解説 在日米陸軍部隊のクウェート派遣について


1.はじめに
 キャンプ座間(神奈川県座間市・相模原市)に所属する在日陸軍部隊の20人が、「対テロ戦争」のために、クウェートに派遣されました。在日米陸軍からの「対テロ戦争」派遣は、これが初めてのことです。
 この情報は、第1軍団司令部のキャンプ座間移転に反対する市民団体「バスストップから基地ストップの会」の原順子さんから教えていただきました。
 以下に、この件を報じた米軍の準機関紙「STARS AND STRIPES」(星条旗新聞)・太平洋版の記事の要点と、今回のクウェート派遣の問題点を記載します。


2.記事の要点
●掲載紙:「STARS AND STRIPES」(星条旗新聞)・太平洋版・08年8月27日
●タイトル:在日米軍部隊がクウェートへ向かう
●本文の要点:キャンプ座間に所属する、米陸軍第35戦闘維持支援大隊・623輸送コントロール部隊の20人が、8月25日にクウェートに派遣された。在日米陸軍部隊が「対テロ戦争」支援のために中東に派遣されるのは、今回が初めてのことである。同部隊はイラク・クウェート国境の「K交差点」で、イラク・クウェート間を往来する軍用車両のチェックなどを行う。同部隊は派遣準備のために、米本土での訓練のほか、キャンプ富士でも訓練を行った。
(※日本語訳は資料1・英語原文は資料2)


3.問題点
(1)在日米陸軍の位置づけ
 在日米軍司令部のホームページによれば、在日米陸軍の兵士は約2,000人です。在日米陸軍は、キャンプ座間(神奈川県座間市・相模原市)・相模総合補給廠(神奈川県相模原市)・トリイステーション(沖縄県読谷村)の3つの基地を使用しています。
 今回派遣された部隊は、キャンプ座間に所属しています。キャンプ座間は、在日米陸軍司令部の所在地です。また在日米軍再編合意の一環として、昨年12月から、陸軍第1軍団(米本土ワシントン州)の前方司令部が配備されています。在日米陸軍司令部の役割は主に、有事の際に米本国から派遣されてくる部隊の受け入れです。そのため通信部隊や補給部隊などの後方支援部隊が中心で、歩兵部隊や戦車部隊などの戦闘部隊は配備されていません。(トリイステーションには、基地警備の名目で、米陸軍特殊部隊――グリーンベレー――が駐留しています。)
 今回派遣された部隊はキャンプ座間に駐留しています。在日米陸軍のホームページによれば、この部隊の主な任務は陸軍部隊が海外展開する際の基地建設・維持・補給などで、前線で戦うことではありません。しかし戦闘部隊でなくても、在日米軍の部隊が戦地に派遣されることには、大きな問題があります。

(2)日米安保条約と「極東」の範囲
 米軍が日本に駐留している根拠は、日米両国政府が1960年に締結した「日米安全保障条約」です。同条約の5条と6条は、以下のように述べています。

●第5条 「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。(以下略)」
●第6条 「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。(以下略)」
(全文は資料3を参照)

 簡単にいえば、日本が侵略された場合は米軍も一緒に戦う(第5条)、その代わりに米軍が日本に基地を置くことを認める(第6条)というものです。
この第6条の規定に関して、日本に駐留する米軍はどこまで出撃できるのか? ということが国会では度々問題になりました。そこで日本政府は1970年に、政府統一見解を発表しました。 政府統一見解を要約すると、次のようになります。

@米安保条約の条約区域は「日本」だが、在日米軍が日本国内の基地を使用して戦争できる区域には「極東」も含まれる。「極東」の範囲は、フィリピンから日本周辺まで。
Aしかし「極東」で起きた戦争だけではなく、他の地域で起きた戦争が「極東」の安全に影響を及ぼす場合は、米国は「極東」に限定されずに対処することができる。
B米国が戦闘をおこなうために、日本の施設を使用する場合には、日本政府との事前協議が必要である。 (全文は資料4を参照)


