辺野古埋め立て用土砂の搬出反対の声を

                            湯浅 一郎

あらゆる手を尽くす沖縄県

 沖縄県の翁長雄志知事は15年9月14日、那覇市の県庁で記者会見し、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の県内移設に向けた前知事による名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消すことを表明した。翁長知事は、前知事による承認には取り消しすべき法的な問題があるとし、「埋め立て承認の取り消しに向けて事業者からの意見聴取の手続きを開始した」とした。そのうえで「今後もあらゆる手法を駆使して辺野古に新基地は造らせないという公約の実現に向けて全力で取り組む」と決意を表明した。

承認が取り消されれば、政府は移設に伴う埋め立て事業の法的根拠を失う。これに対し、政府は今秋にも埋め立てに着手する構えを取り、承認取り消しを受けて行政不服審査法に基づく不服審査請求などの対抗措置を取るとみられる。残念ながら、これだけで政府の辺野古での移設作業が直ちに中断する可能性は低い。さらに展開次第で県が移設作業の差し止めを国に求め、法廷闘争に入っていくことも想定される。

 普天間飛行場移設のための埋め立ては、政府が沖縄県知事に2013年3月に申請した。県は公有水面埋立法に基づいて審査し、13年12月に当時の仲井真弘多知事が承認した。だが、移設に反対する翁長氏が14年11月の知事選で仲井真氏らを破って初当選し、情勢は一変した。15年1月、翁長知事は、前知事の承認判断を検証する専門家の第三者委員会を設置した。第三者委員会は7月、「政府の埋め立て申請は埋立法の要件を満たしておらず、県の承認手続きに瑕疵が認められる」との検証結果を報告。翁長知事は「検証結果は最大限尊重したい」として承認を取り消す意向を示していた。これに対し、政府は、8月10日から移設作業を1カ月間中断して県との集中協議を実施したが、両者の折り合いはつかず、9月12日から移設作業が再開されていた。そして、14日の承認取り消し表明となったのである。

9月21日、翁長知事は、ジュネーブ(スイス)における国連人権理事会で辺野古移設反対を訴え、沖縄の自己決定権を求める感動的な声明を発表した。

 「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている辺野古の状況を、世界中から関心を持って見てください。沖縄県内の米軍基地は、第二次世界大戦後、米軍に強制接収されて出来た基地です。沖縄が自ら望んで土地を提供したものではありません。沖縄は日本国土の0.6%の面積しかありませんが、在日米軍専用施設の73.8%が存在しています。 戦後70年間、いまだ米軍基地から派生する事件・事故や環境問題が県民生活に大きな影響を与え続けています。このように沖縄の人々は自己決定権や人権をないがしろにされています。 

 自国民の自由、平等、人権、民主主義、そういったものを守れない国が、どうして世界の国々とその価値観を共有できるのでしょうか。日本政府は、昨年、沖縄で行われた全ての選挙で示された民意を一顧だにせず、美しい海を埋め立てて辺野古新基地建設作業を強行しようとしています。私は、あらゆる手段を使って新基地建設を止める覚悟です。」

 

埋め立て用土砂の持ち出し計画  

 現在、埋め立て認可の是非をめぐる沖縄県と政府との攻防が続いている段階ではあるが、この問題にヤマトが物理的に関与する具体的な問題がある。辺野古の浅瀬を埋めるためには、大量の土砂が必要である。その計画が、環境影響評価に絡んで公表されている。当初、事業者である沖縄防衛局は、土砂の搬入計画について具体的に示していなかったが、当時の仲井真知事の再三にわたる公開請求により、13年春、ようやく付属図書10「埋立に用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」として、持ち込むための土砂の供給計画を公表した。内訳としては、岩ズリ1644万立方メートル、山土360万立方メートル、及び海砂58万立方メートル、合計約2060万立方メートルもの土砂の確保と購入が計画されている(表1)。岩ズリの採取場所のストック量は表2のようで、その7割強は沖縄県外で、鹿児島県から香川県までの西日本一帯が含まれている。

