開かれた教科書採択を!

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検定後も「やはりあぶない」歴史教科書

■なぜ、合格したの?「つくる会」教科書!

  「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書に加えられた検定意見は137 カ所でした。これは他の教科書でもっとも多いものの3 倍以上、少ないものの10 倍以上です。検定した教科書調査官は、 検定を「厳しくやると、扶桑社の検定意見が多くなり過ぎる」からと、検定をゆるめたことを(『毎日新聞』四月四日朝刊)告白しています。

  このように「つくる会」の教科書は、検定不合格となってもしかたないような教科書だったのです。町村信孝文部科学大臣のもとで、検定基準をゆるめたり、特別の配慮を受けて、かろうじて検定を通過させたものです。そのために、検定不合格を主張した検定調査審議会委員を、自民党の小山孝雄議員(KSD 疑惑で逮捕)などの圧力によって更迭(昨年10 月)することまでやっていたのです。

■検定後も変らない彼らの主張―歴史の改ざんとアジア蔑視

  ですから「つくる会」の教科書は、検定によって、ある程度の修正を受けたにもかかわらず、語句の修正だけでは解決できない根本的な欠陥を、いくつも抱えています。そのうち特に重大なものは、第一に「自衛とアジア解放の戦争」という誤った戦争観で書かれていること、第二に「皇国史観」に基づいていること、と要約できるでしょう。

  たとえば朝鮮の植民地支配を、「朝鮮半島が日本に敵対的な大国の支配下に入れば…日本は、自国の防衛が困難となる」から行ったとしていることによく表れています。これは、大国の前に、朝鮮の人々が無力で主体性をまったく欠如したものとする差別的な見方です。また日本の側からしても、大国とのあいだで朝鮮の中立政策を進めたり、同盟関係を確立するなどの方策がありうること を無視するものです。朝鮮半島の人々が、歴史的に侵略に対して粘り強く抵抗を繰り返し、多く成功させてきた歴史を抹殺するのみならず、朝鮮半島の中立化に反対し、一貫して侵略政策を進めて きたのが、ほかならぬ日本であった事実を逆転させ、侵略を自衛と偽り、加害者である自らを被害者と言い換えて、歴史を歪めているのです。

  1937 年の「南京事件」については、すでに歴史研究の上では疑う余地のないものであるため、検定によって少しだけ書かれました。ところが、「今日でも論争が続いている」と、批判の余地が あるように追記しています。満州事変についても、日本を中国との関係で「被害者」とえがき、「自衛戦争だった」という文脈で説明しています。

  重要なことは、「東亜新秩序の建設を声明し、日本・満州・中国を統合した経済圏を作ること」が「大東亜戦争」の目的であったと、当時の政府の主張そのままに、満州侵略や日中戦争をアジア を解放するための戦争であったとしていることです。これは、当時の戦争の本当の目的が、アジアを軍事的に支配して、石油やゴムなど戦争資源を略奪するためであったことを隠すものです。

  また一部に行った「独立」政策も本当の独立ではなく、日本のかいらい政権をつくるものであって、独立を強く望んできたアジアの人々を「抱き込む手段」(東条英機)とした現実を偽るものです。

■教育勅語も検定合格?!

  また「つくる会」の教科書には、その解説も含めると九ページにもわたって神話が登場しています。しかも、歴史事実と交互に読み進むよう構成されていて、神話と史実を混同させる構成になっています。今回の検定は、この神話の大量の登場と、全体の構成にはほとんど手をつけず、昭和天皇を、神武天皇から数えて「第124 代」と紹介しています。これは、戦後の教育が、「従来の、史 実と神話とを混同してきた歴史的な記述を排斥して、厳格に事実に基づかなければならない」(1946 年9 月、貴族院での田中耕太郎文相の発言)としてきた蓄積を清算しようとするものです。神話は「ロマン」などでなく、アジアの人々や女性、障害者などへの強い差別意識に貫かれていることにも注意する必要があります。

  教育勅語の全文も掲載しました。検定は、これについてまったく手を付けませんでした。勅語が「近代日本人の人格の背骨をなすものとなった」という高い評価も変わっていません。

こちらが本命!?「もっとあぶない」公民教科書

■子どものマインドコントロールをねらう教科書

  全体を一読すると、この公民教科書こそ、「つくる会」及びその背後の政治勢力にとっては、歴史教科書以上に中学生へのマインドコントロールの面で効果を期待し、その政治的意図を露骨に織り込んだものと読めます。

