2001年3月9日
公正取引委員会御中


 <申告者>
沖縄県○○市○○XXXX−X−XX−XXX
   高嶋 伸欣
大阪府大阪市○○区○○X−X−X−XXX
   上杉  聰


私的独占禁止法第45条第1項にもとづく申告(第3次)


  1. 違法行為者(被申告者)

    1 名称 株式会社産業経済新聞社(以下被申告者甲という)
     所在地 東京都千代田区大手町1-7-2
     代表者 社長 清原武彦
     資本金額 31億5,005万円
     会社目的 日刊新聞の発行及び出版業

    2 名称 株式会社扶桑社(以下被申告者乙という)
     所在地 東京都港区海岸1-15-1 スズエベイディアム
     代表者 社長 中村 守
     資本金額 4,000万円
     会社目的 月刊誌・週刊誌・文庫・書籍・ビデオの出版等

    3 名称 新しい歴史教科書をつくる会(以下被申告者丙という)
     所在地 東京都文京区本郷2-36-9 西ビル1階
     代表者 会長 西尾幹二
     収入金額 4億1,532万円(1999年度決算)
     会の目的 「新しい歴史・公民教科書をつくり、児童・生徒の手に渡すこと」(会則第3条)


  2. 申告の趣旨

     被申告者甲、同乙、同丙は、競争者の顧客をして自らが発売・発行・編集・執筆などする(した)中学校「歴史」「公民」教科書に不正に誘引・取引するため、編著者およびその他の著作関係者を(と)して他社教科書の批判、中傷、ひぼう、比較対照などを執筆させ(し)、それを報道機関と(を)して報道し(させ)て公開・流布し、さらに買い入れ・頒布した。また、上記被申告者三者は、自己の関与する教科書の使用または選択を勧誘する手段として、選択に関与するものに対し、書籍等物品を頒布−供与した。これら不正な手段をもって他社の発行する教科書の使用または選択を妨害し、不当に自己の教科書の選択を勧誘したものである。

    これらが違反すると批判される法令は以下である。

    独禁法第2条第9項

    三 「不当に競争者の顧客を自己と取引するように誘引し、又は強制すること」
    六 「競争事業者とその取り引き先との取り引き妨害」
    公正取引委員会告示第5号
    一 教科書の発行または販売を業とする者が、直接であると間接であるとを問わず、教科書を使用するものまたは教科書の選択に関与するものに対し、自己または特定の者の発行する教科書の使用または選択を勧誘する手段として、金銭、物品、きょう応その他これらに類似する利益を供与し、または供与を申し出ること。
    三 教科書の発行を業とする者が、直接であると間接であるとを問わず、他の教科書の発行を業とする者またはその発行する教科書を中傷し、ひぼうし、その他不正な手段をもって、他の者の発行する教科書の使用または選択を妨害すること」
    教科書業の指定に関する運用基準で禁じられるもの
    第一項の十一の「(ロ)書籍」、第三項の「(イ)他社教科書との比較対照の公布流布(ロ)中傷、ひぼう記事を買入れ頒布し報道すること(ニ)他社教科書の内容を批判または誤謬を報道すること(ヘ)編著者をして他社又は他社教科書を中傷、ひぼうさせること」
     上の規定に違反したことにより、被申告者らに対し、すみやかに排除措置をとるよう求める。

  3. 違法行為の内容

    1. 被申告人甲は、2002年度から使用される中学校「歴史」「公民」教科書の発行予定者であるとともに編集協力者であり、被申告者乙と同丙と1997年末から密接に協力する関係にある。
       被申告人乙は、2002年度から使用される中学校「歴史」「公民」教科書の申請者であるとともに編集・発売者であり、1997年末から被申告者甲と同丙と密接に協力する関係にある。
       被申告人丙は、2002年度から使用される予定の中学校「歴史」「公民」教科書の執筆者であるとともに、1997年末から被申告者甲と同乙と密接に協力する関係にある。

