3月, 2026 | 平和フォーラム

2026年03月31日

核軍縮時代の終焉、加速する戦争準備  市民は戦争への道を阻めるか

渡辺洋介

1.新STARTの失効:54年ぶりに米ロ無条約時代へ

 2026年2月5日、米ロ間における唯一の核軍縮枠組みであった「新戦略兵器削減条約(新START)」が失効した。ロシアのプーチン大統領は2025年9月22日、条約失効後も少なくとも1年間は規定の上限数を自主的に維持する方針を提案していたが、米国のトランプ政権はこれに応じず、後継条約の交渉も停滞したままである。

 これにより、1972年の第一次戦略兵器制限交渉(SALT I)合意以来、54年ぶりに米ロ(ソ)間で核兵器を規制する条約が存在しないという異例の事態を迎えた。本来、核兵器はその絶大な破壊力ゆえに、抑止以外には合理的な活用が困難な「使えない兵器」である。そのため、無制限な軍拡競争に陥るよりも、軍備管理を通じて相互の軍事バランスを安定させる方が合理的利益にかなうと考えられてきた。しかし今、そうした「常識」さえ失われようとしている。

 2025年に発足した第2次トランプ政権は、既存の国際秩序や国際法を無視し、圧倒的な軍事力を背景に自国の国益を最優先する姿勢を鮮明にしている。こうした米国の動向を受け、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて軍拡に転じていた各国は、さらなる軍備強化を加速させている。本稿では、トランプ再登板後の核兵器をめぐる状況を概観し、今後の展望について考察したい。

2.トランプ再登板と欧州への関与縮小

 第2次トランプ政権の誕生は、既存の国際秩序を根底から揺るがし、各国をさらなる軍備強化へと駆り立てた。とりわけ米国が欧州安全保障への関与縮小を打ち出したことで、欧州各国で急速に軍拡が進んだ。

 その嚆矢は、2025年2月13日にブリュッセルで開かれたNATO国防相会議であった。ヘグセス米国防長官は、欧州の防衛は欧州自身が主たる責任を負うべきだと述べ、防衛費を従来の目標を大きく上回る「GDP比5%」へ引き上げるよう求めた。さらに2月28日の米ウクライナ首脳会談の決裂は、米国の欧州への関与縮小を象徴する出来事となった。米国は停戦後のウクライナへの大規模派兵を拒否し、その安全保障の主要な責任は欧州諸国が担うこととなった。

 こうして欧州諸国は米国に依存した安全保障政策の見直しと自主防衛力の強化を余儀なくされた。欧州連合(EU)は3月4日に「欧州再軍備計画」を発表し、総額8,000億ユーロ(約125兆円)規模の防衛投資を可能にする財政枠組みを示した。さらに北大西洋条約機構(NATO)加盟国は6月24日の首脳会議で、防衛費をGDP比5%へ引き上げることで合意した。

 米国の関与縮小は核兵器政策でも欧州独自の動きを促した。7月10日、イギリスとフランスは「ノースウッド宣言」を発表し、核戦略・運用の統合を強化する「核運営グループ」の設置に合意した。フランスのマクロン大統領は3月5日、フランスの核戦力による欧州同盟国の防衛について、戦略対話を始める方針を発表し、欧州独自の核抑止力強化に向けて一歩踏み出した。一方、英国は「NATOファースト」を掲げ、フランスと協力しつつも米国の核抑止力を含むNATOの枠組みを重視する姿勢を維持している。

3.米ロ核軍縮協議、進展見られず

 トランプ政権はバイデン政権よりロシアに対し融和的な姿勢を示しているものの、2025年を通じて米ロ関係は不安定なまま推移した。同年1月、トランプ大統領はダボス会議へのビデオメッセージで米中ロ3か国による核軍縮協議への意欲を表明した。ロシアも呼応したが、その後、具体的進展は見られなかった。

 最大の問題は、新STARTの後継条約に向けた交渉が進まなかったことだ。既述の通り、プーチン大統領は2026年2月の条約失効後も、戦略核保有数の上限を少なくとも1年間は相互に遵守するよう提案していた。しかし、米国側がこの提案を真剣に検討した形跡はなく、後継条約の交渉すら開始されないまま、2026年2月に新STARTは失効を迎えた。