 岩づり採取及び保管に伴い、地域における山や、川、海の環境破壊が起きる。そして、それが、世界的にも生物多様性に優れた辺野古のサンゴ礁を基盤とした海をつぶしてしまう。これらは、ともに生物多様性基本法や、生物多様性保全国家戦略に反する行為そのものである。本来、法に基き、これらを保全すべき立場にある政府が、事業主となって、率先して山を削り、海を埋め、ともに絶対的な喪失を産み出そうとしているのである。

 

 

1 埋立区域別埋立土量          単位:千立方m

 

埋立土砂の種類

         埋立区域

海砂

岩ズリ

山土

  合計

普天間飛行場

埋立区域@

-

1,670

2,410

4,080

代替施設

埋立区域A

-

3,190

-

3,190

埋立区域B

580

11,410

1,190

13,180

小計

580

16,270

3,600

20,450

名護市辺野古地先

-

170

-

170

合計

580

16,440

3,600

20,620

   表2 供給業者の採取場所別、岩ズリストック量        単位:千立方m

 

地区名

ストック量

備考

本部地区

6,200

沖縄県

国頭地区

500

沖縄県

徳之島地区

100

鹿児島県

奄美大島地区

5,300

鹿児島県

佐多岬地区

700

鹿児島県

天草地区

3,000

熊本県

五島地区

1,500

長崎県

門司地区

7,400

福岡県、山口県

瀬戸内地区

300

小豆島(香川県)

合計

25,000

*使用量 16,440

 

生物多様性基本法の精神に反する埋立

2012年に閣議決定された生物多様性国家戦略には、生物多様性の4つの危機が示されている。

 第1 開発など人間活動による危機

 第2 自然に対する働きかけの縮小による危機

 第3 外来種など人間により持ち込まれたものによる危機

 第4 地球温暖化や海洋酸性化など地球環境の変化による危機

辺野古土砂の採取、および埋め立ては、上記1,及び3に関わる問題である。辺野古の豊かな海をつぶす行為については、項目1が直接的に関わる。また岩ずりの持ち込みに関しては、特に第3の「外来種の持ち込み」が重要である。

 温帯と亜熱帯での環境の違いにより、それぞれ固有で、相互に異なる生態系が展開されている。岩づり採取地周辺では、特にアルゼンチンアリなど、有害な生物が混入されている可能性があり、少なくとも環境影響評価が不可欠である。ところが、誰が責任をもって、環境影響評価を実行するのかすら全く分からないままの状態が放置されている。防衛省は、自らの責務を放棄し、事業者に調査させるとしているが、それも具体的には定かではない。環境省には、全くと言っていいほど当事者意識はない。また、環境影響調査をすればいいというものでもない。そもそも、埋め立てるという行為自体が問われているわけで、外来種に問題が無ければ、持ち込んでも構わないというわけにはいかない。

 岩ずり(採石に伴って生じる残渣の土砂)を沖縄に送る可能性が高 いとみられる門司のある業者が、アルゼンチンアリなど外来種の混入を防ぐ対策を検討していないことが5月21日までに分かった。業者の代表は今後の検討も未定としており、現時点で防衛省から説明もない、としている。沖縄防衛局は調達土砂に外来種が混入する懸念を示した県の質問に対し、生態系への影響を防ぐ対策については防衛局の責任で土砂供給業者が実施する、と説明していた。アルゼンチンアリは採取地での生息の報告はないが、山口県内では岩国市、柳井市、宇部市、光市で生息が確認されている。(琉球新報15.5.21より)

 ここで、改めて生物多様性基本法の経緯と基本精神を見ておこう。この法に至る経過は、1992年、ストックホルムにおける世界規模での環境保全の機運が高まり、国際的に生物多様性を保全し、それに依拠して生きていくことの重要性が認識されたことにある。おそらく原理的に見れば、生物多様性の保全と回復という思想は、自然を利益を産み出す対象とみなし、それを利用つくしていくという資本主義、とりわけ自由貿易に基づく利潤追求の思想とは相いれないものであろう。

