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政府のソマリア沖海賊対策(海上自衛隊派遣及び新法制定)への事務局長見解

2009年1月19日

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フォーラム平和・人権・環境事務局長 福山真劫

 ソマリア沖において海賊が頻出し、2003年から2007年まで140件、2008年は9月末までに63件の被害が報告されています。日本の海運会社が運航するタンカーや貨物船も2007年以降6隻が被害に遭っています。 2008年11月15日に被害にあった「イイノマリンサービス」が運航するパナマ船籍のケミカルタンカー「ケムスター・ヴィーナス号」の乗組員23人は、今も海賊に拘束されています。

 現在、EU艦隊が、ソマリアへの支援物資を運ぶ世界食糧計画(WFP)の貨物船の警備を行っています。中国も自国の船舶の警備のために駆逐艦3隻を派遣しました。これまでも、2006年3月に米海軍ミサイル巡洋艦「ケープ・セント・ジョージ」が海賊と交戦、海賊6名が死傷した事件や2008年11月英海軍フリゲート艦「カンバーランド」が海賊と交戦する事件、また、同年同月には、インド艦隊のフリゲート艦「タバール」が海賊に乗っ取られたタイ漁船を誤って撃沈し、タイ人1人が死亡14人が行方不明になる事件が起きています。

 国連は、「安保理決議1816」(2008/6/2)「安保理決議1838」(2008/10/7)を採択し、ソマリアへの人道支援物資の補給路の確保と海賊対処を各国に呼びかけました。 2008年12月16日には米国が提案した「安保理決議1851」を採択し、ソマリア海賊対策において、ソマリア領海及び領土内での軍隊の行動を容認しています。

 政府・与党は、ソマリア沖などの海賊被害への対応のため新法「海賊処罰取締法」(仮称)を、今国会に提出する方針を固め、新法成立までは自衛隊法82条の「海上における警備行動」に基づいて、海上自衛隊をソマリア沖に派遣する方針と言われています。新法では、公海上の海賊行為を取り締まりの対象として定義し、現行の海上警備行動において正当防衛や緊急避難等に制限される武器の使用を拡大することが予想され、政府が検討している「自衛隊の海外派遣恒久法」の議論にも影響を与えるものと考えられます。

 2009年1月7日、シーファー米駐日大使は、離日にあたってソマリア沖での海賊対策への日本の早期参加を要請しました。米国はソマリア問題に対し、国際的テロ集団アルカイダとの関係性を指摘するとともに、「安保理決議1851」では、領海・領土内での活動はもちろんのこと、海賊に対する同国領空からの空爆も容認されるとの見解を示しています。イラクからの撤退が決定し、アフガニスタンにおいても成果が上がらない状況の中で、ソマリアが米国の対テロ戦争のターゲットにされることも考えられます。

 ソマリアは、19世紀末、列強のアフリカ分割の中でイギリス・イタリア及びフランスによって国土を3分割され植民地化されました。 1960年にソマリア共和国として独立し、1969年のクーデター以降は、モハメド・シアド・バーレを大統領とする社会主義の「ソマリア民主共和国」が成立しました。バーレ政権は、エチオピアとの武力衝突を重ね、エチオピア支持を明確にするソ連と対立、 1977年以降はソ連との友好条約を破棄し米国の軍事援助を受けることとなりました。独裁色の強いバーレ政権は、反政府勢力「統一ソマリア会議」の首都制圧によって1991年に崩壊し、以降、暫定大統領派とアイディード将軍派が対立、60以上とも言われる氏族・準氏族が入り乱れた内戦状態に突入しました。 1992年4月、国連による「人道目的のPKF活動」が開始されましたが、国連ソマリア活動(UNOSOM)の武力行使も、多数の犠牲者を出すなど失敗に終わり、結局統一政府の樹立にも至っていません。エジプト主導による暫定政府も組織されましたがソマリア全土の掌握に至らず、植民地政策、東西冷戦、各国の利害関係に翻弄され続ける中で、現在世界で唯一、国連が認定した政府が存在しないという状況になっています。

