2026年、平和軍縮時評
2026年09月30日
辺野古新基地建設、困っているのは防衛省―生物多様性の保全をめぐる多様な壁―
湯浅一郎
2026年9月13日、沖縄県知事選挙は自民党など多くの政党が推薦する古謝玄太氏が14万票を超える大差をつけて当選した。このところオール沖縄は、県内の市町村長選挙でほとんど負けてきている。加えて3月に起きた辺野古での抗議船転覆と女子高生死亡事故問題で様々な攻撃を受けている状況もあり、現職の玉城デニー氏側が、あえて基地問題を争点にしなかったこともあり、基地、平和をめぐる課題とは別のところで投票行動が行われた感がある。選挙については様々な角度からの総括が求められるが、中心課題の一つとしての辺野古新基地建設工事をめぐる現状と課題を「生物多様性の保全」をキーワードに実証的に検証する。
(1)埋立用土砂の供給の目途が立たない
2020年4月、当時の安倍政権は、大浦湾側の軟弱地盤の地盤改良工事に関する設計変更申請を沖縄県に提出した。そこで示された埋立土砂の供給計画が表1である(注1)。ただし表の数字はストック量である。これには2つの特徴がある。第一は基本的に沖縄島内で調達可能としている。第二に、この中で一番ストック量が多いのは、糸満市など南部の琉球石灰岩鉱山跡地に貯まっている岩ズリで、全体のほぼ7割に当たる。
表1 2020年の設計変更書における採取場所別の埋立て用土砂ストック量(岩ズリ)

しかし、これには2つの大誤算が相次いで起きた。第1の誤算は、沖縄戦激戦地の南部では、多くの人が琉球石灰岩の洞穴に逃げ込んだ結果、南部の岩ズリには遺骨が混じることは避けられない。その「沖縄戦の遺骨が混じる土砂を使って基地をつくるなどということは絶対に許せない」という沖縄の人々の思いは非常に強かった。全国的にも注目され約230の地方自治体議会で意見書が採択された。2024年6月23日の沖縄全戦没者追悼式(慰霊の日)に出席した岸田文雄首相(当時)は、「凄惨な地上戦を経験された多くの住民の皆さんが犠牲になられた。そして今引き続き遺骨の収集が進められている」「こうした事情も十分踏まえ(土砂の)調達先についても考えていく」「地元の思いはしっかり受け止められなければならない」と述べた(注2)。この発言を境に南部からの土砂供給の話は止まった。
岸田発言の2か月後の8月19‐20日、沖縄防衛局は、鹿児島県と奄美大島の市町村を訪問し、9月から奄美大島の採石場と土砂搬出港での特定外来生物の調査を行う計画を説明した。沖縄島南部からの土砂供給はあきらめ、代わりに奄美大島からの土砂持ち込みに切り替えたのであろう。
しかし2つ目の誤算が「頼みの奄美大島からの(石材)供給」も始まらない形で露呈している。2024年9月から始めた外来生物調査の報告書は2年が経つ今も公表されていない。調査はせいぜい数か月で終わり、2024年予算であれば2025年3月末までには報告書が出ているはずである。しかし防衛局は、今に至るも調査報告書はできてないとしている。考えられることは、外来生物が見つかり苦慮している可能性が高い。詳しくは(2)で述べるが沖縄県の「公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例」(以下、沖縄県土砂条例)(注3)があることで、外来生物への対処に苦慮し、島外からの石材や土砂の供給を躊躇しているとみられる。
こう見てくると、主役となる埋め立て用土砂の供給に全く目途が立たない状態が続いているのである。沖縄南部は遺骨問題で挫折し、次に奄美大島に切り替えようとしたが外来生物問題で難しい。残りは鹿児島県の他の地域であるが、外来生物が見つかることでは奄美大島と事情は変わらないので、見込みは薄い。いずれにしても埋立て用土砂の全体の7割の確保に全く目途が立たないのである。
(2)埋め立て用土砂供給計画の変遷
(1)で述べた埋立て用材確保の問題は、10年以上前から一貫してあった難題である。経過を簡単に振り返る。2013年6月28日~7月18日、埋立て承認願書が公告・縦覧された時、その添付図書-10「埋め立てに用いる土砂などの採取場所及び採取量を記載した図書」に埋立て用材として合計約2,062万m³、東京ドーム約17個分に相当する土砂が必要であると書かれていた。内訳は以下である。