 生物多様性基本法の前文には、以下のような格調の高い思想が述べられている。

「生命の誕生以来、生物は数十億年の歴史を経て様々な環境に適応して進化し、今日、地球上には、多様な生物が存在するとともに、これを取り巻く大気、水、土壌等の環境の自然的構成要素との相互作用によって多様な生態系が形成されている。

 人類は、生物の多様性のもたらす恵沢を享受することにより生存しており、生物の多様性は人類の存続の基盤となっている。また、生物の多様性は、地域における固有の財産として地域独自の文化の多様性をも支えている。

 我らは、人類共通の財産である生物の多様性を確保し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、次の世代に引き継いでいく責務を有する。今こそ、生物の多様性を確保するための施策を包括的に推進し、生物の多様性への影響を回避し又は最小としつつ、その恵沢を将来にわたり享受できる持続可能な社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出さなければならない。」

 そして、国の責務として、第四条は、「国は、前条に定める生物の多様性の保全及び持続可能な利用についての基本原則にのっとり、生物の多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的かつ総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。 」としている。

 その後、生物多様性基本法(2008年)に沿って、海洋生物多様性保全戦略(2010年、環境省)、生物多様性国家戦略(2012年、閣議決定)が国の基本戦略として位置づけられ、これらは、日本列島の世界的にも優れた生物多様性を保持し、回復させることが、中長期的な基本戦略であるとしている。そうした中で、生物多様性の豊庫のような辺野古の海を埋め立て、西日本の10数か所の山を削り岩ズリを採取することによる海の汚染は、両者とも、上記の戦略を軽視し、逆行するものでしかない。

 

沖縄県条例と「辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会」 結成

 沖縄県議会は、710日、12条からなる公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例を採択した。

 同条例は、第1条で、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)第1条に規定する目的の趣旨を踏まえ、「公有水面埋立事業の実施による外来生物の侵入を防止することにより、生物の多様性を確保し、もって祖先から受けついだ本県の尊い自然環境を保全することを目的とする」としている。そして、「事業者は、その実施する公有水面埋立事業に伴い特定外来生物が付着又は混入している埋立用材を県内に搬入してはならない。」(第3条)としている。この条例で、搬入そのものを阻止することができるわけではないが、大きな障害になることは間違いない。この条例は15年11月1日から施行される。

 一方、岩刷りを持ち出す西日本を中心に、反対する世論形成が進んでいる。この問題に対し、最初に動いたのは環瀬戸内海会議で、201312月、環境省、防衛省、そして沖縄県へ計画の中止を要請した。20151月、自然と文化を守る奄美会議が、「岩づり搬出」計画中止を鹿児島県知事に申し入れ、201526日、環瀬戸内海会議、自然と文化を守る奄美会議が環境省、防衛省へ「岩づり搬出」計画の即時中止を申し入れた。3月からは、岩ズリ持ち出しに反対する署名運動を始めている。9月末現在、約5万筆が集まっている(これとは別に平和フォーラムが全国で呼びかけたもの約14万筆はすでに政府に提出されている)。

さらに15531日、奄美大島で「辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会」が<一粒たりとも故郷の土を戦争に使わせない!>をスローガンとして 結成された。10月3日には長崎で第2回総会が開催され、これまでに、奄美、天草、五島、北九州、小豆島など、採取地現地における団体や個人が結集しており、さらに新たな地域における動きも作られようとしている。

 翁長知事の埋め立て認可取り消しを巡る動きが始まる中で、辺野古埋立の攻防は大きな焦点を迎えている。しかし、日米両政府は、沖縄県の自治体を挙げての抵抗に対しても、一向に姿勢を変えようとする気配はない。どちらに道義的正当性があるかは自明であるが、文字どうり、がっぷりよつの状態である。こうした中では、西日本からの岩ズリ持ち出しへの反対世論を通じて、これに、もう一つ別の要素を加えていくことが強く求められる。辺野古埋立を止めるために、ともに闘う形を岩づり持ち出し反対運動として強めていくことが必要である。