【第8回 非核・平和条例を考える全国集会 in 東京】

報告
テーマ:「横須賀原子力空母母港化反対の取り組み」
報告者:呉東正彦さん(原子力空母横須賀母港化を考える市民の会)


みなさん、こんにちは。本日は横須賀の報告をさせていただきます。横須賀は、アメリカ海軍の空母の母港です。諸悪の根源と言いますか、みなさんにも大変なご迷惑をかけている。その横須賀に、今年8月、原子力空母のジョージ・ワシントンがやって来ようとしています。これは大変な問題です。一国の主権を失うような、非常に大きな問題だと考えています。

 原子力空母が事故をおこしたらどうなるのか? 専門家がシミュレーションしています。もし横須賀で原子力空母の事故が起こったならば、はるかに165キロ先の人びとまで、致死量の、あるいは健康に被害を与える量の放射能を浴びるだろう。風向きによっては、首都圏で100万人以上の死者が出る可能性がある。そのように指摘されております。
 首都圏には、原発はありません。しかし、原発と同じような、原子力空母の原子炉が事故を起こしたならば、首都圏は壊滅的な被害を受けることになるのです。
 地震が起きて原発がトラブルを起こした場合は、そのトラブルが報告されます。それによってある程度の改善が図られる。しかし、米海軍の原子力空母については、日本政府は原子力空母の中で何が起こっているのか、その情報を知らないのです。全くブラックボックス状態にあるわけです。そうすると、原子力空母でトラブルが起こった時に、日本政府はどうやって情報を取るのでしょう。情報がないうちに手遅れになってしまうこともあります。
 そもそも日本政府は、米海軍の原子力空母の原子炉に対して、チェックすることができないのです。チェックされないものこそが大事故を起こす。これは古今東西の、大事故の歴史と言えるのではないでしょうか。原子力空母を誰もチェックすることができないということは、日本の主権にとっても大きな問題であるし、私たちの安全にとっても大きな問題です。

 私たちは10年前から、原子力空母の横須賀母港化に反対して、運動を続けてきました。私たちの運動のキーワードは、港湾法という法律です。港湾法は、戦後の民主的な改革の中で生まれた法律です。戦前は港湾の管理権を国が持っていて戦争を起こした。だから、港湾の管理権を自治体に預けることで戦争を防いでいこうではないか。こういう考え方が基本的にあると思われます。
 港湾法の中で、自治体が持っている権限は非常に大きい。横須賀を原子力空母の母港にするためには、水深を深くするために、港を2メートル掘り下げなくてはなりません。その許可権限は、横須賀市長にあります。ですから私たちは、横須賀市長が反対すれば原子力空母の母港化は防げるのだと確信して、この間の運動を続けてきました。全国の皆さんにもご協力していただいて、たくさんの署名を出しました。それを受けて横須賀市も、一時は通常型空母の配備を求めるという範囲ではありますが、原子力空母の母港に反対する立場に立ちました。ところが政治情勢もありまして、2005年の10月には米国が原子力空母の横須賀母港を発表し、当初は反対していた横須賀の蒲谷市長も、残念ながら一昨年の6月に容認に転じてしまいました。しかし、ここから私たち真の市民の運動が始まったと思います。

 蒲谷市長の原子力空母容認への転換に対して、「市民の意見を全く聞いていないじゃないか」、「選挙では原子力空母反対の公約を掲げながら、市民の意見を聞かずに容認をしてしまうのはおかしい」という声が、横須賀市内でフツフツと起こってまいりました。
 そうした中で、反対運動の側からは、市長の権限という問題が提起されました。市長の権限を使って反対してもらう。そのために市長には、市民の意見を聞かせる。いろいろな議論の下に、一昨年の11月に「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を求める直接請求の運動」が起こりました。この運動には、いたたまれない思いから、たくさんの市民が立ち上がりました。そうした市民とともに、「住民投票を成功させる会」ができ、その「住民投票を成功させる会」のもとに、いろいろな団体、いろいろな考え方の違う団体が、「住民投票を成功させる会」を支えていこうということで一致団結して、この運動が始まったわけであります。
 住民投票条例を求めるために、横須賀市内に住む人々2000人が受任者となり、その受任者のみなさんが、署名集めを進めてくれました。私は最初、どれくらいの署名が集まるか不安でたまりませんでした。しかし、ここで一つの地殻変動的なことが起こりました。横須賀の市民は42万人です。その42万人に対して、2000人の受任者による署名集めを始めると、あちこちにネットワークができたのです。そのネットワークが様々に、いろいろな形で訴え始めると、こっちからも署名をしてくれ、あちらからも署名をしてくれと、草の根ネットワークが広がっていく。そうすると、街の雰囲気は変っていくのですね。
 今まで手の届いていなかった所まで届いて、そして、いろいろな様々な市民が動くようになった。これが、一つの大きな成果ではないかと思います。その結果として、4万の署名が集まりました。
 しかし、残念ながら原子力空母の住民投票の第一次は否決されてしまった。市議会の議論の中で市長は「原子力空母の問題は国の専権事項」だといいました。これは明らかに誤りです。原子力空母の母港化は国の専権事項かもしれない。しかし私たちが求めているのは、市長の持っている港湾法の権限、正に自治体の事務である権限の行使を、市民の意思に基づいて行えということです。

