前田哲男さん(軍事評論家)の講演
テーマ:新政権のもと、「米軍再編」とどう取りくむか

●日時 2009年11月2日
●場所 護憲大会 全国基地問題ネットワーク学習交流集会


 新政権の下での安全保障政策、特に米軍再編に主眼を置いて問題提起を行います。米軍再編に象徴される、安保体制下の対米従属体質や自衛隊のありかたは、深く長い歴史を持っています。本日は時間も短いので、今世紀に入ってからの問題を話します。
 米軍再編はクリントン政権下で、冷戦体制崩壊後における米国の世界戦略の転換という形で提起され、日米協議の議題となり現実化していきました。大まかに振り替えると、1995年に「ナイ・リポート」=冷戦後の米国の安全保障に関するレポートが発表され、96年には橋本―クリントン共同声明で冷戦後の米軍駐留態勢が確認され、97年には新ガイドラインが制定されました。新ガイドラインは安保条約の運用シナリオです。対ソ冷戦型からアジアでの局地戦争へ変更したものです。それを受けて自衛隊や日米安保を動かす基地の運用について、周辺事態法が成立しました。周辺事態は、国土防衛事態とは少し異なるものです。国土防衛の外側にある周辺事態に対して、自衛隊は動くし日米安保も発動されるという事です。

 95年・96年・97年の安保見直しの上に、2001年の「9・11」、ブッシュの戦争政策、「Show the flag」という日本への要請、これを小泉首相の受けて、ブッシュ―小泉間で成立するテロ特措法やイラク特措法による海外派兵。そのことを背景とした在日米軍再編という、基地と運用体制の見直しの実践。これが2000年代に入ってからの安保の見取り図です。90年代に計画・構想・合意形成があり、それを受けて「9・11」という激動の国際情勢を背景に、小泉首相という個性を得て、それらが法律化し予算化されていきました。
 米軍再編とは、米国の冷戦終結後の新しい世界戦略の中で位置づけられた軍の運用のマスタープランであり、日本だけを対象にしたものではありません。日本バージョンは在日米軍再編であり、私たちが向き合っているものです。しかしそれは全体の一部です。米軍再編は「軍事における革命」(RMA)として、ラムズフェルド国務長官の時代に始まりました。米国はこれまでとは異なる戦争を行うという、新しい戦争観です。そこに米国の海外基地の位置づけを当てはめていきました。
 米国ではトランスフォーメーションと言います。日本語では再編と訳されています。しかし実際には、虫がサナギから幼虫になる変態、また変革を指す言葉です。日本語で再編となったのは、外務省・防衛省の意図的な誤訳でしょう。
 ではそれが、どのような形で日本の防衛政策に波及していったのでしょうか。第1段階は「共通の戦略目標」の設定です。共通の戦略目標を自衛隊と米軍が共有する。これにはかなり無理があります。両国の軍隊がよって立つ法的基盤が異なるからです。しかし再編の中で共通の戦略目標を持つ基盤が設定されました。2005年です。
 それをもとに、「役割・任務・能力」を検討し、再設定しました。さらに第3段階として、「兵力態勢の再編」が行われました。キャンプ座間には米陸軍第1軍団司令部(前方)が移動し、陸上自衛隊の中央即応集団も移転して、両者が一体となって運用されます。陸上自衛隊と在日米陸軍の統合です。横田基地には在日米空軍司令部がありますが、そこに航空自衛隊の航空総隊司令部が移転してきます。米軍基地の中に航空自衛隊の司令部が入って、共同統合運用調整所を設置します。本当は共同司令部といいたいところですが、文字面は憲法的に整えています。運用とは作戦です。こうした兵力態勢の見直しと、司令部の統合が進んでいきます。それに合わせて、基地の問題が出てきます。基地の新たな意義づけと、機能強化、新設です。
 私たちは米軍再編というと、沖縄・辺野古と受け取りがちです。情勢の流れから見れば仕方ありませんし、問題の緊急度からもそうした認識は正しい事です。しかしそれだけではない背景・奥行き・経過があることを知った上で、目下の再編の焦点である普天間・辺野古という把握をする必要があるでしょう。そもそも米軍再編とは世界的な視野と奥行きを持ち、その中で日本に対して95年以降に働きかけと圧力が加えられ、「9・11」以降は海外派兵という新たな動きを織り込みながら、在日米軍基地にさまざまな影響をもたらしたものです。その中で自衛隊が変わっていきました。

