教科書採択に関する陳情書



〈陳情趣旨〉

2002年度から各小・中学校で使用される教科書の採択が、教育委員会を中心にして、この7月(2001年7月)には行われる運びとなっています。
今年度は、新たに「新しい歴史教科書をつくる会」(以下、「つくる会」)が中学の歴史、公民の教科書を執筆、作成し、今回採択される教科書の候補本のひとつとなっています。
「つくる会」は、自分たちが作った教科書を各地で採択させるために、首長、教育長、地方議会議員等に対して、「面談」をはじめとするさまざまな働きかけをして来ています。独占禁止法違反であるにもかかわらず、現在使われている他社の教科書を誹謗中傷する冊子を作成、配布したり、「つくる会」の主要メンバーが書いた「国民の歴史」「国民の油断」等の著書を全国の教育委員会、学校長、社会科教師等に無料で送りつけてもいます。
この「つくる会」の運動には、KSD汚職事件で逮捕された小山孝雄氏をはじめ多くの国会議員も関わっています。また各県ごとに国会議員や地方議会議員が「教科書議員連盟」をつくって、「つくる会」の運動を支援しています。
ご存知のように、戦前の、教育に対する国家統制への反省から設けられた教育基本法第10条は「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」(第一項)「教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するのに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない」(第二項)と定めています。また文部省は、教科書の採択に関して「いやしくも外部からの不当な影響により採択結果が左右されることのないよう、適切な対応がなされなければならない」「過当な宣伝行為その他外部からの不当な影響等により採択の適正、公正の確保に関し問題が生じた場合には、採択権を有する者において適切な措置を講ずるとともに、その都度速やかに文部省教科書課長あてに報告すること。」と通達しています。〔平成13年度使用教科書の採択について(通知)〕 私たちは、このままでは、これから21世紀を担っていく子どもたちのための教科書の採択が、教育現場からはかけ離れた一定の政治団体、政治勢力と、それを支える政治家等の「政治的影響力」「政治的権力」といったものによって左右されてしまうのではないかという、非常に強い危惧を持っています。

次に、「つくる会」の歴史、公民の教科書は、その内容そのものに重大な問題があります。「つくる会」の公民教科書の代表筆者である西部邁氏は「(その教科書で)人権主義、民主主義、平和主義に対しての批判を書いた」と、「つくる会」会報で公言し、「つくる会」歴史教科書執筆者の小林よしのり氏は、自己の著作の中で「戦争行きますか、それとも日本人やめますか」と書きました。そして実際の教科書の内容も、この基本姿勢どおり、ひとりひとりの人権や民主主義を否定的に扱い、国家の利益や秩序を重んじる立場で貫かれています。日本国憲法を否定的に描く一方で、大日本帝国憲法を評価し、戦争や核兵器さえ肯定的に捉えています。
教育基本法は「われらは、個人の尊厳を重んじ真理と平和を希求する人間の育成を期する」と謳い、日本国憲法には〈平和主義〉〈基本的人権の尊重〉〈主権在民〉の三大原理があります。そして憲法第99条には、「公務員はこの憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と明記されています。つまり、この「つくる会」教科書を教育委員会が採択、採用し、教師が学校でこれを使って教えることは、憲法違反の疑いがきわめて濃厚なのです。
そればかりか、この「つくる会」教科書の立場は「人権都市宣言」の精神と真向から対立しており、学校での人権教育や市の人権行政との間に大きな矛盾を抱えています。また「つくる会」歴史教科書は、日本が他国、他民族に対して行った植民地化や侵略戦争を、自国の立場のみを強調して一方的に正当化しています。このように他国、他民族の立場を全く考慮することなく、自国の文化、歴史のみを過剰に賛美する偏狭な自己中心的姿勢はこの教科書全体を貫いています。
このような教科書は、自己中心的な子どもではなく、他者を思いやれる子どもを育てていこうとしている現在の教育現場の理念と実践に反するばかりでなく、これからの21世紀をアジア、世界の人々と理解し合い、友好を深め、共に生きていかなければならない子どもたちの大きな妨げになることは明らかです。 よって、次の事項を陳情します。

〈陳情事項〉

以下のことを教育委員会に対して要請してください。

一、教科書の採択にあたっては、特定の教科書を採択させようとする団体の影響を受けないこと。

一、日々学校教育現場の中心にいて、児童・生徒のこと、学級・学校の状況を最もよく知り、実際にその教科書を使って子ども達に教える教師が、教科書の選択に深く関われるようにすること。

一、教科書の調査、選定、採択は憲法と教育基本法に合致しているかどうかを基準として行うこと。また、今治市「人権都市宣言」と矛盾しない内容の教科書を採択すること。

一、アジア、世界の人々と共に、この21世紀を生きていかなければならない子どもたちにとって、真にふさわしい教科書を採択すること。

2001年6月6日
こどもの人権と教科書の問題を考える越智今治の会
代表  高井 弘之