       以上の判断根拠は、被申告人丙の機関紙である『史』の1997年11月号と1998年1月紹介された三者の「覚書」、被告人甲による『産経新聞』1998年1月9日付「社説」(「主張」)などによる。
       さらに被申告人乙(扶桑社)は、被申告人甲(産業経済新聞社)の出版部門であるサンケイ出版が、フジテレビの出版部門であった旧扶桑社と1987年に合併して作った出版会社で、同社は、フジサンケイ・コミュニケーション・グループ(FCG)の構成会社であるので、「同じグループの出版社として、産経新聞の動きをフォローしていくのが当然」とし「扶桑社としても『新しい歴史教科書をつくる会』のキャンペーンに産経新聞と共に同調している」と、同社取締役の石光章氏は語っている(『創』1998年6月)。

       同社の編集部は四部門に別れ、産経新聞社関連を取り扱う部門がこの「教科書」を担当し、担当する星野俊明編集長は、「今回の出版計画は、『新しい歴史教科書をつくる会』と産経新聞社、そして扶桑社が一体で進めているもので、私としては単なる本(の出版)ではなく、ひとつの運動として取り組んでいます」(同前)とも語っている。
       現に被申告人丙の編による『新しい歴史教科書を「つくる会」という運動があるという書籍があって、これにより丙の会員は飛躍的に増えたと言われている。この本の発行は扶桑社であり、はがきが二葉挟み込まれていて、一枚には「つくる会」入会案送付希望を書き込む欄(宛先は扶桑社書籍編集部)があり、もう一枚は「つくる会」の購読者であることを表示した「産経新聞ご購読申し込みカード」で、宛先は産経新企画開発室お客様係、料金受取人払いになっている。この本は、現在も店頭で売られり、被申告人丙が編集し被申告人乙が発行する本を通じて甲の購読者と丙の会員とを増という、三位一体の戦略がとられている。
       また被申告人丙の会長である西尾幹二氏は、右教科書のパイロット版である『国民の歴史』を執筆した苦労を述べた後、「なぜそうまでして『国民の歴史』を書かなければならなかったといえば、出版社に資金を提供しなければ、肝心の中学校歴史および公民の教科書を出してもらえないからである…同書に対しすでに最も期待されてきたのは、もっぱらこの点である」とし、「教科書出版を引受けるのは各社とも並々ならぬ決意を要する…C社(発行・産経新聞社、発売・扶桑社)にしてもなかば気が重く、教科書以外の刊行物がとりわけ負担である。450ページくらいの、定価約1万円の教師用指導書を、歴史・公民それぞれにつくらなくてはならない。自習ノートというのを作らなくてはならない。だから全国各地の採択にぜひ成功しなければならない。もし失敗し、教科書がほとんど採択されなかったら、こうした附属刊行物を含め、それに投入した取材費や人件費がことごとく欠損に終わるであろう。そこで採択がひじょうに重視される所以である」(『正論』1999年12月号)とし、被申告人丙(新しい歴史教科書をつくる会)の活動と同甲(産業経済新聞社)と同乙(扶桑社)の三者が、経済的にも深いつながりの上に活動していることを述べている。
       また、右以外の『史』によると、右「歴史」「公民」教科書の執筆者と執筆当時の被申告人丙における役職の関係は以下のようであり、執筆者がたんなる個人でなく、被申告人丙の組織の一員として行動していることを示している。

      「歴史」=西尾幹二[会長]・藤岡信勝[理事]・小林よしのり[理事待遇]・伊藤隆[理事]・□坂本多加雄[理事]・□高森明勅[理事・事務局長]
       □は基礎原稿の執筆担当者 監修者に高橋史朗[副会長]他
      「公民」=□西部邁[理事]・佐伯啓思・宮本光晴・佐藤光・杉村芳美・八木秀次
       □は代表執筆者
       現実に被申告人丙の会則によると、その目的を「新しい歴史・公民教科書をつくり、児童・生徒の手に渡すこと」(会則第3条、『史』1999年9月)に置いているだけでなく、執筆のために組織的な作業が繰り返されてきたことを、同会の機関誌である『史』の事業経過報告(1997年11月、1999年3月、同7月、同9月、2000年3月、同7月)や総会資料、また同会が編集した単行本『新しい日本の歴史が始まる』(幻冬社)『新しい歴史教科書を「つくる会」という運動がある』(扶桑社)『新しい歴史教科書誕生!!』(PHP研究所)などが、詳しく述べている。