 以前よりトランプ政権は、中国を含めた米中ロ3か国による新たな核軍縮枠組みに意欲を示してきた。しかし、具体的な対話の進展は見られず、多国間軍縮協議への言及も、既存の二国間枠組みを解消するための方便に留まっているとの見方も強い。

 こうした状況の下、米ロ両国は新たな戦略兵器の開発を続けた。2025年5月20日、トランプ大統領は全方位ミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム」を発表した。これは、従来の弾道ミサイルだけでなく、中国やロシアが開発を進める極超音速滑空兵器(HGV)など、あらゆる空の脅威から米本土を完全に保護することを目指すものである。

 そもそもHGVは、既存のミサイル防衛網を突破することを目的として開発された兵器であり、「ゴールデン・ドーム」の構築はそのHGVによって生じた「防衛の穴」を塞ぐことを意図している。仮にミサイル防衛が完全なものとなれば、敵国からの核による報復を無力化できるため、理論上は一方的な核攻撃を躊躇なく行える環境が整うことになる。したがって、「ゴールデン・ドーム」の開発は、とりわけ米中ロ3国の核抑止政策や軍備管理に対し、大きなインプリケーションがある。

 一方、ロシアは10月末、新型原子力推進巡航ミサイル「ブレベストニク」と新型原子力推進魚雷「ポセイドン」の実験成功を発表した。いずれも米国が所有していない核運搬手段である。これらは核爆発を伴う実験ではなかったが、トランプ大統領は核実験と誤認したのか、直後に自身のSNSで「核実験再開を指示した」と投稿する騒ぎが起きた。後にライト米エネルギー省長官が核爆発を伴う実験再開を否定したものの、実際に米国が核実験を再開していれば、核軍拡のエスカレーションを招きかねない危険な事態となるところであった。

4.中国の核実験疑惑を巡る米中の応酬

 2026年2月、新STARTが失効した直後のジュネーブ軍縮会議において、米国のトーマス・ディナノ国務次官は「中国が2020年6月22日にロプノール実験場で秘密裏に核爆発実験を行った」と主張した。米国側は、地下空洞を利用して地震波を減衰させるデカップリング技術が導入されたと述べ、マグニチュード2.75の地震波データをその根拠として提示した。これに対し中国側は、「米国の核実験再開を正当化するための捏造だ」と反発している。

 専門家の分析によれば、中国が核実験を行ったという確たる証拠はない。包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)は、「検知された地震波は極めて微弱であり、核爆発と断定するには不十分である」との見解を示している。また、戦略国際問題研究所(CSIS)が行った衛星画像分析でも、当時の実験場における大規模な爆発を裏付ける決定的な証拠は見つからなかった。(注1)

 こうしたトランプ政権による中国の核実験疑惑の主張は、中国が主張している通り、米国の核実験再開に向けた「大義名分」作りという側面があるのではないかと危惧される。あるいは、米国は中国を核軍縮交渉に引き込むための外交カードとして利用しているのかもしれない。

5.中国の核軍拡と軍幹部粛清

 このように米国側は攻勢を強めるが、中国の核戦力増強ペースは緩まっているという報告もある。米国防総省の「中国軍事力報告書」によれば、中国の核弾頭数は2022年の約400発から、2023年に約500発、2024年には600発超に達したと推定され、2030年には1000発に及ぶと予測されている。しかし、2025年版報告書では核弾頭数の増加ペースが鈍化したとの指摘がなされた。その直接的な理由は明示されていないが、ロケット軍を含む中国軍全体での汚職摘発と幹部粛清が軍指導部の混乱を招き、それが核軍拡の停滞につながった可能性も考えられる。2025年、中国軍内部では「反腐敗」を名目とする大規模な粛清が進行した。2023年に始まったロケット軍幹部処分は2025年には軍全体に拡大し、何衛東中央軍事委員会副主席ら指導層が共産党から除名された。軍関係中央委員の約20%が解任または汚職調査の対象となったとされている。こうした指導部の混乱が、急速に進められてきた核軍拡の停滞を招いた可能性は否定できない。

