【解説01】なにが問題? 自衛隊の多国籍軍参加

  イラクは全土が戦争状態
 イラク現地では、米同盟軍と占領抵抗勢力との戦闘が、日に日に激化しています。
イラク侵攻が始まった03年3月20日のから、ブッシュ大統領が戦闘終結を宣言した5月1日までの米同盟軍の死者は、171人でした。
 ところが、03年5月から04年6月までの死者は、約800人に上っています。小泉総理が多国籍軍参加を閣議決定した前日(現地時間の16・17日)には、バクダッドではイラク国軍新兵募集の列に自爆攻撃が行われ死者35人・負傷者180人、バラドでは米軍補給基地にはロケット砲が撃ち込まれ死者3人・負傷者25人、ラマディでは2件の攻撃が行われ15人死亡しました。
 イラクでは戦争が続いているのです。その戦争が暫定政府への主権移譲を契機に終結し、情勢が安定化する保証はありません。

多国籍軍は戦争の当事者
 多国籍軍と似た活動に国連PKOがあります。日本では92年にPKO法が成立し、カンボジアを皮切りにPKOに自衛隊を派遣しています。
 多国籍軍とPKOには、大きな違いがあります。それは戦争の「当事者」か「第3者」か、という点です。PKOは戦争の当事者間で、停戦合意とPKOの受け入れ合意が成立した場合に、国連の指揮下で「第3者」として派遣されます。
 一方、今回の多国籍軍で中核となる米英は、イラクを侵攻した「当事者」です。多くのイラク人グループが、米英軍に抵抗を続けています。侵略軍が占領軍、多国籍軍と名前を変えても、抵抗闘争が沈静化することはないでしょう。
 イラク情勢を安定させるには、イラクと米英軍の間に入る国連主導の「第3者」が必要なのです。

イラク派兵国は少数派
 6月30日以前にイラクに軍隊を派兵していた国は39カ国、100人以上派遣している国は23カ国にすぎません。スペインのように既に撤退した国もあります。
 多国籍軍のイラク駐留を定めた国連安保理決議1546は、全会一致で可決されました。しかし、安保理常任理事国5カ国中でも中国やロシア、フランスは派兵していません。
 小泉総理は、ことあるごとに「国際協力」を口にしますが、派兵国は、国際社会では少数派なのです。

多国籍軍の指揮は米軍

 小泉総理は、多国籍軍には参加するが、自衛隊の活動は日本の指揮下で活動する、と説明しています。
 しかし、米国のロドマン国防次官補は「国連安全保障理事会決議の『統一の指揮下にある』は、現在の状況において米軍の指揮を意味する」と述べ、米軍に指揮権があることを確認しました。米軍の指揮下で自衛隊が活動するのであれば、明らかに憲法違反です。

「人道復興支援」だけではない自衛隊の活動
 小泉総理は自衛隊の活動を「人道復興支援に限定する」と言っています。しかし、イラク特措法には「人道復興支援活動」とともに「安全確保支援活動」が明記されています。「安全確保支援活動」とは、米同盟軍の支援のために行う補給や輸送活動のことです。
 また、先の国会で成立した有事関連法のうち、改正「日米物品役務相互提供協定」(ACSA)では、イラク特措法を適用対象としています。改正ACSAを用いれば、戦闘行為以外の、あらゆる米軍支援が可能となるのです。
 米軍は、アフガニスタンとイラクでの兵力を維持するために、正規軍だけではなく、予備役・州兵までも動員しています。自衛隊が後方支援業務を行えば、米軍はより多くの兵士を戦闘に参加させることができます。自衛隊の多国籍軍参加は、結果的に米軍兵士を増やすことになるのです。

国内手続き・国会の軽視
 小泉総理による多国籍軍参加表明は、国会ではなく、サミットに付随して行われた日米首脳会談後の記者会見で行われました。国籍軍参加決定に当たっては、新法が制定されることは無く、閣議決定が行われたのみです。
 政府はこれまで、「湾岸戦争の際に展開した多国籍軍のようなものは、武力の行使自体を目的・任務とするものであって、我が国が参加することは憲法上許されない」(01年津野修内閣法制局長官)としてきました。しかし先の国会では「わが国の活動が他国の武力行使と一体化しないことがきちんと確保されている場合には、武力の行使を伴う任務と伴わない任務の両方が与えられている多国籍軍に参加することは憲法上問題ない」と憲法解釈を変更しました。
 日本の外交政策や憲法の平和主義にかかわる重大な政策変更を、国会での議論もなしに行うことは、国会、ひいては国民の軽視に他なりません。

日本がイラクのためにできること
 自衛隊は「人道復興支援」として、主に給水と医療活動を行っています。
ところが日本政府は、自衛隊の派遣だけではなく、ODAとしての給水活動・保健医療活動も実施しているのです。
 既に、ムサンナー県水道局には給水車12台供与され、サマーワ総合病院やサマーワ母子病院には医療器材等の供与が行われています。それとは別に、新たに、総額約313万ドル(約3億4,480万円)の給水活動・保健医療活動の無償資金協力も決定しました。給水・保健医療活動は、「自衛隊でなければできない活動」ではないのです。


Copyright 2000-2004 フォーラム平和・人権・環境 All rights reserved.
東京都千代田区神田駿河台3-2-11 総評会館5F
tel.03-5289-8222/fax.03-5289-8223/E-mail:peace-forum@jca.apc.org