【解説】テロ特措法改正の問題点


はじめに
 テロ特措法の改正案をめぐる与野党の対決が、9月下旬から始まる臨時国会の焦点になりそうです。テロ特措法は、アフガニスタンで戦う米軍と同盟軍を支援するために、海上自衛隊の艦船が米軍と同盟軍の艦船に燃料や水を補給することを定めたものです。01年11月に2年の時限立法として成立し、その後数回の期限延長改正を行いましたが、本年11月で期限切れとなります。
 安倍内閣はテロ特措法の延長を求めていますが、民主党の小沢代表は応じない構えです。7月に行われた参議院議員選挙で民主党が第1党となり、参議院では与野党が逆転しました。
 これによって、内閣や与党が提出した法律案は、衆議院で可決しても、参議院で野党が否決すれば成立できない状況になりました。テロ特措法も改正案は成立せず、11月で終了する可能性が大きいのです。
 それではここで、テロ特措法とは何か、改正にはどのような問題があるか、順を追って見ていきましょう。


1.テロ特措法はどうして作られたのか
 2001年9月11日、米国でハイジャックされた民間航空機4機が、ニューヨークの世界貿易センタービル2棟と、ワシントンの国防総省に自爆攻撃を行い、2973人が犠牲になりました。「9.11同時多発テロ」です。ブッシュ政権はこの攻撃を、イスラム武装組織アルカイダの犯行と認定。アルカイダはアフガニスタンのタリバン政権と協力関係にあり、アフガニスタン国内に軍事拠点を置いていたため、米軍と英軍は同年10月7日、アフガニスタンへの侵攻を開始しました。
 アフガニスタン侵攻は、米国の個別的自衛権の行使として行われました。またNATOは、米国に対する集団的自衛権の行使として参戦しました。しかし日本は、憲法上の規定から集団的自衛権を行使することはできません。そこで小泉内閣は同年11月に「テロ特措法」を成立させ、自衛隊による米軍などへの後方支援を行うことにしたのです。
 テロ特措法の成立により、海上自衛隊の補給艦と護衛艦がインド洋に展開し、米軍と同盟軍などの艦船に対して、燃料や水の補給を行うことになりました。自衛隊が提供する燃料や水の費用は日本の負担で、01年から07年7月までに総額216億円に上っています。
 テロ特措法は、当初は2年の時限立法として成立して、6か月を期限とした「基本計画」を作成しましたが、その後も期間延長のための「基本計画」の変更と法改正を行い現在も継続しています。


2.テロ特措法の内容
(1)テロ特措法は自衛隊の活動として、次の4項目を定めています。
@協力支援活動・・・諸外国の軍隊に対する物と役務の提供、便宜の供与その他の措置。
 ⇒現在は海上自衛隊の補給艦1隻と護衛艦1隻をインド洋に派遣し、米軍と同盟軍などの艦船と搭載ヘリコプターに対して、燃料の補給活動を行っている。

A捜索救助活動・・・米軍や同盟軍の兵士が戦闘によって遭難した場合に、捜索・救助を行う。
 ⇒現在まで、実施されていない。

B被災民救援活動・・・住民のために実施する食糧・衣料・医薬品その他の生活関連物資の輸送、医療その他の人道的精神に基づいて行われる活動。
 ⇒活動の初期に、海上自衛隊の艦船や航空自衛隊の輸送機によって実施された。

Cその他の必要な措置

(2)テロ特措法は自衛隊の活動に当たって、以下の制限を設けています。
@自衛隊の活動は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。
A自衛隊の活動は、日本国内、公海上およびその上空・外国の領域(当該外国の同意がある場合に限る。)で、非戦闘地域に限定する。
B武器使用は、自衛隊ならびに自衛隊の管理下に入ったものの生命・身体の防御に限定する。

(3)国会の関与については次のように定めました。
 自衛隊の活動に当たっては、まず内閣が「基本計画」を閣議決定し、国会に報告する。この「基本計画」によって実施された自衛隊の活動は、活動開始後20日以内に、国会に付議し承認を求める。


3.海上自衛隊の活動
 海上自衛隊は、補給艦1隻と護衛艦1隻がインド洋に常駐し、米軍と同盟軍の艦船に対して、燃料と水の補給を行っています。これまでの活動をまとめると、以下の通りです。

出動した艦船の数(延べ)

55隻 (補給艦・17隻  護衛艦・38隻)

派遣された自衛官の数(延べ)

約10430人

補給回数

燃料   727回(47万kl)

水     97回(5480t)

ヘリ燃料  56回(880kl)

補給先

11か国

(以上は07年2月24日現在)

補給物資の総額

216億円

(以上は07年7月現在)



4.これだけある問題点
@アフガニスタン侵攻に正当性は無い
 米軍のアフガニスタン侵攻は、「9.11同時多発テロ」に対する、米国の個別的自衛権の行使として行われました。
 しかし米国がテロの実行犯と認定したのは、イスラム武装組織アルカイダであり、アフガニスタン政府ではありませんでした。テロの実行犯が国内にいるというだけでアフガニスタンを攻撃することに、国際法上の根拠はありません。むしろ米国のアフガニスタン侵攻が、国際法に違反する行為です。
 またアルカイダは、武装組織ではあっても国家ではありません。米国は「9.11同時多発テロ」を「戦争」としましたが、「戦争」は国家と国家の争いです。「9.11同時多発テロ」がアルカイダという武装集団の犯行だとすれば、どんなに犠牲が大きくても「戦争」ではなく「犯罪」です。「犯罪」に対して自衛権を発動し、軍事力を行使することを、国際法は認めていません。

