2026年、平和軍縮時評

2026年06月30日

核不拡散条約(NPT)の結果をどうみるか:辛くも生き延びたが・・

鈴木達治郞(NPO法人ピースデポ代表)

 第11回核不拡散条約(NPT)再検討会議は、今回も最終文書の採択に失敗した。これで、2015年、22年に続き、3回連続成果文書の採択ができない結果となった。ベトナムのドー・フン・ヴィエット議長が「成果文書採択をめざし、最善を尽くしたが、全加盟国の合意を得られることはできなかった。」と発表した瞬間、会議場は静まりかえり、わずかの期待もきえさった瞬間だった。果たして、この結果をどう評価すればよいのか。今後の核軍縮を進めていくために、我々はどうすればよいのか。再検討会議での現場の議論や識者のコメントなどを踏まえた上で、考察してみた(注1)

戦争が継続する中での再検討会議:低い期待と対立の深刻化

 筆者は2015年、2022年、そして今回と、NPT再検討会議に3回連続で参加する機会があった。今回、最も驚いたのは、「その熱気のなさ」と参加者の少なさであった。今回の再検討会議は、ロシア・ウクライナ戦争に加え、米・イスラエル対イラン戦争が加わり、戦争が進行中という緊張関係の中、さらに日中・米中関係、朝鮮半島の緊張なども加わり、もともと「合意を達成できる環境」とはほど遠い、という観測が流れていた。したがって、最終文書採択の可能性に対する期待は低かった。一方で、核の脅威が増す中、NPTは世界の安全保障と平和にとって不可欠な条約であり、世界の核不拡散体制の礎として維持しなければいけない、という共通意識から、合意に向けての努力もなされるのではないか、という期待もあった。
 会議前から、下記のような論点が想定されていた。
 ①核軍縮:核軍縮分野では、なによりもNPT第6条の核軍縮義務履行について、非核保有国からの批判とそれに対する核保有国の対応が挙げられる。次に核保有国間でも、それぞれの核軍拡も批判の対象となりうる。そして、最後に核兵器の使用について、その非人道的影響や、先制不使用など、使用の選択肢を残したい核兵器国や核の傘依存国と非核保有国の対立が想定されていた。
 ②核不拡散:ここでは最も大きな課題として、イランの核疑惑と米・イスラエルによるイランへの攻撃とそれに対するイランによる湾岸諸国への軍事攻撃が挙げられる。核実験の再開を巡る議論、さらには非核保有国への核兵器配備(核共有問題)や拡大核抑止の強化も議論の対象となるだろう。
 ③原子力平和利用:ロシアによるウクライナ原発への攻撃は2022年にも対立を招いたが、イランの平和利用核施設への米・イスラエルによる軍事攻撃も大きな課題だ。
 ④NPT再検討会議のレビュー・決定プロセス:機能不全とも批判され始めている再検討会議のレビューや決定プロセスそのものも課題となりうる。
 会議が始まると、想定以上に核兵器国間、核兵器国と非核兵器国、さらには核の傘に依存する国とそうでない国の間の対立は、2022年再検討会議より、さらに深刻化・複雑化していた。一般演説では、米国は、ロシア・中国に対する批判に加え、イランを名指しで批判。ロシア・イランはそれに対抗して米国を批判。中国は特に日本政府の軍事力強化、非核政策の見直しをしつこいほどに批判。さらに、非同盟諸国からは、国際法を遵守しない核保有国への批判や、核の傘(拡大核抑止)や「核共有」に対する批判が続出。このような状況では、とても建設的な議論にならず、合意は難しいとの見方が広がっていった。
 その議論の一部を紹介しよう。
 ・中国の一般演説(2026年4月17日)(注2)
  「『日本は核兵器を保有すべきである』とする日本の首相官邸関係者の露骨な発言は、国際社会が堅持してきた基本原則に挑戦するものである。(略)日本の右翼勢力は、非核三原則の見直しを公然と求めた。これらの発言は、第二次世界大戦後の国際秩序および核不拡散体制に対するあからさまな挑発であり、地域および世界の平和と安定に対する深刻な脅威である。」
 ・米国の一般演説(2026年4月29日)(注3)
  「中国の不透明で事態の見えない、さらには無謀とも言える核戦力の拡大は、この10年半ほどの間にその核兵器を数倍に増大させてきた。(略)中国は、核爆発を伴う核実験さえ実施している。(略)ロシアは、いわゆる新STARTの義務を不法に停止すると一方的に主張し、新型核兵器を開発し、さらに朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との関係を深めている。(略)イランは高濃縮ウランの生産を加速させ、民生利用として合理的・想定可能な正当性を欠くレベルまで濃縮された備蓄を蓄積しています。」
 ・イランの一般演説(2026年4月29日)
  「私たちの民間インフラ、学校、大学、病院、橋、住宅、モスク、教会、シナゴーグ、史跡などに対する大規模な攻撃は、醜い真実を露呈させた。(略)こうした残忍な攻撃に対し、国連安全保障理事会、IAEAの理事会および事務局長は、簡単な口頭での非難さえも行なわなかった。(略)米国、英国、フランスは新たな核軍拡競争と核兵器近代化競争を開始した。(略)NATOの核共有協定は、依然として直接的な核拡散メカニズムとして機能しており、ベルギー、ドイツ、オランダを含む5つの非核兵器国が約100発の米国製核兵器を保有し、これらの国のパイロットは核攻撃任務のための訓練を受けている。」
 このように、激しい批判が相互に繰り返され、それに対してまた反論がなされるなど、会議における対立はますます表面化していた。

