[平和軍縮時評20145月号]
 
NPT再検討会議第3回準備委員会
今こそ、核兵器禁止への法的枠組みについて協議する場を作るべき
 
金マリア(ピースデポ・スタッフ)
 
 
2014年4月28日から5月9日まで、ニューヨークの国連本部で2015年核不拡散条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会が開催された。第2回準備委員会から約1年間、核軍縮の議論には実質的な面で多くの進展があった。まず、核兵器の人道的影響に関する第2回国際会議がメキシコ・ナヤリットで開催され、さらに今年はオーストリア・ウィーンで3回目の会議が決まった。また、多国間核軍縮交渉を前進させる国連公開作業部会(OEWG)や、核軍縮に関する国連総会ハイレベル会合がそれぞれ初めて開かれた。
 
今回の準備委員会は、2015年再検討会議に対する勧告を提出する任務を負っていた。しかし、勧告案をコンセンサスで採択できず、議長による「作業文書」の形で勧告が出された。本号では、今回の準備委員会を、2010年NPT合意の履行状況に関する点検と核兵器を禁止する法的枠組みを求める議論の展開という2つの観点から検討し、注目すべき4点につき紹介する。
 
P5の核軍縮履行状況報告義務
P5は、今回の準備委員会で2010年合意の行動5により、核軍縮に関する7項目の履行状況を報告する義務を負っていた。しかし、報告を行った5か国の中、核戦力の現状に関する情報公開で前進があったのは米国だけであり、英仏は既存のものと変わらず、中ロは数字を示さなかった。米国は、4月29日に報告書を提出し、「1994会計年〜2009会計年」と「2009年9月30日以後」の解体核兵器の数などを述べた。また同日には、国務省サイトに「米国の備蓄核兵器の透明性」と題したファクトシートを公開し、会計年毎の数字を示した。2010年に続き米国が定量的な報告を行ったことは評価されてよい。しかし、第3者が検証可能な透明性のためには、核兵器の種類ごとの内訳を公表することが不可欠であり、その意味では不十分性は否めない。なお、P5は10年合意の行動21により、報告の標準様式にできるだけ早期に合意することも求められていた。しかし、標準様式に合意はしたが、その項目は定量化されておらず、内容も極めて大雑把なものであった。
 
今回のP5の報告に対して、非核兵器国は批判的な意見を示した。オーストリアは演説で、「報告から、核兵器国が依然として核兵器に依存していることが見えて重大な懸念を抱いている。核兵器国の核政策における変化が、報告には殆ど又は全く示されていない。」と述べた。スイスはDe-alerting(警戒態勢緩和)グループを代表し、「報告をみる限り、2010年以後、警戒態勢の緩和に有意義な進展がなかったようにしか見えない。」と主張した。
 
議長勧告では、このような失望を反映し、「さらなる詳細かつ具体的な報告」を求めるなど3節を割いた。しかし、P5が行動5の7項目を共通標準項目に含めなかった問題点について改善を勧告しなかったことは残念である。今後、P5が客観的に追跡できる情報の報告をしない限り、透明性のある報告とは言えないし、P5に対する不信感はNPTそのものに対する不信にまで高まるであろう。
 
中東決議履行の行き詰まり
2010年合意では、1995年中東決議の履行のために「中東非核・非大量破壊兵器地帯の設立に関する会議を2012年に開催する」ことが決まった。しかし、会議は12年も13年も実現しなかった。現在、この地域はリーダー役のエジプトが国内情勢の安定のために積極的に参加出来ない状態である。一方、幸いに、イラン問題は過去より安定しているように見える。また、昨年のシリアの化学兵器問題はロシアとの対話でシリアが化学兵器禁止条約に加盟することによって、対決より対話の重要性を見せる一例となった。
 
議長勧告は、中東会議のファシリテーターを務めるヤッコ・ラーヤバ大使の報告を受け、「年内に開催するとの国連事務総長及び1995年決議の共同提案国による誓約に留意する」と述べた。これによって望みをつないだが、数か月内に実現するかどうかは未知数である。再び実現しなかった場合には来年のNPT再検討会議に悪影響を及ぼすであろう。
 
ちなみに、非核兵器地帯に関して今回の準備委員会中にあった2つの事をここで紹介したい。まず、5月6日、中央アジア非核兵器地帯条約(CANWFZ)の議定書にP5が合意し、署名式を行った。議定書の第一条では消極的安全保証を、また、第二条では 「条約及び議定書締約国によるいかなる違反行為にも寄与しないこと」を定めている。そして、CELACは4月30日の演説で既存の非核兵器地帯とモンゴルとの協調と協力について述べた。その一環として、現在インドネシアと協力していることや「インドネシアは、来年開かれる非核兵器地帯加盟国・署名国及びモンゴルによる第3回会議の準備を主導する」ことを紹介した。
 
