2026年、平和軍縮時評
2026年07月31日
《ガザ・イラン・レバノン戦争》に見るAI戦争の限界点 ~「スタートアップ・ネーション」と「ソサエティ5.0」の虚栄
役重善洋
1.はじめに
2023年10月に始まるイスラエルの対ガザ・ジェノサイド戦争と、2026年2月に本格始動する米・イスラエルの対イラン戦争は、いずれも、形式的には「停戦合意」がなされたにも関わらず、2026年7月末現在、ずるずると散発的な戦闘行為が続いている状況にある。とりわけ、戦力の非対称性が著しいガザにおいては、戦闘行為の継続といっても、イスラエルの攻撃がほぼ一方的に続いている状態である。
本稿では、この二つの「戦争」の背景にあり、また、それらが促進しつつあるグローバルな傾向について分析する。まず、軍事攻撃におけるAIシステム導入について論じる。次に、砲弾・ミサイル・ドローンの生産力競争に見られる「経済の戦争化」を取り上げ、最後に、これらの変化が日本に及ぼす影響と市民社会の課題について分析したい。
2.ガザとイランへの軍事攻撃におけるAIシステムの導入
2023年11月、イスラエルのオンラインメディア「+972マガジン」の記者ユヴァル・アブラハムは、軍・情報機関関係者への聞き取り調査にもとづき、イスラエル軍が対ガザ作戦で「ハブソラ」(福音)と呼ばれるAIシステムを用いて標的選定を行っていることが、これまでにない多数の民間人犠牲者が出ていることの原因となっていることを示す記事を発表した[1]。この記事によれば、イスラエル軍は2019年にAIによる標的生成を主目的とした「標的管理部」を設置したという。2023年10月7日以降、イスラエル軍は、「ハブソラ」を利用した攻撃の正確さを一報で宣伝しつつ、実際には、ダヒヤ・ドクトリンと呼ばれる戦略にもとづく事実上の無差別攻撃を行った。これは、2006年のレバノン攻撃に際し、ヒズブッラーに対する住民の支持を挫くことを主目的として、その拠点となっている町全体を徹底的に破壊した戦略の通称である。
無差別攻撃であるならAIによる標的生成は意味がないかというと、そうではないことがこの記事から分かる。イスラエル軍は、攻撃標的を①標準的軍事標的、②地下標的、③権力標的、④戦闘員の住宅に分類したという。権力目標というのは、高層ビルや大学、銀行、官公庁、電力施設などで、破壊が市民生活に甚大な影響を与える重要インフラを指す。イスラエル軍は、作戦初期に③と④を中心に攻撃することでガザ住民をハマースから離反させようとしたという。最終的にイスラエル軍はガザ地区にあった建築物の8割を破壊しており、もはや標的の優先順位など関係ない状況であるようにも思われるが、少なくとも作戦の早い段階において、一般的な軍事目標ではなく、むしろ効果的に民間人に被害を与えることを優先するような「標的生成」がなされていたのである。
2024年4月には、同じアブラハム記者の記事で、イスラエル軍が「ハブソラ」と連動させて用いている二つのAIシステム、「ラベンダー」と「パパはどこ?」の存在が報じられた[2]。前者は、ハマースの戦闘員など個人の標的リストを生成するプログラム、後者は、「ラベンダー」がリスティングした個人を自動追跡し、「ハブソラ」に登録された自宅に帰ったときに爆撃を行えるよう通知を行うプログラムである。一人の戦闘員につき15~20人、司令官であれば100人以上の「巻き添え殺人」が承認された。最終的な人間によるチェックは、1件につき数秒で、標的が男性か女性かを確認するのみだったという。標的が女性とされた場合は選定ミスの可能性が高いので排除されたが、男性の場合は、人間の判断を介在させずに攻撃が行われていたことになる。このようなシステムによって、これまでとは桁違いに多い一般住民の犠牲が引き起こされることになった。
これらのシステムが稼働する際、グーグルやアマゾンがイスラエル軍にクラウドサービスを提供する「プロジェクト・ニンバス」や、マイクロソフトのクラウドサービス「アジュール」の同軍への提供が、ジェノサイド戦争への加担として大きな批判を浴びるようになった。そうした中、マイクロソフトは、自社サービスがイスラエル軍によるパレスチナ人の通話監視に用いられていることを独自調査で確認した上で、2025年9月にイスラエル軍への一部サービス提供を停止した。
2026年1月3日の米軍によるマドゥロ大統領夫妻拉致と2月28日に始まる米・イスラエルによる対イラン攻撃では、米パランティア社が開発した「メイブン・スマート・システム」が大きな役割を果たしていることが広く報道された。イラン攻撃が開始されたのは、このシステムで用いられているAIシステム「クロード」を提供するアンソロピック社が、トランプ政権に対して完全自律型兵器システムや大規模国内監視での不使用を求め、同政権が同社製品の連邦政府機関からの排除を命じた数時間後のことであった。
3.砲弾・ミサイル・ドローンの大量確保という問題