 一方で、軍事力増強のペースに変化は見られるものの、中国政府の核兵器政策そのものに大きな変更はない。中国政府は2025年11月、核兵器政策に関する白書を公表し、核兵器の「先行不使用」など従来の基本方針を改めて確認した。また、トランプ政権が提起した米中ロ3か国による核軍縮条約については、米ロが大幅な核軍縮を行わない限り協議に応じないとの立場を維持した。

6.戦争準備を加速する高市政権

 2025年10月、自民党総裁に高市早苗氏が就任した。その後、公明党が連立を離脱し、日本維新の会が政権に参加したことで、政権の安全保障政策は大きく右旋回した。10月20日に公表された自民党と維新の会の連立合意書には、安全保障関連三文書の前倒し改訂、原子力潜水艦の導入検討、武器輸出規制のさらなる緩和などが盛り込まれ、憲法の平和主義とは対極の軍事強国路線をさらに進める方針が示された。

 こうした中、核兵器政策にも変化の兆しが見られた。高市首相は11月11日の国会答弁で、安保三文書改定時の非核三原則堅持について「確定的に申し上げる段階にはない」「あらゆる選択肢を排除しない」などと述べ、見直しの可能性を示唆した。なお、「持ち込み」の際の事前協議の必要性をめぐっては、核搭載艦の寄港・通過を含むとする日本側と含まないとする米側との間で理解の相違があったことが指摘されている。

 さらに深刻なのは、12月18日、国家安全保障・核軍縮不拡散担当の尾上定正首相補佐官が、オフレコの場で「日本は核兵器を保有すべきだ」と発言したことである。この発言に対し、メディアや市民社会からは強い批判の声が上がったが、高市政権は口頭注意のみで同氏を続投させた。こうした対応は、日本の核武装に対する警戒心を呼び起こし、近隣諸国に軍備拡張を正当化する口実を与えかねない。

7.いま、市民社会の真価が問われる

 第2次トランプ政権下で米ロ軍備管理体制は崩壊し、世界は「力による支配」が横行する無秩序な時代へと逆行した。日本を含む各国が戦争準備を加速させ、核兵器という「負の力」への依存を強める中、人類は再び世界戦争への道を一歩一歩進んでいる。もはや政治の営みにのみ委ねていては、この破滅的な歩みを止めることは困難と言わざるを得ない。

 これまで、力に依拠する国際社会に歯止めをかけてきたのは、市民社会による国際的な連帯運動であった。対人地雷禁止条約(1997年)、クラスター爆弾禁止条約(2008年)、そして核兵器禁止条約(2017年)の成立において、市民社会は決定的な役割を果たした。今こそ平和を希求する世界の市民が連帯し、第三次世界大戦という破局への道を阻むため、行動を起こすべき時が来ている。

注1:戦略国際問題研究所(CSIS)HP
https://www.csis.org/analysis/satellite-imagery-analysis-chinas-alleged-2020-nuclear-test-lop-nur

2026年03月25日

ニュースペーパー News Paper 2026.3

3月号もくじ

News Paper 2026.3

表紙
*おしどり マコさん、ケンさんに聞く
*熊本・健軍駐屯地ミサイル配備反対のたたかい
*排外主義にNO 全国キャンペーンについて
*フクシマ連帯キャラバンについて
*原水禁・脱原発への歩み③
*2月8日を「ポイント・オブ・ノーリターン」にせぬよう

2026年03月18日

イラン攻撃の即時停止に向けた外交努力を求める要請

平和フォーラムは3月18日、19のNGO・市民団体と連名で、高市首相に対して、イラン攻撃の即時停止に向けた外交努力を求める要請を送付しましたので、お知らせします。

イラン攻撃の即時停止に向けた外交努力を求める要請

内閣総理大臣 高市 早苗 様

米国およびイスラエルによるイランへの軍事攻撃は、イラン国内ではすでに1300人以上ともいわれる市民の生命を奪っています。そのなかには、米国による小学校への爆撃により失われた多くの子どもたちの命も含まれます。イランによる周辺国への攻撃や、イスラエルによるレバノンへの攻撃も重なって、中東全域が破滅的な戦火に陥りつつあります。世界経済への影響も甚大であり、事態は一刻の猶予も許しません。

