【第8回 非核・平和条例を考える全国集会 in 東京】

報告
テーマ:「米軍属による女性殺害事件への取り組み」
報告者:小泉喜子さん(I女性会議)


I女性会議の小泉です。今日の集まりで、報告の機会を与えてくださったことを感謝いたします。本当は全国のI女性会議の反基地運動についてご報告したいのですけれども、今日は神奈川の活動を中心に報告します。またその中で、ジェンダーの視点での脱軍事化を進める試みをお伝えしたと思います。

 1995年に沖縄で起きた米軍兵士による少女暴行事件に大変衝撃を受けました。またその中で8万人の県民大会が開かれたとの報道を聞き、「私たちも何かしなければ」と思いました。そこで神奈川では、労働組合の女性部や女性平和人権団体など16団体が結集して、集会を行ったところから運動が始まりました。この約10年間、新倉さんをはじめ様々な方たちに助言を受けたり、周辺事態法に関して県内の自治体首長に直接申し入れ交渉したり、米軍のアフガン攻撃に反対して街頭や基地のゲートに向かってデモをしたり、沖縄の女性たちとの連携・支援などに取り組んできました。

 そうした中で2006年の1月3日に横須賀市内で、空母キティホークの乗組員による女性惨殺事件が起きました。10分間ものあいだ米兵に殴られ、そして蹴られ、壁に打ち付けられ、その遺体は遺族の方たちが顔を判別できないほどの残虐な殺され方でした。これに私たちは衝撃を受けまして、直ちに米軍に抗議文を送りました。たまたま犯行現場のそばに設置されていた防犯ビデオに、犯行が写っていました。そのために犯人の米兵は直ちに判明しまして、起訴前に米軍から身柄の引渡しが行われました。
 私たちは、横浜地裁で開かれた刑事裁判を、毎回傍聴してきました。私たちは、犯行だけでなく、なぜ被告がそういう事件を起こすに至ったかの背景、あるいは米軍のことまで含めて背景が暴かれる裁判を実は期待していました。ところが、2回で結審しまして、3回目で判決が出まして、無期懲役になりました。
 そのころ日米は、原子力空母の横須賀母港化に関して、合意を取り付けようとしていた。それを控えての事件だったので、とにかく急いで裁判の幕引きを図ったのだということをつくづくと思い知らされました。被害者のお通夜には、100人もの米兵を引き連れて司令官が参列するとか、大変な謝罪の様相を見せましたが、これも全てこの早く幕引きを図るということだったということで、ますます怒りを感じたわけです。
 そこで、6月に抗議集会を行いました。呉東弁護士から、日米地位協定と米軍犯罪について、お話うかがいました。この集会を通して知り合ったのですが、「米軍人・軍属による事件被害者の会」という会があります。共同代表の海老原さん、沖縄の村上さんがみえて、被害者としてのこの日米地位協定の不当性、いやというほど味わってきたそこのところを詳しく話してくださいました。
 昨年の1月には、事件から1年ということで、沖縄のレイプ被害者の女性をお呼びして、彼女が勇気を出して話をしてくださいました。それに引き続いて、軍事化とジェンダーというところを深めるために、清水澄子さんに講演していただきました。

横須賀の米兵による惨殺事件について、刑事事件の裁判は終わりました。しかし今、生きていたら夫になるはずだった山崎さんという方と被害者の息子さん二人が、犯人の米兵と日本国政府を相手に損害賠償裁判を横浜地裁で進めています。7回公判が行われて、私たちも引き続き傍聴活動を進めています。事件の背景が明らかにされる裁判になっていくのではないかと、私は期待しております。

 なぜ米兵犯罪が繰り返されるのか。2005年7月に防衛施設庁が提出した資料によりますと、1973年から2004年までの米兵による刑法犯罪は6933件となっています。その内、殺人・強盗・放火・婦女暴行などの凶悪犯罪は683件にも上っています。今でも、沖縄で一番多く発生しています。

 在韓米軍では、2003年から3年間で233件が発生しています。フィリピンでは沖縄基地所属の海兵隊員による集団レイプ事件が起きました。懲役40年の判決がでましたが、被告はアメリカ大使館に取られてしまっています。
 イラク・アフガンに派遣されている米中央軍では、報告されたものだけでも2002年に241件、2003年に94件、それほど起こしているわけです。横須賀の被害者もそうですけれども、性的暴行に至ないまでも米兵が明らかに男性を避けて女性を狙っている犯罪というのが多々あるわけです。
 沖縄の基地軍隊を許さない女たちの会は、戦後から今日に至る米兵による女性への犯罪を、文献や新聞を丁寧に調査しています。私たちもこれに学んでいかなければならないと思っています。もう一つは、防衛省や警察が発表する統計がそれなりにあるのですが、女性被害者を数字化して認識させるということも、私はしてほしいなと考えております。

