もし「つくる会」教科書が授業で使われたら(2)

上杉 聰
(日本の戦争責任資料センター)


新しい歴史教科書 p.35
『中学 社会 新しい歴史教科書』
(扶桑社)p.35より

「これでは受験に落ちる」?

 「つくる会」の歴史教科書には、右のような図が掲載(35ページ)されている。これは、白表紙本の段階で、なんと、日本には、「四大文明に先がけて1万年以上の長期にわたって続いている」世界一の文明がある、という、とても信じられないほど傲慢な主張を根拠づけるものとしてあげられていた。
  さすがに検定は、文章の「四大文明に先がけて」などを改変するよう命じたが、右図とともに、本文の…
日本最大の大仙古墳(仁徳天皇陵)の底辺部は、エジプトでも最大のクフ王のピラミッドや秦の始皇帝の墳墓の底辺部よりも大きかった。(34〜35ページ)
  とする記述に、検定官はまったく手をつけなかった。その結果、この図も本文も、もとのまま見本本に残っている。
 紀元前27世紀に造られたピラミッドと、それから約3000年以上も後の紀元後5世紀に建設された大仙古墳とを比較すること自体が、そもそも意味あるか、ということくらい、著者も検定官も考えてみるべきだったろう。散骨葬さえ広がるこの現代に、「墓くらべ」などしてのプライドを回復したいなどというのは、なんとも幼稚だ。
  ところが、幼稚だけであればまだいい。別掲の図には奇妙な表現がみえる。「始皇帝の墳墓」という言い回しだ。その前には「仁徳天皇陵」とあるのだから、「始皇帝陵」とくるのが自然だろう。そこで少し考えて誰もが気付くのは、秦の始皇帝陵には「兵馬俑」(へいばよう)と呼ばれる7000体にものぼる等身大の人形が付属していることだ。これは墳墓の外にあり、それを加えると始皇帝陵は広さで大仙古墳の5倍以上にもなってしまう。これでは仁徳天皇陵を「世界一」と自慢できなくなる。そこで、「始皇帝陵」は「始皇帝の墳墓」へと変えられなくてはならなかったようだ。これは「インチキ」と呼ぶのではないだろうか?
  中学生たちが、はたして「インチキしてでもいい。私たちに誇りを植え付けてほしい」というだろうか? 「つくる会」の教科書がやろうとしていることは、そういうことだ。
  ところで、右の「兵馬俑」をみるとき、「つくる会」の歴史教科書の特色は一目でわかる。他の7社の教科書にはすべて写真付きで「兵馬俑」が大きく登場するからだ。要するに、「つくる会」の教科書だけ、インチキを通すために、「兵馬俑」を隠すはめに陥っている。これでは、「つくる会」の教科書を使わされる中学生徒がかわいそうだ。高校受験にも障害が起こるだろう。現に「富国強兵」などの受験用語もないし、大量の神話や、独特の右翼思想により書き加えた思想的な箇所も、当然、勉強しても受験と無関係になる。近現代史の間違いだけで51箇所の指摘がなされたが、前近代を入れたら大変な数になるだろう。子どもたちのことなど考えない右翼教科書は、どう見ても、困ったシロモノなのだ。