半田滋さん(東京新聞・編集委員)の講演
テーマ:「民主党政権下での安全保障政策」その2・最新の米軍再編

●日時 2009年11月2日
●場所 護憲大会 全国基地問題ネットワーク学習交流集会



 東京新聞の半田です。毎日防衛省で取材をしています。その立場から、現在の米軍再編の動きについて話をします。9月に総評会館の基地ネット総会で話をしました。本日の話はその続きです。
 10月20日に米国のゲーツ国防長官が来日し、岡田克也外務大臣、北澤俊美防衛大臣と会談しました。防衛省では21日に会談が行われ、その後に榛葉賀津也副大臣から会見のレクチャーがありました。資料として会見内容のメモを付けましたが、これを見るとゲーツ長官が「上から目線」で話していることがわかります。
 最初に「クリントン国務長官は2月の合意に間に合わせた」といいっています。これはどういうことでしょうか。海兵隊のグアム移転の費用は、約102億円です。そのうち日本側の負担は60億ドル・6000億円です。このうち防衛費からの支出は28億ドルです。この28億ドルを日本が間違いなく払う協定を結ぶために、クリントン国務長官は来日しました。「間に合わせた」という表現が微妙ですね。新政権ができると約束を反故にされるかもしれないから、協定を結ばせたと本音がでた削減です。
 次に「合意されたロードマップが唯一の道」。「普天間移転の道が閉ざされれば、米議会はグアム移転への予算を認めない」。「米国は日本の安全保障に協力している。国民の理解が必要なのは理解できる。他方、日本の防衛力がGDP1パーセントで可能になっているのは日米同盟があるから」。よく言ったなという内容です。
 海上自衛隊の洋上補給からの撤退に関しては、「アフガニスタンにとって、国軍と警察を強化する資金提供、財政は強く求められている」と言っています。つまり自衛隊を出さないのであれば、日本が現在行っているアフガニスタンの警察官への給料支給の協力、それを国軍に対しても払ったらどうかということです。いま日本はアフガニスタンの警察給料の半分を支出しています。約11万人に対して200億円です。国軍は90万人体制を目指しています。警察が11万人で200億円ですから、国軍90万人に支出するとすれば1800億円です。冗談ではありませんね。
 最後には「求めることは2点ある。1つは情報保全への協力を求めたい。2点目は、密約の発表。ぜひ注意してほしいのは、意図しないところで、拡大抑止とか、日米関係に悪影響を与えないようにしてほしい」ということです。属国に対して命令をしていると言う口調です。

 北澤大臣はこれまで、現実的な対応としてキャンプ・シュワブへの移設を匂わせていました。鳩山首相は「来年は名護市長選挙と知事選挙があり、その状況を見ながら」と発言しました。そのため、決定は来年の12月以降と思われていました。ところが鳩山さんは言い換えて、「名護市長選挙を見て」といっています。来年の1月以降になることを匂わせています。
 しかし北澤大臣はゲーツ長官との会談後、「早急に解決しなければいけない」と言い出し、年内に普天間移設の方針を出すと語っています。北澤大臣は現在の日米合意案か、合意よりも沖合への移転で手を打ちたいと考えています。一方で岡田外務大臣は、嘉手納移設を言い出しています。岡田さんが非常に強く嘉手納移設を主張している根拠は、わかりません。岡田さんは10月29日に在日米軍司令官のライスさんと会談しました。ライスさんは1時間に渡って、なぜ普天間基地の嘉手納移設ができないのかを説明しました。しかし岡田外務大臣は納得せず、翌日にはルース駐日大使を呼んで話を聞きました。本日の報道によると今月6日には訪米して、クリントン国務長官と会談するようです。政治決着を目指す動きに入っています。