さらに、原油の流出や火災、爆撃等によって大量の温室効果ガスや有害化学物質が排出され、水や空気、土壌や生態系が深刻に汚染されています。世界保健機関は、先日のイランの石油施設への攻撃後に降った黒い雨が健康被害をもたらし、深刻な大気汚染を引き起こしていると警告しました。戦争は最大の環境破壊であり、将来世代に健康被害を残し、生態系を壊滅させ、気候危機を加速させます。

日本国内の世論調査では、圧倒的多数の人々がこの軍事攻撃を「支持しない」と回答しています。3月19日に日米首脳会談に臨む高市総理におかれましては、トランプ米大統領へ以下の通り強く働きかけ、毅然とした外交姿勢を示すよう要請いたします。

1. 国際法の遵守と即時停戦

現在行われている軍事攻撃は、主権国家に対する武力行使を禁じた国連憲章第2条4項に明白に違反するものです。法を無視した軍事攻撃を続けることは、さらなる混沌と憎しみの連鎖を招きます。米国が、イランへの軍事攻撃を直ちに停止するとともに、イスラエルに対してもイランおよび周辺国への軍事攻撃の即時停止を働きかけるよう、日本政府として強く求めてください。

イランによる反撃が民間人の命を奪い、危険にさらしていることは由々しきことです。私たちはイラン政府に対してもそうした行為の停止を求めています。しかし、事態の経緯からして、まず米国が攻撃を停止しなければこの危機が収束しないことは明らかです。

2. 軍事協力および財政支援の拒否

日本は米国主導のこの戦争に、いかなる形でも協力すべきではありません。報道によれば、米海兵隊が在日米軍基地からイランに向けて出撃しており、さらにトランプ大統領は、日本に対してホルムズ海峡の安全確保のための自衛艦派遣を期待しているとのことです。しかし、日本は、自衛隊を派遣すべきでないことはもちろん、軍事費の財政支援も、断じて行うべきではありません。
その理由は、以下のとおりです。

● 法的根拠の欠如:2015年の安保法制の違憲性の疑いはさておいたとしても、憲法および現行法に照らして、日本が今回の軍事行動に対して自衛隊を派遣することを正当化しうる法的根拠は皆無であり、実施は不可能です。
● 現場の危険性:戦火が拡大する中での自衛隊の派遣はあまりに危険であり、隊員の命を不当なリスクに晒すものです。
● 外交的代償:万が一日本が、財政面を含め、支援を行えば、長年築いてきたイランとの友好関係のみならず、中東諸国やグローバルサウス諸国からの信頼を決定的に損なうことになります。

3. エネルギー安全保障と経済的安定への道

ホルムズ海峡の安定化と原油やLNGの安定供給は、日本にとって死活的な課題です。しかし、そのために必要なのは戦争への加担ではなく、戦争を今すぐ止めさせることです。軍事衝突の激化こそが供給網を破壊する最大のリスクであり、平和的な解決こそが日本のエネルギー安全保障を担保する唯一の道です。

そして、長期的には、輸入化石燃料に頼る社会から脱却していくことが必要です。

4. 核問題は外交で解決を

今回の軍事攻撃の「理由」とされたイランの核開発問題は、重大な問題ですが、外交によって解決すべきです。軍事力では核問題は解決できません。そもそも米国もイスラエルも核兵器を保有しています。米国は核不拡散条約(NPT)のもとで核廃絶への義務を負っており、イスラエルは自身の核保有について情報公開を求められています。今のままでは、国際的な核不拡散体制そのものが破壊されてしまいます。

一昨年の日本被団協のノーベル平和賞受賞は、核兵器が「絶対悪」であることを世界に再認識させました。イランの核開発問題は、来月開かれるNPT再検討会議や核兵器禁止条約などを通じて外交的に解決すべきであることを、米国に強く促してください。