 同じ事を少し角度を変えて、これまでの進展と新状況というふうに見てみます。自衛隊に「統合幕僚監部」が設置されました。陸海空3自衛隊を、1つの組織として運用する指揮系統です。実際の命令権が与えられているわけではありませんが、系統上は「統合幕僚監部」・「統合幕僚長」を頂点にするピラミッド型になりました。「統合幕僚長」のカウンター・パートは、「米太平洋統合軍司令官」です。これまでは、陸上幕僚長・海上幕僚長・航空幕僚長がそれぞれ米軍側と対応していました。系統上はすっきりしていなかったのです。これが、日米の2つのピラミッドがきれいに対応する形になりました。
 また陸上自衛隊に「中央即応集団司令部」と「中央即応連隊」が設置されました。「中央即応集団」は警備区域を持ちません。例えば第1師団は東京というふうに、陸上自衛隊の各部隊はそれぞれの担当地域を保有しています。中央即応集団の警備区域は無限定で、いってみれば全世界なのです。米国でいえば海兵隊のような組織です。現在はソマリア海賊対策の一環としてアフリカのジブチに派遣され、空港で海上自衛隊のP3C哨戒機を警備しています。
 次にミサイル防衛(MD)です。これが米軍再編の装備更新の一環に入り、またミサイルの日米共同開発を進めることで武器輸出の面で新しい領域が加えられています。またミサイル防衛計画では、敵のミサイルに対する迎撃ミサイル発射の指揮権を、防衛大臣から部隊指揮官が権限委譲されます。これはシビリアン・コントロール上で大きな問題です。田母神元航空幕僚長のような人物がミサイルの発射権限を、あらかじめ権限委譲されてしまうのです。まだ権限委譲された例はありませんが、枠組みはできています。
 米軍再編が国民にもたらしたものの2つ目は、有事法制です。有事法制では「国民保護法」がよく知られていますが、それだけではありません。「米支援法」という在日米軍基地の円滑な運用や、出撃する在日米軍を援助するための法律があります。また「特定公共施設利用法」・「海上輸送規制法」などを含めて、日米安保体制における新しい米軍の行動形態を、法制面から補完する内容を持つものです。
 そうしたものの極まりが、新たな基地負担の増加です。沖縄の新基地建設であり、横田・座間・相模原・横須賀・岩国などの米軍基地で、米側への約束を守るために、当該自治体に対して米軍協力を強要することになりました。これを進める法律が「米軍再編特措法」です。米軍再編に協力する自治体には交付金を提供し、非協力や拒否の自治体には交付金を提供しない。あるいはこれまで提供していた補助金を打ち切るという、「アメとムチ」の法律が制定されたのです。
 こうした流れに対して、民主党政権はどうするのでしょうか。あるいは連立に加わった社民党は、どう対応するのでしょうか。米軍再編という大きなテーマに向き合うと同時に、焦眉の急である普天間返還と辺野古移転阻止を実現するために、また来年度予算に計上されるであろう米軍再編関連経費、これらにどのように対応するのかを決めなければなりません。
 トランスフォーメーションは冷戦後の世界認識と軍事戦略の元で位置づけられたものであり、米国の軍事力行使は「9・11」を契機にするものです。では小泉首相のように、米国に付き従う方法は成功したのでしょうか。私たちは既に答えを知っています。戦争を指揮したブッシュ大統領は不信任を受け、イラク戦争の理由は真実でないことが明らかになり、誤った情報を国民に説明した大儀なき戦争であったことも明らかです。それに付き従った小泉首相の選択も誤りでした。米国ではオバマ氏が大儀なきイラク戦争の清算を公約にして、大統領に当選しました。ブッシュ大統領時代の単独行動主義を清算し、国際協調主義に戻ることも公約の1つです。オバマ大統領は国連安保理や国連総会での演説し、チェコ・ポーランドに計画していたミサイル防衛用の基地建設の棚上げなどを打ち出しました。いまミサイル防衛で、米国と協力している国は日本だけです。これは同時に、ミサイル防衛の非現実性があきらかになったことでもあります。米軍再編の一角が、国際的な流れの中で崩れていくことを見ることができます。
 オバマ大統領は、アフガニスタンを主戦場にしようとしています。しかし米国が勝つ見込みは、まったくありません。かつてイギリスは、100年間に3回もアフガニスタン戦争を発動しましたが、全盛期の大英帝国でさえアフガニスタンを屈服させることはできませんでした。また80年代にソ連が10万の兵力を送り込みながら、ついに敗北し撤退しました。米国が勝てないことは、はじめからわかっていることです。現に海兵隊出身の外交官が撤退を提言して、それが入れられなかったことを不満として外交官を辞職したと、先週報じられました。米国が勝つ確立は非常に低いのですが、オバマ大統領はそこに賭けようとしています。