 私たち防衛省で沖縄の基地問題を取材している立場からすると、嘉手納統合案は古くて新しいテーマです。1995年に沖縄で少女暴行事件が起こりました。そこで沖縄の米軍基地負担を軽減するために、「日米特別行動委員会(SACO)」が設置されました。96年にSACOの最終合意が発表されますが、この時に普天間基地の移設が上りました。この時にも、嘉手納統合案が出ているのです。当時は大田県知事でした。副知事であった吉元さんが嘉手納統合案について、「1+1は2ではない、1.5にも1にもなる」という言い方で積極的に進めようとしました。
 しかし嘉手納基地を管理する米空軍は、海兵隊と一緒になっては基地を維持できないと言う理由で断りました。外務省も便乗して「やめたほうがいい」ということで、検討テーマからは外れてしまったのです。速度の速い戦闘機と、速度の遅いヘリコプターの共存は、運用上は可能かということが問題になりました。当時の航空幕僚長は記者会見で「まったく問題ない」と発言しています。実際、自衛隊の基地では、ジェット機とヘリコプターを共用しています。
 今回の嘉手納統合案が出たあとにも一部の報道では、米国の説明をなぞるように、「ジェット機とヘリコプターは共用できな」と書いています。しかし専門家は、そうしたことは言っていません。
 想像すると、ライス在日米軍司令官の説明には、有事の際に嘉手納基地がどのようにつかわれるのかが含まれていたのではないでしょうか。現在は嘉手納に駐留するF−15戦闘機は54機です。輸送機などを加えると100機が配備されています。嘉手納には3500メートルの滑走路が2本あります。内側は海軍のP3C哨戒機が使用し、外側を空軍の戦闘機が使用しています。現在は海軍側には余裕があります。しかし有事になると、100機以上の航空機が配備されるのでしょう。それだけ込み合う中で、ヘリコプターが入る余地はないという話がでたのではないでしょうか。
 ではなぜ、岡田外務大臣は納得しないのでしょうか。その理由は、米国の中にも嘉手納統合案があり、その話が岡田外務大臣に入っているからではないでしょうか。米政府は、新政権が辺野古移設を認めないことを覚悟していました。その上でさまざまな案が練り上げられ、その1つに嘉手納統合案があるらしいのです。岡田さんは、米国と腹を割って話せば、次善の策として嘉手納統合案が進むのではないかと思っているのでしょう。そう推測することができます。
 それには、地元に対する説明が必要です。嘉手納基地は米軍再編の中で、騒音軽減のために訓練の一部を移転することがきまりました。しかし一方でアラスカなどからの外来機の飛来が増えて、以前よりも騒音が増しているのです。引き換え条件として、現在配備されているF−15戦闘機の削減などが考えられます。米空軍はいま、戦闘機の定数削減を進めようとしています。その削減の対象を嘉手納基地にすることもありえます。また数年前から何度か嘉手納基地には、最新鋭戦闘機のF−22が期間限定で配備されています。F−22であればF−15より少ない機数での代替が可能です。そうした想像が成り立つのです。

 次に辺野古移設問題です。今年に入って那覇防衛局は、辺野古沖合に実際にヘリコプターを飛ばして、騒音調査を行いました。その結果、現在の日米合意案で建設しても、沖縄県や名護市が主張しているように沖合に移動しても、騒音は変わらないことが判明しました。県や市の主張は、騒音軽減とは関係ないのです。それではなぜ、そうした主張をするのでしょうか。一つ工法の問題です。現在の日米合意案は、キャンプ・シュワブの東側沿岸、大浦湾に突き出た部分を埋め立ててL字の基地を作る計画です。この埋め立てる部分が大浦湾のなかで最も深い部分で、ケーソン(埋め立て用のブロック)をたくさん入れて、さらに土を入れて土台を作ることになります。ところがこの作業は、沖縄の建設会社ではできないのです。東京のゼネコン・マリコンでないとできません。県や市にすると、それがネックになっているのではないでしょうか。
 一方で沖合に出すと浅瀬です。これであれば、沖縄の建設業者でも請け負うことができるのです。知事や市長は、地元の利益を考えて主張していると推測できます。

 米軍再編に関する2005年の合意に、普天間基地の辺野古移設が乗りました。しかしいまから振り返ると、普天間の移設は1995年頃からあったのです。日商岩井が94年〜95年頃に、普天間の移設案を作っていたのです。日商岩井は計画を作った理由として、「宜野湾市の中心に基地があるのは危険であるから勝手に作った」と言っていました。しかし商社が、勝手にそのようなものを作ることはありません。情報があったのです。私は当時、防衛施設庁の関係者から話を聞きましたが、普天間基地の条件付返還は、そのころからあったのです。それが少女暴行事件をきっかけにSACOに含まれることになりました。もともとあった話が、SACOの成果を大きく見せるために乗りかかってきたのです。
 他にも那覇軍港の返還などは、1974年・1996年のSACO・2006年の米軍再編と、過去に3回も合意されているのです。本来は返ってくるものを、官僚たちが自分の手柄を大きくしようとして、大きな議論に乗せてしまう。ところが大きな議論に乗ると話が複雑になってしまいます。今回の米軍再編の失敗は、米軍再編は「1つのパッケージ」という言葉をねじ込まれたことです。