 国民生活は極めて厳しく、アフリカ諸国の中でも最貧国に位置づけられています。また、統一政府が存在しない中、ソマリア沖においては、公海・領海の区別なくアジア・ヨーロッパの船団による漁業資源の乱獲が常態化しています。また、欧州系企業による核廃棄物や化学廃棄物を含む産業廃棄物の不法投棄が行われ、ソマリアの漁民は生活が成り立たない状況に追いやられてきました。海賊行為の多くは、ソマリアの漁業会社や漁民が、手持ちの漁船を使って行っているのが現状です。統一した政府が存在しない中で、ソマリア国内において海賊行為を処罰する法的機関も存在せず、捕縛された海賊は解放せざる得ないのが現状です。

 フォーラム平和・人権・環境は、以上のような認識を基本に、以下の理由から現在政府が検討している、海賊対策のための海上自衛隊のソマリア沖派遣及び新法の検討に対して反対するとともに、ソマリア住民に対しての経済援助の充実と、無政府状態の解消に対して有効な外交交渉を展開するとともに、現在、ソマリア沖の海上警備を担っているイエメン政府に対し、港湾整備・高速艇建造・隊員の教育・警備技術向上等の側面から十分な援助を展開することを要請します。

  1. 自衛隊法82条の海上警備行動については、現行憲法下の自衛隊の位置づけからも、日本沿岸に限定されるべきであり、ソマリア沖派遣は法の要請を著しく逸脱するものである。
  2. 海上警備行動における武器使用は、正当防衛・緊急避難に限定されている。新法の制定は、自衛隊の武力行使を想定しているとされ容認できない。また、「安保理決議1851」は、ソマリア領土内での海賊対策も容認しており、相手によっては警備行動を逸脱し、自衛隊の武力行使・戦闘行為に及ぶことが懸念される。自衛隊が、このような行為に及ぶことは現行法制度上想定されるものではなく、自衛隊の目的が専守防衛というこれまでの法解釈上も許されない。
  3. 海賊行為を容認するものではないが、ソマリアがおかれている現状及びその歴史的経過からも、単に海賊行為のみを批判することは一方的である。ソマリア側の「外国船団こそ海賊行為」との主張も見過ごすことはできない。現在必要なのは、ソマリア国民の生活への支援と統一国家樹立に向けた話し合いである。武力で平和はつくれないという原点にたってのソマリア支援が重要である。
  4. 現在のところ、ソマリアの海賊が拘束された船員の生命に危害が加えた事実はない。しかし、今後の対応如何によっては、海賊側との戦闘行為の拡大や拘束された船員の生命の危険を誘発する恐れがある。
  5. 「安保理決議1851」は、海賊行為への対応において、ソマリア領土内での戦闘行動も容認されるとしている。米国は、ソマリアと国際テロ組織の関係にも言及している。今後の成り行き如何では、現在のアフガニスタンの状況の再来になることも予想され、ソマリア国内での1991年以降の混乱を、さらに悪化させることが考えられる。
  6. 大量破壊兵器の所有を理由にしたイラク戦争においては、無辜の多くの血が流され、現在もその混乱は続いている。アメリカの判断は誤っていたとするのが現在の一般的な見方である。イラク戦争の轍を踏まないためにも、世界の警察を自認する米国とは一定の距離を保ち、平和憲法の下で日本が取り得るソマリアに対する支援策を検討すべきである。
  7. ソマリア沖1200Kmに及ぶ海岸線に対して、日本船舶の航行は年間約2,000隻、ソマリアの海賊が高速艇を使用し神出鬼没でることなどから、警備行動は物理的に困難であると考えられ、その実効性は疑わしい。日本を訪問した、現地の状況を理解するイエメン沿岸警備隊アルマフディ作戦部長は、「海上自衛隊の派遣は高い効果は期待できず、必要はない。むしろ我々の警備活動強化への支援が欲しい。」とし、部隊の基地となる港湾の新設や高速警備艇の導入、海上保安庁による技術指導などを要請している。

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