  「公民編」は99 か所の検定意見をすべて受け入れて修正したとされていますが、その後でもなお下記の通りに同書作成でめざした政治的意図は健在です。

■“改憲”特に第9 条攻撃のための政治的意図

  憲法の章で“押しつけ憲法論”を展開しています。そして、自衛隊の存在を強調し、「国軍」としての認知をめざしている記述や写真が多く掲載されています。口絵、序章〜第2 章(政治分野) の計133 頁分の中に自衛隊の活動ぶりを示す(しかも兵器の写真は皆無)写真を合計10 枚も掲載し、他社本の1 〜2 枚と比較しても突出しています。

  例えば、特集『阪神・淡路大震災と自衛隊』では写真4 枚を紹介し、解説文に「多くの被災者の力になったのは、まぎれもなく自衛隊だった」と明記しています。ボランティアや自治体関係者の活動への評価は低く、きわめて意図的な記述です。検定の大原則、“バランス論”はどこへいったのでしょうか?

  日本国憲法に関する学習の「国民の義務と新しい人権」の頁で、突如として「国防の義務」もことさらに強調されています。これは明らかに憲法に関する学習の範囲から逸脱しています。

  日米安保条約=“日本の平和に貢献”論のみを取り上げ、在日アメリカ軍基地をめぐる問題について、沖縄への基地の偏在や事故・事件などに関する事実については、何も言及していません。

■「滅私奉公」の再現

  教科書全体をとおして、「私=個人」よりも「公=国家」のためになる人間としての“心がまえ”を身につけよ!と強調しています。ボランティアへの参加促進に加え、その項の末尾を「公と私」 のバランスとするなど、私=個人→家→学校→公=国家という個人から国家への帰属意識を強調した教科書になっています。

  時の為政者が市民を束ねるための道具として「公」=「国」と短絡させ、そして「個人」はそれに従うものという考えは、憲法の理念とはまったく異なります。これは、戦前、人々を有無を言わ せず縛りつけた「国体思想」そのものと言えます。

  「公的なものへの帰属意識」を深めることこそ公民学習の目標であると強調するため、終章で、また「公的なものへの欲望」として「国家や社会全体の利益や関心という視点」つまり「公共的な精神」に立つものとしての「公民」になることを「当然のこと」として求める記述を文部科学省からの検定意見に対する修正として登場させています。

■「人権」への制約と住民自治の疑惑

  「人権」の記述では、「社会全体の秩序や利益を侵す場合には権利や自由の行使が制限されることがある」という主張がくり返し登場しています。その一方で「国防の義務」まで持ち出して「国民の義務」を強調しています。

  住民運動について、住民投票は「住民の意思自体がマスコミや市民運動団体の考えに煽動されやすいといえる」と記述し住民の意志をべっ視しています。

■核兵器廃絶論への疑問

  申請本では核兵器軍縮や核廃絶の理念に疑問を投げかけた「コラム」があり、被爆者団体等からの批判が起こりました。その「コラム」に対して検定意見がつき、部分修正が行われました。修正後は、「もし核兵器廃絶が表面的に合意されたとしたら、そのときが、世界にとってもっとも危険な瞬間だともいえるのではないだろうか」と人間不信をあおっています。


コラム  産経新聞の“真実”



  「つくる会」の教科書を検定申請した扶桑社は、産経新聞とフジテレビ、日本文化放送などの子会社です。親会社にあたる産経新聞は藤岡信勝氏が「自由主義史観研究会」を結成した頃から、積極的に藤岡氏たちの活動をバックアップしてきました。「つくる会」発足以後は、まるで機関紙のような報道ぶりを続けています。

  それもそのはずで、1997 年11 月に「つくる会」と扶桑社、産経新聞の三者は覚書を交わして、教科書の編集、執筆から発行、採択に向けた諸活動で、一体となって行動すると確認しているのです。このことは「つくる会」の会報『史』'98 年1 月号に明記されています。さらに産経新聞は'98 年1 月6 日朝刊第1 面の記事や同1 月9 日の朝刊の社説(主張)で、同社が全面的に協力することになったと、読者に伝えているのです。

  ですから産経新聞は、少なくとも、この件に関する限り公正中立と言いきることはできません。それなのに同紙は紙面では、まるで第三者の報道機関であるように見せかけています。これだけでも、一般の読者を欺くものです。

  しかもそれだけではありません。産経は「つくる会」自身の主張や扶桑社版白表紙本の内容を批判する動きに対し、執拗に反論をくり返しています。とりわけ「『朝日新聞』の教科書報道」と題した長文の反論を、今年2 月22 日、3 月6 日各朝刊の第1 面に掲載するなど、朝日新聞報道に対するものが際立っています。

