2026年、平和軍縮時評
2026年04月30日
高市政権の改憲・軍拡を止めるために自治体の平和力を活かそう―非核三原則堅持を含む非核・平和都市宣言―
湯浅一郎
1.改憲・軍拡へと暴走する高市連立政権
自民・維新連立の高市政権は、憲法九条を捨てることを当面の最大の目標とし、安保三文書見直しを前倒しし、全面的な攻撃を仕掛けようとしている。具体的には以下の多くが含まれる危険性がある。
・防衛費GDP3.5%へ向けGDP比2%を前倒しで達成する。
・高市首相の「台湾有事は存立危機事態」発言は押し通す。
・非核三原則を見直す。
・原潜導入を検討する。
・スパイ防止法を制定する。
・国家情報局を創設する。
・武器輸出「五類型」ルールを撤廃する。
このうち、最後の武器輸出「五類型」ルールの撤廃は、2026年4月21日、すでに閣議決定されてしまった。しかし五類型の撤廃は政府の裁量で変更できるとはいえ、撤廃の是非に加え、こうした重要事項を国会の関与なしに決定できる仕組みそのものについても今後、国会などでの追及が求められる。
また、これらの動きの背景には「自民党・維新の会連立政権合意書」(2025年10月20日)(注1)がある。「12本の矢」で構成されるが、その三「皇室・憲法改正・家族制度等」には、以下のような、かつてない内容が持ち込まれている。
・日本維新の会の提言『21世紀の国防構想と憲法改正』(注2)を踏まえ、憲法九条改正に関する両党の条文起草協議会を設置する。
・緊急事態条項(国会機能維持及び緊急政令)について憲法改正を実現すべく、令和7年
臨時国会中に両党の条文起草協議会を設置し、令和8年度中に条文案の国会提出を目指す
・憲法改正の発議のために整備が必要な制度(例:国民投票広報協議会の組織及び所掌事
務などに係る組織法等)について、制度設計を行う。
ここで、踏まえるとされる日本維新の会の提言『21世紀の国防構想と憲法改正』なるものは、憲法九条を抹殺し、捨て去ることをめざした文書である。「第1章 実力から戦力へ~憲法9条改正と国防条項の充実~」は、第1節で「憲法9条と二つの乖離」と題して、第1に、憲法9条は「安全保障環境と乖離」しているとし、第2に「国際法環境とも乖離」しているとする。その上で、第2節(1)で「憲法9条2項削除により集団的自衛権行使を全面的に容認する」。9条2項とは「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」である。それを削除し、防衛の基本方針を「専守防衛」から「積極防衛」に転換するとしている。憲法九条を捨て、自衛隊を軍隊として位置づけ、専守防衛を廃し日本軍として海外にも派兵できる根拠を作るというわけである。連立合意書は、この維新の会提言を踏まえて、憲法九条改正に関する「条文起草協議会を設置する」としている。これは、おそらく高市首相の意思にも符合するもので、安倍首相の憲法に自衛隊を明記する案より大きく踏み出し、憲法九条を亡きものにすると言っている。
2.岸田政権の「安保三文書」改訂の問題点
高市政権の安保三文書改定を問ううえで、その前提となる2022年12月16日に改定された岸田政権の三文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を把握しておくことは重要である。三文書で、「国家安全保障戦略」(注3)は安全保障に関する最上位の政策文書を名乗るものだが、同文書は第1の要素として外交力を挙げている。
そのくせ外交の窓口をふさいでしまうような認識ばかりが目立っている。例えば中国との外交で基本となる1972年9月29日、日中国交正常化に際しての日中共同声明、1978年の日中平和友好条約について、その重要性を再確認する記述は全くない。朝鮮民主主義人民共和国(DPRK北朝鮮)との関係でも、「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ない」という旧態依然とした主張を強調するだけで、基礎にすべき1992年の日朝平壌宣言(注4)の精神である「諸困難を乗り超えて国交正常化の早期実現に向かう」を無視している。これでは、中国や朝鮮との関係が何一つ前進しないことは初めから明らかである。逆に当初は「敵基地攻撃能力」としていた反撃能力の保有や今後5年間で防衛費を43兆円へ倍増すると、専守防衛を超え、軍拡に進むことを表明している。
