済州島での海軍基地建設問題を考える(1)


済州島の概要
 済州(チェジュ)島は、韓国の南端にある島です。島は南北が短く、東西に長い楕円形で、中央には漢拏(ハルラ)山がそびえています。『ウィキペディア』によると、面積は1,845キロ平方メートルで、人口は約55万人とのことです。
 地元の人に話を聞くと、島の産業は、漁業・農業・観光が三本柱だそうです。島の市場をのぞくと、様々な魚が並んでいます。中でも特に太刀魚は、韓国本土のものよりも身が絞まっていておいしいそうです。私がラーメン屋さんで食べた激辛ちゃんぽん麺には、カニ・エビ・イカ・タコ・カイ類など地元の海産物が、山盛りで入っていました。農業はミカンの栽培と、黒豚肉の生産が有名とのことです。両方とも、市場にはたくさん専門店がありました。沖縄の市場と同じように、豚の顔や豚足なども見かけることができます。
 この島は、火山の噴火でできたのだと思いますが、そのために韓国本土とは異なった自然を見ることができます。島内の幾つかの自然公園がユネスコの世界遺産に登録されたこともあり、韓国国内はもとより、中国や日本からも大勢の観光客が訪れています。日本からの観光客は世界遺産めぐりだけではなく、男性はゴルフやカジノ、女性はドラマや映画のロケ地巡りなどに人気があるようです。成田空港と済州国際空港との間では、大韓航空とJALの共同運航便が1日に1往復しています。成田を朝9時ごろに出発して昼12時ころに済州島着、済州島を夕方6時ころに出発して夜8時ころに成田着です。
 済州国際空港は島の北側の海岸線のほぼ中央にあり、空港のそばには新済州・旧済州などの繁華街があります。一方島の南側には、高級リゾートホテル街の中文(チュンムン)や、ワールドカップが開催された西帰浦(ソギポ)があります。そして、そのチュンムンとソギポの中間に、韓国政府が海軍基地建設を行おうとしている、江汀(カンジョン)村があるのです。

海軍基地建設
 今年の5月、「済州島海軍基地阻止および平和の島実現のための汎道民対策委員会」執行委員長のホン・ギリョンさんが、沖縄を訪れました。5月15日の復帰の日に合わせた市民団体の集会や、5・15平和行進に参加するためです。この時に、ホンさんの話を聞く機会がありました。ホンさんによると、韓国政府が済州島での海軍基地建設を発表したのは、1993年のことだそうです。最初の候補地はファスという場所でしたが、住民による10年の反対運動の末に政府は建設を断念しました。次の候補地はウィミという場所でしたが、ここも強い反対運動にあって断念しています。そこで2007年5月に、韓国政府が最後の候補地として選んだのが、カンジョン村だったそうです。
 済州島は2002年にユネスコの生物圏保護区に登録され、2007年にはハルラ山など3か所が世界遺産に登録されました。また韓国のノ・ムヒョン前大統領は2005年に、済州島を「世界平和の島」としました。済州島の海岸には、多くの絶滅危惧種が生息しています。そうした島に海軍基地を作ることに、多くの島民が反対しているそうです。

カンジョン村
 済州島国際空港からカンジョン村までは、リムジンバスで約1時間です。バス停留所は村の中心にありますが、周辺はスーパーとコンビニエンスストアが3軒、飲食店が4〜5軒、旅館が1軒、ガソリンスタンドが1軒などで、非常に小さな村です。
 リムジンバスが通る道は、海岸線に並行して走っています。この道から海岸線までは、それほど遠くはありません。しかし現在では、鉄板のフェンスによって、村と海岸線は分断されています。海軍基地建設に反対する住民は、海岸線へでることのできる最後の1本の道を、座り込みで守ってきました。しかし9月2日の早朝、警察の急襲によって、そこにもフェンスが作られてしまいました。今では、村の人々はすぐそこにある海岸に行くことができないのです。

島内・村内での対立
 チェジュ島やカンジョン村の中にも、基地建設に賛成している人たちはいます。チェジュ島への基地建設が発表されたときに、当時の済州道知事や保守党のハンナラ党は賛成を表明しました。またカンジョン村では、基地建設賛成の人たちだけを集めた投票が行われて、賛成が可決されています。
 また韓国政府は、海女の人たちを懐柔して、補償金を出すことで漁業権を放棄させたそうです。カンジョン村で、平澤(ピョンテク)平和センターのカン・サンウォンさんに久しぶりにあいました。彼は、9月3日に行われる基地建設反対行事に参加するために韓国本土からやってきました。彼から聞いた話によると、基地建設の受け入れを巡って島内は2分されて、隣どうしの家でも話をしない、親子でも喧嘩をするという状態が続いているそうです。海軍基地建設によって、地域の共同体が破壊されてしまったというのです。

なぜ基地を作るのか
 はじめにも書いた通り、済州島は韓国の南端の島です。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の軍隊が、ここまで攻め込んでくることは考えられません。なぜ韓国政府は、この島に基地を作ろうとするのでしょうか。
 座り込みのテントで知り合った、民主労働党最高委員のメンバーでもあるキム・ソンジャさんも、「済州島には、敵が攻めてくることはない」と言います。彼は、「韓国海軍の基地ができれば、米海軍も使用することになり、それは中国に敵対するための基地だ」と解説してくれました。また「アメリカは済州島を、沖縄の替りにしようとしているのではないか」とも懸念しています。
 同様の話は、『ウィークリー・チェジュ』の記者、ダグラスさんに聞きました。沖縄では普天間基地の移転などを巡って住民の反米感情が強くなっているため、済州島に拠点を移そうとしているという説明です。沖縄に駐留する米軍の中心は海兵隊であり、チェジュ島に建設されるのは海軍基地です。沖縄の機能がチェジュ島に移転されるということはないでしょう。
 しかし米海軍が、横須賀基地・佐世保基地と、カンジョンの韓国海軍基地を一体的に運用して、中国を封じ込めようとしていることには容易に想像できます。(続く)


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