2026年、平和軍縮時評
2026年05月31日
バリカタン26演習に1400名の自衛隊員を派遣 高まる米中、日中、そしてフィリピンとの緊張
木元茂夫
平和国家としての日本のありようは、いま、重大な岐路に立たされている。4月21日の武器輸出の全面的な解禁。5類型に限定し殺傷能力の高い武器の輸出を禁じてきた重要な政策は、国会に諮ることもなく、高市内閣の一存で放棄された。
続いて米国とフィリピンを中心とするバリカタン演習に、自衛隊は1400人もの隊員を送り込んだ。
小泉防衛相は5月3日から7日まで、インドネシアとフィリピンを訪問し、5日にはフィリピンのテオドロ国防相と「共同ステートメント」(注1)を発表した。
「東シナ海及び南シナ海における、力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対することを改めて表明するとともに、日本の尖閣諸島周辺における領海侵入や領空侵犯を含め、日本周辺の海空域における中国による威圧的な活動の規模及び頻度の増大について、深刻な懸念を表明した。また、両閣僚は中国によるフィリピンに対する危険かつ威圧的な活動の強化を含む、南シナ海における情勢に関する深刻な懸念を共有した」と中国を名指しで非難している。
確かに、中国のフィリピンに対する対応は乱暴で、至近距離からの放水等が繰り返され、フィリピン側に負傷者も出ている。しかし、南シナ海での両国の紛争と、尖閣諸島の日中の紛争とは原因をまったく異ににするものである。
尖閣問題は2010年に野田内閣が実行した国有化が原因である。 平和的な交渉で中国と合意すべく努力するのが筋であろう。原因を異にする二つの事象を結び付け、中古護衛艦の輸出に持ち込もうとする高市内閣のやり方は、乱暴極まりないものである。
●演習の概要
米インド太平洋軍司令部はバリカタン2026について、次のように解説している。
「フィリピン軍と米軍は、4月20日から5月8日までフィリピン諸島全体で第41回演習バリカタンを実施します。 フィリピン、アメリカ、オーストラリア、日本、カナダ、フランス、ニュージーランドから17,000人以上の人員が肩を並べて訓練し、さらに17か国が国際オブザーバープログラムに参加します。この演習では、航空、陸、海、宇宙、サイバー分野にわたる最先端の訓練が行われます」(USINDOPACOM NEWS 2026年4月24日)。
自衛隊の内倉浩昭統合幕僚長は4月17日の記者会見でバリカタン2026への参加について、その軍事的な目標を明確に述べた。
「本訓練に参加する目的は、自衛隊の領域横断作戦に係る統合運用能力の維持・向上を図るとともに、力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境の創出に寄与することであります。本訓練では、日比円滑化協定(RAA)を適用し、フィリピン領域内において行う統合訓練としては、初めて装備品を使用した実動訓練を実施する等、米比をはじめとする3か国との協力関係を一層深化させる意義があります。また、本年3月に新編されました水陸両用戦機雷戦群及び所属艦艇が、水陸機動団と共に参加することは、自衛隊の領域横断作戦に係る統合運用能力を一層強化する点においても大きな意義があると考えております。
次に、昨年度との相違点についてお答えいたします。自衛隊はこれまで、主にオブザーバーとして参加しておりました。昨年度は護衛艦「やはぎ」を参加させましたが、主として幕僚訓練や人道・民生支援への参加であり、実動訓練への参加は限定的なものにとどまっておりました。また、昨年度の参加規模は人員約150名でしたが、本年度は参加人員が一気に約10倍の約1,400名に加えまして、護衛艦「いせ」、そして「いかづち」、輸送艦「しもきた」、輸送機「C-130H」、救難飛行艇「US-2」、88式地対艦誘導弾等、参加アセット及び規模が大きく拡大いたしました」(注2)
バリカタン2026に続いて、自衛隊は5月11日から20日まで、やはり米国、フィリピンとの合同演習である「サラクニブ26(タガログ語で「盾」の意味)」に参加した。訓練広報には「サラクニブ」の文字はなく、「米陸軍等との実動訓練(ジョイント・パシフィック・マルチ・ナショナル・レディネス・センター26)」となっている。第12旅団第2普通科連隊(上越市)、電子作戦隊(朝霞駐屯地)、対特殊武器衛生隊(東京・三宿駐屯地)などが参加と発表された。参加人員は記載されていないが、約420人と報道されている。(注3)
