イラク情勢Watch vol.3 05年7月12日
        発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週水曜更新(予定)



Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)イラク移行政権首相、多国籍軍の撤退期限の遵守を求める
3)米軍、米映画監督をイラクで2ヶ月間拘束
4)ファルージャ近郊で掃討作戦開始
5)米平和団体によるファルージャ近況の報告
6)警察国家―嫌われるイラク警察とイラク軍



1)週間イラク報道Pick up

13日 一部都市からの撤退可能 イラク首相、サマワ示唆か(共同通信)

12日 陸自、サマワ宿営地外で活動再開(読売新聞)

11日 英軍、イラク・ムサンナ県から撤退?自衛隊にも影響か(読売新聞)

10日 地元だけで治安維持可能 英紙報道にムサンナの警察(共同通信)

9日 劣化ウラン弾:イラク医師、小児がん治療学びに再来広/広島(毎日新聞)

8日 <イラク派遣>第4次復興支援隊がサマワ到着(毎日新聞)

7日 自衛隊標的と犯行声明=「イラクのイスラム軍」(時事通信)



2)イラク移行政権首相、多国籍軍の撤退期限の遵守を求める

 イブラヒム・ジャファリ移行政権首相は12日の国民会議で、「治安維持の努力は前進しており、一部の治安の安定している州では外国軍を都市部から撤退させることができる」と述べ、多国籍軍の撤退計画の具体化を暗に促した。

 ジャファリ首相は、ゼーリック米副長官との共同記者会見でも「イラク国家防衛隊が自力で治安が守れるようになれば、イラクを外国の軍隊から独立させることが出来る」と自衛隊が駐留するサマワを含むムサンナ州を含め、18の地域でイラク国家防衛隊が多国籍軍から治安維持活動を引き継ぐことを提案したと発表。英国でも、イギリス軍をイラクから撤退させる計画が大衆紙メール・オン・サンデーに流出、当局が慌てて否定するということがあったが、水面下で各国の軍の撤退計画が本格化している可能性がある。

 ジャファリ首相は12日、「多国籍軍の撤退時期はテロリスト達に左右されるのではなく、イラクのスケジュールによって決められなくてはいけない」とも発言、「イラクが安定するまで駐留を続ける」とするブッシュ大統領に釘を刺している。


3)米軍、米映画監督をイラクで2ヶ月間拘束

 本コーナーを担当する志葉も2003年6月に米軍に不当拘束されたことがあるが、「米国籍テロリスト」として拘束されていた米国人が、実は現地を取材中の映画監督サイラス・カー氏(44)であったことが判明、今月10日に解放された。

 カー氏は今年5月17日、イラク中部のバラドで米軍に拘束された。彼の乗っていたタクシーに「爆弾として使える部品」が荷物として積まれていたために、カー氏は拘束され、現地のFBI支局で取り調べを受けていた。米国防省は今月6日、「テロ活動に関与した疑いなどで計5人の米国人を拘束している」と記者会見で明かしたが、同日のニューヨーク・タイムズ紙は、拘束されている米国人の中にカー氏が含まれていることを報道。カー氏の家族も米国防総省を訴えていた。

 カー氏は先週末に解放されたものの、米軍はカー氏が撮った20時間分のフィルムとラップトップコンピューターを破壊してしまったのだという。



4)ファルージャ近郊で掃討作戦開始

 昨年4月と11月、米軍の大規模な無差別攻撃を受けたイラク西部の街ファルージャ近郊で、米軍による掃討作戦が先週木曜日7日から始まった。
 この作戦は「オペレーション・シミタール(三日月刀作戦)」と呼ばれ、ファルージャ南東30キロのザイダン地区で500人の米軍兵士と100人のイラク移行政権軍兵士が投入されている。米軍の発表によれば、作戦開始から二日後、22人の「容疑者」を拘束したとのこと。この作戦に参加している部隊は、第3偵察大隊と“コンバットチーム8”で、いずれも沖縄の基地で高度な訓練を受けている。