前節で紹介した記事などを通じて、イスラエル軍のジェノサイド作戦においてAIシステムが大きな役割を果たしたことが広く知られるようになった。しかし、先述した通り、このAI使用は、ハマース等の軍事目標を絞り込み、「付随的損害」(民間人殺害に対するイスラエル軍の呼称)を減らすためのものではない。イスラエル軍が重視しているのは、あくまでも効率や経済性、すなわち、武器・弾薬の消耗や兵士への負荷を抑制するという条件の下でガザ住民への打撃を最大化することである。
したがって、イスラエル軍は、大量の標的生成を行いつつ、高級司令官など重要軍事目標には高価な精密誘導弾を用い、末端の戦闘員や一般住宅に対しては、安価な無誘導爆弾や砲弾を多用してきた。ところが、イスラエルは、先端兵器の開発には力を入れてきたものの、例えば、陸対陸の砲撃で用いる155mm砲弾のような安価な兵器については量産能力に限界があり、特に戦時には主として米国からの輸入に依存してきた。
ウクライナ戦争によって155mm砲弾の供給不足が世界的に深刻化し、また米国を含む西側諸国でイスラエルに対する武器禁輸の議論が高まる中、イスラエルは同砲弾の国内供給体制の構築を急いだ。2023年8月には、イスラエル国防省はイスラエルのエルビット・システムズと155mm砲弾の購入契約を6000万ドルで契約した[3]。さらに「10・7」[4]を経た2024年5月には、イスラエル国防省は、2023年を通じて7億6000万米ドル相当の弾薬発注契約をエルビット社との間で締結し、今後2年にわたり履行することになると発表した[5]。レバノンへの地上侵攻を開始した2026年3月には、さらに4800万ドルの契約がされている[6]。その間、米国、さらにはインドからもイスラエルに大量の弾薬が供給され続けてきた[7]。
米国・イスラエルによる対イラン戦争が長期化すると、砲弾だけでなく、ミサイルやドローンの備蓄・供給が戦争の趨勢を決定する要因として焦点化した。見落とされがちなことは、こうした武器・弾薬の大量生産能力をめぐる競争というフェーズにおいて、イスラエルの産業構造は必ずしも有利ではないということである。イスラエルは1990年代初頭でGDPにおける製造業の割合が30%、サービス産業が40%程度であったが、現在は製造業10%、サービス産業70%であり、製造業の内容も技術集約的なハイテク分野に集中しつつある。米国の対イスラエル支援が今後減少していくことが予想される中、汎用性がない弾薬やミサイルの国内における大量生産は、長期的にはイスラエル経済にとって大きな負担となることは間違いない。
4.「スタートアップ・ネーション」と「ソサエティ5.0」
以上に述べたような状況は、日本の政治・経済にも大きな影響を及ぼしつつある。というのも、第二次安倍政権成立以降、日本はイスラエルとの二国関係を急速に緊密化させてきたからである。これまで筆者が「平和軍縮時評」に寄稿した「ガザ・ジェノサイドにおけるデュアルユース問題と日本の責任」(2025年4月30日付)や「サイバーテック東京2025とイスラエルの『ジェノサイド経済』」(2025年9月30日付)で書いてきたように、安倍政権とネタニヤフ政権の協調は、サイバーセキュリティを中心に展開してきた。そこでは、「スタートアップ・ネーション」としてのイスラエルが理想モデルとして位置付けられてきた[8]。それは、歴史的パレスチナの占領というイスラエル国家の存立条件の中で必然的にたどり着いたいびつな経済体制であり、極めて不安定なものだということが日本側ではあまり理解されていないように思われる。
第二次安倍政権は、2016年の第5期科学技術基本計画で「ソサエティ5.0」という概念を打ち出した。これは、現代が、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く人類史上第5番目の時代を迎えようとしているという歴史観を表現したもので、それは「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」だという。これは、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリらが弄ぶ「シンギュラリティ論」や上述の米パランティア共同創業者のピーター・ティールなどが唱える「加速主義」といった思想潮流に棹差すものだといえる。

「ソサエティ5.0」の概念図[9]とイスラエル軍8200部隊司令官の時代認識(『ヒューマン・マシーン・チーム』)
この思想潮流がイスラエルと深い親和性を持っていることは、2021年に匿名で出版された『ヒューマン・マシーン・チーム』という電子書籍を読むとよく理解できる[10]。後に、この本の著者が第2節で紹介した軍事AIシステムを開発したイスラエル軍の情報諜報部隊(8200部隊)の司令官を2021年から2024年まで務めたヨシ・サリエルであることを本人が認めた。
ハラリを多く引用しているこの本でサリエルは、AIを用いることによって、「ヒューマン・マシーン・チームは、戦闘開始前に何万もの標的を生成し、戦争中、毎日数千の新たな標的データを集めることができる。さらに、これらの、文脈から標的を生成する能力は、軍が正しい時に正しい標的を攻撃することができるということを意味する」と述べ、まさに「ハブソラ」や「ラベンダー」、「パパはどこ?」のようなシステムの必要性について語っている。