「第12旅団は、総合訓練において米・豪・比・ニュージーランド陸軍と連携して、陣地攻撃、ヘリボン攻撃等を一連の状況下で演練し、作戦遂行能力の向上を図りました」(注4)
米陸軍のHPには、16式機動戦闘車を使って戦闘訓練をする陸自の写真が掲載されている。バリカタン26の訓練広報と比較すると、発表されていない事項が多い。
●自衛隊の参加規模の増大
大枠は内倉統幕長の発言のとおりであるが、自衛隊は昨年からこの演習に正式参加したが25年と26年の参加部署を、統幕が発表した訓練広報(2025年4月11日と2026年4月14日)によって比較してみる。
2025年参加部署 2026年参加部署 設立年月日と所在地等
統合幕僚監部 統合幕僚監部 2006年設置。
統合作戦司令部 統合作戦司令部 2025年3月発足。
陸上幕僚監部 陸上幕僚監部 1954年設置。
陸上総隊 陸上総隊 2018年創設。司令部東京・練馬区。
北部方面隊 北海道に配備されている4つの師団で編成。
陸自富士学校 静岡県。陸自開発実験団が置かれている。
陸自中央輸送隊 2018年に再編成。隊本部横浜。国内外の輸送を担当。
陸自武器学校 2026年3月廃止。後方支援学校に統合。
陸自需品学校 2026年3月廃止。後方支援学校に統合。
陸自輸送学校 2026年3月廃止。後方支援学校に統合。
自衛隊中央病院 1956年設立。東京都世田谷区。病床数500。
入間病院 2022年3月発足。航空幕僚長が指揮監督。
自衛艦隊 自衛艦隊 1954年創設。司令部横須賀。艦艇航空機部隊を指揮。
情報作戦集団 2026年3月発足。司令部市ヶ谷。海自の情報組織
航空幕僚監部 航空幕僚監部 1954年設置。
航空総隊 航空総隊 1958年創設。司令部東京・横田基地。
航空支援集団 航空支援集団 1989年創設。司令部東京・府中市。
航空システム通信隊 航空システム通信隊 2000年再編成。隊本部は東京・市ヶ谷。
海上輸送群 2025年3月発足。司令部呉。
自衛隊サイバー防衛隊 2022年3月発足。隊本部は東京・市ヶ谷。
まずは、統合作戦司令部。「4月18日から5月9日の間、情報発信分野に関する活動を米比を含む参加国と共同で実施しました。同盟国及び同志国関係者との対面による調整、認識の共有等により、信頼の醸成及び相互理解の促進を図りました。統合作戦司令部は、情報発信分野に関する活動を継続し、領域を横断した能力の更なる強化に努めます」と当たり障りのない記述をしているが、日米それぞれが統合運用をしている中で、情報の共有化を進めたことを示している。「更なる強化に」とあるのは、改善すべき課題がいくつもあるということだろう。(注5)
次は北部方面隊と陸自富士学校。バリカタン26の特徴の一つは地対艦ミサイルの発射である。そのため、北海道に配備されている第1特科団から88式地対艦ミサイルをフィリピンに送り込んだ。1988年に正式配備されたので「88式」という呼称がつけられている。
陸自富士学校の参加は、ミサイル発射の検証のためと推測される。富士学校には「陸上自衛隊開発実験団」が配備されている。第1特科団や第1空挺団と同じく団長は陸将補(陸軍少将)が担当する大組織である。開発団の中に装備実験隊があり、第1から第7実験科が置かれている。第2実験科が「火薬、ロケット及び弾薬」の担当で、第3実験科が「誘導武器」(ミサイル)の担当である。(防衛省「陸上自衛隊開発実験団の組織に関する訓令」最終改正2015年10月1日)
次に、佐世保に配備されている上陸作戦が専門の水陸機動団。これは一覧表にある陸上総隊の一員である。地元のKTNテレビ長崎は4月14日、「佐世保から陸上自衛隊水陸機動団や海上自衛隊の輸送艦などが派遣されました。派遣されたのは陸上自衛隊相浦駐屯地の水陸機動団が持つ「水陸両用車・AAV7」や、海上自衛隊 水陸両用戦機雷戦群の輸送艦「しもきた」と護衛艦「いせ」です」「佐世保から派遣される部隊の隊員は合わせて約860人で、共同訓練では水陸両用作戦訓練などに参加する予定です」と報じた。「いせ」はヘリコプターを最大11機搭載するヘリコプター空母であり乗組員は約340人。すると約520人が水陸機動団の派遣人数ということになろうか。
バリカタン25では、艦艇の派遣は、もがみ型護衛艦「やはぎ」1隻だけだった。この時はオーストラリアに売り込みを掛けている最中だったので、参加各国への「お披露目」という要素もあった。今回派遣された艦艇には、そうした要素はない。