    2. 被申告者三者が協同して進めてきた中学校歴史教科書の代表的著者の一人であり被申告者丙の会長である西尾幹二氏は、本年2月19日、大阪府藤井寺市にある藤井寺市民総合会館別館中ホールにおいて、社団法人藤井寺青年会議所が主催し、被申告者甲(産経新聞社)、被申告者乙(扶桑社)、被申告者丙(「つくる会」)、藤井寺市などが後援した「『時は熟した』地域教育へのかかわり 日本の歴史教育と未来」と題する講演会において、約150名の聴衆に対して、他社の中学校歴史教科書を挿絵や写真なども加えてひぼう、中傷した資料を配布し、さらにそれらをOHPによって画像で示しながら以下のように発言し、約2時間にわたって他の中学校歴史教科書をひぼう、中傷する講演を行ったものである。また、被申告者甲は、2月7日付けの産経新聞大阪本社版・朝刊において、上記19日の講演会を予告報道し、幅広い参加も働きかけたものである。

    3. 「・・当市で使われている教科書は何ですか。大阪書籍ですよね。大阪書籍は、ワーストワンと言われている教科書会社です。(同教科書の「第7章 日本の近代化とアジア」のページをOHPで示しつつ)『・・・・銃口は誰に向けられているのでしょう』、日本に向けられていると言いたいのでしょう。・・・地球儀の上に日本の軍人が乗っていて、手に持った剣から血が滴っています。こういう絵は、言うまでもなく、明治政府は犯罪政府であり、日清・日露の戦いは大陸への侵略戦争であったということを言いたいがためのものです。・・・・もし朝鮮半島がロシアの手に落ちたなら、次に起こることは日本列島の分割統治でありました。我が国のやった政策が間違っていたとは私は断じて思えないのです。・・・・日清・日露戦争は、日本がギリギリいっぱいのところで自分を守った戦いだったのです。その日清・日露の戦いを犯罪のように描いているのが今の教科書なんですよ。絵を見るだけでもおわかりと思います。・・・あの戦争は、アメリカが日本に仕掛けた戦争だったんです。そのことは、歴史的にはっきりしてきたんです。我が国がどれだけいじめられながらけなげにけなげに戦いぬいてアジアの解放を行ったこともわかってくるようになるでしょう。」
       「・・・・・全然日本とドイツは対応したことが違うのです。だいたいこんな絵をかかれるけれども(他社教科書の絵を示す)我が国は過去において地球の裏側まで出かけていって、どこかの国を侵して取ったと言うことがありますか。ただの一回でも、地球の裏側まででていったことなんてないじゃないですか。地球の裏側まででていったのは、どこの国のどういう人たちだったかと言うことを、子どもだってわかる論理じゃないですか。そのことを子どもたちにやさしくメッセージとして伝えることが教科書は必要ですよ。どこの誰が地球の裏側までやってきたんですか。そのことをきちんと書かないのが、今の教科書ですが、私たちの教科書は、幕末から何が始まったかを、それより前からスペイン、ポルトガルから何が始まったかをきちんと書いています。そう書かなかったら歴史は説明が付かないんです。日本が正しいとか悪いとかの話しじゃないんです。事実なんですから。そう言う事実をきちんと書かないといけないんです。」
       「・・今までは、7つ(の中学校歴史教科書は)みんな同じでした。どれを選ぼうが同じだった。みんなマルクス主義、階級闘争史観で書いてある。でも、ようやく、たった一つそうでない教科書が登場するんです。・・・・私たちの教科書には、怪しいところ、右翼的なところ、軍国主義的なところは全くありません。ただ過去の私たちの戦ってきた苦難の道は苦難として、国民的な共感と哀惜を込めて語っています。たとえば、神風特別攻撃隊についても、きちんと我々の祖国を守った英霊への感謝の気持ちを込めて語っています。これは、検定を通ると思います。私たちは、自分たち悲しみや苦難を心を込めて共感を込めて語ります。一部の人が唱えている皇国史観ではありません。私たちの教科書は人物コラムを重視しています。他の人たちの教科書とは違うところです。・・・・。」

