【新テロ特措法を廃案へ 自衛隊のインド洋派遣は反対】

■テーマ2.自衛隊インド洋派遣の問題点


 01年11月のテロ特措法成立から07年11月の期限切れまで、日本政府は6年間にわたって海上自衛隊の補給艦と護衛艦をインド洋に派遣して、米同盟軍艦船への補給活動を行ってきました。新テロ特措法案をめぐる国会審議の中では、この6年間に自衛隊が何をしたのか検証が行われました。国会論戦では、野党の質問によって多くの問題が明らかになったのです。


1.燃料はイラク戦に転用された

 横須賀港を母港とする米海軍空母「キティーホーク」は、03年3月に始まったイラク侵攻に参加し、同年5月に横須賀港に帰港しました。帰港時の記者会見で、キティーホークの司令官は「海上自衛隊からの補給は何回受けたのか?」と質問されて、「海上自衛隊から米海軍の補給艦を経由して間接的に約80万ガロンの燃料補給を受けた」と答えました。
 
 テロ特措法の対象は、アフガニスタンでの「不朽の自由作戦(OEF)」に参加する艦船に限られています。海上自衛隊から補給を受けた「キティーホーク」が対イラク作戦に参加していれば、海上自衛隊は、テロ特措法に違反した補給活動を行っていたことになります。

 この問題は国会でも取り上げられました。しかし当時の小泉政権は、@間接補給した燃料は20万ガロンでキティーホークの1日の消費量、A間接補給を受けた当時のキティーホークはOEFに参加していた――を理由に、テロ特措法の違反は無いとしたのです。

 ところが07年9月、市民団体「ピース・デポ」が米海軍の航海日誌などを独自に調査し、@海上自衛隊の補給艦から間接的にキティーホークに給油された燃料は20万ガロンではなく80万ガロンであること、A当時のキティーホークは対イラク「南方監視作戦(OSW)」に参加しおり、対アフガニスタン「不朽の自由作戦(OEF)」には参加していないこと――を明らかにしました。

 政府は「ピース・デポ」の調査結果と野党の追及を受け、海上自衛隊から「キティーホーク」に間接補給した燃料は80万ガロンだったが、事務手続きのミスで20万ガロンと報告されていたことを認めました。しかし、キティーホークが対アフガニスタン作戦ではなく、対イラク作戦に従事していたことは証拠が出てきた後も認めていません。



【資料1】ピース・デポの調査内容
●艦船の行動
2月25日
 海上自衛隊補給艦「ときわ」から米海軍補給艦「ペコス」に約80万ガロンを給油
 米海軍補給艦「ペコス」から米海軍空母「キティーホーク」に給油
 米海軍補給艦「ペコス」から米海軍巡洋艦「カウペンス」に給油

2月26日
 「キティーホーク」「カウペンス」ともに、ホルムズ海峡を通過しペルシャ湾内へ

2月27日
 「ペコス」がホルムズ海峡を通過しペルシャ湾内へ

●キティーホークの司令官年次報告(04年3月31日)
キティーホークの参加した作戦として、「不朽の自由作戦(OEF)」やアフガニスタンという言葉ななく、「南方監視作戦(OSW)」と「イラク自由作戦(OIF)」が明記されている。


【資料2】閣僚の発言
●石破茂防衛庁長官(当時)の発言(参議院外交防衛委員会03年5月15日)
「これは何も見解が違っているわけでもございませんで、キティーホークというものが不朽の自由作戦にも参加をしておったということ、そしてキティーホークが我々の補給艦から直接補給を受けていないということ、そして、我々から補給を受けた燃料というものをイラク攻撃に使用するというような、テロ特措法の目的外に使用したことはないということを申し上げておるわけでございまして」と述べています。

●福田康夫官房長官(当時)の発言(記者会見03年5月9日)
「燃料はアフガニスタンの作戦に使われることが、日米の間で交わした文書で決められている。問題になっている燃料はキティーホークの一日の燃料の消費量に当たる二十万ガロンであり、ペルシャ湾に行ってイラクでのいろいろな活動に使われるような量ではない。補給をしたのは二月の下旬でペルシャ湾に行くまで随分間があり、イラク関係のことで使われるということは現実的にはあり得ない。」

