【解説08】新防衛計画大綱の問題点

 

 小泉内閣は12月10日に閣議を開き、「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(以下、新防衛計画大綱)と「中期防衛力整備計画(平成17年度〜平成21年度)」(以下、中期防)を決定しました。この中では、防衛力を「我が国に脅威が及んだ場合これを排除する国家の意思と能力を表す安全保障の最終的担保」と定義しました。また自衛隊の海外派兵である「国際平和協力活動」を「外交と一体のものとして主体的・積極的に行っていく」としています。
 日本国憲法は第9条で「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定めています。軍事力を国の安全保障の最終担保とし、自衛隊の海外派兵を外交と一体のものと位置づける新防衛計画大綱は、日本国憲法を否定するものです。

 新防衛計画大綱は「見通し得る将来において、我が国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下していると判断される」と述べています。侵略の可能性が低下しているのであれば、大規模な軍縮と大幅な防衛予算の削減が行われるべきです。しかし新防衛計画大綱は、自衛隊員の定数こそ若干削減していますが、兵器については近代化と増強を定めています。
 中期防の別表は新規に購入する兵器の一覧を掲載していますが、特徴的なものとしては、装甲車104両、輸送ヘリコプター11機、護衛艦5隻、新型哨戒機4機、地対空誘導ミサイル・パトリオット部隊2個群、新型輸送機8機、空中給油・輸送機1機などがあります。

 新防衛計画大綱は、侵略の可能性が低下したなかで、自衛隊の新しい任務として以下の2つを提起しました。@大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散と国際テロ組織の活動(新たな脅威や多様な事態)への対処、A国際的な安全保障環境の改善(国際平和維持活動)――です。
この2つは、米国の行うミサイル防衛(MD)計画への参加と、アフガニスタン侵攻やイラク侵攻のような米国の先制攻撃戦略への協力を意味しています。

 しかしここには、大きな問題があります。ミサイル防衛計画は、敵国の発射した弾道ミサイルを軍事衛星やレーダーで察知し、イージス艦や地上から発射した対空ミサイルで撃ち落すものです。ところが米国は、弾道ミサイルを迎撃する実験に一度も成功していません。ミサイル防衛は、実用可能性の不明な実験段階の技術なのです。
 また、計画は、中国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の弾道ミサイル発射を想定しています。中国や北朝鮮が発射したミサイルが米国に届には時間がかかりますが、日本には数分で到達してしまいます。ミサイル防衛の技術が完成したとしても、日本の防衛に役立つかどうかは疑問です。
 そもそも「本格的な侵略事態生起の可能性は低下」しているのに、なぜ中国や北朝鮮が日本に弾道ミサイルを発射するのでしょうか。侵略を目的としない弾道ミサイル発射とは何を想定しているのか、新防衛計画大綱には肝心なことが書かれていません。

 新防衛計画大綱は、「国際的な安全保障環境を改善するために国際社会が協力して行う活動」(国際平和協力活動)に主体的かつ積極的に取り組むとしています。新防衛計画大綱は現在の国際的な安全保障環境を「国際テロ組織などの非国家主体が重大な脅威となっている」と分析し、「唯一の超大国である米国は、テロとの闘いや大量破壊兵器の拡散防止等の課題に積極的に対処」し、「世界の平和と安定に大きな役割を果たしている」と述べています。こうした中で日本は「新たな脅威や多様な事態に対応することが求められ」、「(中東から東アジアに至る)地域の安定化に努める」としているのです。
 国際テロ組織とは何か、ここでも肝心なことが記述されていません。米国は「テロとの闘い」としてアフガニスタンに侵攻しましたが、9.11事件の実行犯とするアルカイダを壊滅させることはできませんでした。アフガニスタン侵攻は、多くの民間人を殺戮し、タリバン政権を崩壊させただけで終わりました。大量破壊兵器の保持はイラク侵攻の大儀でしたが、イラクに大量破壊兵器が存在しなかったことは、今では米国自身が認めています。また大量破壊兵器を、世界で最も大量に保持しているのは、米国です。新防衛計画大綱は、「国際テロ組織」や「大量破壊兵器」という言葉を、日本政府に都合よく並べているにすぎません。

 では、日本政府は、国際平和協力活動の名目で何を行おうというのでしようか。米国は、中東から東アジアを「不安定の弧」と呼び、この地域にいつでも介入することを軍事戦略の基本においています。新防衛計画大綱が言う、中東から東アジアに至る地域の安定化に努めるとは、米国の軍事戦略と軸を同じくするものです。
 新防衛計画大綱はそのために、国際平和協力活動を自衛隊の主要な任務に格上げし、教育体制・部隊の待機態勢・輸送態勢を整備するとしています。これは、中東から東アジアで紛争が発生した場合に、自衛隊が米軍と共に、積極的な軍事介入を行うという宣言に他なりません。

 政府は、武器輸出3原則の緩和を正式に決定し、官房長官談話として発表しました。武器輸出3原則は67年に佐藤内閣が定めた方針で@共産圏、A国連決議で武器輸出が禁止された国、B紛争当事国――への武器輸出を禁じるものでした。76年の三木内閣で、全ての地域への武器輸出を慎むと変更され、以来、憲法9条・非核3原則などとともに、日本の平和主義を国際社会に示すものとなっていました。
 今回、小泉内閣は、ミサイル防衛計画に関連する事項については適用除外とする、テロ・海賊対策への支援は個別案件ごとに検討するとして、事実上、武器輸出3原則を放棄したのです。

 新防衛計画大綱と中期防は憲法を否定するものです。国際的な安全保障環境の改善や、国際社会の協力という言葉を並べる一方で、中国と北朝鮮を脅威と見なし、日米同盟の強化を進めることは、東北アジアに新たな緊張をもたらす可能性があります。米国の先制攻撃戦略と一体となり、自衛隊が米軍と共に中東から東アジア地域の紛争に介入することは、国連憲章や国際法に違反する行為です。また日本が武器輸出を解禁し、「死の商人」になることは許されることではありません。
 小泉総理は就任以来、米軍のアフガニスタン侵攻やイラク侵攻への協力、有事法制の制定など、憲法に違反する政策を次々と進めてきました。そして今回、新防衛計画大綱と中期防、武器輸出3原則の緩和を決定することで、米国と共に戦争のできる国作りを打ち出したのです。

新防衛計画大綱(首相官邸HP内)
http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2004/1210taikou.html



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