【解説05】トランスフォーメーションの問題点

 

1.トランスフォーメーションとは
 米国は現在、「トランスフォーメーション(世界規模での米軍の変革・再編)」を推進しています。
冷戦期を通して米国は、「ソ連との全面戦争と1つの地域紛争に勝利する」戦略を採用し、ヨーロッパとアジアに大規模な軍隊を固定的に配備してきました。
 冷戦の終焉により、ソ連との全面戦争の可能性は無くなりましたが、代わって地域紛争が勃発するようになりました。そのため米国の軍事戦略は地域紛争への関与、とりわけブッシュ政権下では「不安定な弧」と呼ばれる地域への関与に変更されました。「不安定な弧」は中東から東アジアまでを含む広大な地域です。この広大な地域で発生する紛争に関与するためには、冷戦期のように大部隊を固定的に配備するわけにはいかなくなりました。そこで米国は、コンパクト化・機動化された軍隊を短時間のうちに紛争地域へ投入する方法へと、戦略を変更したのです。この兵力投入は、米国本土からだけではなく、いくつかの同盟国に置いた「中軸(ハブ)基地」からも行われます。そのための兵力集約の措置が、トランスフォーメーションです。
 米国は2001年9月に発表した「4年ごとの国防政策見直し」(QDR2001)で、この方針を明確にし、2003年11月にはブッシュ大統領が、トランスフォーメーションについて同盟国と本格的な協議を開始することを明らかにしました。
 トランスフォーメーションに至る米国の軍事戦略は、以下の経緯をたどっています。

2.米軍の軍事戦略の変更
 冷戦後、米国では大規模な軍事戦略の見直しが4回行われました。以下は、その経緯です。
(1)基盤的兵力構想
 91年・ブッシュ(シニア)政権下で作成。コリン・パウエル統合参謀本部長(当時)が起案。
「世界規模のソ連の脅威」への対処から、「地域的な脅威」(イラクや北朝鮮など)への対応に軍事戦略が変更されました。
 冷戦の終焉とともに「平和の配当」を求める声が議会で上がり、米政府は軍事予算の削減を求められました。一方でソ連の脅威に変わって、地域紛争が勃発。米国は、軍事予算の削減と、地域紛争に関与する前方展開の維持を両立させるため、在外米軍配備の見直しにとりかかることになりました。基盤的兵力構想のもとで、米軍兵力は25%削減されました。
(2)ボトム・アップ・レビュー
 93年・第1次クリントン政権下で作成。
「ほぼ同時に起こる2つの大規模地域紛争に勝利を収めるに十分な兵力を維持」をめざしました。
ロシア(ソ連)を潜在的脅威とみなす記述を、初めて公文書から削除しました。
(3)4年ごとの国防政策の見直し(QDR97)
 97年の・第2次クリントン政権下で作成。
「より小規模な緊急事態」への対処を任務化しました。海外展開能力を維持しつつ、冷戦末期(89年時)の兵力から40%の削減を目標にしました。
 また同時期に発表された「新世紀の国家安全保障戦略」は、米国の脅威を@地域および国家規模の脅威、A超国家的な脅威、B大量破壊兵器の脅威――に分類。対処策として@国際環境を米国の利益にかなうよう形成する、Aあらゆる危機に対処する、B不確実な将来に備える――としました。
(4)4年ごとの国防政策の見直し(QDR2001)
 01年・ブッシュ(ジュニア)政権下で作成。
「1つの大規模紛争で決定的に勝利、もう1つの大規模紛争で侵略を排除、小規模な紛争に対処」をめざしています。特定脅威対処型から将来の新しい脅威に備える能力構築型への変更と、「不安定な弧」(中東から東アジア)への積極的な関与を提唱しました。

3.具体的な配備変更
 ブッシュ大統領は8月16日、オハイオ州シンシナティで開催中の復員軍人の大会で演説し、ヨーロッパとアジアに展開する20万人のうち、6万〜7万人を撤退させることを表明しました。
 現在、在韓米軍12.500人の削減と、在独米軍30.000人の削減が明らかになっています。その他については、明確化されていませんが、日本については下記の通り増強の方向です。

4.在日米軍基地の増強
 日本政府は在日米軍に関わるトランスフォーメーションに関して、米国側から具体的な提案はないとしてきました。しかし報道等よれば本年5月以来、米国側が提案した以下の事項にそって、協議が続けられているとのことです。
(1)陸軍第1軍団司令部の移動  :ワシントン州→キャンプ座間(神奈川県相模原市)
(2)第3海兵師団司令部の移動  :キャンプ・コートニー(沖縄県具志川市)→キャンプ座間
(3)第3海兵師団第12砲兵連隊の移動:
    キャンプ・ハンセン(沖縄県金武町)→キャンプ富士(静岡県御殿場市)
    新聞によっては、北海道へ移動としているものもある
(4)第3海兵後方支援群の削減  :(沖縄県浦添市・牧港補給地区):600人削減
(5)第13空軍司令部の統合   :グアム→第5空軍司令部(東京都横田基地)に統合
                  司令部は横田に統合、要員はグアムに移動。
(6)海軍第5空母航空団の移動  :神奈川県厚木基地→山口県岩国基地
/夜間発着訓練(NLP)も同時に移動
※また、以下2つの変更が既に予定されています。
(7)海軍空母キティーホーク(神奈川県横須賀基地):2008年をめどに原子力艦に移行
(8)米海兵隊普天間飛行場 :沖縄県宜野湾市→沖縄県名護市
※トランスフォーメーションに関連し、自衛隊の機能移転が計画されています。
(9)航空自衛隊航空総隊司令部(東京都府中市)、第2輸送航空隊(埼玉県狭山市)
   →米軍横田基地(東京都)
※アジア太平洋地域では、以下の計画が進行しています。
(10)太平洋にイージス艦を15隻配備。日本海にイージス艦2隻を常駐。
(11)グアムまたはハワイに、航空母艦1隻と空母戦闘団を新たに配備。
(12)西太平洋地域に、海兵隊事前集積艦を配備。