友好国が過ちを犯しているときに、それに盲従したり忖度したりすることは、責任ある国家の行動とはいえません。国際的な「法の支配」が危機にある今こそ、「平和国家」を標榜してきた日本の外交の真価が問われます。歴史の正しい側に立ち、真の意味で国民の安全と国際社会の安定につながる外交を展開されることを、強く求めます。

2026年3月18日

APLA
ANT-Hiroshima
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)
WE WANT OUR FUTURE
FoE Japan
オルター・トレード・ジャパン
核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)
グリーンピース・ジャパン
原子力資料情報室
原水爆禁止日本協議会(日本原水協)
原水爆禁止日本国民会議(原水禁)
Japan Emergency Peace Action: 平和を求める緊急アクション
日本国際ボランティアセンター
日本平和委員会
パルシック
ピースデポ
ピースボート
フォーラム平和・人権・環境(平和フォーラム)
Voice Up Japan
許すな!憲法改悪・市民連絡会
(以上20団体、50音順)

2026年03月17日

【クラウドファンディングも実施中!】「つながろう 憲法いかして平和な世界を! 2026 憲法大集会」開催のご案内

今年(2026年)5月3日の憲法記念日は、東京・有明防災公園で「つながろう 憲法いかして平和な世界を! 2026 憲法大集会」を開催しますので、ご案内します。詳細内容は下記サイトに順次掲載されます。

>>つながろう 憲法いかして平和な世界を! 2026 憲法大集会サイトへ<<

なお、憲法集会の成功に向け、クラウドファンディングに挑戦しています。ご支援いただき、またご家族・ご友人・お知り合いにもご紹介していただくことをお願いします。

「平和憲法の危機」だからこそ、5月3日、憲法集会を成功させたい!
クラウドファンディングへのご協力をお願いします!

https://readyfor.jp/projects/kenpou2026

クラウドファンディング案内チラシ( PDF )

つながろう 憲法いかして平和な世界を! 2026 憲法大集会

→チラシデータはこちら( PDF )

日時:5月3日(日) 11時~ ※メインステージ13時開始

場所:東京・有明防災公園(東京臨海広域防災公園・東京都江東区有明 3-8-35)
※りんかい線「国際展示場駅」より徒歩 4分/ゆりかもめ「有明駅」より徒歩2分

【イベントスケジュール】

11:00~12:30 サブステージ

A「自由に話そうトークイベント」
B「女たちが集まれば変えられる!めっちゃ楽しい未来をつくろう!」
C「こども憲法ひろば」
D「Human Music ライブ」

12:30~ オープニング

パンクロッカー労働組合・村上豪さん

13:00~ メインステージ

主催者あいさつ
国会議員あいさつ
スピーチ
市民連合あいさつ
リレートーク
クロージング 「HEIWAの鐘」合唱

14:30〜16:30 パレード開始

主催:平和といのちと人権を!5.3憲法集会実行委員会

2026年03月06日

イラン戦争の序章としてのイラン核合意崩壊

役重善洋

はじめに:イスラエルと米国のイラン攻撃

 本稿では、第二期トランプ政権発足後、イラン核合意が最終的に破綻した過程、とりわけその紛争解決メカニズムが機能不全に陥ったプロセスを追う。まず本題に入る前に、脱稿直前に始まった米・イスラエルによるイラン攻撃の状況を確認しておきたい。

 2月28日、イスラエルと米国はイランに対する大規模攻撃を開始した。昨年6月13日に開始された「12日間戦争」のときと同様、米・イラン間の核交渉が進められている中での騙し討ち的奇襲攻撃から始まった。2月6日、17日、26日とオマーンで行われた間接協議の3回目終了後には、仲介国のオマーンが「大きな進展」があったとし、3月2日にIAEAを交えての第4回協議が予定されていたが、これらの協議は、開戦準備が整うまでの時間稼ぎであったという分析が説得力を持たざるを得ない。

 昨年の攻撃ではまずイスラエルが核施設や革命防衛隊司令官や軍参謀長、核科学者などをターゲットにした他、防空レーダー施設も破壊し、その上で、米国がウラン濃縮施設に対する攻撃を行った。イランはイスラエルに対しては本格的な報復攻撃を行ったが、米国に対しては、カタルの米空軍基地への限定的ミサイル攻撃に留め、結果的に米国の強い意向で停戦合意がなされた。