ピース・デポ
http://www.peacedepot.org/menunew.htm


2.航海日誌の隠ぺい

 民主党や社民党は、「ピース・デポ」の調査結果を確認するため、防衛省に海上自衛隊補給艦「ときわ」の航海日誌の開示を求めました。

 しかし「ときわ」の航海日誌は、廃棄されていました。海上自衛隊の内規では、航海日誌は艦内1年・陸上3年・計4年保管することになっていますが、この時点ではすでに保存期間を過ぎていたのです。ところが野党の厳しい追及に対して防衛省は、「ときわ」の航海日誌のうち、各所に黒塗りがあるものを1ページだけ公開したのです。

 衆議院予算委員会で石破防衛大臣は「隠ぺいとか、かくしていたとか、そういうことがございますが、それは一切ございません」と答弁しました。しかし、廃棄されているはずの航海日誌が追及によって出てくるのは、隠ぺいとしか考えられません。

 またその後の調査で、やはりインド洋に派遣されていた補給艦「とわだ」の航海日誌が保存期間内に隊員の間違いで廃棄されていた、保存期間内の廃棄は他艦船でも起きていた、海上自衛隊艦船のうち250隻で航海日誌保管内規が守られていない――などが明らかになりました。

 海上自衛隊のインド洋派遣は、戦後の日本が始めて参加した戦争です。戦争はいまも続いています。続いている戦争に参加した艦船の航海日誌が廃棄されているなど、考えられません。本当に航海日誌が廃棄されているとすると、自衛隊も防衛省も、戦争が終わった後に戦争の中身を検証することすらできなくなるからです。


3.制服組みの情報隠し

 「ピース・デポ」の調査結果をうけて防衛省と海上自衛隊は、海上自衛隊の補給艦「ときわ」から米海軍の補給艦「ペコス」に給油された量が、80万ガロンであることを認めました。しかしそれは意図的な隠ぺいではなく、給油量をパソコンに入力する際のミスであったというのです。

 問題は、その後の防衛省と自衛隊の対応です。海上幕僚監部内では、80万ガロンが20万ガロンと誤って報告されたことを認識しながら、幹部自衛官の判断で、その事実を政府に報告しなかったのです。

 そのために政府は、「給油量は20万ガロン」を前提に、20万ガロンは1日の消費量であり、ペルシャ湾までは行けない―イラク作戦には参加していないという言い訳を考えたのです。

 海上自衛隊が、現場判断でキティーホークに燃料を補給したこと、その補給量の数値が間違っているにもかかわらず政府に報告しなかったことは、文民統制(シビリアン・コントロール)を根底から覆す一大事件です。

 防衛省もこの問題に関しては、「本事案の発端は、事務的な数字の入力ミスであるが、その後、海幕防衛課長らは、重大な情報の取り違えに気づいたにもかかわらず、上司や内部部局への適切な報告や訂正の措置をとらなかったもので、これは防衛省・自衛隊の事務処理のあり方に対する信頼を損ねるとともに、文民統制に係る極めて重大な問題である。」と述べています。


【資料】給油量を間違え、その後訂正しなかったことの経緯

@03年2月26日未明、インド洋派遣部隊・派遣海上支援部隊指揮官から海上幕僚長等宛に、2月25日に海上自衛隊補給艦「ときわ」が米補給艦「ペコス」に「3,000KL」を、他艦船(米駆逐艦「ポール・ハミルトン」)に「812KL」を補給した旨が記載された「行動報告」がなされた。

Aこの報告に基づき、「海幕防衛部運用課」では「テロ対策特別措置法に基づく対応措置としての協力支援活動等実施記録」を、「海幕装備部需品課」では「艦艇用燃料譲渡実績」をそれぞれ作成した。この段階では、両課の資料ともに給油量は正しく記入されていた。

Bところが「海幕防衛部運用課」で、「支援活動実施記録」とは別に作成した「テロ特措法に係る協力支援活動実績(補給・輸送実績)」には、「ペコス」に「812KL」、「ポール・ハミルトン」に「3,000KL」と、取り違えて入力されていた。

C「海幕防衛部運用課」の誰が取り違えて入力したかは、特定できない。

D海幕防衛課長は、キティーホーク司令官の発言に対応するために、海幕防衛課員に「対外応答要領」を作成させた。この際に、「ペコス」に「812KL」とする、誤ったデータを使用してしまった。