解説:ファルージャはバグダッド西方60キロにある人口30万人程度の町。イラクの中でも占領に最も頑強に抵抗してきた地域として知られ、昨年4月に住民700人以上が米軍の包囲攻撃により、無差別に虐殺された。米軍は昨年11月〜12月にも、ヨルダン人テロリストでアルカイダ幹部アブムサブ・ザルカウィ容疑者の殺害/拘束を大義名分に大規模攻撃を行い、少なくとも2000人近くの住民が殺害され、3000人の住民が「武装勢力」とし
て拘束されたとされる(詳細情報は志葉玲HPの当該ページを参照)。
ファルージャ総攻撃の主力部隊は沖縄キャンプ・ハンセンを拠点とする第31遠征海兵部隊であるなど、これらのジェノサイドに沖縄米軍基地が利用されていることは、日米安保条約にすら反する重大な問題である。

破壊されたファルージャ(04年6月志葉玲撮影)



5)米平和団体によるファルージャ近況の報告

 先月末30日、独立系ニュースサイト「エレクトリック・イラク」は米平和団体「クリスチャン・ピース・チーム(CPT)」が伝えるファルージャの近況を掲載した。
 
 現地調査は6月20日に行われ、CPTのメンバーたちの車は、午前10時頃、ファルージャ入り口の検問所に到着。55分後、無事検問所を通り抜け、メンバーたちは、ファルージャの病院を訪問した他、検問所や外出禁止令に悩まされる市民たちに話を聞いた。

 ファルージャの病院関係者によると、訪問前の5日間の間も米軍による空爆が2回行われ、一回目の空爆では1人が死亡、60人が負傷。2回目は6人が死亡し、10人が負傷したとのこと。現地の医療で特に問題となっているのは、夜間外出令で時間がかかることで、急患の連絡があっても、軍によるエスコートを待たねばならず、その間に患者が命を落とす例が多いのだそうだ。

 また、外部のイラク人がファルージャに入ることは原則禁止されているため、同市の経済状況は破綻しているのだという。



6)警察国家―嫌われるイラク警察とイラク軍
 
 フセイン政権下のイラクでは、警察や軍は市民を監視し、弾圧してきた圧制の道具であったが、最近のイラクでも、警察や軍は忌み嫌われ恐れられているようだ。報告はやはりクリスチャン・ピース・チーム(CPT)/エレクトリック・インティファーダ。

 CPTによれば、多くのイラク人たちはイラク警察やイラク国家防衛隊(ING)に対し「銃を持った凶悪犯」とのいう印象を持っているという。これらの治安当局者は、非常に横柄な態度で市民に接し、検問所では市民を侮辱する言葉を投げつけたり、暴力を振るったりすることも日常茶飯事なのだという。また、治安当局者の車両は、特に道路が込んでいるわけでもなくても、威嚇射撃を行い、一般市民の車を退かせて通り過ぎていくという。

 特に恐れられているのはイラク特殊部隊(ISF)だ。彼らは米軍によって訓練され、民家への突撃/家宅捜索や、大規模な軍事作戦にも参加する。中でも「ウルフ部隊」はきわめて残忍であり、多くの隊員はシーア派民兵組織の「バドル旅団」*の出身なのだという。あるイラク人の家族がCPTに語ったところによると、3人の兄弟がウルフ部隊に拘束され、後日、兄弟たちが殴られ自供を強要されているところをテレビで観たのだという。また、特殊部隊に拘束された市民が、数日後道端で死体となって発見されることも少なくないのだという。
 報告の結びで、CPTは「アメリカの下の警察国家はサダムの下のそれよりも悪質である」と最終的にイラクの治安機関を統括する米国を厳しく批難した。

*有力シーア派政治組織イラク・イスラム革命最高評議会の抱える民兵団。スンニ派宗教
指導者の殺害に関与しているとしてイラク・イスラム法学者協会が批難している。


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