  ところが、その反論の内容が実にずさんそのものなのです。反論の骨子は検定による最終的合否が判明するまでは、部外者は白表紙本の内容についてあれこれ言うべきではなく、とりわけ新聞は、報道を慎むのが「暗黙のルール」だとしていることにあります。産経の場合は、こうした「従来の方針通り」に、報道をしていないのに、朝日は昨年7 月29 日以来、白表紙本を批判する声を報道しているのは不当だというのです。

  でも、真実は違います。産経自身が昨年7 月1 日朝刊で、検定を申請した8 社の中学歴史教科書全体で、日本軍などによる加害行為の記述が大幅に減少していることを記事にしているのです。日付けに注目して下さい。産経が問題にしている朝日の記事より早いのです。自分がやっていることには頬かぶりをして、他人への一方的な批判、攻撃をくり返す。これが中学生用の教科書をめぐる産経報道の「真実」なのです。中学生にでもすぐに見破られるトリックでしょう。

  同じようなことがまだあります。産経新聞とその同調者たちは、1982 年の検定は中国北部の「侵略」を「進出」に書き替えた事例はなかったのに、朝日新聞などが“あった”と誤報したから外交問題になったのだと主張し続けています。産経は、そのための特集記事まで載せています。町村文部科学大臣(当時)までが、国会で「新聞の誤報が原因だった」と答弁した(3 月12 日)ことで、さらに勢いづいています。

  ところが、'82 年にも歴史教科書で、東南アジアへの「侵略」を「進出」と替えさせた例があったのです(帝国書院版「世界史」)。そのことは文部省も知っていて、当時の新聞でもくり返し報道されています。それなのに、産経新聞などが、今も誤報だったと騒ぎ続けて、だから「近隣諸国条項」を検定の基準から削れと主張しているのです。

  これが産経報道の「真実」なのです。


■ ―教科書を見る視点―

―自由民権の講演会―

  まずこのイラストを見て下さい。小中学校のほとんどの歴史教科書に載っているものですが、皆さんは誰が誰に物を投げ、警察官が誰をなぜ叱っているのかすでにご存知でしょう。でも小学生にこのイラストだけ見せると、弁士が騒がしい聴衆に怒って物を投げたので警官が危険だからとめている、という解釈が多数派になります。そこで本当はどうなのか図書館で調べてくるように宿題にすると、生徒は正しい解釈をみつけ出すと同時に、この場合に関係した当時の情況に強い興味を示します。そこでグループ毎に寸劇くらべをした実践もあります。

  これまでは、「弁士が政府批判をしたので警官が中止させようとしたのを聴衆が怒っています」などと詳しく説明してある方が親切な教科書と思われてきました。でもそれでは、生徒たちは説明のことばに誘導されて、別の見かたがあることに気づきにくくなります。小林よしのりの『新ゴーマニズム宣言』が、文字の多いコミックになっているのは、このような効果をめざしているのです。これでは、考える力がつきません。

  よりよい教科書、それは覚え込ませるためよりも考える学習のために工夫されたものです。文字が半分以上もあって、しかも「東西の文化が交流する舞台をつくったことは見のがせない」(扶桑社版、86 項)などと、一つの解釈を断定的に明記してあるのでは、生徒自身がそのような解釈を見つけ出す楽しみを奪っていることになります。

  文部科学省も、学習指導要領のもととなる基本理念などを提示する教育課程審議会答申('98 年7月)で、わざわざ「教科書と補助教材」という節を新設して、覚えさせる学習のための教科書の時代は終ったと力説しているのです。

  「つくる会」は地方議会への請願を通じて教育委員会に対し、指導要領の「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深める」という「学習の目標」にふさわしい教科書を採択するように働きかけています。でも、そのことを覚えることよりも自分で考え、調べて、見つける方が、はるかに身につくことは明らかであり、「考える学習のための教科書」の方がいいのではないでしょうか。

  それに、中学生ならば国や歴史に対する誇りは、押しつけがましい記述よりも、「君ならどうする?」と尋ねられて自然に身につくものです。戦前戦中と同じように近隣諸国の人々をさげすみ、女性を露骨に差別する教科書と、反省すべき歴史事実を隠さずに若者たちに伝えて未来を考える参考にしてほしいと呼びかける教科書。どちらが、中学生に日本の社会への誇りを持たせるか、明白です。

  「つくる会」本は、そうした中学生の考える力、判断力を尊重しているとは思えません。

市民の力でより良い教科書を子どもたちに!

