8月, 2026 | 平和フォーラム

2026年08月31日

安保三文書改定を問う:人的資源も財源も枯渇する日本は軍拡を続けるのか 「共通の安全保障」こそが合理的選択

渡辺洋介

1.はじめに

 2025年10月、自民党と日本維新の会による連立政権が誕生し、高市政権が発足した。両党の連立合意および2026年6月に示された両党の安保提言、とりわけ軍拡方針を一段と前面に押し出した維新の提言には、防衛費増額や長距離ミサイルの配備、さらには非核三原則の再検討や原子力潜水艦の導入検討に至るまで、急速な軍拡路線が明記されている(注1)。

 しかし、この急速な防衛力強化の陰で、中国、ロシア、朝鮮民主主義人民共和国(以下、「北朝鮮」)といった近隣諸国との対話を通じた緊張緩和や、軍拡競争のリスク管理が、著しく欠如している。対話なき軍拡路線は、周辺諸国との軍備競争を激化させ、不測の事態から武力紛争へと波及するリスクを高めるだけである。

 また、中長期的視点から政策を考えることも大切である。30年後の日本は、継続的な少子高齢化により、人口およびGDPの減少に直面しているだろう。仮に防衛費の大幅増額を「安保三文書」に書き込んだとしても、人口減により現場の自衛官の不足は避けられない。また、GDPの減少は、税収の落ち込みを招きかねず、巨額の防衛費は大きな負担となるであろう。

 いま日本が突き進もうとしている軍拡の道は、果して持続可能な合理的選択なのだろうか。本稿では、軍拡を続けることの非合理性を指摘し、対話と外交による「共通の安全保障」への転換を提言する。

2.人的資源も財源も確保できない軍拡路線

 防衛省の最新資料によると、2026年3月31日の自衛官数は、定員24万7,154人に対して、現員は21万7,701人にとどまっている(充足率88.1%)。特に、現場を担う若手隊員の多い「士」階級は、定数5万3,166人に対して現員が3万729人にとどまり、充足率は57.8%と6割を下回っている。若年層の採用難は極めて深刻である(注2)。

 自衛官の採用難は今後一層激化すると見通されている。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(2023年推計)」によれば、若年人口(18~30歳)は2025年の約1,600万人から、2035年には約1,470万人、2045年には約1,230万人へと約23%減少すると予想されている(注3)。ごく単純に、2026年の充足率約58%から23%減少するとすれば、2045年の士の充足率は約45%にまで低下する。他産業との労働力争奪戦、進学率の上昇などを考慮すれば、実際の充足率はさらに下がるであろう。

 日本維新の会の安保提言は、人員不足への対策として「ドローン等の無人化・自動化や業務効率化」を掲げているが、上記のような大幅な人員不足を補う解決策としては全く不十分である。さらに、無人アセットや高度な兵器体系の運用・維持・サイバー防衛には、IT分野に明るい専門人材が不可欠である。こうした人材は民間でも需要が高く、民間との争奪戦は免れない。人的資源の枯渇という構造的問題を無人化技術だけで覆すことは非現実的である。

 少子化が進む日本では、巨額の防衛予算を投入して長射程ミサイルや潜水艦などの最新装備を揃えたところで、それを運用し、現場で維持・管理する「人」を集められる中長期的な見込みがない。日本はすでに人的側面における軍拡がほとんど不可能な国なのである。

 さらに、日本経済研究センターの試算によれば、人口減少に伴い日本の実質GDP成長率は2032年から恒常的なマイナス成長へ転じると予想している(注4)。トランプ政権は同盟国に対してGDP3.5%まで防衛費を増やすことを求めているが(注5)、日本がこれに応じれば、例えば、社会保障費の大幅カットや増税など、他の分野において極めて大きな犠牲を生み出すことになりかねない。しかも、社会保障を犠牲にして巨額の予算で防衛装備を揃えても、それを運用する人が確保できない。中長期的な人口減少・経済縮小が予測される中で進める軍拡路線は、安全保障政策としても経済政策としても、合理的な選択とは言えないだろう。

3.人口動態から見る30年後の東アジア――軍拡競争は持続可能なのか

 東アジアにおける安全保障環境を検討する際、中国、ロシア、北朝鮮といった周辺諸国の長期的な人口動態を見ることも不可欠である。各種研究は、これら3国もまた日本と同様に少子高齢化と人口減少の時代を迎えることを示している。

 まず中国について、国連の「世界人口の展望 2024年」によると、中国の15~64歳人口は、2020年代の約9億8,000万人から2050年代には約7億5,000万人へ減少すると見込まれている。減少幅は約2億3,000万人、約24%に及ぶ(注6)。

 ロシアでも少子高齢化による人口減少が進むと予測されている。国連の「世界人口の展望 2024年」によれば、ロシアの人口は2020年の約1億4,600万人から2050年には約1億3,500万人程度へ減少するとのことだ(注7)。