サリエルが、「ローン・ウルフ」の問題について述べていることも重要である。「ローン・ウルフ」とは、抵抗組織に所属しないパレスチナ人が、占領の圧迫に堪えられなくなり、突如イスラエル兵やイスラエル入植者などに対する攻撃を行うという、2015年頃に多発した事例である。AIおよび盗聴・監視システムによる個人データの収集・追跡・ディープラーニングにより、こうした「テロ行為」をも将来的には予知し、未然に防ぐことができるようになるはずだとサリエルは言う。イスラエル軍はこうしたことを本気で目指しているのである。
サリエルは2024年9月に、「10・7」が起こることを未然に防ぐことができなかったことの責任を取り、8200部隊の司令官を辞任した。2026年にはイスラエルのAIスタートアップ「デカルト」の取締役に就任した。イスラエルのスタートアップ企業の多くは、サリエルのようなイスラエル軍のIT関係部隊出身者が立ち上げに関わっている。
5.おわりに
第二次安倍政権発足以降、多くの日本企業が、セキュリティビジネスに関わるイスラエルのスタートアップ企業と業務提携・資本提携を行うようになった。そこにはジェノサイド加担という重大な倫理的な問題があることは間違いない。ここでは、さらに三つの問題を加えておきたい。
一つは、1人のパレスチナ人による「ローン・ウルフ型テロ」の予知を目指しながら、ガザにおける抵抗運動の命運をかけた「アル・アクサーの洪水作戦」さえをも予知できなかったという問題である。「他者」を「人間動物」として見下し[11]、自らを「人間機械」として「ホモ・デウス」に進化できるという人種主義/植民地主義には、かつて情勢認識を誤り続け最悪なかたちでの敗戦を招いた帝国日本と同様、「敵」認識に関する根本的な欠陥が内在している。
例えば、軍事AIは、敵の方がより合理的・包括的な戦略や理念を有している可能性を検討し、従来の敵認識を改め、戦争停止に向けて戦略を練り直す能力を持ち得るのであろうか。あるいは、「降伏」や和解交渉への目標切り替えを合理的選択として示すことができるのだろうか。つまり、イスラエル軍や米軍が開発するAIシステムには、ナショナリズムや戦争プロパガンダが必然的に引き起こす認識上の自家中毒という人間社会、とりわけ西洋近代の問題が引き継がれているのではないだろうか。
二つ目の問題は、戦争遂行における物質的条件に関する理解があまりに杜撰であるように思われる点である。どれだけAIシステムが標的生成を効率的に行ったところで、人間の尊厳を賭した民衆的抵抗を軍事力によって壊滅させることが極めて困難であることは歴史の証明するところである。軍事AIシステムを駆動するためのICチップや電力、データセンターや電力設備の安全、そして大量の「標的」を攻撃するための砲弾・ミサイル・ドローン等々の確保・開発は、一国に閉じた経済で安定的に維持することが不可能だということが、この間の中東における戦争を通じて明確になった。どれだけ軍事的・経済的に非対称な戦争であっても、国内外における広範な支持を欠いた状態で戦争を持続することには限界があるのである。これも、かつての侵略戦争において日本が直面し続けた問題であった。
三つ目の問題は、以上に述べた問題と関わることではあるが、「敵(標的)」を把握するための大量の個人データの収集・分析は、必然的に個人の尊厳を捨象し、究極的にはジェノサイドに結びつき得るものであるが、そのことが自国内における人権侵害に直結するという問題である。「自国民」を強固な排外主義で固め、「外国人」の存在を徹底管理しない限り、一般民衆の中から、国籍を越えて連帯し、人間の尊厳を尊重しなければという考えが消え去ることは考えにくい。だとすれば、戦争状態の中で自国の中から政府に対する批判や「敵」に対する共感を訴える一群の人びとが現れることは避けられず、そうした人々も「テロリスト」予備軍として「標的」にされることになる。それらの「標的」が実際に攻撃されれば、内部矛盾はさらに深まる。
これらの問題は、ガザへのジェノサイド攻撃においてもすでに明らかになっていたと言えるが、対イラン戦争の失敗によって、もはや否定しようのないかたちで世界に晒されてしまった。日本の政治も経済も、「ソサエティ5.0」のような「借り物」の欧米中心主義的近代性に頼るのではなく、自らの過去の近代化の歩みに対する精査・反省を行いつつ、人びとのニーズに即した草の根のネットワークの中から新たな文明の創造を目指すべきではないだろうか。
[1] Yuval Abraham, ‘A mass assassination factory’: Inside Israel’s calculated bombing of Gaza, +972 Magazine, November 30, 2023.
https://www.972mag.com/mass-assassination-factory-israel-calculated-bombing-gaza/
