イラク情勢Watch vol.4 05年7月22日
        発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)



Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)来日したモハマドくん「ファルージャの状況を知って」
3)「イラク戦争参戦がテロを招いた」英シンクタンクが報告
4)英政府のイラク治安機関への支援、人権問題を助長
5)狙われるスンニ派 イラク・イスラム法学者協会メンバーも殺害される



1)週間イラク報道Pick up

  7月22日 イラク軍の大半は能力不足 米軍評価、程遠い「自立」(共同)

  21日 <イラク>憲法起草委スンニ派メンバーら3人殺害(毎日)

  20日 自衛隊のサマワ駐留延長、米大使が強い期待(読売)
  
  19日 停電不満で電力事務所占拠=サマワ郊外で武装デモ隊(時事)

  18日 イラク選挙で秘密工作 米、議会反対で断念(共同)

  17日 給油所で自爆、60人死亡 イラク中部、大爆発に(共同)

  16日 陸自小倉駐屯地からイラク派遣 候補者ら6人が市長訪問(西日本)

  15日 <韓国>イラク撤収決議案を提出 テロ標的の恐れで(毎日)



2)来日したモハマドくん「ファルージャの状況を知って」


 昨年5月末、イラク中部マハムディーヤで襲撃され、死亡した橋田信介さん、小川功太郎さんの働きかけで、負傷した目の治療を日本で受けたモハマド・ハイサム・サレハくん(11)が、今月7日に来日、20日に最後の検診を受けた。元通りの視力の回復は難しいものの、全く見えなかった目は、大きな字なら何とか読めるまでに回復したという。同日、モハマドくんとその父ハイサムさんは、志葉との単独インタビューに応じ、故郷であるファルージャの近況を話した。


 検査を終えて報道陣のインタビューに応えるモハマドくん (C)志葉玲

 昨年11月、ファルージャは米軍とイラク国家警備隊による総攻撃を受け、街は壊滅的な被害を被った。モハマドくん一家は間一髪、ファルージャの外に批難したが、取り残された友人や知人達には殺されたり、大怪我を負ったりした人も多かったのだという。
 
 避難してから5ヵ月後の今年3月、モハマドくん一家は、ファルージャに帰還した。そこで観たものは9割の建造物が破壊された、荒廃しきった街だった。水や電気はほとんど配給されず、現在も散発的な戦闘があるため、モハマドくんや他の子ども達は外で遊ぶことや学校に行くこともできない。街のあちこちには、米兵達が陣取っており、家々に突然押し入ってくることもしばしばだ。モハマドくんの家にも米兵達は突入してきた。ハイサムさんは外出中だったが、もし、家にいたら拘束されてしまっていたかもしれない。
   
 こうした状況を日本の人々にも、もっと知ってもらいたいとハイサムさんやモハマドくんは願っているが、報道されるのは、目の治療のことや「愛知万博に行った」「富士山に登った」などというものばかりだ。



3)「イラク戦争参戦がテロを招いた」英シンクタンクが報告

 18日、イギリスの権威あるシンクタンク「王立国際問題研究所」(通称チャタムハウス)は、ブレア政権がブッシュ米政権を支持したことがテロを招いたとする報告書を発表した。報告書は、「今後イギリスがテロを防ぐ上でカギとなるのは、イギリスが米国のテロとの戦いの“オートバイ同乗者”であるというポジションである」と指摘。「アフガニスタン攻撃やイラク戦争へ参戦したことが、リスクとなった」と、対テロ戦争で、米国とイギリスが最も強い協力関係にあることを問題視している。

 さらに英紙ガーディアンが19日に発表した世論調査では、ロンドン同時テロの原因としてブレア首相のイラク戦争参戦に責任があるか、との問いに対して「大いにある」「少しはある」があわせて6割を超えた。

ブレア首相はロンドン同時多発テロの原因は自身の対米・対イラク政策と因果関係はないと主張していたが、責任を問う声の高まりに苦慮しそうだ。

参考: Chatham House :http://www.chathamhouse.org.uk/



4)英政府のイラク治安機関への支援、人権問題を助長

 膝をドリルで貫く、焼きゴテをあてる、性器に電気ショックを加える…現在、イラクの警察や治安部隊がサダム時代を彷彿とさせるような拷問を、被拘束者に加えていることが問題となっている。

 3日付の英オブザーバー紙はイギリス政府のイラク治安部隊への支援が人権問題を拡大させている、と報じた。英国防省は2700万ポンド(1ポンド=198円)をイラク政府に供与、この資金はイラク警察や治安部隊にあてられ、銃や弾薬、装甲車や防弾チョッキの購入資金とされている。この問題はイギリス議会でも、野党が追及、英外務省はイラクの治安部隊によって様々な被拘束者の虐待が起こっている事実を認めた。また英外務省はオブザーバー紙に「どんな虐待も許されることではない」「再発を防ぐため、あらゆる措置をとる」とコメントしている。

 国際的な人権団体「ヒューマンライツ・ウォッチ」(HRW)が、今年1月25日に発表した報告書によれば、同団体のインタビューに応じた拘束経験のあるイラク人90人の内、72人が拘束中に虐待を受けた、と答えている。



5)狙われるスンニ派 イラク・イスラム法学者協会メンバーも殺害される
 
 13日、スンニ派の有力宗教組織であるイラク・イスラム法学者協会は同協会のメンバーを含む13人のスンニ派の男性がイラク移行政権の治安部隊に拘束され、12人が遺体で発見されたことを発表した。AP通信によると、13日の明け方、武装した治安部隊がスンニ派の民家を急襲、13人を拘束。数時間後、拷問された痕がある12人の遺体がシーア派住民の多いバグダッド北部サドル・シティーで発見されたのだという。13人目の遺体は発見されなかった。

 今月10日にも、アル・ヌール病院に親戚を訪れたスンニ派の市民11人が治安部隊に拘束され、拷問を受けた後、炎天下の中、コンテナ内に監禁・放置され、10人が死亡するという事件が起きている。カタールのニュースサイト「イスラム・オンライン」によれば、イラク・イスラム法学者協会のハリス・アル=ダリ師は、バグダッド北部のアル・ヌール病院が「治安当局のビジネスセンターとなっている」と批難した。同病院では、「反抗的」とみられる部族の若者が来た時、その若者達が拘留されることもあるのだという。

 イラクでは、特にスンニ派の市民がシーア派の多い治安部隊に拘束・殺害されることが多くなっており、宗派間の対立の激化が懸念されている。

解説: イラク・イスラム法学者協会はイスラム・スンニ派の法学者たちによる有力団体で、昨年4月の邦人人質事件でも、解放の交渉役として活躍した。また強硬に米軍などの多国籍軍の駐留に反対し、昨年11月のファルージャ総攻撃に抗議して、今年1月に行われた直接選挙のボイコットをスンニ派に呼びかけるなど、スンニ派政党に影響力を行使していることでも知られる。一般に「イスラム聖職者協会」の呼称で知られているが、イスラム教においては、イスラム法を解釈する法学者はいても、「聖職者」という概念はないため、本記事では「イラク・イスラム法学者協会」との表記を採用する。



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