行する本を通じて甲の購読者と丙の会員とを増という、三位一体の戦略がとられている。
また被申告人丙の会長である西尾幹二氏は、右教科書のパイロット版である『国民の歴史』を執筆した苦労を述べた後、「なぜそうまでして『国民の歴史』を書かなければならなかったといえば、出版社に資金を提供しなければ、肝心の中学校歴史および公民の教科書を出してもらえないからである…同書に対しすでに最も期待されてきたのは、もっぱらこの点である」とし、「教科書出版を引受けるのは各社とも並々ならぬ決意を要する…C社(発行・産経新聞社、発売・扶桑社)にしてもなかば気が重く、教科書以外の刊行物がとりわけ負担である。450ページくらいの、定価約1万円の教師用指導書を、歴史・公民それぞれにつくらなくてはならない。自習ノートというのを作らなくてはならない。だから全国各地の採択にぜひ成功しなければならない。もし失敗し、教科書がほとんど採択されなかったら、こうした附属刊行物を含め、それに投入した取材費や人件費がことごとく欠損に終わるであろう。そこで採択がひじょうに重視される所以である」(『正論』1999年12月号)とし、被申告人丙(新しい歴史教科書をつくる会)の活動と同甲(産業経済新聞社)と同乙(扶桑社)の三者が、経済的にも深いつながりの上に活動していることを述べている。
また、右以外の『史』によると、右「歴史」「公民」教科書の執筆者と執筆当時の被申告人丙における役職の関係は以下のようであり、執筆者がたんなる個人でなく、被申告人丙の組織の一員として行動していることを示している。
「歴史」=西尾幹二[会長]・藤岡信勝[理事]・小林よしのり[理事待遇]・伊藤隆[理事]・坂本多加雄[理事]・高森明勅[理事・事務局長]は基礎原稿の執筆担当者
監修者に高橋史朗[副会長]他
「公民」=西部邁[理事]・佐伯啓思・宮本光晴・佐藤光・杉村芳美・八木秀次は代表執筆者
現実に被申告人丙の会則によると、その目的を「新しい歴史・公民教科書をつくり、児童・生徒の手に渡すこと」(会則第3条、『史』1999年9月)に置いているだけでなく、執筆のために組織的な作業が繰り返されてきたことを、同会の機関誌である『史』の事業経過報告(1997年11月、1999年3月、同7月、同9月、2000年3月、同7月)や総会資料、また同会が編集した単行本『新しい日本の歴史が始まる』(幻冬社)『新しい歴史教科書を「つくる会」という運動がある』(扶桑社)『新しい歴史教科書誕生!!』(PHP研究所)などが、詳しく述べている。
被申告者丙の組織の一員である西尾幹二[会長]と藤岡信勝[理事長]の両名は、1996年10月に両名の共著として出版していた単行本『国民の油断』(PHP研究所)を2000年5月にPHP文庫の内の一冊として再出版するに際し、「第8章 採択制度を変えれば教科書は変わる−教科書を良くするもしないも教育委員会の立ち直りいかん」を増補した上で、同書(PHP文庫版)1万5千部を一括して買い上げ、全国の都道府県及び市町村教育委員会事務局と全教育委員宛に配布、供与するよう図った。その際に同封された上記両名義による挨拶及び依頼状には各教育委員への配布依頼とともに、現行七社の歴史教科書への「率直な疑問」を名目とした批判、「自虐的な内容」とする一方的な断定等が含まれているだけでなく、「本年度(2000年度)と来年度(2001年度)、連続して中学教科書の採択が行なわれるはずです」として、両名が編著者となっている教科書の採択との関連に言及した部分が含まれている。
西尾・藤岡の両名は、本件第一次申告文書(2001年1月22日提出、以下「第一次申告文」と標記)に対し、被申告者丙が1月23日付けで公表した反論の声明文においても被申告者乙が教科書検定を申請した際に中学校「歴史」教科書は、個人著作者名で文部省に登録したと強調している内の、個人著作者に含まれている。加えて、上記の通り、両名の名義による挨拶及び依頼状を同封したPHP文庫版『国民の油断』が全国の教育委員長等へ配布・供与されたのは、2000年5月であり、両名が著者となっている教科書中学校「歴史」の検定申請(2000年4月)より後であることは明白である。
以上のことから、上記の両名による『国民の油断』(PHP文庫)の教育委員会関係者への配布−供与は、公正取引委員会の特殊指定によって「教科書の使用者又は選択関係者 に対する物品の提供又はその申し出」を禁じられているものである「教材、教具、書籍、雑誌、辞典等」の内の「書籍」に該当し、違法である。