 女性の被害者、特にレイプ被害者の苦しみと癒えない傷というものを今日は訴えたかったのです。私たちの集会で話してくれた方のお話を少し伝えたいと思っています。
彼女は高校2年の時に、帰宅途中の道端で駐車した車の中の米兵から道を尋ねられました。ちょっと聞き取りにくそうだったので、彼女は身を乗り出して道を教え始めたのだそうです。その時いきなり、後ろから羽交い絞めにされて、ナイフを突き付けられて、「アイ・キャン・キル・ユー」、「殺せるぞ!」と耳元にささやかれて、公園に連れ込まれてしまいました。悪夢のような中でAさんは、体がガタガタ震え、声一つを上げることができませんでした。
 その日から自殺未遂を繰り返し、血を吐きながらお酒をカブ飲みし、身の疲れと恐怖心で体中が傷んで、本当に苦しい毎日だったそうです。警察に行って告発するかどうか、迷ったそうです。しかし沖縄は小さな島なので、おのずと近所に知れ渡ってしまうし、世間の偏見の目に晒されます。また、警察が守ってくれるわけではありません。女性に落ち度があったのではないかとか、屈辱的な質問をされるわけです。そして、事件を再現させられます。彼女は告発する勇気は持てませんでした。高校を卒業して本土に出て暮らしたのですが、しばらくして沖縄に帰ってきました。苦しみは少しも癒えませんでした。バッククラッシュも起こってくるわけです。
 ところが1995年9月に女子小学生への暴行事件が起こりました。彼女は事件を伝えるテレビの前に何時間も座り込んで泣き続けたそうです。自分の時より泣いたそうです。事件が起きたのは、レイプされても逃げることしか考えなかった自分のせいのように思って、意を決し、県民大会の会場に行ったそうです。その時、名乗り出はしなかったけれども、自分の罪は重いというふうに彼女は思いました。いまは、反戦・平和運動に積極的に関わっています。彼女だけでなく、レイプ被害者の誰もが同じような苦しみの日々を送くらなければならない。

 米軍人・軍属による事件被害者の会の海老原さんおっしゃっていました。事件が起きるまで、日米地位協定などというもの知らなかった。何がなんだか分からないうちに、マスコミの取材攻勢があり、防衛施設局からは「弁護士は付けるな」、「示談にしろ」、「早くお終いしろ」と、プレッシャーが大変あったとおっしゃっていました。
 横須賀で殺された女性の夫になるはずだった山崎さんは、警察が来て「あなたの奥さんが」と言われた時に、「殺されたのですか」って言っちゃったのだそうです。そうした途端に警察署に連れて行かれて、前後左右から全部写真撮られて、全部指紋取られ、そしてその日は未明まで調べられ、3日間も毎日、毎日続けて、取調べがあったそうです、実は、その時はもうすでに容疑者は分かっていたわけです。それにも関わらず、そういうような扱いを受けるということは、彼が裁判の中で明らかにしています。

 日米地位協定の不平等性と、その中で被害者が苦しんでいるわけです。しかし、こういうことに対して日本国政府がきちんと対処していない。呉東弁護士の説明ですが、例えば食堂が食中毒を起こしたら何日間か営業停止です。同じように、米軍基地も停止させなきゃダメなのだと。ところが日本政府は、日本人の被害者が出ているにも関わらず、立ち向かわないわけです。
 2002年に横須賀の米兵によってレイプされた、Bさんという女性がいるのです。刑事裁判は不起訴に終わり、損害賠償裁判では買ったけれどもお金はもらえていない状態です。彼女は、横須賀署で大変な取調べを受けているわけです。レイプ被害者っていうのは、私も知ったのですけれども、すぐに病院連れて行ってもらわなければ証拠にならないわけですよね。それなのに警察は連れて行かない。また本当に屈辱的な調べを受けまして、彼女は絶対に警を許せないということで、東京地裁で闘いました。地裁では、負けてしまったのです。裁判官もどうかしていると思いますけれども。今後どうするか、今、考えているはずです。警察のレイプという問題と、それから米軍という問題、この二つが絡まって苦しみを与えていると思います

 最後になりますが、繰り返される米軍犯罪の要因として、日米地位協定と伴に、軍隊そのものの本質について私たちは考えています。いうまでもなく、人殺し集団です。日夜そういう訓練をしているわけです。絶対服従の世界と、男らしさが強調されます。士気高揚のために、女性への蔑視・差別を煽るようなしかたが取られています。ある学者の論文にあったのですが、70年代には兵隊たちのランニングの掛け声に、「レイプするぞ、ぶっ殺すぞ、分捕って焼き捨てて死んだ赤ん坊食ってやるぞ」とこんな歌があったそうです。
 『フルメタルジャケット』という映画の中で、同じような場面観て、「監督が軍隊嫌いだからそういうように歌っているのか」と思ったら、そうではなくて、そういうようなことが行われてわけですね。セクハラとかが問題になって、今ではそういう歌は歌われなくなったそうです。そういう中で軍隊生活送っている兵隊が、街に出てくるのです。
 更に、誤解を怖れずに申し上げれば、米国の今の社会状況ですね、格差社会。そして、イラク戦争、アフガンでたくさんの兵隊が死んでいく。ニューヨークタイムスはじめとして各紙で報道されているのですけれども、アメリカ陸軍はイラク戦争などで兵力需要に合わせるため、新兵の募集に当たって採用基準を緩和しました。それによって入隊した前科者は8129人に達して、前年に比べて65%増加している。交通違反とか、薬物とか、以前だったら兵隊に採らないような若者が、兵隊となってきているということです。アメリカ国内の中でさえこう疑問が提起されているということです。

 こういう本来的な軍隊そのものが持っているものに対して私たちは、絶対許さないという気持ちで運動を進めていきたいと思っているのです。世界的には1993年国連総会で、女性に対する暴力の撤廃関する宣言が採択されています。国連安保理は、2000年に1325決議を行って、平和構築に関する女性の重要な役割を再認識すると共に、武力紛争に関わるあらゆる関係者にジェンダーに基づく暴力、特にレイプやその他の形態の性的虐待、そういうものの中から女性や少女を保護する特別な方策を採ることを求めています。
 私たちも全国で立ち上がって、女性たちとネットを作りながら、全体の米軍再編による軍事強化に女性の立場からがんばっていきたいと思います。どうも、失礼致しました。


「第8回 非核・平和条例を考える全国集会 in 東京」のTOPへ