  新たに登場した「つくる会」主導によって編集された教科書は、これまで述べたように憲法・教育基本法に反しています。それは、史実と真実を大きく歪め、偏狭なナショナリズムを煽ったり、女性差別の表現がある「あぶない」中学校「歴史」「公民」の教科書です。「つくる会」は「従軍慰安婦」「南京大虐殺」などの記述を「反日的・自虐的」とし、教科書から削除するキャンペーンからはじまり、 自らの教科書を採択させるため産経グループをバックとした豊富な宣伝力・資金力・政治力を背景に、活発に活動しています。自前の歴史書「国民の歴史」を全国各級議員や教育委員会に無料配布し、地方議会での活動などをすすめてきました。すでに、一部地域では教科書採択から教職員の意見を排除する「制度改悪」も起こっています。このままでは、「あぶない」教科書が全国の学校で使用される事態がやってきます。「つくる会」はこの教科書を全国の一割の学校で使用させることを目標としています。彼らの目標が達成されたとき、憲法・教育基本法改悪の流れはいっそう加速化されます。また、中国や韓国・朝鮮をはじめ、アジア諸国の人びとから「どうしてこのような教科書が採択されるのか?」という疑問とともに、日本への不信感はますます大きくなります。アジアとの平和や友好協力関係を大きく損ない、国際的に孤立化の道を歩むことにもなります。21 世紀に若い世代が国際社会の一員として生きていくにあたっての大きな障害となります。

  7 月の採択教科書決定を前に5 〜7 月期は各採択地区・市町村教育委員会での採択作業という大きな山場を迎えようとしています。

  そこで、「教科書問題を考える実行委員会」は、「つくる会」教科書の史実と真実を歪める偏狭なナショナリズムの危険性を広く訴えるとともにさまざまなとりくみをすすめます。

■とりくみの基本方針

  憲法・教育基本法、子どもの権利条約、女性差別撤廃条約・人種差別撤廃条約などを遵守した教科書、子どもたちにアジア諸国をはじめ世界の平和、共生社会の実現をめざす意欲と実践力を育む 内容豊かな教科書の採択をすすめよう。

■具体的とりくみ

1 .7 月の市町村教育委員会の採択教科書決定に向けて、憲法・教育基本法の精神を尊重し、アジアとの友好連帯をすすめる教科書を公正・公平に採択するよう市町村議会、市町村教育委員会など に働きかけます。

2 .市町村教育委員会宛の「憲法・教育基本法の精神を尊重し、アジアとの友好連帯を求める教科書採択署名」(5 〜7 月)を行います。

3 .6 月末〜7 月はじめに全国各地の教科書センター(展示会)で行われる教科書本展示に対して、「教科書センターヘ行こう」運動を行います。
・センターに置いてある意見箱に「つくる会」本を採択しないよう求める意見を入れます。
・意見箱が置いてない場合、直接、教育委員会へ意見を届けます。

4 .ホームページ(http://www.h2.dion.ne.jp/~kyokasho )を開設し、教科書センター(展示会)の場所、展示期間、意見反映などのポイントを紹介します。



◆歴史教科書とナショナリズム
和仁廉夫 著

いま、論争の渦中にある右派グループ「新しい歴史教科書をつくる会」による歴史・公民教科書。「自国中心史観」にたち、「大 東亜戦争」を肯定するその内容は、内外の強い批判をあびている2 冊の「申請本」を解読=批判し、その登場の歴史的背景、アジ アのメディア報道などを紹介!

社会評論社/定価:本体1,800 円+税

◆『「つくる会」歴史・公民教科書徹底批判』(仮)
明石書店/価格未定

◆いらない!「神の国」歴史・公民教科書
上田 聰、君島和彦、越田稜、高嶋伸欣 著

2001 年4 月3 日、「新しい歴史教科書をつくる会」の中学歴史・公民教科書が文部科学省の検定を通過しました。侵略の記述を「自 虐史観」と非難し、独善的「歴史」観で、教え子を再び戦場へと送る道につながる「歴史教科書」。道徳の名のもとに異質排除を すすめる「公民教科書」。この二つの検定教科書を徹底検証!

明石書店/定価:本体1,000 円+税


発行:教科書問題を考える実行委員会
(事務局:フォーラム平和・人権・環境)
〒101- 0062 東京都千代田区神田駿河台3- 2- 11 総評会館5F
平和フォーラム/ Tel:03- 5289- 8222 Fax:03- 5289- 8223
http://www.jca.apc.org/peace- forum
E- mail:peace- forum@jca.apc.org
発行日:2001 年5 月
協 力:日本教職員組合・教科書情報資料センター・上杉 聰・高嶋 伸欣