(3)在日米陸軍のイラク派遣
 さて上記の政府統一見解に従えば、在日米陸軍部隊のイラク派遣にあたっては、@イラク戦争が「極東」の安全に影響をあたえている、A派遣について日米政府間で事前協議が行われる――の2点を満たさなくてはなりません。
 それでは、03年の開戦以降、イラク戦争が極東や日本の安全に影響を与えることがあったでしょうか。当初からの参戦国であるスペインや英国では、一般市民を標的にした爆弾事件が起きました。しかし日本ではテロ事件などは起きていません。現在イラクで米軍と戦っているのは、旧フセイン政権派の軍人や占領反対派の民兵組織です。そうした組織が、「極東」や日本で戦争やテロ活動を行うことは想定できません。
 また今回の派遣について、米政府間の事前協議も行われていないようです。イラク戦争開戦時には、日本に駐留する米海軍の空母や艦船が攻撃に参加しました。また90年の湾岸戦争や01年から始まったアフガニスタン戦争にも、日本駐留の海軍部隊が参加しています。しかしこうした際にも、事前協議が行われることはありませんでした。
 この問題について、平和フォーラムや市民団体との交渉で外務省は、「米軍の艦船は通常の活動として日本から出航した。その後に公海上で命令を受けて出撃した。」という回答を繰り返しています。しかし地上部隊を派遣する場合は、「出発した後で命令を受けた」という言い訳は通用しないでしょう。また星条旗新聞の記事には、「キャンプ富士」でクウェート派遣の訓練を実施したと書かれており、写真も掲載されています。
 キャンプ座間の部隊が、クウェート派遣を前提に日本国内で訓練を行い、日本からクウェートに派遣されました。その上で事前協議も行われていないのであれば、今回の派遣が日米安保条約を逸脱していることは明らかです。

(4)なぜキャンプ座間から
 米国はイラクに13万人、アフガニスタンに3万人の米軍兵士を派遣しています。合わせて16万人の戦地派遣を維持するために、米国政府は現役部隊だけではなく、予備役部隊や州兵部隊も動員しています。そうした苦しいローテーションの一環として、在日米陸軍部隊の20人が選ばれたと考えることもできます。しかし、01年のアフガニスタン戦争開戦から7年、03年のイラク戦争開戦から5年が経過した今日、初めて在日米陸軍部隊が派遣された背景には、別の理由があるのかもしれません。

 日米両国政府は07年5月、在日米軍再編で最終的な合意に達しました。この合意には、米陸軍第1軍団司令部のキャンプ座間への移転が含まれています。合意に基づき、07年8月にはキャンプ座間内に「第1軍団前方司令部・移行チーム」が設置され、同年12月には「第1軍団前方司令部」が正式に発足しました。現在のキャンプ座間は、「在日米陸軍司令部」と「第1軍団前方司令部」という2つの顔を持っています。
 第1軍団の上級部隊は、太平洋陸軍です。太平洋陸軍は、太平洋海軍・太平洋海兵隊・太平洋空軍とともに、太平洋統合軍として運用されています。太平洋陸軍と太平洋統合軍の守備範囲は、アメリカ大陸西岸からアフリカ大陸東岸までのアジア太平洋全域です。この地域で大規模な戦争が起きた時には、第1軍団司令部が太平洋陸軍の指揮を執ることになります。また、太平洋統合軍の司令官は太平洋海軍の司令官が兼任していますが、前線での指揮は第1軍団司令部が執ることも想定されます。

 そこで問題になるのが、第1軍団司令部が指揮をとる可能性のある守備範囲が、前述の「極東」の範囲を大きく超えていることです。アジア太平洋地域で戦争が起きた時に、米本土の第1軍団司令部本体のみが前線に派遣され、第1軍団前方司令部はキャンプ座間を動かないのであれば問題はありません。しかし、第1軍団司令部本体が太平洋陸軍あるいは太平洋統合軍の指揮を執るときに、キャンプ座間の第1軍団前方司令部が無関係でいることができるでしょうか。
 今回のキャンプ座間からクウェートへの戦時派遣は、アジア太平洋地域で戦争が起こった場合に、第1軍団前方司令部が第1軍団司令部とともに戦場に展開することを想定してのことかもしれません。


4.最後に
 米国が米軍再編を進める中で、在日米軍の役割が大きく変わっています。いまや在日米軍の任務と活動範囲は、日米安保条約すら大きく踏み越えています。しかし日米両国政府は安保条約の改正を国会にはかることは無く、国会承認のいらない政府間合意と既成事実を積み重ねています。
 私たちは、日米安保条約を積極的に認める立場ではありません。しかし日米両国政府に、日米安保条約を守らせるだけでも、在日米軍の活動を大きく規制することができます。
 今回の問題については、引き続き情報収集を行うとともに、民主党・社民党・無所属の国会議員との協力を通して、外務省・政府の追及を進めます。