最終文書案:むしろ採択されなくてよかった?

 一方、なんとか最終文書を合意にもっていけるよう、ヴィエット議長は精一杯の努力を重ねてきた。通常、成果文書案のドラフトは、各課題ごとに開かれる第一委員会(核軍縮)、第2委員会(核不拡散)、第3委員会(原子力平和利用)からの報告をまとめた形で、第3週に回覧されるが、今回はその報告を待たずに第2週に「ゼロ案」として回覧された。さらに、文書をめぐる議論の透明性を高めるため、文書案に対する議論を公開の場で実施するなど、新たな試みがなされた。しかし、残念ながら、交渉は難航し、最終文書案は最終的に第4案まで作成された。その中身を見ると、反対が予想される文書はどんどん修正・削除され、第3案では93項目、13頁だったものが、第4案は43項目、7頁に縮小されていた。
 具体的にどのような修正がされたかを主要な項目について表-1にまとめてあるが、結果的に「骨抜き」と呼ばれても仕方のない内容になっていた。

 このような内容の成果文書では、かえって採択されない方がよかった、という見方もあった。事実、懸念となっている核軍縮への新たな道筋や提案は、最終文書案からはみえてこず、「成果」とよばれる項目はほとんど修正・削除されていたのである。

日本の役割:「NPTの守護者」となったか?

 この会議で、日本はどのような役割を果たしたのだろうか。会議の冒頭、各国代表の一般演説では、国光文乃外務副大臣が、高市首相のメッセージを伝えるとともに、日本政府の核廃絶へのコミットメント、透明性の向上、NPT体制の維持・支援を述べた上で、「NPTの守護者として、日本は皆様とともに、この共同の歩みを続けていくことを誓います。」(注4)(傍線筆者)と強調したのである。また、従来から強調していた「透明性の向上」や「軍縮・不拡散教育」では、作業文書(注5)を提出し、その提案の一部は成果文書案にも当初は反映されるなど、それなりの貢献をしたことは評価されるだろう。
 しかしながら、会議全体として、「NPTの守護者」としての役割を果たしたか、というと、残念ながらそこまでのリーダーシップは見えてこなかった。「軍縮・不拡散教育」については、作業文書とは別に「共同声明」(注6)を発表し、これまでで最多の116カ国の賛同を得た。しかし核兵器国からは英国のみが賛成、非核保有国の一部(オーストリア、カザフスタン、南アフリカ、インドネシアなど)からは「核兵器使用の非人道性に関する記述が弱い」との批判を得て賛同されなかった(注7)。会議の参加者からは、「日本の影は薄かった」との声が聞かれたのは、「NPTの守護者」と宣言した国としては、とても残念であった。

NPTは辛くも生き延びた?

 成果文書が3回続けて採択されなかった事実は重い。その背景には、「核兵器のない世界をめざす」という共通の目標(NPT前文に明記されている(注8))を促進するよりも、「自国の安全保障や利益」を最大限に主張する、という国益重視の姿勢が顕著であったことを忘れてはならない。とくに、国際法を軽視し、核軍縮を求める文言を骨抜きにしようとする核保有国、そして日本を含め、それを支持した核の傘に守られた同盟国の責任は重い。
 一方で、再検討会議のプロセス全体を捉えても、結果だけをみるのではなく、会議全体でどのような議論がされたか、そしてその対立構造はどのようにすれば、解消するのか、といった冷静な分析がこれからは必要になる。5大核兵器国と非核兵器国が一同に会するNPTは、極めて重要な「場」であることは間違いない。そういった意味でも、NPTの重要性を否定したり、「脱退」を示唆するような発言が一切なかったことは、せめてもの救いである。NPTは、やはり世界の安全保障と平和にとって重要な条約であり、今後もこれを維持すべきだ、という合意は存在していたといえるだろう。言い換えれば、「NPTは辛くも生き延びた」といえるのではないだろうか。