非人道性議論の今後
2010年合意では、NPT文書として初めて核兵器使用の人道的結末が直接言及された。しかも、厳しい文言が用いられた。その後、13年10月の4回目の共同声明では賛同が125か国に達し、メキシコ・ナヤリットでは第2回核兵器の人道的影響に関する国際会議が開催された。さらに、今年12月にはオーストリア・ウィーンで3回目の会議も準備されている。今回の準備委員会ではこのような現状を反映するように、多くの国が発言の中で非人道性に触れた。
 
一方、議長勧告では核兵器の人道的結末に関する内容が一節に止まり、不十分な表現であった。ただ、「核兵器のない世界を達成することに関連して各国政府や市民社会が出している新しい提案やイニシアチブについて検討すること」を含めたことによって、非人道性イニシアチブの最終的目標である核兵器禁止の法的枠組みの構築につながる手がかりとして前進もあった。非人道性議論の今後は年末のウィーン会議に決定的に依存している。
 
法的枠組み議論とNAC作業文書
2010年合意では、「核兵器のない世界を実現、維持する上で必要な枠組みを確立」することが確認され、国連事務総長が5項目提案の中で述べた核兵器禁止条約(NWC)や「別々の条約の枠組みに関する合意」に初めて言及された。その後、13年の国連公開作業部会(OEWG)と国連ハイレベル会合を通して、包括的な条約を目指すNWCに加えて、簡潔なアプローチをとる核兵器禁止条約(NWBT)が提起された。
 
今回の準備委員会では、国によって表現は違ったが、多くが核兵器禁止を目的とする法的枠組みへ向けた検討作業を始める必要性を強調した。新アジェンダ連合(NAC)を代表したアイルランドは、全ての加盟国に対し、「この準備委員会を、包括的かつ法的拘束力のある法的枠組みの構築について真剣に作業を始める機会としなければならない」と呼びかけた。ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)は、「国際社会とともに、核兵器の禁止を目的とする普遍的な法的拘束力のある手段についての交渉へ向けて前進するために協力すること」を確認した。非同盟運動(NAM)を代表したインドネシアは、「NWCに関する交渉の早期開始」をCDに促した。また、ナヤリット会議の議長国であったメキシコは、「今や具体的な時間表と最も適切な協議の場を決めるための外交プロセスを始める時だ」と演説した。
 
特に、NACが最近の展開を考慮して今回の準備委員会に提出した作業文書はその詳細を紹介する意義がある。NACは文書の目的を、「条約第6条によって想定され要請されている「効果的な措置」の枠組みに関するありうる選択肢を追求し」「いかに実践的にこうした選択肢を具体化できるかを検討すること」だと述べた。第6条の前半で約束された「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置」については、7つの要素を提案したが、これはエジプトがNACを代表してOEWGに提出したペーパの内容でもある。また、同文書は、既存の選択肢を、NWC、NWBT、「枠組み協定」、そして「混合型協定」の4つに初めて整理した。ただ、NACは特定の選択肢を支持することは避けており、同議論を具現するためにイニシアチブを発揮する国は今回現れなかった。
 
議長勧告は、I-2-gで法的拘束力のある枠組みに触れているが、「明確な到達基準や時間軸をともなう」と明言されたことは重要である。また、条約という言葉を使わずに「包括的で、交渉された、法的拘束力のある枠組み」を詳細に検討すべきことを述べたことは、最近の展開を反映した表現と見られる。しかし、法的枠組みについて協議の場を作る必要性について明確な文言は含まれなかった。
 
2015年再検討会議に向けて
今回の準備委員会は、昨今の核軍縮議論の進展に比べて低調な結果であった。核兵器の非人道性とそれをふまえて核兵器を禁止する法的枠組みを求める声は確実に強まっている。そうした中で、非核兵器国と核兵器国、核兵器依存国との立場の違いが浮き彫りになり、合意しにくくなった面が現われた。今こそ、プラハ演説でオバマ大統領が誓約した「核兵器のない世界」を想起し、全ての国が核兵器を禁止する法的枠組みについて協議する場を作る政治的意志を示すことが切望される。そのために、現状では、2015年NPT再検討会議に向かって、秋に予定されている第69回国連総会と12月に開かれるウィーン会議での議論に注目する必要がある。
 
第3回準備委員会の開会にあたり挨拶をするエンリケ・ロマン=モレイ議長。
14年4月28日、米ニューヨーク国連本部。(撮影:ピースデポ)