 北朝鮮も例外ではない。韓国統計庁や国連の人口推計によれば、北朝鮮の合計特殊出生率は近年1.8前後まで低下しており、人口の高齢化も進んでいる。韓国銀行の推計によれば、北朝鮮では1990年代以降の出生率低下を背景に、2021~2030年中に生産可能人口および総人口が減少へ転じると予測されている。また、65歳以上人口の割合は1990年の4.5%から2030年には16.1%まで上昇し、2020~2030年中に「高齢社会」へ移行すると見込まれている(注8)。

 一方、米国では、今後も移民による人口増加が続くものの、高齢化は進展すると予想されている。米国国勢調査局の2023年人口推計の中位シナリオによれば、米国の人口は2020年代から緩やかに増加し、21世紀後半にかけて増加が鈍化する。ただし、移民流入の水準が低い場合には人口減少への転換時期が早まると予想されている(注9)。

 これらのデータが示すように、中国、ロシア、北朝鮮も、日本と同様に少子高齢化に伴う人口減少という問題に直面することが予想されている。生産人口が減少すれば、生産効率が上がらない限り、GDPは縮小することになる。GDPが縮小すれば、税収の維持が困難になり、高い防衛費は大きな負担となる。また、少子化が進めば、兵士の募集は困難になる。少子高齢化が進めば、軍事力を支える人的・経済的基盤が縮小するのである。

 一方、米国は移民などによって人口動態が比較的有利であり、日中露などとは条件が異なるものの、米国についても、30年後の世界においては、少子高齢化が進み、今日より経済成長の制約は強まるであろう。そうした見通しがある中で、各国が相互に軍事力を増強し続けることは、合理的な安全保障戦略と言えるのだろうか。高市政権による軍拡路線は、こうした中長期的な趨勢を度外視して進められていないだろうか。

4.人口減少時代における合理的選択:「共通の安全保障」

 すでに述べた通り、30年後の世界では、各国で少子高齢化がさらに進み、軍事力を支える人的・経済的基盤がいっそう縮小することが予想されている。そうした中で軍拡競争を続け、軍事力に大きく依存した安全保障政策を取り続けることは、持続可能な「合理的選択」とは言い難い。

 こうした状況が求めるのは、「1982年の軍縮と安全保障問題に関する独立委員会(通称パルメ委員会)報告書」(注10)が提唱した「相手国の安全を損なわずに自国の安全も高める」『共通の安全保障』への転換である。ヨーロッパにおいて「全欧安全保障協力会議(CSCE、現OSCE)」が東西冷戦期の対話と危機管理を担ったように、東アジアにおいても同様の多国間安全保障枠組みを再起動させねばならない。

,p> すでにこの地域には「ASEAN地域フォーラム」や「東アジア首脳会議」といった対話の枠組みが存在する。軍事的な抑止力のみに依存するのではなく、対話の枠組みを積極的に活用し、日本と中国、ロシア、北朝鮮などの周辺諸国との意思疎通を深め、無用な軍拡競争や緊張激化を防ぐことが、すべての関係国にとっての「合理的選択」である。中長期的に不可避な人口減少社会において、武力による抑止ではなく、対話と外交によって地域の安定を創り出すことこそが、最も持続可能で現実的な安全保障戦略ではなかろうか。

注1 日本維新の会「提言『危機の30年時代』の国家安全保障」(2026年6⽉17⽇)
https://o-ishin.jp/news/2026/images/0937ba3b98091a8db9536c6b98d3b6ba4af89fce.pdf
注2 防衛省「令和8年度版 日本の防衛 防衛白書(資料編)」(2026年7月)
https://www.mod.go.jp/j/press/wp/wp2026/pdf/R08shiryo.pdf
注3 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(2023年8月31日)
https://ipss.repo.nii.ac.jp/records/2000593
注4 日本経済研究センター「第47回中期経済予測」(2021年3月24日)
https://www.jcer.or.jp/economic-forecast/20210322.html
注5 2026年シャングリラ会合におけるピート・ヘグセス戦争長官の発言(実際の発言どおり)(2026年5月30日)
https://www.war.gov/News/Speeches/Speech/Article/4504755/remarks-by-secretary-of-war-pete-hegseth-at-the-2026-shangri-la-dialogue-in-sin/
注6 国連「世界人口の展望 2024年:データセット」
https://www.un.org/development/desa/pd/content/World-Population-Prospects-2024?utm_source=chatgpt.com
注7 同上
注8 イ・ジュヨン・キム・ソンジュン「北朝鮮脱出住民調査からみた北朝鮮の出生率低下傾向と南北朝鮮の人口統合への示唆」(2023年12月)
https://www.bok.or.kr/imer/bbs/P0002455/view.do?menuNo=500535&nttId=10081298&utm_source=chatgpt.com
注9 米国国勢調査局「2023年全国人口推計」
https://www.census.gov/data/tables/2023/demo/popproj/2023-summary-tables.html?utm_source=chatgpt.com
注10 パルメ委員会(編)『共通の安全保障: 核軍縮への道標パルメ委員会報告書』(NHK出版、1982年)

2026年08月25日

ニュースペーパー News Paper 2026.8

8月号もくじ

News Paper 2026.8

*NPT 再検討会議で大活躍した大学生にきく

*平和な世界を作るのは私たち 全国ブロック集会

*「私たちの憲法」とはどんな存在?