それでも同文書はⅢ「我が国の安全保障に関する基本的な原則」で「3 平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は今後も変わらない」としている。安全保障に関する最上位の政策文書において、「専守防衛に徹する」としていること自体は極めて重要である。そう言わざるを得ない背景にあるのは、まぎれもなく憲法九条の存在である。この点が安保戦略には正直に述べられていると言っていい。「いずも」型護衛艦2隻の空母化、敵基地攻撃能力となるスタンド・オフ・ミサイル配備、空中給油機の保有などで、専守防衛はなし崩し的に壊され、「九条は風前の灯」と言われてから久しいが、2022年の安保三文書においても「専守防衛」をドクトリンとしては明記せざるを得なかったことは確認しておかねばならない。憲法九条はまだ立派に生きているのである。
2026年2月、米国・イスラエルがイランへの先制攻撃を起こし、イランがこれに対抗してホルムズ海峡を封鎖したことに対して、米国は日本やNATO諸国に掃海艇の派遣などを求めたが、現状では、戦争が続いている限りにおいて自衛隊を派遣することができなかった。これは憲法九条が生きていることの証明ともなっている。だからこそ高市連立政権は、九条を葬むってしまおうとしているのである。
3.憲法九条を守るために「自治体の平和力」を活かそう
政府が改憲へと暴走する状況にどう向き合うのか? 基本は「憲法九条は守らねばならない」という世論の広がりを作ることであり、一時は全国各地に自然発生的に沸き起こった「九条の会」の再興と街頭での大衆的な行動が求められる。このところ若い人も含めた新たな動きが出ていることは大きな希望である。筆者は、本稿で、これらに加えるもう一つの戦略として、住民に最も近い行政組織である「自治体の平和力」とでもいうべき蓄積を活かすことを提起したい。
日本には47都道府県を含めて1788の地方自治体がある。そのうち全国1673自治体が非核平和宣言を挙げている(2025年12月31日現在)(注5)。これは全自治体の実に94%に当たる。例えば、日本で初めて非核宣言を挙げた広島県府中町の宣言(注6)は以下のとおりである(下線は筆者。以下同じ)。
「非核町宣言
世界の核をめぐる情勢はますます緊迫の度合いを強め、地域核戦争への不安から、ヨーロッパを初め世界の人々は、人類の生存のために核兵器の廃棄と絶滅を叫び立ち上がっている。
原爆によって広島市とともに世界で最初に凄惨な被害を被った府中町は、 戦争放棄の日本国憲法の原理に基づき、 恒 久の平和を念願し、全世界の国民が平和に共存することを望むものである。
全人類が絶滅の危機に立たされている現在、非核三原則の堅持とともに、あらゆる国の核兵器の使用に反対し、安全で住みよい街づくり実現のため、ここに全住民と共に府中町を「非核地域」とすることを宣言する。
昭和57年3月25日 広島県安芸郡府中町
広島県安芸郡府中町議会」
この宣言には、「非核三原則の堅持」を明記しているが、その前段で「府中町は、戦争放棄の日本国憲法の原理に基づき、恒久の平和を念願し、全世界の国民が平和に共存することを望む」としている点に注目しておきたい。「戦争放棄の日本国憲法の原理」を前提として、「非核三原則の堅持」をうたっているのである。ほとんどの自治体が同様の非核宣言を挙げている事実に依拠して、自治体なりの意思表示を求めていくことができるのではないか。
いくつか要素があるが、第1が「非核三原則の堅持を求める意見書」の発出である。昨年、自民・維新の連立合意書が出され、高市首相が安保三文書の改訂を前倒しし、非核三原則の見直しを進めるかもしれないとの憶測が出る中で、2025年12月の地方議会において「非核三原則の堅持を求める」多くの議会決議が出た。真っ先に決議を出したのは広島県議会(注7)である。以来、半年弱の間に、広島県、長崎県、長野県、神奈川県、千葉県、宮崎県の少なくとも6県が同様の決議を挙げている。現時点での決議数の正確な数は把握できないが、全国市長会や町村議長会の検索などによると市町村レベルでも少なくとも42自治体が決議を挙げている。この後も順次、増えていくことが予想される。これは、ある意味で当たり前で、先に府中町で見たように非核宣言のほとんどは「非核三原則の堅持」に触れているからである。全国の94%もの自治体が、核兵器の持ち込みの疑惑を持ったうえで、非核三原則の堅持を求めている。今、その宣言に沿って、非核三原則の堅持を求める意見書を出すよう市民が求めていく取組みをひろげるべきであろう。
第2に、宣言の多くは、非核だけにとどまらず、相当数が「非核・平和都市宣言」として、「平和」が含まれている点に注目したい。ざっと調べただけでも広島市、函館市、つくば市、小金井市、調布市、水戸市、藤沢市、長岡市、精華市、高槻市、長崎市、宮崎市、那覇市など枚挙にいとまがない。一例として函館市の宣言を紹介する。
「核兵器廃絶平和都市宣言
わたくしたち函館市民は、美しい自然を誇り、すぐれた市民性をはぐくんできた函館を住みよい都市に発展させるため、市民と街の理想像を市民憲章に定めています。