【資料1】

「STARS AND STRIPES」(星条旗新聞)太平洋版・08年8月27日(水)/日本語簡単約
●在日米軍部隊がクウェートへ向かう

日本・相模総合補給廠 発
 あまり語られることはないが、日本に駐留する米軍兵士が、中東に前線配備される可能性は少ない。月曜日に、第35戦闘維持支援大隊の623輸送コントロール部隊は、彼らの家族に別れを告げ、空港へと向かうバスに乗り込んだ。それは、ただの前線配備ではなく、小さいが歴史的な瞬間であった。20人のチームをクウェートに派遣することは、大部隊の展開ではない。しかそれは、日本に駐留する米軍部隊が対テロ戦争支援のために派遣される最初の出来事となった。
 「これは、いいことだと思う」。第35戦闘維持支援大隊司令官のセス・シャーウッド中佐は言った。「前線配備は、部隊が働いていることを示すことができる」。

 623部隊は今後12ヶ月間、クウェート・イラク国境にある「Khabari Alawazem交差点」(別名・K交差点)で、任務に就くことになる。「K交差点は、イラクへ行き来する全ての軍用車両が、必ず通らなければならない場所だ」。623部隊指揮官のジョセフ・バチスト大尉は言う。米軍兵士は民間人チームとともに軍用車両を追いかけ、書類のチェックを行い、クウェートの税関と一緒に良好な交通状態を保たなければならない。彼らはまた、輸送部隊の指揮官に、潜在的脅威や道路状況についての情報も提供する。

 「623部隊はもともとはオランダに配備されていたが、予備役になり、2007年7月に日本で新しいメンバーで再編成された」と、バチスト大尉は語った。「再編成から前線配備までの期間が比較的短かったことは、部隊の団結を促進し、下級士官や下士官に彼らの指揮官としての役割を自覚させる機会となった」

 「任務を遂行するときには、みな一緒になってやった」。輸送管理監督のクライド・マックレンドン2等軍曹はいう。「かつて派遣されたことのある多くの者は、若いやつらを助けるために自分の経験を使った」。

 「部隊の前にあったもう一つの課題は、日本で利用できる訓練施設の不足だった」と、アニサ・ワトソン1等軍曹(この部隊の先任軍曹)は言った。

 しかしキャンプ富士訓練場での時間や、クウェートで配備される大隊と一緒に訓練をするためのフォート・ユースティス(バージニア州にある陸軍施設)への旅を通して、部隊は訓練をつむことができた。

 例え家族を後に残して行くほろ苦い思いをしても、兵士の多くは任務を遂行したがっていると、ワトソンはいう。彼女は、「幾人かの兵士には、前線配備は忍び寄ってきた」とも付け加えた。 「私は自分が前線配備されることに大変驚いた。なぜなら、私は日本で勤務していたからだ。しかし私にとっては初めての前線配備であり、大変興奮している」と、ジェファニー・グレッグ特技兵は語った。

 ジェイソン・ホーソン軍曹は、彼が日本に着任した最初の日に、派遣を知らされた。妻に一緒に日本に来るように説得したばかりなのに、1年間も彼女の元を離れなければならないことに、フラストレーションを感じると言う。

「彼女は、前線配備にあまり興奮していない」と彼は言った。「彼女は私と結婚したときに、どのようなところに入ったかについて分かっていたから」。


【資料2】

Japan-based troops head to Kuwait

By Bryce S. Dubee, Stars and Stripes
Pacific edition, Wednesday, August 27, 2008


SAGAMI DEPOT, Japan ? It’s somewhat of an unspoken truth, but for U.S. soldiers in Japan the chances of getting deployed to the Middle East are generally pretty slim.

So on Monday, when the 35th Combat Sustainment Support Battalion’s 623rd Movement Control Team said goodbye to their families and boarded a bus for the airport, it wasn’t just another deployment, it was a bit of history as well.

While most wouldn’t consider the deployment of a 20-member team to Kuwait a major troop movement, it marked the first time a Japan-based U.S. Army unit has deployed to support the war on terror.

"I think it’s a good thing," said Lt. Col. Seth Sherwood, the 35th CSSB’s commander. "It shows that the modular force is working."

The 623rd, for the next 12 months, will be serving at Khabari Alawazem Crossing, also known as "K-Crossing," along the Kuwait-Iraq border.

K-Crossing is where all military traffic must pass through on the way to and from Iraq, said Capt. Joseph Batiste, the 623rd’s commander. The soldiers will serve with a civilian team to track convoys, check paperwork and work with Kuwaiti customs to keep traffic moving smoothly.

They also will provide convoy commanders with information about potential threats and road conditions that may await.

The 623rd was originally located in the Netherlands but was deactivated and then reactivated with new personnel in Japan in July 2007, said Batiste.

The relatively short time from reactivation to deployment helped foster unit cohesion and gave the junior officers and non-commissioned officers a chance to step into their leadership roles, he said.