 そこで、私たちはいま、二つの運動を起こしています。
 一つ目は、原子力空母の母港のために許可されてしまった横須賀港の浚渫工事を、裁判でストップさせる運動です。行政訴訟と民事の差し止め訴訟の、二つの裁判を起こしています。横須賀港内に溜まっているヘドロは汚染されていて、背中がグニャッと曲がったハゼが釣れているのです。そういう汚染が、浚渫工事によって拡散される。また原子力空母の配備によって将来、本当に私たちの命が失われる。そういうことを理由として、二つの裁判を行っています。行政訴訟は2月27日、民事の差し止め訴訟も2月中に仮処分の決定が出る。そういうところまできています。そこに、私たちは総力を注いでいます。

 二つ目は、裁判だけでは本当に真の勝利を得ることはできません。そこでもう一度、住民投票の運動にチャレンジしようということになりました。お手元にお配りして頂いているカラーのチラシ、「成功させる会」のニュース、カンパのビラなどご覧になってください。
 今回、いろんなところから、「なぜ、もう一回やるのか?」ということを聞かれます。もう一回やる理由は、二つあります。一つは、市民の意思を基に市長が判断すれば、原子力空母の母港を止めることができるということです。
 それはなぜか。12号バースの浚渫工事については、横須賀市は許可をしてしまいました。しかしもう1枚、カードが残っているのです。今から3年前に横須賀市長は、12号バースの延伸工事を許可しました。しかしこの許可は、通常型空母の使用を前提にするものでした。ですから原子力空母が12号バースを使用するのであれば、再協議が必要であることを申し入れています。そのことが果たされないでいます。今、もう一度このことをやり直せば、まだ止められる可能性があるのです。
 それからもう一つ。市民にとっての心配は、「原子力空母が本当に事故を起こさないのか?」ということです。国からは全く説明がありません。私たちは市長に対して、「国と米軍に原子力空母についての説明会をやらせろ」と言いましたが、市長は断ってしまいました。そして横須賀市の原子力艦に対する防災対策も、闘う防災対策から、闘わない防災対策に変りました。国と手を繋いで、国の言うことを信頼する、米軍の言うことを信頼するというふうになってしまったのです。

 差し止め裁判の中で、「原子力空母の安全を、国が独自に確認した資料はあるか」と確認したところ、ありませんでした。あるのは米海軍のファトシートだけです。国は、「米軍が安全だと言っているから信じる」、横須賀市は「国が安全性を保障したからそれを信じる」。伝言ゲームのような、市民をないがしろする状態が進んでいるのです。それを何とかしなくてはならない。そのためには、市民が声をあげないのでいいのか。市民が黙っていて原子力空母を受け入れてしまったら、私たちの安全が危機になるではないか。
 まだ止められる、国と闘う積極的な安全の対策を求める――この2つを求めて、私たちは住民投票の運動を始めています。
 住民投票条例を求める署名集は、3月の6日から1か月間で行おうとしています。前回は2000人の受任者で4万人の署名が集まりましたから、今回は3000人の受任者で6万人の署名を集めたいと考えております。
 そこで、皆さんにお願いです。この運動は、横須賀市民の力だけで成しうるものではありません。横須賀に、お手伝いに来ていただきたい。また、この運動を進めるために様々な資金などもかかります。前回も数百万のお金がかかりました。いま私たちの手元には、数十万のお金しかありません。是非全国からの熱いご支援をお願いするしだいです。

 最後になります。この運動は、自治体の持っている権限を使って、自治体、各地の運動が結びついてやっていかなくてはならないと思います。しかし、その自治体の力を本当に生かすのは、住民の運動です。
 諸悪の根源、横須賀もがんばります。皆さん、是非応援してください。どうもありがとうございました。


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