[2] Yuval Abraham, ‘Lavender’: The AI machine directing Israel’s bombing spree in Gaza, +972 Magazine, April 3, 2024.
https://www.972mag.com/lavender-ai-israeli-army-gaza/
[3] Elbit Systems Awarded Approximately $60 Million Contract to Supply Artillery Shells to the Israel Ministry of Defense, Elbit Systems, July 31, 2023.
https://www.elbitsystems.com/news/elbit-systems-awarded-approximately-60-million-contract-supply-artillery-shells-israel
[4] 2023年10月7日、イスラエル封鎖下ガザ地区におけるハマースを主力とする抵抗勢力はイスラエルに対する大規模な越境攻撃を行い、それに対し、イスラエルはガザ地区に対するジェノサイド作戦を開始した。
[5] Elbit Systems Awarded a Group of Contracts in an Aggregate Amount of Approximately $760 Million for the Supply of Ammunitions to the Israeli Ministry of Defense
https://www.elbitsystems.com/news/elbit-systems-awarded-group-contracts-aggregate-amount-approximately-760-million-supply, Elbit Systems, May 21, 2024.
https://www.elbitsystems.com/news/elbit-systems-awarded-group-contracts-aggregate-amount-approximately-760-million-supply
[6] Israel MOD signs $48M deal with for tens of thousands of land munitions, Israel’s government services and information website. March 30, 2026.
https://www.gov.il/en/pages/israel-mod-signs-48m-deal-with-for-tens-of-thousands-of-land-munitions-30-mar-2026
[7] Made in India: The Supply of Weapons and Ammunition to Israel, Amnesty International, July 29, 2026.
https://www.amnestyusa.org/reports/made-in-india-the-supply-of-weapons-and-ammunition-to-israel/
[8] イスラエル軍のIT部隊出身者らによるスタートアップ企業の立ち上げを推進し、海外投資を呼び込む軍産官学連携による「エコシステム」の宣伝文句。2009年に出版された同名書籍が各国で翻訳され(邦訳書は『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』2012年)、広く認知されるようになった。
[9] 「Society 5.0 -ともに創造する未来-」日本経済団体連合会、2018年. なお、この節での「ソサエティ5.0」批判は、2018年7月16日に行われた板垣雄三の講演に着想を得ている(「変わりつつある世界とパレスチナ―ナクバ70年とこれから」主催・パレスチナの平和を考える会 会場・大阪ドーンセンター)。
[10] Bgigadier General Y.S., The Human-Machine Team: How to Create Synergy Between Human and Artificial Intelligence That Will Revolutionize Our World, eBookPro, 2021. 下記サイトで全文閲覧できる。
https://alkhanadeq.com/static/media/uploads/files/the-human-machine-team-how-to-create-synergy-between-human-amp-artificial-intelligence-that-will.pdf
[11] 2023年10月9日、イスラエルのヨアブ・ガラント国防相は、「我々は人間動物と戦っている」と発言した。