"Everyone really came together when it came to doing their mission," said Staff Sgt. Clyde McClendon, a transportation management supervisor. "A lot of us who have deployed before used our experiences to help the younger guys."

Another challenge facing the unit was a lack of training infrastructure available in Japan, said Sgt. 1st Class Anissa Watson, the team’s first sergeant.

However, with time on the training ranges at Camp Fuji and a trip Fort Eustis, Va., to train with the actual battalion they will be under in Kuwait, they were able to make it work, she said.

Watson said many of the soldiers are eager to carry out their mission, "although, it is bittersweet for those leaving families behind."

She added that the deployment did sneak up on some soldiers.

"I was surprised that I was deploying because I’m stationed in Japan," said Spc. Jeffrey Grigg. "But I’m excited because it’s my first deployment."

Sgt. Jason Hawthorne said he learned of the deployment the first day he arrived in Japan.

After working to obtain command sponsorship for his wife so she could join him in Japan, Hawthorne said that it’s a little frustrating to now have to leave her for a year.

"She’s not too excited about the deployment," he said. "But she knew what she was getting into when she married me."



Members of the 623rd Movement Control Team of the 35th Combat Sustainment Support Battalion conduct convoy operations training at Camp Fuji in preperation for deployment to Kuwait.


Members of the 623rd Movement Control Team of the 35th Combat Sustainment Support Battalion pose for a group picture at their farewell party on Aug. 15.

●原文はここ
http://www.stripes.com/article.asp?section=104&article=64186&archive=true


【資料3】

日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約

 日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また、両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し、並びにそれぞれの国における経済的安定及び福祉の条件を助長することを希望し、国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よつて、次のとおり協定する。

第一条 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むことを約束する。
 締約国は、他の平和愛好国と協同して、国際の平和及び安全を維持する国際連合の任務が一層効果的に遂行されるように国際連合を強化することに努力する。

第二条 締約国は、その自由な諸制度を強化することにより、これらの制度の基礎をなす原則の理解を促進することにより、並びに安定及び福祉の条件を助長することによつて、平和的かつ友好的な国際関係の一層の発展に貢献する。締約国は、その国際経済政策におけるくい違いを除くことに努め、また、両国の間の経済的協力を促進する。

第三条 締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。

第四条 締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また、日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。

第五条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

第六条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。

 前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。

第七条 この条約は、国際連合憲章に基づく締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解釈してはならない。

第八条 この条約は、日本国及びアメリカ合衆国により各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。この条約は、両国が東京で批准書を交換した日に効力を生ずる。

第九条 1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約は、この条約の効力発生の時に効力を失う。

第十条 この条約は、日本区域における国際の平和及び安全の維持のため十分な定めをする国際連合の措置が効力を生じたと日本国政府及びアメリカ合衆国政府が認める時まで効力を有する。

もつとも、この条約が十年間効力を存続した後は、いずれの締約国も、他方の締約国に対しこの条約を終了させる意思を通告することができ、その場合には、この条約は、そのような通告が行なわれた後一年で終了する。


【資料4】
極東の範囲(昭和35年2月26日政府統一見解))
 「新条約の条約区域は、『日本国の施政の下にある領域』と明確に定められている。他方同条約は、『極東における国際の平和及び安全』ということもいっている。

  一般的な用語としてつかわれる『極東』は、別に地理学上正確に画定されたものではない。しかし、日米両国が、条約にいうとおり共通の関心をもっているのは、極東における国際の平和及び安全の維持ということである。この意味で実際問題として両国共通の関心の的となる極東の区域は、この条約に関する限り、在日米軍が日本の施設及び区域を使用して武力攻撃に対する防衛に寄与しうる区域である。かかる区域は、大体において、フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている。(「中華民国の支配下にある地域」は「台湾地域」と読替えている。)

 新(安保)条約の基本的な考え方は、右のとおりであるが、この区域に対して武力攻撃が行われ、あるいは、この区域の安全が周辺地域に起こった事情のため脅威されるような場合、米国がこれに対処するため執ることのある行動の範囲は、その攻撃又は脅威の性質いかんにかかるのであって、必ずしも前記の区域に局限されるわけではない。

 しかしながら米国の行動には、基本的な制約がある。すなわち米国の行動は常に国際連合憲章の認める個別的又は集団的自衛権の行使として、侵略に抵抗するためにのみ執られることになっているからである。またかかる米国の行動が戦闘行為を伴うときはそのための日本の施設の使用には、当然に日本政府との事前協議が必要となっている。そして、この点については、アイゼンハウァー大統領が岸総理大臣に対し、米国は事前協議に際し表明された日本国政府の意思に反して行動する意図のないことを保証しているのである。」


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