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朝鮮半島への視点 第2回 まだ見えない局面転換

2009年7月11日

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朝鮮半島への視点 第2回 まだ見えない局面転換
                       連絡会事務局長 石坂浩一

 今月も通信が遅くなり申し訳ありません。6月には国連安全保障理事会における北朝鮮非難決議、それに伴う北朝鮮の貨物に対する監視の圧迫、韓米首脳会談、北朝鮮側の反発などがありましたが、局面が転換する気配はまだ具体化していません。とはいえ、水面下で何かが動いている可能性もあります。情報に振り回されず、見極めていきましょう。

〈オバマ政権の定まらぬ姿勢〉
 5月25日の北朝鮮による核実験に対し、国連安保理は6月12日、追加政策決議1874を全会一致で決議しました。北朝鮮は13日、外務省が決議を批判する声明を出しましたが、その内容は予想よりも抑えられたものでした。
 京郷新聞のイ・ジョングン外信部長は6月22日付のコラムで、オバマ大統領が「弱腰コンプレックス」に陥ることのないよう促すコラムを書いています。オバマ大統領の就任にあたって米国のあるシンクタンクは、オバマ政権に警告をしていたといいます。就任直後の米国の大統領は平和政策の公約実現に努力するが、弱腰だという批判が広がると一転して軍事的対応に向かうことがある、これこそ失敗に結びつくもので、とりわけ民主党政権でこうした失敗が見られたので、警戒すべきだというのでした。
 イ・ジョングン外信部長は、米国の保守系放送局フォックステレビが6月15日に伝えた900人を対象とする世論調査で、北朝鮮政策が適切だとした人が15%なのに対し、強い姿勢が足りないとした人が69%に上ったと書いています。米国内で保守派の圧迫を受け、オバマ政権は4月の「人工衛星」発射以降、北朝鮮には強硬な姿勢をとることを基調としていますが、こうした世論調査はオバマ政権の強硬姿勢の背中を押しているといえるでしょう。
 6月11日の『朝日』に出たヤン・C・キム ジョージワシントン大学名誉教授の論考は、傾聴すべきものでした。米国は当面、北朝鮮に対し厳格な政策を採っていくだろうが、核拡散とプルトニウム増産を阻止するために政策転換を図る可能性があるという指摘です。前回も書きましたが、北朝鮮を非難し関与しない政策は実は無視政策ですから、これが続くとオバマ政権にとってマイナスの結果になりえます。結局、選択肢はそれほど多くはないのです。
 米国・国際政策センターのセリグ・ハリソン研究員は、ゴア元副大統領が5月11日にクリントン国務長官に会って、米朝のこう着状態を打開する特使の権限を自分に与えてほしいと訴えたのに対し、クリントン長官は考えてみるといったきり、答えを出すことを延ばしていると指摘しました。当面課題として米国籍の記者2名の釈放問題があり、ゴア氏の派遣はこれに関連して以前から選択肢のひとつとされたのですが、米国政府は人道問題と安保問題とは別だという建前を崩していません。ハリソン氏は、米国が民間特使を派遣し、昨年六者協議が暗礁に乗り上げる原因となった未執行の原油20万トン提供などを提示して、信頼関係を回復するシグナルを送り、北朝鮮の核兵器を現状でとどめるよう努力すべきだと主張しています(『ハンギョレ』6月20日)。
 国務省で東アジアを担当するカート・キャンベル国務次官補が6月25日にようやく上院で承認されました。米国の対北朝鮮政策も具体化することが期待されています。7月2日にはシンポジウム出席のため訪中したキッシンジャー元国務長官が、温家宝首相と会談したことも注目を引いています。