 米軍再編での沖縄側の大きなメリットは、海兵隊のグアム移転です。いま沖縄には第3海兵遠征軍・第3海兵師団が駐留しています。米本土には第1海兵遠征軍と第2海兵遠征軍がいます。米国に2つと沖縄に1つで、他にはいません。唯一の海外の海兵隊がグアムに移転すること、それが沖縄にとってのメリットです。ところが「1つのパッケージ」という約束ですから、普天間移設がうまくいかなければ、グアム移転もありません。また日本はグアム移転経費を支出しなければいけません。これがセットで実現しなければ、グアム移転も、嘉手納以南の6基地の返還もないのです。
 普天間移設が上手くいかないと、日本政府がグアム移転費用を負担しても海兵隊は移動しないし、他の基地の返還もないのです。何一つ沖縄に良いことはありません。日本政府はグアム移転費用を取られるだけです。09年度予算では、海兵隊のグアム移転関連の経費として346億円が入っています。新政権に代わりましたが、米軍再編関連の予算は1円も減らされていません。グアム移転も含めて、米軍再編関連経費として890億円を支出することになります。こうした予算支出は、普天間移転が失敗すると、米軍にくれてやることになってしまうのです。米軍基地を日本の防衛費で建設し、日本には得るものがない、そうした事態になります。

 海兵隊のグアム移転には、もう一つのカラクリがあります。現在、沖縄に駐留している海兵隊の総数は、1万2402人です。日米は海兵隊8000人の移転で合意しましたが、これはおかしな話です。8000人が移転すれば、残りは4000人になってしまいます。米軍再編に関する日米協議では、抑止力の維持と基地負担の軽減がテーマでした。海兵隊4000人では抑止力になりません。本当に8000人も移転するのか、そのことを国会で質問されて自公政権は、「定員は1万8000人で、そこから8000人の削減、1万人が残る」と応えました。そうすると実際に移転するのは2000人です。2000人しか移転しないのに、住宅は8000人分作ると言う変な話です。もう1つ。日米合意では海兵隊の家族も9000人が移動します。しかしいま沖縄にいる海兵隊の家族は、7598人です。9000が移動することはできないし、移動すれば沖縄の海兵隊家族は0人になります。これはウソなのです。
 沖縄の海兵隊は、ローテーション配備です。沖縄の第3海兵師団の隊員は、米本土の第1・第2の各部隊から、半年のローテーションでやってくるのです。グアムに作る8000人分の施設は、米本土からグアムに行く兵隊が使う可能性が大きいのです。そのためにクリントン国務長官と中曽根外務大臣との協定が、今年2月に結ばれました。日本の負担総額は60億ドル・6000億円です。このうち28億ドル・2800億円は、司令部や部舎の建設費用です。残りの32億ドル・3200億円は米軍住宅の建設費用です。この32億ドルは、国際協力銀行(JBIC)が事業主体に融資することになります。JBICへの融資は防衛予算から出されます。

 新政権になっていいことがありました。自公政権時代に作った10年度予算の概算要求は4兆8000億円です。伸び率は3パーセントです。これまで防衛予算は7年連続で下がってきましたが、上昇に転じた積極予算です。それが北澤大臣になって、9月15日に改めて作った概算要求では4兆7000億円になりました。前年からマイナス48億円くらいになっています。
それでは予算のどの項目を削減したのでしょうか。それは活動費です。具体的には燃料の購入費と、修理費です。燃料がなければ車も飛行機も動きません。修理費がなければ壊れたものは放置です。自衛隊を動かさないための予算です。他方で米軍再編関連経費は、1円も削られていません。これでは防衛費は「米国の第2国防費」です。その性格がかなりハッキリしてきました。これは政権交代のよかった点ではないでしょうか。

 ミサイル防衛に関しては、いままでPAC−3は3個高射群に配備予定でした。航空自衛隊は6個高射群を保有していますが、政経中枢防衛という役割で埼玉・岐阜・福岡の部隊への配備です。それが今年4月の北朝鮮によるテポドンUの発射騒ぎで、民主党の議員からも「自分の地元へ配備して欲しい」という要求が出てきました。そこで、千歳・青森・沖縄の部隊にも配備することになったのです。沖縄には嘉手納基地に米軍のPAC−3がありますから、かなり手厚い配備です。
 しかしこれでは理屈が立たなくなりました。これまでは政経中枢防衛だったのが、他の部隊へも配備されるとなると、他の地域からも配備要求がでてくるでしょう。高射群を増やして、残った地域へも部隊を配備しなければなりません。そうするとPAC−3を購入し続ける必要が出てきます。民主党政権でも、PAC−3の追加購入は予算に計上されたままです。民主党は、ミサイル防衛には反対していませんでした。今後は積極的に使うことになるでしょう。
 ミサイル防衛は、集団的自衛権の行使に触れかねません。また、開発途中であり命中精度はハッキリしません。スパイラル開発といって、使いながら直していくのです。いつまでもお金を使い続けることになります。初期配備で1兆円と言われていましたが、今年までで既に8500億円です。せっかく揃えても、将来的には新しいシステムに交換されます。賽の河原の石積みなのです。SM−3も日米で共同開発しているSM−3ブロックUAという新型に替わります。こちらもゴールがありません。そのお金は全て米国に払われます。ですから、ミサイル防衛で米国にお金を払い、米軍再編で米国にお金を払う。これほど「対等な日米関係」はありませんね。
 以上です。


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