国会権力によるデモ・集会の写真撮影は違法
久間防衛大臣は、陸上自衛隊による、デモや集会の写真撮影に対して、「マスコミだって写真をパチパチ撮っている。取材が良くて、自衛隊だと駄目だという法的根拠はない」と反論しました。しかし最高裁大法廷は1969年、「京都府学連事件」判決のなかで憲法13条を根拠に、警察などの国家権力は、デモに参加する個人を、みだりに撮影してはいけないとしているのです。
■京都府学連事件
(事件の概要)
○1962年6月21日、京都府学生自治会連合主催のデモ行進に参加した立命館大学法学部の自治会役員が、私服刑事による写真撮影を止めるために旗竿で刑事を突き、1週間のケガを負わせ、公務執行妨害で逮捕。1審の京都地裁では64年、懲役1ヶ月、執行猶予1年の判決。69年の最高裁判決でも上告は棄却されました。
○しかしその最高裁大法廷は判決文のなかで、国家権力による写真撮影を次のように規制しました。
『国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。』
○また、写真撮影が認められる条件も、以下に限定しました。
『次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。』
●京都産業大学 法学部 憲法学習用基本判決集 主題別判決一覧より
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/hanrei-top.html
●上告審判決
公務執行妨害、傷害被告事件
最高裁判所 昭和40年(あ)第1187号
昭和44年12月24日 大法廷 判決
(判決の中で関係する部分の抜粋)
被告人本人の上告趣意三の(4)について。
[4] 所論は、本人の意思に反し、かつ裁判官の令状もなくされた本件警察官の写真撮影行為を適法とした原判決の判断は、肖像権すなわち承諾なしに自己の写真を撮影されない権利を保障した憲法13条に違反し、また令状主義を規定した同法35条にも違反すると主張する。
[5] ところで、憲法13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであつて、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。
[6] そこで、その許容される限度について考察すると、身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法218条2項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。このような場合に行なわれる警察官による写真撮影は、その対象の中に、犯人の容ぼう等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容ぼう等を含むことになつても、憲法13条、35条に違反しないものと解すべきである。
[7] これを本件についてみると、原判決およびその維持した第一審判決の認定するところによれば、昭和37年6月21日に行なわれた本件京都府学生自治会連合主催の集団行進集団示威運動においては、被告人の属する立命館大学学生集団はその先頭集団となり、被告人はその列外最先頭に立つて行進していたが、右集団は京都市中京区木屋町通御池下る約30メートルの地点において、先頭より4列ないし5列目位まで7名ないし8名位の縦隊で道路のほぼ中央あたりを行進していたこと、そして、この状況は、京都府公安委員会が付した「行進隊列は4列縦隊とする」という許可条件および京都府中立売警察署長が道路交通法77条に基づいて付した「車道の東側端を進行する」という条件に外形的に違反する状況であつたこと、そこで、許可条件違反等の違法状況の視察、採証の職務に従事していた京都府山科警察署勤務の巡査秋月潔は、この状況を現認して、許可条件違反の事実ありと判断し、違法な行進の状態および違反者を確認するため、木屋町通の東側歩道上から前記被告人の属する集団の先頭部分の行進状況を撮影したというのであり、その方法も、行進者に特別な受忍義務を負わせるようなものではなかつたというのである。
[8] 右事実によれば、秋月巡査の右写真撮影は、現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたものであつて、しかも多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動の性質からいつて、証拠保全の必要性および緊急性が認められ、その方法も一般的に許容される限度をこえない相当なものであつたと認められるから、たとえそれが被告人ら集団行進者の同意もなく、その意思に反して行なわれたとしても、適法な職務執行行為であつたといわなければならない。
[9] そうすると、これを刑法95条1項によつて保護されるべき職務行為にあたるとした第一審判決およびこれを是認した原判決の判断には、所論のように、憲法13条、35条に違反する点は認められないから、論旨は理由がない。
[10] 被告人本人のその余の上告趣意は、憲法違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法405条の上告理由にあたらない。
[11] 同弁護人のその余の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、同条の上告理由にあたらない。