 イランの防空体制を弱体化した上で、米空母2隻を投入した今回の攻撃は、「壮絶な怒り」作戦と名付けられ、最初から米・イスラエルの共同作戦として行われている。開戦直後、トランプ米大統領とネタニヤフ・イスラエル首相がそれぞれ出した声明にはイラン国民に対する政権転覆の呼びかけが含まれていた。初日の攻撃で最高指導者ハメネイ師やナシルザデ国防相、ムサビ参謀総長、パクプール革命防衛隊司令官らの殺害に成功した。ミサイル製造拠点などが標的となっているようであるが、イラン南部ミナブでは女子小学校が攻撃され、180名の生徒・教員らが死亡した。

 イラン側も、イスラエルに対するミサイル攻撃に加え、周辺アラブ諸国(バハレーン、カタル、サウジアラビア、UAE、ヨルダン)の米軍基地や米国大使館、石油関連施設、空港などに対してドローンおよびミサイルを用いた攻撃で応戦している。

 現状で言えることは、イラン核合意の崩壊が、イスラエルと米国のイラン攻撃の前提条件となったということであり、2018年の米国の合意離脱以降、着々とイラン攻撃に向けた条件づくりがされてきたということである。以下、そのプロセスを検証する。

1.イラン核合意の紛争解決メカニズムと米国の合意離脱

 2015年にイランとE3/EU+3(英仏独EU+米中露)の間で成立したイラン核合意は、核開発問題をめぐる対イラン制裁の解除と引き換えにイランの核開発に対する制限・監視を定めたもので、共同包括的行動計画(JCPOA)とそれを承認する国連安保理決議2231号から成る。米・イラン間の信頼関係がない中、技術的に複雑な手続きを要する合意を成立させるため、核開発等に関する規制を段階的に解除するサンセット条項など、イラン核合意にはいくつかの特徴的な取り決めが含まれることになった。それらの複雑な取り決めは、2018年に米国が一方的に合意を離脱し対イラン制裁を復活させて以降、条文の解釈をめぐる対立の原因となった。

 問題の焦点となったのは紛争解決メカニズムで、JCPOA第36条には、核合意参加国が他の参加国による合意不履行があると考えた場合、一定の手続きを経た後、応報的に合意の履行を部分的ないし全面的に停止することができるとされている。さらに第37条では、イランによる重大な合意不履行については、他の参加国が36条の手続きを尽くした後に国連安保理に通告することで、30日を経た後に安保理によるイラン制裁決議の解除取消しを可能とするスナップバック条項が別途定められている。

 このスナップバック条項は、安保理決議2231号の方でも規定されており、その実効性を保証する形式が取られている。ただし、JCPOAにはこの決議が発効後10年で無効となる「終了日」を定めたサンセット条項があり、その期限は2025年10月18日とされている。ちなみに第一期トランプ政権は、2020年10月18日に対イラン武器輸出規制の終了を定めたサンセット条項の失効を止めるためにこの条項を発動しようとしたが、他の合意参加国は、合意を離脱した米国にその資格はないとの判断で一致し、その試みは挫折していた。

 後述するように、安保理決議失効の期日が近づくにつれて、JCPOAに残る「西側諸国」である英仏独がスナップバックを発動するかどうかに再び注目が集まることになった。他方、第二期トランプ政権は、「最大限の圧力」政策を背景にイランに対して、ミサイル開発への制限やヒズブッラー等国外組織への支援中止などを含めた新たな合意を迫り、いわばJCPOAの内側と外側の両方でイランは対応を迫られることとなった。