土砂供給計画、採取場所、 採取量
(1)海砂 沖縄島周辺から購入 約58万㎥
(2)岩ズリ 沖縄島、九州、瀬戸内周辺から購入 約1644万㎥
(3)山土 キャンプシュワブ既存陸上部の整地、及び辺野古ダム周辺から採取 約360万㎥
全体の約8割が岩ズリである。岩ズリとは採石をした時に残るズリで、通常は売り物にならないもので、採石場に放置されている場合が多い。そのストック量の採取予定場所ごとの内訳が表2である(注4)。ただし当初の埋立て承認願書には「購入砂及び岩ズリ等の採取場所、採取量及び搬入経路」が示されてなく、沖縄県が願書の補正を求め、沖縄防衛局が補正書を提出するというやり取りがあり、補正書も含めて縦覧された経緯がある。表2の上の2つの本部、国頭は沖縄島で、現在もここから毎日、岩ズリが持ち出されている。残りの約73%は九州、瀬戸内海など西日本各地から持ち出す計画であった。
この計画を2013年3月頃知った環瀬戸内海会議が「瀬戸内海からの土砂で辺野古を埋めてはならない」との強い思いから約2年の準備を経て、2015年5月30日、環瀬戸内海会議と奄美大島の市民団体とが連携して、辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会(以下、辺野古土砂全協)を発足させた(注5)。合言葉は「どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない」である。この時、土砂の持ち出しを止めていくための戦略として、「生物多様性の保全」の一つとして外来生物の持ちこみを止める問題を位置づけた。おりしも日本政府は、2012年に第5次となる「生物多様性国家戦略2012-2020」(注6)を閣議決定していた。事業者である防衛省には、少なくとも建前上は生物多様性国家戦略に沿って「外来種の持ち込みを防止」する義務がある。当時すでに九州や本州では、山口県のアルゼンチンアリ、奄美を初め各地でのハイイロゴケグモ、オオキンケイギク等色々な外来生物が確認されていた。
同じ頃、沖縄県議会がこの問題に対応する画期的な条例を作っていた。2015年11月1日、「沖縄県土砂条例」が施行された。同条例は、事業者に対し3か月前までに1隻ごとの外来生物の有無の調査結果を含む事前届け出をするよう義務付けている。仮に外来生物がいるかもしれないと考えた場合には、県は立ち入り調査ができる。調査の結果、外来生物が見つかった場合、県は防除するよう勧告することができる。
これまでに、条例が適用されたのは内閣府沖縄総合事務局、つまり国の「那覇空港第2滑走路事業」の一例しかない。奄美大島の石材を持ち込む計画だが、採石業者の調査では外来生物はいないとしていた。しかし沖縄県が立ち入り調査をしたところ、特定外来生物のハイイロゴケグモ、オオキンケイギクが見つかり、条例に従って防除するよう勧告を行った。そこで、事業者は、持出港で2分間ほど水で洗浄する簡易洗浄で対応した。その結果、除去できたという証明もないまま、沖縄島へ持ち込まれたわけである。勧告だけではやはり規制が緩く、少なくとも「駆除できたかどうかの確認が必要」だと考えられる。もう一つ立ち入り調査は必ず行うべきだという教訓が残った。
ただ、辺野古新基地埋立てでは、小石、砂や泥の混じった岩ズリの持ち込みなので、外来生物が含まれていた場合、どのような対策をするのかが問題になった。土砂全協は、2016年11月1日の防衛省交渉でこの点を問いただした。この日は、奄美大島の現地から岩ズリの実物(写真)を持ち込み、交渉のテーブルの上に置き、「これを水で洗うことはできますか?」と問いただしたところ、防衛省は無言のままで、全く答弁できなかった。小石に砂や泥が混じっていて、もし水で洗ったら、相当な割合がとけてしまうし、そもそも外来生物を除去できるのかどうかもわからない。この後の経過から考えると、この交渉は非常に大きな意義があったと推測できる。