A米国と国際治安支援部隊(ISAF)は、アフガニスタンの内戦に介入
 現在のアフガニスタンは、カルザイ現政権派とタリバン前政権派の内戦状態です。報道などによると、米軍とISAFの主な攻撃対象はアルカイダではなくタリバン前政権派のようです。これは内戦への介入です。
 一般的に国際法は、内戦の一方の勢力に対する支援を、内政干渉として禁じています。

B民間人の犠牲
 米国とISAFによる攻撃では、多数の民間人が犠牲になっていることが報告されています。戦争で民間人を殺害することは、国際法に違反します。

C国会によるシビリアンコントロールの欠如
 テロ特措法では、自衛隊が実施する活動(対応措置)については基本計画を定め、基本計画は閣議決定を受けることになっています。対応措置に関する国会の関与は、対応措置が開始された日から20日以内に国会に付議し、国会の承認を求めるとされています。自衛隊が海外で行う活動内容に対して、国会は事後承認するだけなのです。
 また海上自衛隊が燃料補給を実施した艦船の所属国、燃料の量などについては国会に報告されていますが、個別の艦船名称やその艦船がどのような任務についているかの報告はありません。そのために、自衛隊が燃料を供給した艦船がアフガニスタン周辺での活動ではなく、イラク戦争に参加している可能性もあります。しかしそうしたことについて、国会は関与することができないのです。
※海上自衛隊の補給艦が米海軍の補給艦に燃料を提供、その米補給艦が空母キティーホークに燃料を提供、その後キティーホークはイラク攻撃に参加したことが、キティーホーク艦長の証言であきらかになりました。


5.いまできることは
 米軍とNATO軍は7年にわたってタリバン前政権派を攻撃してきましたが、タリバン派は衰えるどころか、最近では勢力が増大しています。米軍やNATO軍が投入する兵力を増強しても、タリバン派を殲滅することはできないでしょう。このままでは米国は、半永久的にアフガニスタンへの軍事介入を続けなければなりません。
 内戦を終了させようとすれば、どちらか一方の勝利ではなく、カルザイ現政権派とタリバン前政権派の両方が交渉のテーブルにつく、和平会議の枠組みが必要です。本来であれば国連を中心にした国際社会が、そうした枠組みを準備するべきです。
 日本は、テロ特措法を終了しても、和平会議の枠組みを準備することで、国際社会の平和に寄与することができます。


【資料1】海上自衛隊のインド洋派遣に関する「防衛白書」(07年度版)の記述

『協力支援活動
 01年9月19日の「米国における同時多発テロへの対応に関する我が国の措置」に基づき派遣された護衛艦「くらま」、「きりさめ」と補給艦「はまな」の3隻は、情報収集活動に引き続き、01年12月から、協力支援活動として、インド洋で米海軍艦艇への洋上補給などを開始した。その後、補給艦「とわだ」と被災民救援活動に従事した護衛艦「さわぎり」がそれらに合流し、02年1月29日からは、英海軍艦艇への洋上補給などを開始した。
 当初、協力支援活動としての艦船用燃料の提供は、米英軍に限定していたが、「テロとの闘い」における作戦遂行の効率性を高めるため、逐次、燃料補給の対象国を拡大し、本年3月末現在、11か国となっている。
 また、04年10月の基本計画の変更以降、艦船用燃料に加えて艦艇搭載ヘリコプター用燃料および水の補給を開始した。
 活動開始から海自部隊が協力支援活動として行った補給活動は、昨年11月、700回に達し、本年4月12日現在744回である。』


【資料2】補給・輸送協力支援活動の実績について(更新海上自衛隊ホームページより 平成19年3月1日)

平成13年12月2日(日)以降、平成19年2月24日(土)までに実施した協力支援活動等の実績は以下のとおりです。

項目

 

艦艇用燃料

艦艇搭載ヘリコプター用燃料

補給艦

補給艦「とわだ」

補給艦「ときわ」

補給艦「はまな」

補給艦「ましゅう」

補給艦「おうみ」

204回

188回

185回

99回

51回

23回

13回

20回

26回

15回

8回

2回

4回

30回

12回

補給先

カナダ

フランス

ドイツ

ギリシア

イタリア

オランダ

ニュージーランド

パキスタン

スペイン

イギリス

アメリカ

43回

83回

27回

10回

39回

11回

15回

119回

10回

27回

343回

97回

3回

 

7回

 

3回

 

 

11回

 

2回

30回

回数合計

 

727回

97回

56回

補給量

 

約47万KL

約5,480t

約880KL

2 輸送
 (1)補給艦「とわだ」による物品の輸送
 (2)掃海母艦「うらが」による被災民救難物資の輸送
 (3)輸送艦「しもきた」による建設用重機等の輸送
 (4)護衛艦「こんごう」による物品の輸送


【資料3】●テロ特措法の基本計画変更と改正の流れ

01年11月 2日 テロ特措法成立 当初は2年の時限立法 

01年11月30日 海上自衛隊のインド洋派遣(6ヶ月)を参議院本会議で可決

02年 5月    基本計画を6ヶ月延長

02年11月    基本計画を6ヶ月延長

02年12月    イージス艦を派遣

03年 5月    基本計画を6ヶ月延長

03年10月    テロ特措法改正 期限を2年延長

04年 5月    基本計画を6ヶ月延長

04年10月    基本計画を6ヶ月延長

05年 4月    基本計画を6ヶ月延長

05年10月    テロ特措法改正 期限を1年延長

06年 4月    基本計画を6ヶ月延長

06年10月    テロ特措法改正 期限を1年延長


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