核軍縮へ:新たなアプローチの必要性

 最後に、上記のような結果を踏まえた上で、今後私たちが核軍縮を進めて行くにはどうすればよいのか。具体的な措置を考えてみよう。
 1.核使用リスク削減にむけて、核保有国の対話促進
 まず、「核兵器は二度と使われてはならない」という「核のタブー」を維持することが、何よりも重要だ。そして、「先制不使用」など、現実の「核使用リスク削減」につなげるために、具体的な施策を検討していく必要がある。これらについて核保有国間の対話を促進することを求めなければいけない。
 2.核保有国の責任追求
 NPT第6条の義務履行について、曖昧な対応をとる核保有国に対し、「透明性向上」
の報告義務をきっかけに、その責任をさらに追及することが必要だ。核保有国が国際法を軽視したり、明らかに違反を犯したりすることへの責任追及を緩めてはならない。
 3.地域の安全保障の取り組み強化
 核抑止への依存を高めようとする背景には、地域の安全保障環境の悪化がある。核軍縮・不拡散を進めるには、当該地域の安全保障枠組みを強化して、緊張緩和につなげていく必要がある。現在は「核抑止強化」が「緊張を増す」という「安全保障のジレンマ」に陥っている。これを逆転させる必要がある。
 4.破壊的先進技術と核兵器
 これまでの核軍縮は主に「核弾頭数の制限、削減」が主要な交渉対象であった。しかし、今後はそれだけでは十分ではない。特に、AIやサイバー、宇宙技術のような破壊的先進技術が核兵器システムの信頼性に大きな影響を与えることを考えれば、先進技術の開発・応用を核兵器との関係を理解した上で、核軍縮交渉を進めることが必要となる。
 5.核抑止からの脱却
 最後に、核抑止への依存度を低減していく方向で、核軍縮・核不拡散政策を構築していかねばならない。「核抑止」のもたらすリスクを再認識し、長期的には、地域の緊緩和をめざし、国益を追求した「国家安全保障」から「共通の安全保障」へと、安全保障政策そのものの「パラダイムシフト」が必要だ。具体的には「非核兵器地帯」の設置を提案するなど、地域の安全保障向上と核軍縮・不拡散の両立を図ることが必要となる。

注1:ピースデポでは重要な一次情報を随時取り上げて、ウエブサイトに掲載する「脱軍備・平和情報モニター」を今年度より開設。第11回NPT再検討会議の特集で、各国の主要な一般演説、ワーキングペーパー、最終文書案などを公開している。
http://www.peacedepot.org/ 
注2:
https://docs-library.unoda.org/Treaty_on_the_Non-Proliferation_of_Nuclear_Weapons_-EleventhReview_Conference_(2026)/NPT_CONF.2026_33_-_33._ADVANCE_National_Report_-_China-_English.pdf
注3:
https://www.state.gov/wp-content/uploads/2026/04/U.S.-national-statement-final-for-posting-.pdf
注4:Statement by Japan, General Debate, April 27, 2026.
https://estatements.un.org/estatements/14.0447/20260427150000000/YzgaFGpGEuFE/tzfuuzgd_nyc_en.pdf
注5:“Disarmament and non-proliferation education” submitted by Japan, March 10, 2026.
https://docs.un.org/en/NPT/CONF.2026/WP.15 
注6:Joint Statement on practical measures for further promoting Disarmament and Non-Proliferation Education delivered by Japan, April 30, 2026.
https://docs-library.unoda.org/Treaty_on_the_Non-Proliferation_of_Nuclear_Weapons_-EleventhReview_Conference_(2026)/Japan_on_behalf_116_NPT_State_parties.pdf
注7:中国新聞、2026年5月2日。https://www.hiroshimapeacemedia.jp/?p=160469
注8:「厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約に基づき核兵器の製造を停止し、貯蔵されたすべての核兵器を廃棄し、並びに諸国の軍備から核兵器及びその運搬手段を除去することを容易にするため、国際間の緊張の緩和及び諸国間の信頼の強化を促進することを希望し・・」核不拡散条約前文。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kaku/npt/index.html 

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