    4. このように西尾氏は、「あなたのお子さんは毎日こんな絵や写真を学校で見せられています」と書かれた資料を提示したうえで、他社の教科書のひぼう、中傷を行い、自らが著者となっている教科書を宣伝する講演を行ったものである。その目的とするところが、被申告人三者のすすめる教科書がとくに藤井寺市で採択されるようにすることであることは、上記講演内容からみて明らかである。

       さらに、会場で主催者から参加者全員に配られた資料の中には、小林よしのり作の「新ゴーマニズム宣言」第134章があり、そこには教科書の採択権限を教育委員へと一元化すべきであることが主張されており、その上で西尾・小林両氏が著者となっている三者による教科書を教育委員が採択してくれるよう、「今まで通りの教科書でいいか?」それとも「つくる会」の教科書がいいか、「『教育委員』さまー判断しておくんなさいましーい」訴えている。
       このマンガが、教育委員に見せる、あるいは教育委員に働きかけるための世論作りを目的として描かれていることは、マンガに「『教育委員』に見せるときは、この最後のページは隠してね」と書いてあったり、「つくる会」による上記マンガへのあとがきに「本冊子(マンガ)をきっかけとして、今後とも教科書問題にご関心をお寄せいただきたく」として、マンガと同趣旨の内容を記していることからも明らかである。
       なお、藤井寺市教育委員会は、当初、上記集会の後援団体となっていたが、市民からの抗議などによってそれを降りたことは、当然の判断といえる。

    5. また会場で配布された資料には、「つくる会」への「入会のご案内」と記されたリーフレットがあり、そこには「私たちは…『歴史』及び『公民』の教科書をつくり、子どもたちに届けようと、全力で取り組んでいます…これらの出版事業に関しては、産経新聞社・扶桑社と協力しつつ進めています」と明記し、産経新聞社が教科書の出版にかかわっていることを公言している。1月22日に私たちがおこなった第一次の申告に反論して産経新聞社は、「編集・執筆にも発行・発売にも関係していない」との記事を掲載した(1月23日)が、実は、その後もこのようなリーフレットを自ら後援する集会で参加者に配布し、かつさせている。これは、いまだ三者が一体となって教科書の作成ー販売(採択)活動をつづけていることの明白な証拠であり、上記報道が虚偽であることを証明するものである。

    6. これらの事実は、「教科書の発行を業とする者が、直接であると間接であるとを問わず、他の教科書を中傷し、ひぼうし、その他不正な手段を持って、他の者の発行する教科書の使用または選択を妨害する」ことを禁じた公正取引委員会告示第5号三に違反する行為であり、公正取引委員会編「教科書業における特殊指定の解説」が「講習会、研究会等において自社の編著者をして他社教科書を中傷、ひぼうさせることも選択妨害となるので禁止される」としてきたことに対する明白な違反である。

     以上、被申告者甲、乙及び丙による行為の特殊指定違反の事実を、公正取引委員会において迅速に調査・認定し、排除勧告の措置を講じるよう求める。

     なお、上記講演の中で西尾氏が「大阪書籍は、ワーストワンと言われている教科書会社です」としたのは、産経新聞が1999年10月19日から計12回にわたって特集した「中学校社会科教科書の通信簿」にある「評価」にもとづいたひぼう表現であり、この特集記事とその配布の違法性は第一次申告(1月22日)で指摘した。また、上記藤井寺市教育委員会には、第二次申告(2月19日)で指摘した『国民の油断』が届けられたままになっている。かつての数々の違法行為の影響は藤井寺市の場にも及び、また今も継続しているのである。公取委による排除勧告の遅れがこうした事態を招いていることを指摘し、すみやかな公正取引委員会による判断を、ここに要請するものである。
    以上


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