5.上記にかかわる、いくつかの重要な事柄
(1)陸軍第1軍団司令部
 活動範囲は太平洋全域。太平洋地域の紛争に際してはハワイ駐留の第25歩兵師団と、韓国駐留の第2歩兵師団、また米本土の予備役師団を統括することになります。
(2)海兵隊第3師団
 米国海兵隊には、3個の海兵師団・3個の航空団・3個の後方支援群があります。そのうち海外に司令部があるのは、沖縄に駐留する第3海兵師団・第1航空団(一部は山口県岩国基地に駐留)・第3後方支援群の3つです。他は全て米国本土に司令部があります。沖縄に駐留する海兵隊の活動範囲は、太平洋全域。沖縄に駐留する米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」とともに、フィリピン南部で活動するイスラム原理主義武装組織「アブ・サヤフ」の掃討作戦などにも従事しています。また現在、主力部隊は現在、イラクに派遣されています。
 海兵隊は紛争地域投入に際して、海兵師団、航空団、後方支援群のそれぞれから、適当な部隊を抽出して統合遠征部隊を組織します。遠征部隊には規模に応じて、海兵遠征軍(MEF)、海兵遠征旅団(MEB)、海兵遠征隊(MEU)があります。沖縄には第3海兵遠征軍・第3海兵遠征旅団・第31海兵遠征隊の司令部が置かれています。
(3)第13空軍司令部・第5空軍司令部
 第13空軍と第5空軍を統合して運用することになります。司令部は横田に、要員はグアムに配置される予定です。
(4)キティーホークの後継艦としての原子力艦配備
 現在、米海軍は12隻の航空母艦を保有。このうち海外に母港があるのは、横須賀を母港とするキティーホーク1隻だけです。また12隻中10隻は原子力艦で、キティーホークとジョン・F・ケネディの2隻が通常動力艦です。このキティーホークは2008年に退役しますが、米太平洋海軍司令官は、後継艦としての原子力空母配備を示唆しています。
 また、キティーホークの所属する第7艦隊の司令部も、横須賀基地に置かれています。
(5)日本海へのイージス艦配備
 米国防総省はミサイル防衛の一環として、06年までにイージス艦15隻を日本海と太平洋に配備すること、04年中には5隻を配備することを表明しました。5隻は全て第7艦隊(司令部・横須賀)の指揮下に置かれ、2隻を日本海に、3隻をハワイに常駐させる計画です。すでに1隻の日本海常駐が開始されています。

6.トランスフォーメーションの問題点
(1)米太平洋軍の主要機能が日本に集中
 米軍は、陸軍・海軍・空軍・海兵隊という縦の区分のほかに、太平洋軍・欧州軍・中央軍など、活動地域別に横にも区分されています。
 このうち太平洋軍は、太平洋陸軍・太平洋海軍・太平洋空軍・太平洋海兵隊を傘下においています。太平洋地域で紛争が発生した場合、太平洋陸軍の指揮は陸軍第1軍団が、太平洋海軍の指揮は第7艦隊が、太平洋海兵隊の指揮は第3海兵遠征軍が執ることになります。トランスフォーメーションでは、これらの部隊の司令部が皆、日本に集中することになるのです。
 太平洋軍の活動範囲は、アメリカ大陸の西岸からアフリカ大陸の東岸までです。また太平洋軍は、中東など、他の地域で発生した紛争への介入も期待されています。

(2)日米安保条約の範囲を逸脱
 米国は在日米軍基地を、中東から東アジアまでの「不安定な弧」で発生した紛争に米軍を投入する際の、「ハブ(中軸)基地」にしようとしています。
 しかし、日米安全保障条約では在日米軍基地の使用を、日本と極東の安全維持に限定しています。在日米軍基地の「ハブ基地」化は、日米安全保障条約の範囲を超えることになります。

【参照】日米安全保障条約 第六条
「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基づく行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。」

(3)事前協議
 日米間では在日米軍に関して、装備の大幅な変更・配備の大幅な変更・日本からの出撃――については「事前協議」の対象としています。しかし事前協議は、機能していません。これまでにも、横須賀を母港とする空母キティーホークや在日米空軍が、湾岸戦争やアフガニスタン侵攻、イラク侵攻に参加しましたが、事前協議は行われていません。
 トランスフォーメーションにより在日米軍の活動範囲が拡大しても、「事前協議」が実施されないまま、在日米軍が地域紛争に介入する可能性があります。

7.日本政府の対応

 小泉内閣は米側の要求に対して、日本側の対案を作成することにしました。この中で、基地負担の軽減を求めていくと見られるものの、「北朝鮮への抑止力」としての在日米軍の関与を望んでいる以上、在日米軍増強への反対や、大規模な基地削減を要求するとは考えられません。
 また政府内からは、トランスフォーメーションの受け入れを前提にして、日米安全保障条約の再定義(実質的な改定)を行うとの発言も現れています。



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