大型揚陸艦「しもきた」(第1水陸両用戦隊、呉)には、陸自隊員330名分のベットがある。水陸両用戦機雷戦群の旗艦であるヘリ空母「いせ」(佐世保)、そして、横須賀配備の護衛艦「いかづち」の3隻となった。「しもきた」と「いせ」に水陸機動団の隊員を載せ、ホーバークラフト艇かゴムボート、大型ヘリで地上に上陸させる。艦砲射撃などで「いかづち」がこれを掩護する。揚陸作戦を想定した艦隊編成である。
訓練内容の変化を見てみよう。バリカタン25では自衛隊が参加したのは「多国間海上機動」のみで、統合兵站訓練、水陸両用作戦、対艦戦闘の3つはオブザーバー参加に留めていた。
それがバリカタン26では、①多国間海上訓練、②水陸両用作戦訓練、③対着上陸射撃訓練、④対艦戦闘訓練、⑤統合防空ミサイル防衛訓練、⑥サイバー攻撃等対処訓練、⑦統合衛生訓練,⑧滑走路被害復旧訓練の8つの分野の訓練が設定され、自衛隊は参加した。対艦戦闘訓練-地対艦ミサイルの発射訓練は大々的に報道された。対着上陸射撃訓練は、海岸線から上陸して来る相手に実弾射撃を加えて、撃退する訓練であるが、水陸機動団の隊員40名が海上に設置した目標に向けて射撃する様子も報道されている。
●バリカタン演習全体の特徴-ルソン海峡と台湾南部をにらみミサイルの重層的な配備
自衛隊の訓練参加の態様を見てきた。次に米軍の演習参加のようすを見ていきたい。今回の演習の最大の特徴は、各種ミサイルの重層的な配備である。
まずは、台湾と180kmしか離れていない、フィリピン最北部のイトバヤット島に米軍の高機動ロケット砲システム・ハイマースを搬入した。次にルソン島北部のカガヤン北空港に無人対艦ミサイル「ネメシス」(Navy Marine Expeditionary Ship Interdiction System の略。直訳すれば海軍・海兵隊遠征艦阻止システムだろうか)を搬入。陸自の88式地対艦ミサイルも加わる。そして、2024年のバリカタン演習以来、米軍がフィリピンに残置しているタイフォン・ミサイルシステム(トマホークと対艦・対空ミサイルSM-6を組み合わせたもの)を、ルソン島の後方にあたるレイテ島のタクロバン空港に配備して5月5日に発射、北西に約630km飛翔して、フォート・マグサイサイ基地に着弾している。(注6)
また、今回の演習では補給物資の搬入と配送も重視された。
後方拠点として重視されたのはミンダナオ島である。「艦から陸への装備の荷降ろしや移動を通じた、動的な海上維持と分散物流。バリカタン2026開始前に、フィリピン軍と米軍はカガヤン・デ・オロ港(ミンダナオ島)で海上前置部隊輸送船からの装備と物資の荷降ろしを行い、ルソン島全域に輸送・配布しました。訓練支援のため、物資や装備の移動・配布は演習中も継続されます」としている。
また、第7艦隊広報部は艦艇の活動について、
「オーストラリア、カナダ、米国は南シナ海で多国間作戦を実施しています 。 オーストラリア海軍、カナダ王立軍、アメリカ海軍の艦船が、4月12日から18日にかけて南シナ海で自由かつ開かれたインド太平洋を支援する多国間作戦を実施しました。 参加者には、オーストラリア海軍アンザック級フリゲート艦HMASトゥーンバ(FFH 156)、カナダ空軍のスーパーピューマヘリコプター、カナダ海軍ハリファックス級フリゲート艦HMCSシャーロットタウン(FFH 339)、そして海兵隊員を乗せたドック型揚陸艦USSアシュランド(LSD 48)が含まれていました」と述べている。
この艦艇の動きとは別に、4月27日には「統合衛生訓練」の一環として、海自の救難飛行艇US-2が参加国兵士の救難輸送訓練を実施している。
●中国海軍の対抗演習
「米海軍協会ニュース」は、バリカタン演習に対する中国軍の動きを次のように伝えている。
「「現状の地域情勢」に応じて、人民解放軍南部戦区司令部はバリカタン作戦中にルソン島周辺で多数の軍艦と航空機を出撃させ、人民解放軍の演習を行いました。 先週、人民解放軍は、055型駆逐艦「遵義」(107)、052D型駆逐艦「合肥」(174)、054A型フリゲート「咸寧」(500)、補給艦「駱馬湖」(907)からなる中国人民解放軍海軍の水上作戦部隊「タスクフォース107」による実弾訓練を公開しました。司令部から公開された映像には、無人航空システムを発進させ、敵の航空・ミサイルの脅威に対する自衛訓練を行い、主砲の実弾射撃演習を行っている様子が映っています。また、中国人民解放軍は海上攻撃を専門とするH-6爆撃機も派遣しました。 水上戦闘群の2隻の駆逐艦は、HHQ-9地対空ミサイル、YJ-18巡航ミサイル、そして同軍の近年注目されているYJ-20極超音速対艦弾道ミサイルなどさまざまなミサイルに対応可能な垂直発射システムを176基搭載可能です。バリカタン演習に先立ち、南海艦隊司令部は、この高性能精密攻撃兵器の古い試験映像を合同空海戦闘演習の発表資料に含めて公開しました」「今年、バリカタン周辺の人民解放軍海軍の対抗演習活動は著しく強化されており、ルソン島東部で活動する水上行動部隊はその最も明確な表れです」(注7)