Eこの「対外応答要領」などに基づき、石破防衛庁長官や福田官房長官らは記者会見や国会答弁を行った。

F「海幕装備部需品課」燃料班長が新聞報道で「ペコス」に補給された燃料が20万ガロンとされていたために誤りに気づき「海幕防衛課」にその旨を連絡した。

Gしかし海幕防衛課長は海幕防衛課員らと検討し上司や内局へ報告は行わないことにした。


●報告を行わないとした理由として、海幕防衛課長は以下を上げています。
@既に統合幕僚会議議長が5月8日の記者会見で海自補給艦「ときわ」から米補給艦「ペコス」への給油量は約20万ガロンである旨を述べている。

A日本側からの確認に対する平成15年5月7日付けのリチャード・A・クリステンセン 在京米国大使館公使から守屋武昌 防衛庁防衛局長宛の書簡で「海自から米海軍に提供される燃料が、これまでも、今後もテロ特措法の趣旨と目的に反して使用されることはない。」と回答を得ていた。

B米空母「キティーホーク」への間接給油問題が沈静化しつつあったため、米補給艦「ペコス」への給油量が例え80万ガロンであっても米空母「キティーホーク」が不朽の自由作戦従事中に当該燃料を完全に消費することは確実であり、米海軍が目的外の使用をすることはできないだろうと判断した。

C給油量が間違っていた件は、本質的な誤りではなく、この時期に事務的な数字の誤りの訂正のみをするまでのことはないという結論に至った。

防衛省「国際テロ根絶と世界平和のために」
http://www.mod.go.jp/j/news/terotoku/index.html
 ▼テロ対策特措法に基づく協力支援活動としての艦船用燃料の給油活動に関する確認作業について<
 ▼平成19年10月29日 海上自衛隊補給艦から米補給艦への給油量取り違え事案について(中間報告)
 ▼平成19年10月29日 海上自衛隊補給艦「とわだ」の航泊日誌誤破棄事案について(中間報告)


4.防衛商社と防衛省にゆ着

 海上自衛隊の補給艦が米同盟軍の艦船に対して実施した補給は794回で、補給した燃料の総額は225億円でした。防衛省はこの燃料を、「元売り」から、商社「A社」「B社」の2社を通して購入していました。「A社」「B社」は、最初はこの2社のみを対象とした指名競争入札で仕事を獲得、次には2社のみの随意契約で仕事を獲得、07年度は公募が行われましたが2社しか参加しませんでした。225億円にも上る取引でありながら、全期間を通して、契約は「A社」「B社」の2社が独占していたのです。

 民主党の大久保勉・参議院議員は国会質問の中で「非常に高収益の商取引なんですね。まず為替で手数料を取り、そして原油の売買で利益を取っています。合計は平均で5.5%と言われておりまして、300億円で5.5%、16億円の利益が出ています。こういったおいしい取引なのにどうして二社しか応募しないのか、私は非常におかしいと思っています。」と述べて、契約の背景に防衛省と商社との関係を追及しました。

 民主党は独自の調査から、「元売り」は米国政府の軍事関連機関「DESC(国防エネルギー支援センター)」ではないかと指摘しました。「DESC」のホームページの顧客リストに日本政府の口座が3件掲載されており、その一つがテロ特措法施行の10日後に開設された「OEF(不朽の自由作戦)」という名称の口座だったからです。また「A社」「B社」のうち1社は、守屋前事務次官とのゆ着が指摘されている「山田洋行」ではないかとの疑惑ももたれています。

 国会議論の中で野党は、「元売り」「A社」「B社」の名前を明らかにするように求めましたが、防衛省は「公になることにより正当な利益を害する恐れがある」という理由で、明らかにしていません。


5.米軍艦は複数任務といういいわけ

 米空母「キティーホーク」が海上自衛隊の補給艦から間接補給を受けたことが問題になった際に石破防衛庁長官(当時)は国会で、米軍の艦船が「幾つか複数の任務を同時に遂行するということはありうる」と答弁しました。海上自衛隊の補給活動に関する政府の見解は、「イラク戦争」のみに参加する米艦船への補給には問題があるが、「イラク戦争」と「アフガニスタン戦争」の両方の任務を持つ米艦船への補給には問題がないというものです。複数任務の艦船には燃料補給可という政府の判断によって、イラク攻撃に参加する多くの米軍艦船が、海上自衛隊から補給を受けていたようです。