この点については、2000年3月31日付け、文部省初等中等教育局長名による各都道府県教育委員会教育長宛の通知「平成13年度使用教科書の採択について」(文初教第146号)においても「採択の公正確保」に特に留意するよう求め、別添の「公正確保に関する規制一覧」の第一項目として上記「書籍」等の提供が禁じられていると提示していることからも、この件の違反は重大である。
さらに、上記両名の名義による『国民の油断』(PHP文庫)の教育委員会関係者への送付は、すでに2000年11月26日の全国紙(朝日)朝刊において、報道されており、広く国民の間に知られた事実となっている。にもかかわらず、こうした行為の違法性が指摘されず放置されていることは、独禁法による特殊指定に対する国民からの信頼を大きく揺るがすことにもなりかねない。
とりわけ、多くの教育委員会事務局が『国民の油断』(PHP文庫)を送付されて受理し、さらには各教育委員に配布した事態がすでに生じていることは、結果として上記両名による違法行為に地方教育委員会が協力したことになり、明確に上記文部省初中局長通知に教育委員会が反していることになる。
被申告者丙は、本件第一次申告文に対する1月23日付け反論(声明文)において「当会が教科書の編著者・発行者・販売者のいずれにも該当しないことは、扶桑社が文部科学省に提出した申請書類を確認すれば直ちに判明する」ことであり、「教科書の発行または販売を業とするもの」を対象とする特殊指定の枠外にあると主張している。以下この点を中心に反論する。
(1)
右記、被申告者丙の主張の論拠の一つは、文部科学省(文部省)への提案申請の際に編著者、発行者、販売者のいずれにも被申告者丙の名称を記載しなかったという事実を根拠にしているにすぎず、それをもって実態として被申告者が編著者等に該当していないことを意味するものではない。
この点について、本件第一次申告文においては、被申告者甲、乙、丙の三者間で緊密な協力と役割分担によって教科書の編著、発行、販売等を推進する旨の覚書を交わしたと被申告者丙の会報『史』紙上で報じている事実等を指摘した。そこで報じられた事実が誤りであったり、事態が変った旨を説明する報道は『史』や産経新聞等の紙上でも今日までされていない。また、被申告者丙の会則「第3条(目的)この会は新しい歴史・公民教科書をつくり、児童・生徒の手に渡すことを目的とする」等、改定されていない。
従って、被申告者丙は、右記、検定申請時の提出書類には名前をうたっていないが、この間の事実経過から考えるとき、丙は検定申請者と判断できる。文部省はそれを知りうる立場にありながら、そのまま受理したにすぎない。
(2) また、一方で被申告人丙は、自らが編著者であるとしなければ説明がつかない言動を重ねている。
昨2000年7月以後、被申告人乙が検定申請した白表紙本の内容をめぐって各方面で批判的な声が上がり、それを全国紙や通信社などが報道する都度被申告者乙は、白表紙本は本来“門外不出”のものであり、その内容について部外者が批判するのは不当だと主張してきた。全国紙の報道に際しては、それぞれの記事を執筆した記者の処分までを被申告人丙は要求した。
さらに被申告人丙の事務局長高森明勅は雑誌『諸君』2000年11月号掲載の論考「白表紙本バッシングに奔(はし)る『朝・毎』の汚い手口」において全国紙の報道を批判し、特に毎日新聞の場合は「何らかの方法で白表紙本の中身についての情報を入手しているのは確かだ」「しかし、そこには何らかのルール違反があったことは疑いない」と断言している。被申告者丙はこれだけ明確に白表紙本は“門外不出”であると強調している。
一方、被申告者丙は、白表紙本を検定に提出してから間もない2000年5月発行の会報『史』第21号(増刊号)では<総特集=これが「新しい教科書」だ!――待望の歴史・公民教科書の内容を大胆公開>とした詳細な記事を掲載している。さらに、2000年9月に発行(奥付けによる)した高橋史朗(副会長)責任編集、新しい歴史教科書をつくる会編の単行本『新しい教科書誕生!!』(PHP研究所)では、歴史教科書と公民教科書の各「五大特色」と内容に関する各「Q&A」の記述を収録し、さらに白表紙本を見開きにした写真を複数掲載している。仮に、被申告者丙の「つくる会」が、右記「声明」のように編著者等ではまったくない立場であるとするならば、“門外不出”であるはずの白表紙本の詳細な内容や写真図版を公表できないことになり、右記の行為を正当化することはできない。唯一、合理的に説明する方法は被申告者丙が編著者等であると認めることにしかない。