バリカタン演習は米中間の、そして、日中間の緊張を、より激化させた。
●「あぶくま」型護衛艦と地対艦ミサイルの輸出問題
日本とフィリピンの間で「あぶくま型」護衛艦のフィリピンへの輸出の話が進めば、日中間の緊張はさらに高まろう。「あぶくま」型は1988年から1993年に6隻が建造された旧式の護衛艦である。満載排水量2900トン、全長109mと小型であるが、76ミリ砲、ハープーン対艦ミサイル、アスロック対潜ロケット弾、魚雷と、基本的な武器は搭載している。レーダー等の装備は旧式であり、長射程ミサイルはもちろん搭載していない。これから、日本とフィリピンの間で、どこを改修するかが検討されるのではないだろうか。また、バリカタン演習で陸自が使用した地対艦ミサイルの輸出も俎上に上るかもしれない。しかし、武器輸出の拡大は何の問題解決にもならない。
中国とフィリピンの対話の仲介役を担うこと、いやその前に、日中関係の改善こそが問われている。
注1 防衛省HP 2026年5月5日 日本・フィリピン防衛相 共同プレスステートメント
https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/area/2026/20260505_phl-j_a.html
注2 統合幕僚長記者会見 2026年4月17日
https://www.mod.go.jp/js/about/message/2026/0417.html
注3 「USINDOPACOM NEWS] 2026年5月18日
https://www.pacom.mil/Media/News/News-Articles/Article/4495400/salaknib-2026-tropic-lightning-partners-forge-the-shield-in-the-crucible-of-jpm/
注4 陸上自衛隊FB 2026年5月20日
https://www.facebook.com/jgsdf.fp/posts/pfbid02TYL3ouJJYoGSR9tm3xqkFfHCmT9GhzRVzNvBrEZAhtUwAMzFSb1M2yjVJV16hKWVl
注5 統合作戦司令部HP
https://www.mod.go.jp/jjoc/about/topics.html
注6 GLOBAL DEFENSE NEWS 2026年5月6日
https://www.defensenews.com/global/asia-pacific/2026/05/05/us-army-fires-tomahawk-missile-from-new-typhon-launcher-during-philippines-drill/
注7「遵義」は大型のイージス艦。満載排水量13,000トン、全長180m、出力150,000馬力、垂直発射装置112セル。射程距離1500~2000kmの対地攻撃用巡航ミサイルCJ-10を搭載。中国海軍はこのタイプを10隻保有し、さらに建造中。艦艇の大きさ、性能を比較するために海自の最新鋭のイージス艦「はぐろ」の諸元をあげておく。10,250トン、170m、69,000馬力、96セル。射程距離約400kmの17式艦対艦ミサイルを海自のイージス艦で唯一搭載。他の海自イージス艦は射程150~200kmの艦対艦ミサイルを搭載。
「合肥」は満載排水量7,500トン、全長157m、出力67,050馬力、垂直発射装置64セル。「駱馬湖」は満載排水量23,000トン、全長178.5mで日米の補給艦と比較すると特に大型ではない。『中国・台湾の海軍力』海人社2025年参照。YJ-20は速度マッハ6以上、射程距離1500kmという情報もある。(https://www.vietnam.vn/ja/tau-chien-trung-quoc-trang-bi-ten-lua-yj-20-dang-cap-the-gioi)
