解説8 迎撃ミサイルPAC3は誰を守るのか?

■「沖縄県民は喜べ!」という日本政府
「県民喜んでほしい」PAC3沖縄配備で久間防衛庁長官
久間章生防衛庁長官は26日午前の参院外交防衛委員会で、米軍パトリオット・ミサイル(PAC3)の沖縄配備について、「幸い沖縄については米軍がPAC3を置いてくれた。沖縄の方までは今のわが国の予算の中で追いつかない点を先にやってくれた。むしろ沖縄の人は喜んでもらいたいと私は思っている」などと述べた。岡田直樹氏(自民)への答弁。』
これは、「琉球新報」のインターネット版(10月26日)に掲載された記事の一部です。

■「基地強化し攻撃される危険性増す」という沖縄
米軍は10月11日、沖縄県の嘉手納基地にPAC3を搬入しました。PAC3を積んだ輸送艦が着岸した、うるま市の天願桟橋付近では、搬入阻止のために沖縄平和運動センターや市民団体が3日間に渡って座り込みを続けましたが、最後は機動隊に強制排除されてしまいました。
21日にはPAC3反対の県民大会が開かれ、1200人が集まりました。この集会に参加した、基地周辺自治体の首長の意見を、沖縄タイムス10月22日の紙面が伝えています。

●東門美津子沖縄市長
「『県民の協力と理解を得るよう努力する』と言っている政府から、電話一本もないまま配備が強行された。十三万二千市民の命を預かる市長として、反対の声を日米に突きつけていく」。
● 野国昌春北谷町長
「誰が見ても基地を守ることが配備の目的だ。基地の機能強化は絶対に認められない」。
●伊波洋一宜野湾市長
「PAC3配備は東アジア全体に緊張を生み、平穏な暮らしが一夜にして戦場になる危険性がある。嘉手納基地や海兵隊を撤退させなければ、平和な沖縄はつくれない」。
●新垣邦男北中城村長
「PAC3で命が守られるなら、まずは首相官邸から配備するべきだ」。

また、沖縄タイムスが米軍基地所在市町村長21人に対して行ったアンケートでは、回答18人のうち13人が配備に「反対」。理由は「基地機能が強化される」「攻撃される危険がある」などが多かったとのことです。
冒頭に紹介した久間防衛庁長官の発言は、こうした沖縄県民や自治体首長の懸念に対しての政府の回答なのです。

■PAC3とはなにか?
PAC3とは「Patriot Advanced Capability 3」の頭文字で、日本語に直せば「パトリオット(愛国者)能力発展第3段階」。航空機やミサイルを撃ち落すために開発された、迎撃用ミサイル(地対空ミサイル)・パトリオットの、3番目の改良型という意味です。PAC3は、米国や日本が共同で進めているミサイル防衛(MD)の中心となる兵器で、地上に近い位置で、敵国のミサイルを撃ち落すことを目的にしています。
在日米軍再編では、PAC3と旧型のPAC2あわせて、発射台24台の沖縄配備を決定しました。当初は、発射台4台とミサイル本体24基を第1陣として配備し、残りは来年3月までに配備するといわれていました。しかし報道では、PAC3発射台3台と、PAC2発射台15台の配備が確認されています。(同じく報道によれば米軍は、PAC2・3共に、配備数を公表しないように、日本政府に申し入れているそうです)
ちなみに、PAC3が弾道ミサイル迎撃専用なのに対して、PAC2は航空機迎撃が主で弾道ミサイル迎撃は従です。

■PAC3の問題点
米軍がPAC3を配備したことで、沖縄県民は喜んでいいのでしょうか。そうとは言えない問題点が、PAC3には多々あります。
●問題点@ 射程距離が短い
PAC3が、敵のミサイルを撃ち落せる射程距離はどのくらいか? このことは軍事機密で、明らかにされていません。しかし米国の研究家の調査によれば、15キロから20キロとされています。嘉手納基地から20キロの円を書いた場合、那覇市中心部はギリギリ入りますが、それより南は射程外です。また北は海兵隊キャンプ・ハンセンのある金武町までで、新ヘリ基地の建設を予定している名護市は射程外です。嘉手納基地のPAC3が、沖縄本島の全部を守れるわけではありません。
●問題点A 少ない配備数
米軍関係者は嘉手納基地に配備される発射台24台のうち、ミサイル迎撃専用のPAC3は「3分の1」と言っているそうです。そうなると発射台8台。1台につき6発のミサイル本体が配置されますから、総数で48発です。
では仮に敵国が48発以上のミサイルを、沖縄に向けて発射したらどうなるでしょうか? 48発までは迎撃できても、49発以降を迎撃することはできません。
●問題点B 低い命中精度
米国の発表では、1990年の湾岸戦争の際のPAC2の迎撃成功率は、イラクからサウジアラビアへ発射されたミサイルに対しては70%、イスラエルへ発射されたミサイルに対しては40%です。PAC3の迎撃率は正式には発表されていませんが、米国の研究者のレポートなどでは、50%とされているそうです。PAC3はまだまだ開発途中の、未完成な兵器なのです。
●問題点C 米軍は民有施設を守るのか
敵国が沖縄の米軍基地に対して、何発のミサイルを発射するのかは不明です。それに対して米軍は発射台24台しかPAC2・3を保有していません。では敵国が米軍基地だけではなく、民間施設を攻撃目標としていた場合に、米軍は貴重なPAC2・3を発射するのでしょうか。「する」という約束を、日米間は交わしていません。久間防衛庁長官の「沖縄の人に喜んでもらいたい」という言葉は、約束に裏打ちされたものではなく、思い込みなのです。
●問題点D破片は民有地に落下する
発射されたPAC2は、敵のミサイルを感知してそばで爆発し、爆風と散らばった破片でミサイルを撃ち落します。PAC3は敵のミサイルに直接ぶつかって爆発します。米軍は敵ミサイルへの迎撃を、基地の上空ではなくできるだけ遠くで行います。敵のミサイルとPAC3がぶつかって爆発し、その破片が落下してくるのは沖縄の民有地です。米軍基地を守るために発射されたPAC3の破片と敵のミサイルの破片が、民有地に甚大な被害を及ぼすことを、日本政府は明らかにしていません。

■なぜ、沖縄への配備なのか
在日米軍基地は沖縄県以外にも、青森県三沢基地、東京都横田基地、神奈川県の基地郡、山口県岩国基地、長崎県佐世保基地などがあります。にもかかわらず米軍が最初にPAC2・3を配備したのが沖縄であるということは、米軍自身が「沖縄が最も攻撃目標になる」と考えているからではないでしょうか。


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