仮に、そうした場合でも、もともと検定中でも公開を禁じられているものではない白表紙本について、右記の高森明勅の論考の如くいかにも禁じる法規があるかのような虚偽の報道と主張をくり返して展開した被申告者甲と丙の言動は、特殊指定以前の公序良俗に反するものと言わざるをえない。
(3) 次に被申告者丙は右記の1月23日付け声明(反論)において、特殊指定による「諸規制の適用をうけるのは」「『教科書の発行または販売を業とするもの』であって、当会はこれに該当しない」としている。また、上記の高森明勅の論考では、「(同)が発行者つまり教科書会社でない」と主張していて、「業とするもの」を企業など経済的利益を目的に事業活動するものに改定していると解される。しかし、特殊指定の「内容解説」には「発行を業とするものとは」として「教科書を発行し、または発行しようとする事業者をいう」とある。ここでいう「事業者」については独占禁止法第2条(定義)第1項で「商業・工業・金融業、その他の事業を行う者をいう」と定義されている。さらに用語としての「事業」については『法律用語辞典』(1993年、有斐閣)に「一定の目的をもって反復、継続的に遂行される同種の行為の総体を指す」とした上で「営利の要素を必要とせず、営利の目的をもってなされるかどうかを問わない」と明確に指摘されている。
従って、特殊指定の対象とされる「教科書の発行または販売を業とするもの」を教科書会社など営利を目的とする企業などと解している被申告者丙の主張は失当である。
(4) さらに、右記(2)で確認した「事業者」に被申告者丙が該当することは、左記の点などから明かである。
@ 本件第一次申告文及び右記(1)で指摘してあるとおり、被申告者甲、乙、丙の三者は一致協力して教科書の発行、販売に取り組み、くり返しその旨を言明してきている。
A 被申告者丙は、一般会計及び特別会計の合計額が10億近い予算・決算規模(1999、2000年度)で、1万人を越える会員を擁し、総会では「前年度事業報告」が承認され、、「今年度事業計画」が議決されるなど、「事業」を着実に実行している「事業者」であることが、会報『史』第4号(’97年11月)、第16号(’99年9月)、第22号(’00年7月)等の総会報告記事によっても明かである。
(5) また、被申告人丙が1999年10月と2000年10月にそれぞれ「つくる会編」として刊行した約700頁の単行本『国民の歴史』と『国民の道徳』(いずれも産経新聞社発行、扶桑社発売)の場合、400字詰の原稿用紙で1500枚を超える原稿を、それぞれ西尾幹二と西部邁が単独で執筆したものであるにもかかわらず、それら両名の氏名と共に図書の出版を企画提唱したことで「つくる会編」と併記している。特に西部邁の場合は会の理事でもないにもかかわらず、事実上の単著である『国民の道徳』に「つくる会編」とする表示となっている。
従って、組織の創設(’97年1月)から会の総力を挙げて中学校「歴史」「公民」教科書の発行に向けて「反復継続的」に活動を続けてきた被申告者丙が、検定申請に際して、編著者として提出書類に記載しなかったことは、事実に反する。
(6) 右記の通り、被申告者丙が事実上の編著者であり自らの会報等でそのようにくり返し言明してきたにもかかわらず、検定申請の提出書類には事実が正確に記載されていない。そうした事態は過失によるものではないと思料される。
その根拠は、会報『史』第18号(’00年1月)上の「今後の採択活動について」と題した解説で同会は特殊指定の対象ではないので採択に向けて地方議会などへの活動をそれまで以上に進めても支障はないとし、同会はあくまでも「新しい教科書」の発行を提唱したにすぎないと主張し始めたことにある。
それまでの同会の会報その他の説明と明らかに矛盾する「提唱したにすぎない」という主張は以後、今日までくり返されているが、それ以前の説明や会則第3条等との矛盾については、何の説明もされていないままで「提唱したにすぎない」とする主張は明らかに破綻している。
明らかに破綻している主張に被申告者丙が固執する根拠には、右記の『史』第18号のカモフラージュがあったにしても、それを指摘し、被申告者丙の一連の行為が違法であることを明確に指摘し排除勧告がなされなければ、違法行為は継続されるし、今日まで継続されてきている。