2.「未申告の核物質」問題とウラン濃縮問題――IAEA決議

 核問題に関するイランに対する圧力として、英仏独のスナップバック条項発動の動きや米国の軍事的・経済的圧力とは別に、IAEAが追及してきた「未申告の核物質」問題にも言及する必要がある。これは、20年以上前の核活動に関するもので、イラン核問題の出発点に議論を戻す性格を持つ。IAEAは、JCPOA成立を受け、2015年12月に過去の核開発疑惑に関する調査を終了すると宣言していたが、2018年にイスラエルがイランから超法規的に入手したと主張する核開発計画の関連ファイルの情報に基づき査察した未申告の場所から人為起源のウラン粒子が検出されたことについて、調査終了を宣言したものとは別の問題だとして2019年より繰り返しイランに説明を求めてきていた。イランは、この要求が、①イスラエルの誤情報に基づくものであり、②核合意を受けてIAEAが過去の核開発疑惑に関する調査を終了すると宣言したことに反しており、また、③イランとして調査をしたが問題とされるウラン粒子が検出された原因は不明であるとして、IAEAがこの問題を追及し続けることに強く反発し、理事会で非難決議が出る度に報復措置としてIAEAへの協力のレベルを下げるなどの措置を取ってきた。

 イランは、米国の合意離脱から1年後の2019年5月以降、米国の制裁復活に対する報復措置として段階的に核活動を活性化させ、JCPOAによる制限を超えたウラン濃縮を進めてきた。このことに関して、JCPOAに残る5か国の中で、英仏独とイラン・中露では見解が大きく分かれる。英仏独はイランがJCPOAの規程に違反していると主張しているが、イラン・中露は、イランが米国の一方的合意離脱と制裁復活に対する対抗措置として、JCPOAの紛争解決メカニズムに従って履行義務の相互的停止の権利を行使しているに過ぎないと主張している。

 2025年3月のIAEA四半期報告書で、イランは、核兵器6個分と換算できる275kgの60%濃縮ウランを貯蔵するとされた。この報告書が出てから間もなくしてトランプ大統領はイランに対し新たな核交渉の開始を呼びかけ、武力攻撃をほのめかしつつ2か月以内の合意を迫った。これを受け、4月から5月にかけてオマーンの仲介により5回にわたる間接協議が行われたが、ウラン濃縮活動の全面的中止を求める米国と平和的原子力開発の権利行使を絶対条件とするイランとの間で交渉は難航した。

 第6回目の交渉日程が折衝される中、IAEAは、5月31日付四半期報告書で60%濃縮ウランが408kgに増加したと報告した。さらに6月12日には「未申告の核物質」問題に関するイランのIAEAへの非協力は、NPTの保障措置協定違反にあたるとの決議を理事会で採択した。IAEAによるイラン非難決議は2020年以降、6回目になるが、保障措置協定違反だと断定したのは初めてのことであった。

3.イスラエル・米国のイラン攻撃(2025年6月)

 決議翌日の13日未明、イスラエルは200機以上の戦闘機でナタンズのウラン濃縮施設などの核施設や軍幹部・核科学者の自宅などを奇襲攻撃した。同日、イランは弾道ミサイルで報復攻撃を開始し、以後断続的に交戦状態が12日間にわたり続いた。イラン側で死者1000人以上(内軍人が800人弱)、イスラエル側で死者28人(内軍人が1人)を出した。22日には米軍が参戦し、フォルドウの地下深くに建設されたウラン濃縮施設にバンカーバスター爆弾GBU-57/Bを14発投下するなど、イランの核施設3か所を攻撃した。23日、形式的な報復としてイランがカタルの米空軍基地をミサイル攻撃した後、停戦合意が成立し、「12日間戦争」は終結した。

 イスラエルの攻撃に対するグロッシIAEA事務局長の声明は、平和目的の核施設への攻撃を国連憲章違反とするIAEA総会決議を引用しつつ、「原子力の安全、核セキュリティ、保障措置、そして地域および国際の平和と安全保障に深刻な影響を及ぼす」というもので、核不拡散体制そのものが攻撃されているとの認識は十分に示されなかった。米国の攻撃に際して出された緊急安保理における6月22日のIAEA事務局長の声明では、冒頭で「半世紀以上にわたり国際安全保障を支えてきた核不拡散体制が危機に瀕している」との認識が示されたが、米国の核施設への攻撃が違法である可能性について総会決議の引用というかたちであれ明示されなかった点においては後退した印象もあった。

 イランは、IAEA事務局長の姿勢を「西側寄り」だとして強く反発し、25日には国会がIAEAとの協力を停止する法案を可決した。7月4日、IAEAはイランからすべての査察官を退去させ、イランの核活動に対する査察体制は途絶した。米・イラン間の核協議も当面再開の見込みは失われた。