2017年4月25日から辺野古での土砂投入が開始された。ところが、土砂供給はすべて沖縄島からで、沖縄県外からの土砂の搬入は一切行われていない。それに関して防衛省からの説明はない。土砂全協の反対署名を初めとした各地の運動や沖縄県土砂条例の相乗した力が影響した公算が強い。1隻ごとに外来生物の有無を確認して届けを県に出し、立ち入り調査を受ける。仮に外来生物が見つかった場合は何らかの対処をせねばならない。これは防衛局としては極めて面倒であろう。この後10年にわたって工事は続いてきたが、沖縄島外からの持ち込みは一粒たりともないのである。これが、(1)の冒頭で述べた2020年の軟弱地盤改良工事に関する設計変更申請では初めから沖縄島外からの調達は除外し、沖縄島内での調達で済むように計画された背景である。
(3)大浦湾地盤改良に不可欠な海砂の確保と膨大な砂杭打設の困難性
第2に地盤改良工事のために初めの数年で必須な大量の海砂確保の問題がある。海砂は厚さ1.5mの敷砂、約71000本の砂杭のために349万m³、護岸の中詰材として38万m³、合計で386万m³が必要とされている(「設計変更申請書」添付の「環境保全図書」 1-205)。2018~2022年までの沖縄県内の年間海砂採取量は81~146万㎥の範囲内にあり、平均117万m³である。386万m³の海砂は沖縄県全体の3~5年分に相当する(設計変更「環境保全図書」1-203)。
砂杭の打設は、2025年1月29日から日本にあるサンドコンパクションパイル(SCP)船6隻全部を動員して始まった。2025年6月から約半年間、SCP船が辺野古から姿を消した。25年末に戻ったが、現地で監視している情報からは6隻中3隻は動いてないように見えるという。2025年に砂杭2970本を打設し、2026年6月末で約9500本と報じられている(注7)。進捗率は13.5%である。
日本のSCP船は水深が最大70mまでしか砂杭の打設はできない。従ってB27地点など一部にある水深90mまである深みの軟弱地盤に対しては全く対応できないことを覚悟の上での作業である。防衛省は「70mまで打設できれば、安定するはず」と主張(注8)しているが、これは希望的観測であり、何の根拠もない。滑走路の一部に軟弱地盤対策がなされていない箇所が残ることになる。さらに水深70mまで杭を打ち込むこと自体もあまり実績がなく、それを改善するために、櫓(やぐら)を約20メートル高くする改造が行われた。ところが、これにより船体の重心が上がり不安定で風に弱くなっているとみられる。このため、少しの波や台風の接近があるだけで、転倒リスクを避けるために大浦湾から頻繁に避難することが余儀なくされているとみられる。2025年6月から12月まで6隻全部がいなくなったことはこれに関係している可能性がある。
海砂採取は、海底の砂を真空ポンプにより強制的に地上に吸い上げ、「ふるい」にかけて砂だけを取り出す作業である。底生生物の生命を根こそぎ奪うとともに、礫を捨て、高濃度の濁水を流出させることで、透明度の低下や海草藻場の減少、海底地形の変化と海岸からの砂の消失、水産資源への影響など海洋環境を多様な形で破壊し、生物多様性の損失を伴うことは避けられない。沖縄島北部を中心に、海砂採取海域に近い浜では海岸の砂が消失し、浸食されることでウミガメ産卵数の減少が指摘されている。複数の海砂採取海域や辺野古埋立地とジュゴンの生活史とは重なっており、海砂採取による濁水の拡散と海草の減少や海底の破壊は、長年にわたりジュゴンの生活史を分断し生息に大きな影響をもたらしてきたと推測できる。ちなみに瀬戸内海では2000年を前後して約10年かけて全面禁止され、全国的にも減らしていく方向に動いている(注9)。
海砂採取による海洋環境の破壊・生物多様性の損失は、「生物多様性国家戦略」や「生物多様性おきなわ戦略」に逆行する。両戦略は、2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させるというネイチャーポジテイブを基本として、さらに2050年までの「自然と共生する社会」をめざしている。そのために生物多様性の保全・回復を目的として保護区を作る国際合意が作られてきた。日本では2020年段階で海の13.3%は保護区であり、今は2030年までに陸と海の30%以上を保護区にする30by30が取り組まれている。