〈前政権否定に腐心するイ・ミョンバク政権〉
 イ・ミョンバク(李明博)政権は6月16日にオバマ大統領と会談し、韓米首脳間で初めて米国の韓国に対する核の傘を含めた拡大抑止提供に合意しました。この会談では六者会談は議論さえされず、米韓がこの枠組みをもはや重視していないことを示しました。イ・ミョンバク政権は代わりに五者協議を提案しましたが、さすがにオバマ大統領は五者をそのまま受け入れることはしませんでした。17日に行なわれた中ロ首脳会談では胡錦涛主席とメドベージェフ大統領が共同声明で北朝鮮の六者協議への復帰を促しましたが、米韓の姿勢は対照的です。
 韓国では、イ・ミョンバク政権が前政権であるノ・ムヒョン政権を否定すべく北に対する強硬姿勢を強めていることに批判が高まっています。この間、米国の強硬策を促すような働きを韓国政府が果たしてきたという批判は認めざるをえないでしょう。
 今年になって北朝鮮が発射したロケットは18発、核実験と合わせて費用は10億ドル程度と報じられています。こうした中で、イ・ミョンバク大統領は7月7日、ワルシャワでのインタビューで、キム・デジュン、ノ・ムヒョン両政権でなされた対北朝鮮支援金が核武装に利用されたという発言をして、注目されました。与党ハンナラ党や保守系新聞では数兆ウォンが北に流れたと煽動的主張をしているものもあるようです。
 丁世鉉元統一部長官はこれに対して、インターネット新聞〈プレシアン〉の連載コラム「丁世鉉の情勢トーク」(7月7日)で反論しました。北朝鮮支援事業にふたつの前政権の時代に使われた金額は、民間もすべて含めて37億ドルあまり。しかし、政府支援は、大部分が現物で行なわれており、サービスの代価としての韓国企業向けの支払いも相当あります。98年以降金剛山韓国で支払った金額は4億8600万ドル、それに払ったのは現代グループです。金剛山観光の収入が順調だった時期に北朝鮮の中国からの輸入が増えていたというジェトロ(日本貿易振興公社)の統計からも伺えるといいます。
 そして、何よりも北朝鮮の軍事経済部門は第二経済委員会と呼ばれる機構が担っており、むしろミサイル製造はミサイル輸出のような武器輸出で充当されているのではないかという指摘です。
 5月24日に亡くなったノ・ムヒョン大統領を惜しむ気分は、韓国ではなかなか消えることがないようです。政権がそれを意識しすぎて、反対の政策をとろうとすると、かえって反発が強まるはずですが、イ・ミョンバク政権はそうした悪手を打ち続けているように見えます。集会の自由の制限、MBCのドキュメンタリー番組のプロデューサーに対する拘束に象徴される言論規制、労働運動押さえ込みなど、中道を重視するという表明にそぐわない対応は、転換が望まれているのではないでしょうか。

〈慎重に動き始めた中国〉
 6月12日の国連安保理決議にあたって、制裁内容を緩和し、一気に事態が動いて対決情勢に弾みがつくことを回避したのは中国でした。日米が当初考えていたより決議まで時間がかかったことで、雰囲気は多少さめたものになりました。冒頭で述べましたが、北朝鮮の外務省声明がプルトニウム全量の核兵器科などを盛り込んだものの、弾道ミサイルや核実験を入れていなかった点は、小休止を思わせるものでした。
 北朝鮮の貨物検査も、安保理決議が船舶所属国の同意を条件とするように緩和されたことで、まだ衝突に発展するような事件はおきていません。脅しとして船舶に対する追尾のようなことは行なわれるでしょうが、不測の事態が起きないうちに打開の糸口がつかめればと思います。
 中国の武大偉外務次官は7月6日にクリントン国務長官らと会談し、六者協議再開に自信を持っていると述べたと伝えられています。果たして六者協議という枠組みがこれからも機能するかどうかは問題です。しかし、いったん六者協議での合意を事実上確認して、米朝で解決へのロードマップや内容を詰めていくということにならざるをえないのですから、武大偉次官がそのための準備を推進しているとすれば歓迎すべきことにほかなりません。中国は北朝鮮との交流や支援を微妙に調整しつつ、局面転換を図っているようです。
北朝鮮の後継者問題では情報だけはいろいろ出ましたが、未確認のままのものがほとんどです。もしも金正日国防委員長の三男が何らかの地位につくとしても、それが後継者ということなのか、何らかの中継ぎなのか、何も確証がありません。冷静に見守っていくべきでしょう。基本的には、2012年に強盛大国の扉を開くという方針だけは繰り返されていますので、そのことの意味に結び付けてシステム的に考えるべきでしょう。
 残念ながら日本政府は、無策のまま総選挙に進むようです。安保理決議以降、日本政府・経済産業省は個人が北朝鮮に送る団体の機関紙や個人的小包まで全面輸出禁止の対象としていることが、個別事例からわかってきました。これではいじめ以上のものではありません。こうした事実があることは、ぜひとも社会的に知らせ、問題にしていくべきです。外交努力を怠りうわべを取り繕うような制裁措置ではなく、実のある平和政策を政権交代を通じてめざしたいものです。

〈連絡会の総会に向けて〉
 7月24日(金)に東京の日本教育会館で午後3時から日朝国交正常化連絡会の1周年総会を開催します。夜は李鍾元さんの記念講演を行ないます。解散・総選挙が間近となる中、お忙しいことでしょうが、ぜひとも全国の皆さんのご参加をお待ちしております。総会では、2010年末までに日朝基本条約を締結し、その後のプロセスで諸課題を解決し友好交流を進めていくという方針を提起する予定ですが、東京レベルで検討してきた日朝条約案を皆様にお送りします。24日の総会までにご検討くださり、積極的にご意見をお寄せ下さると幸いです。参加できない皆様も事前にご意見をお送りください。よろしくお願いいたします。
 

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