*呉を再び侵略の拠点にさせない

*『非核三原則-いま何が問われているのか』

*憲法理念の実現を求める全国署名を全力で

2026年08月19日

「戦後81年 戦争犠牲者追悼、平和を誓う8.15集会」を開催しました

8月15日、平和フォーラムは千鳥ヶ淵戦没者墓苑において「戦後81年 戦争犠牲者追悼、平和を誓う8.15集会」を開催し、約200人が参加しました。

正午に黙とうを行い、平和フォーラムから染裕之・共同代表が「平和への誓いと慰霊のことば」(本記事下部に掲載)を捧げました。

続いて、立憲民主党の吉田忠智・参議院議員、社会民主党の福島瑞穂・参議院議員、戦争をさせない1000人委員会の内田雅敏・事務局長がそれぞれ追悼のことばを述べました。

その後、平和フォーラム構成団体代表および参加者が墓前に献花を行いました。

平和フォーラムはすべての戦争犠牲者を追悼し、不戦の誓いをあらたにするとともに、いまなお解決していない戦争被害に対する謝罪や賠償などの問題の解決に向け、引き続きとりくみをすすめていきます。

平和への誓いと慰霊のことば

先の大戦から81年の歳月が過ぎ去りました。愛する家族を案じつつ心ならずも戦場に倒れ、あるいは戦後、異郷の地に亡くなられた三百万余の方々の無念や、犠牲となられた国内外すべての人々の悲しみや苦しみ、怒りを思うとき、先人たちの犠牲の重さは、敗戦から長い歳月を経た今もなお、私たちの心の碑に深く刻み込まれ、痛恨の思いが尽きることなく込み上げてまいります。犠牲となられました方々の御霊に謹んで哀悼の誠をささげるとともに、遺族の皆様に衷心よりお見舞いを申し上げます。

勝てるはずのない無謀な戦争に突入した日本は、「天皇陛下のために」多くの無辜の命を奪った結果、国家存亡の危機に立たされました。絶望の淵に立たされた人々に、明日を生きる勇気や希望を与えた新しい憲法は、自由権や社会権など幅広い基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」として保障し、国家権力をそれに従属させる構造を取りました。これは、個人の尊厳を守るために国家が存在するという国家像への大きな転換でした。

しかし、今日の日本の歩みは、憲法の理念に逆行し、戦前の「国体」が絶対視される国家へと踵を返そうとしています。戦後の日本は、専守防衛を防衛政策の基本とし、集団的自衛権行使の否定、武器輸出の禁止など、他国に脅威を与える軍事大国には決してならないと決意したはずです。軍備増強にひた走る今日の日本の姿は、アジアの周辺諸国に脅威を与え、軍事的緊張を増幅させるばかりです。

私たちは、先の大戦の反省から得た平和の尊さを後世に語り継ぐとともに、世界中の人々に「ヒロシマ・ナガサキを原爆による最後の被爆地に」と、訴え続けてまいりました。欺瞞に満ちた「核抑止力」の名の下の核拡張競争のジレンマは、いつかレッド・ラインを越えかねない、その瀬戸際にあることを強く危惧します。

今もなお世界の戦禍の中で、多くの尊い命が奪われ、街が破壊され、国際法違反の虐殺・拷問、暴行、略奪などの犯罪行為が続けられています。このことは、人間がひとたび戦争という極限状態に置かれたとき、想像を絶する残虐な行為にいたることを物語っています。

日本国憲法の前文では「全世界の国民が、等しく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」と謳われています。唯一の戦争被爆国である日本は、こうした国際協調の理念をしっかりと胸に刻むとともに、全世界の「恒久平和」の実現のために、その先頭に立たなければなりません。

あの壮絶な大戦を単に歴史的事実としての理解に留めるのではなく、二度と繰り返してはならないということを世代を超えて語り継ぎ、平和な社会を未来へ確実に引き継いでいくことが、今を生きる私たちに課せられた責務です。

本日、終戦の日を迎えるにあたり、私たち一人ひとりが、戦争の悲惨さと平和の尊さを改めて深く心に刻み、世界中からすべての戦争が無くなることを願い、自由で公正な社会を守るため、平和と民主主義を誓った戦後の原点を見つめ直します。

歴史の忘却を許さず、平和憲法の崇高な理念の下に、世界の恒久平和の実現に向けてこれからも不断の努力を続けていくことを堅くお誓い申し上げ、慰霊のことばといたします。

2026年8月15日
フォーラム平和・人権・環境
共同代表 染 裕之

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