沖縄島が面する海のほぼ100%が、既に「生物多様性の保全・回復を目的」として、生物多様性条約事務局に登録されている「海洋保護区」である(注10)。そこで沖縄島での海砂採取区域と沖縄島周辺の海洋保護区を一つの図にしたのが図1である。海砂採取の大半は海洋保護区内で行われている。「生物多様性国家戦略」「地域戦略」を推進するのであれば「海洋保護区内での海砂採取は禁止する」べきである。沖縄での海砂採取は「沖縄県海砂利採取要綱」(H24.8.20)に基づいて運用されている。その第2条(4)採取区域「自然公園区域、自然環境保全区域地域、及び鳥獣保護区域でない区域であること」を、「海洋保護区(自然公園区域、自然環境保全地域、鳥獣保護区及び共同漁業権区域)でない区域であること」に変更することが問題の焦点である。
これは沖縄県の判断でできることである。知事の交代により困難な要素が強まったが、海砂による環境破壊は生物多様性の保全に逆行する行為であり、生物多様性国家戦略や地域戦略を推進する義務を有している政府や自治体が、それらの戦略に沿って行動すべきだとする世論形成によっては大きな闘いにできる背景があることを強調しておきたい。
辺野古埋立て工事は、中心となる埋立用土砂として見込んだ南部土砂、奄美からの石材の供給に目途が立たず、予定通りの埋立てができるのかどうか見通せない。SCP船は最大でも水深70mまでしか対応できず、一部にある水深90mの深みへの工事はできないことが前提となっている。地盤改良工事の核となる約71000本と言われる砂杭を打設するSCP船6隻がフル稼働しているようにも見えない。そもそも沖縄島周辺の海砂採取は、多くが生物多様性の保全を目的とした海洋保護区の中で行われており、禁止すべきである。これらの認識を市民が共有し、国家による「未来への犯罪」とでもいうべき工事に対抗していくことが求められる。
(注)
1.「設計変更承認申請書」の添付図書『埋立に用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書』1-203。2020年9月に沖縄県が実施した公有水面埋立法に基づく「告示・縦覧」の際に一般公開された。ただし現在はインターネット上で全ページのPDF等による公開は行われていない。
2.RBC琉球放送、2024年6月24日。https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rbc/1250689
3.沖縄県「公有水面埋立事業における埋立用材に係る外来生物の侵入防止に関する条例」
https://www.pref.okinawa.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/029/114/zourei.pdf
4.添付図書「埋立てに用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」。沖縄県が2013年6月28日~7月18日にかけて実施した公有水面埋立法に基づく「告示・縦覧」の際に一般公開された。ただし現在はインターネット上で全ページのPDF等による公開は行われていない。
5.辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会「どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない」2016年4月。辺野古土砂全協HPは以下。https://dosyazenkyo.com/
6.「生物多様性国家戦略2012-2020」、2012年9月28日。
https://www.env.go.jp/content/900520467.pdf
7.「琉球新報」2026年7月19日。
8.2019年3月22日の参議院予算委員会での岩屋毅防衛大臣(当時)の答弁など。
9.「平和軍縮時評」2025年6月号。「辺野古埋立て海砂採取を瀬戸内海から考える」。
https://www.peace-forum.com/jihyou202506.html
10. 日本の保護地域情報が登録されている国際データベースのURL,
https://www.protectedplanet.net/country/JPN