 この問題に関して朝日新聞は、佐世保基地所属の揚陸艦「ジュノー」の元艦長のインタビュー記事として、「ジュノー」がイラクの自由作戦(OIF)の一環としてペルシャ湾に展開していた際に海上自衛隊から補給を受けていたことを明らかにしています。


 【資料】小泉親司議員の質問に対する、石破大臣の答弁

○国務大臣(石破茂君)
「それは、これ一つだけということではなくて、それは不朽の自由作戦あるいはサザンウオッチ、ノーザンウオッチ、いろんなものを、任務を同時に受けているということはあるのだと思います。つまり、同時に幾つかの任務を受け、その時点において、その中の何を遂行しているかということなんだと私は思います。だから、例えばサザンウオッチというものを受けている、したがって、この、私はキティーホークが給油を受けたということを申し上げているわけではありませんが、だから目的外なのだというようなことには私はならないと思います。」
(03年5月15日 参議院外交防衛委員会 11号)


【資料】アサヒコム(2007年09月22日15時03分)

『ペルシャ湾に展開する米空母エンタープライズのロナルド・ホートン艦長(47)がこのほど艦上で、朝日新聞記者のインタビューに応じた。ホートン艦長によると、艦長は05年当時、佐世保基地に所属する米軍揚陸艦ジュノーの艦長としてペルシャ湾周辺に展開。「当時は、いまよりも頻繁に海自の補給艦から給油を受けた。日本の貢献は絶大だった」と述べた。

 艦長の説明や米海軍の資料によると、ジュノーは05年当時、沖縄に駐留する海兵隊をイラク国内に投入するためペルシャ湾北部に派遣。この間、インド洋のアデン湾などで海自の補給艦から3回にわたって燃料、食料の補給を受けたという。

 ジュノーは同時に、米国主導で01年10月に始まった対テロ戦争「不朽の自由作戦(OEF)」として、テロ組織のメンバーや武器の移動を阻止する「海上阻止活動」にも組み込まれていた。作戦の時期が明確に区別されない限り、海自から補給された燃料がどの作戦に消費されたかを特定するのは困難とみられる。』

●もと記事はこちら
http://www2.asahi.com/special/iraq/TKY200709220136.html


6.全ては防衛機密

 海上自衛隊から燃料補給を受けた米艦船が、イラク攻撃に参加したことはないのかという野党の質問に対して、政府は794件全ての補給活動を調査し、問題はなかったと回答しました。しかしどのような調査を行ったのか、調査内容は一切公開されていません。

 国会では、6年に及ぶ自衛隊のインド洋派遣の検証が行われました。しかし政府は、燃料の「元売り会社」や商社「A社」「B社」の名称、海上自衛隊から補給を受けた米同盟軍艦船の名称や補給後の行動など、重要な情報を公開しませんでした。また補給艦の航海日誌は、既に保管期限を過ぎて廃棄された、保管期限内に廃棄された、保存しているが公開しない――などの対応をしています。

 正確な情報を得ることができないのは、私たち日本の市民だけではありません。実は日本政府も、米国政府から十分な情報提供を受けていないかもしれないのです。

 野党議員は政府に対して、テロとの戦いや海上阻止活動の成果を公表するように、再三にわたって質問しています。しかしそのたびに政府は、「日本はOEF自体に参加しているわけではないし、各OEF参加国は一切公表していない、その点について日本政府は承知していない」という答弁を繰り返しています。

 民主党の近藤昭一衆議院議員は、海上阻止活動の成果について、日本政府は公表していないが当該米軍艦船のホームページなどには掲載されていると追及しました。この質問に対して高村外務大臣は、「相手国の関係で出せないと言っているのじゃない。相手国が日本政府に知らせなかった、だから私たちは知らなかった。そして、私たちに知らせないことを逆に他のところでアメリカが発表しているとすれば、それは大変不愉快な話し」と述べているのです。

 日本政府は600億円を提供したOEF‐IMOについて、その成果報告すら受けていなかったのです。


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