4.スナップバック発動をめぐる国連安保理の分裂

 イスラエル・米国のイラン攻撃に伴う信頼関係の崩壊は、英仏独によるスナップバック発動を確実なものとしたように思われる。7月14日、E3が8月末にスナップバック発動を行う決定をしたとの報道があり、イランは、国連事務総長および安保理議長宛書簡を通じて、イランは米国による核合意離脱と制裁復活から二日後(2018年5月10日)にJCPOAの紛争解決メカニズムを発動しており、その枠組みにおいてJCPOA履行義務を段階的に解除してきたことに対し、E3はスナップバックを発動する権利を持たないと主張した。これに対し、E3は、そもそもイランによる紛争解決メカニズム発動を認めていない立場を示したが、その根拠については述べていない。仮に紛争解決メカニズム発動が有効だとすれば、イランの主張する通り、E3の合意不履行に対する報復措置として取られたイランの行動についてE3が合意不履行として申し立てることは、「自らの義務を否認したり、履行しなかったりする当事者は、その関係から生じると主張する権利を保持しているとは認められない」とする国際法上の原則に反することになる。

 E3は、8月28日にイランの核活動をJCPOAの著しい不履行であるとして安保理議長に通告し、スナップバックを発動した。国連安保理はイラン制裁関連決議解除の継続を求める決議案を9月19日に否決し、28日に事実上イラン制裁が復活した。同日、日本外務省も制裁決議の再適用を確認する談話を発表した。しかし、常任安保理国のロシアと中国はイランと共に、英仏独によるスナップバック発動は無効だとの立場を維持し、安保理決議2231号が無効となるとされていた10月18日には、同決議およびそれ以前の制裁関連決議がもはや無効であることを確認する書簡を安保理に提出した。しかし、安保理のHPでは過去の制裁決議に関わる委員会の記述が復活し、12月には事務総長による決議2231号の履行状況に関する定期報告書が提出されるなど、スナップバック成立を前提とした動きが進んでいる。

 もともと、イランによる合意違反への予防策として導入されたスナップバック条項が、米国の合意離脱に伴う制裁復活への対抗措置を理由に発動されたことは、決議2231号が法的に有効かどうかをめぐり安保理が分裂するという前代未聞の状況を生み出した。これは、拒否権による安保理の機能不全とは質的に異なる事態であり、安保理の機能崩壊ともいうべきものである。当面は米国主導の「力による平和」を暴力的に実現しようとする動きが国連の平和構築機能に取って代わろうとする動きが続くものと考えられる。

おわりに:崩れ行く国際法秩序と日本の選択

 国連制裁の事実上の復活は、通貨リヤルの暴落をもたらし、2025年12月末には首都テヘランで経済的に追い詰められたバザール商人らによるデモが行われた。これを契機に反政府デモが全国的に拡がり、1月2日にはトランプ大統領が軍事介入を仄めかすSNS投稿を行った。デモ隊が外部勢力の支援を受けているとの確証の下、イラン政府は1月8日から9日にかけて治安部隊側も含め数千人規模の犠牲者を出す大規模な弾圧作戦を行い、デモは鎮静化に向かった。この事態を受け、トランプ大統領は空母打撃群の中東への追加配備を決定し、これが今回の大規模攻撃に直結する動きとなった。

 以上に述べたような状況は帝国主義時代への逆行のようにも見える。2026年1月、トランプ大統領はニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで「国際法は必要ない」と豪語し、2月に入り、ルビオ国務長官はミュンヘン安全保障会議で「西洋文明」の再生を訴え、ハッカビー駐イスラエル大使は、自身のポッドキャスト番組で「エジプトの川から大河ユーフラテスまで」が、神がユダヤ人に与えた土地だとして「彼らが全て奪取すれば問題ない」と述べた。こうした世界認識が米国のイスラエル支援とイラン攻撃の背景にある。このような歴史の退行に対して日本の政治と市民社会がいかなる姿勢を見せるかが今、知的・倫理的にも厳しく問われている。

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