 オバマ大統領は、全面的に平和の使徒になったわけではありません。しかし徐々にではありますが、ブッシュ路線からは離脱しつつあります。それは米軍再編からの修正であり否定につながっていきます。ではなぜ日本は米軍再編に付き従うのでしょうか。連立政権の誕生という要因をぬいても、冷静に状況を見れば米国の路線に付き従う理由はなくなっています。
 実は米国の中にも、いまの状況を予感している人がいました。ケント・カルダーさんという学者がいます。ライシャワー研究所の所長であり、モンデール駐日米国大使の時代に政治顧問であった人です。日米安保推進派であり、在日米軍再編の米国側のシナリオを書いた人です。その人が著書で、「外国の米軍基地は砂上の楼閣であり、いよいよその様相を呈している」と書いています。また「日米安全保障条約の誕生のころから時代があまりに変化してしまったのであれば、日本と米国はいまとなっては古びてしまった同盟の運命や妥当性を、なぜかくも気にしなければならないのか。60年も年をとってしまった遺物は、静かに歴史のゴミ箱にしまえばよいのではないか」とも書いています。米国の中に、「安保条約は歴史的な使命を終えた。そのことを受け入れなければならない」という人もいるのです。安保否定論者ではありませんが、歴史家として見ると、こうした結論しか出てこないということでしょう。
 またカルダーさんの本には第2次世界大戦後の在外米軍基地に関して、その国で米軍基地が撤去された理由は49例中40例が政権交代であったと述べています。政権交代は、基地を閉鎖する大きな契機なのです。一番の例はフィリピンでしょう。横須賀の27倍というスービック基地、嘉手納の63倍というクラーク基地が、1年で閉鎖し返還されたのです。いまスービックは軽工業団地に、クラークはIT産業団地に変わりました。今年になってからも、エクアドルで米軍基地が閉鎖されました。
 私たちは有権者の意思として、民主的に政権を変えたのです。米国型民主主義のお手本のような政権交代です。沖縄での当選者は全員が基地撤去派です。それなのに基地建設を推進すると言うのはおかしいでしょう。ワシントンで、このことに反論できる政治家は1人もいないはずです。米国はそうやって建国され、現在もそうやって運営されているのですから。政権交代をもっと、戦略的に利用する必要があるでしょう。
 個別の問題はさまざまあります。地位協定、低空飛行、訓練移転などです。こうした問題を地域の問題にとどめずに、全国化することが大切でしょう。どのような運動を作っていくかが問われていると思います。


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