わたくしたちは、この理想が、世界平和の達成なくしてはありえないことを認識しています。
わたくしたち函館市民は、核戦争の危機が叫ばれている今日、世界で唯一の被爆国の国民として、また、平和憲法の精神から も、世界の人々とともに、再びこの地球上に被爆の惨禍が繰り返されることのないよう、核兵器の廃絶を強く訴えるものです。
わたくしたち函館市民は、非核三原則の堅持と恒久平和の実現を願い、明るく住みよい幸せな市民生活を守る決意を表明し、ここに核兵器廃絶平和都市の宣言をします。
昭和59年8月6日 函館市」
第3に、広島県府中町の宣言が「戦争放棄の日本国憲法」に触れているように、非核・平和をめざす背景には「憲法の平和主義の下で戦争に反対する」という問題意識が前提にある。函館市の宣言にあるように「平和」だけでなく、「平和憲法の精神から」として現憲法の意義に触れている。これと同じものが、小金井市、調布市、藤沢市、宮崎市など相当数ある。
さらに1983年に広島市・長崎市が中心になって「国境を越えて連帯し、ともに核兵器廃絶への道を切り開こう」と世界の都市に呼びかけてできた「世界平和連帯都市市長会議」を前身とした平和首長会議(Mayors for Peace(MfP))も重要なネットワークである。2026年1月1日現在、世界166か国・地域の8560自治体が加盟し、日本は1740自治体が参加している(注8)。日本の自治体で非加盟は佐世保市だけである。会長は広島市長で、副会長の一つが長崎市である。このMfPに向けて「非核三原則の堅持を求める意見書」、「平和憲法を守る意見書」などの運動を求めていくことは、世論の国際化にとって非常に大きな意義があるであろう。平和首長会議会長としての広島市へ、世界8560の加盟自治体に「日本政府に対して非核三原則と憲法9条の堅持を求める」行動を提起するよう要請していくことも重要である。
1980年代後半から2010年にかけて広島で反核・反基地運動を進めていた際、私は「多くの自治体が非核宣言を挙げているが、ただ宣言をしているだけで、何もしていない」というように、もっぱら批判的に見ていた。しかしNPT再検討会議などでの国際的な議論の場にオブザーバー参加してみて、日本の非核自治体の存在感の大きさを実感してきた。今、憲法九条が危ない情勢を前に、90%を超えるほとんどの自治体が挙げている非核平和宣言を活かす視点を市民運動の重要な要素として打ち出すべきだと確信する。
高市政権は、非核三原則の見直しには踏み出さない可能性が高いようにも思うが、憲法九条をめぐる論争は、国会で緊急事態条項などやり易そうなところから改憲の発議をしていく可能性が出てきている。そこで、本稿で筆者は、高市政権の改憲・軍拡を食い止めるために、市民と自治体がつながり、自治体の平和力を活かし、平和・非核化をめざしていく道筋を描くべきだという点を強調したい。
注:
1 自民・維新の連立政権合意書(2025年10月)
https://storage2.jimin.jp/pdf/news/information/211626.pdf
2 日本維新の会の提言『21世紀の国防構想と憲法改正』
https://o-ishin.jp/news/2025/images/ffb6c1d44a679a512165021651f6f62f12d52755.pdf
3 「国家安全保障戦略」(2022年12月16日)
https://www.cas.go.jp/jp/siryou/221216anzenhoshou/nss-j.pdf
4 日朝平壌宣言(2002年9月17日)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/n_korea_02/sengen.html
5 日本非核宣言自治体協議会HP
http://www.nucfreejapan.com/uploads/2026/04/20260409_%E9%9D%9E%E6%A0%B8%E5%AE%A3%E8%A8%80%E8%87%AA%E6%B2%BB%E4%BD%93%E4%B8%80%E8%A6%A7.pdf
6 広島県府中町の非核宣言
https://www.town.fuchu.hiroshima.jp/site/soumuka/1097.html
7 広島県議会「非核三原則の堅持を求める意見書」
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/gikai/hatsugi07-15.html
8 「ピースアルマナック2025」(ピースアルマナック刊行委員会)掲載の平和首長会議に加盟する世界の自治体の図表参照
