イラク情勢Watch vol.8 05年8月22日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)全米でイラク撤退を求める戦死米兵の母親支援の集会〜10万3000人が参加〜
3)イラク西部アンバル州で人道・医療的危機〜イラク医療関係者たちが緊急声明〜
4)イラク新憲法起草作業まとまらず〜期限を7日間延長〜


1)週間イラク報道Pick up

【05.8.21】<イラク駐留米軍>09年まで10万人継続駐留も検討に(毎日)

【05.8.20】イラク派遣 選挙管理者規定なし 陸自隊員投票できず?(西日本)

【05.8.19】イラク撤退期限設定求める ロシア大統領(共同)

【05.8.17】民主党 マニフェスト原案を発表 イラク12月撤退を明記(毎日)

【05.8.16】イラク、憲法草案策定期限を7日間延長(読売)

【05.8.16】カメラマンのラシードさん、イラク現状報告し訴え−北区で集会/大阪(毎日)

【05.8.14】節目迎える自衛隊派遣 衆院選後に撤退論加速も(共同)



2)全米でイラク撤退を求める戦死米兵の母親支援の集会〜10万3000人が参加〜

 イラクに派遣された息子を失った母親シンディ・シーハンさん(48)の米軍撤退を求める訴えが全米の注目を集めている。

    
    画像はシーハンさん支援サイト。シーハンさんのビデオメッセージも見れる。

 今月6日からシーハンさんは、夏休みに入ったブッシュ大統領宅(テキサス州クロフォード)近くにキャンプを張り、大統領への面会を求めている。シーハンさんは「何故息子が死ななくてはいけなかったのか。これ以上、米国の若者を不当な戦争で無駄死にさせるべきではないと大統領に伝えたい」と訴え続けている。シーハンさんの息子である故ケイシーさん(享年24歳)は、昨年4月にイラクに派遣され、わずか5日後に死亡した。
 シーハンさんの活動はメディアでも紹介され、大きな反響を呼んでいる。18日にはシーハンさんを支援する集会が全米1600ヶ所で行われ、約10万3000人(主催者発表)が参加したという。
 米国では増加する一方の米軍死傷者数に世論の批判が高まり、6日に米誌ニューズウィークが発表した世論調査では、ブッシュ政権の対イラク政策への支持は34%と過去最低のとなり、ブッシュ政権自体の支持率も「支持しない」が51%と過半数を超えた。



3)イラク西部アンバル州で人道・医療的危機〜イラク医療関係者たちが緊急声明〜

 イラクの医療関係者による教育・医療支援組織「ドクターズ・フォー・イラク」は14日、各国の平和団体にむけてイラク西部アンバル州での人道・医療的危機を憂慮する緊急の声明を出した。
 
 同団体によると、イラク西部のハディーサ、ラワ、パルワナなどの地域はこの三週間、米軍による激しい攻撃を受けており、ハディーサの病院は米軍の狙撃手によって少なくとも11人が死亡、15人が負傷したという。ラワの街には米海兵隊が侵攻、住宅地にも爆弾が投下され、パルワナでは、中に人々がいるにも関わらず学校が空爆されたそうだ。人々はアナなどの近郊の町や村に避難しているが、米軍は救急車や食料を積んだトラックが作戦地域一帯に立ち入ることを許さず、各病院では手術用具や抗生物質他、基礎的な医療物資が不足しているのだという。

 ドクターズ・フォー・イラクは、これらの地域の病院に医療物資を届けることを試み、攻撃を受けている地域にも医療チームを派遣している。さらに、米軍による攻撃の中止を訴え、今回の攻撃はジュネーブ条約への重大な違反だとして独立した調査が行われることを要求している。


4)イラク新憲法起草作業まとまらず〜期限を7日間延長〜

 15日をその期限とするイラクの新憲法起草は、同日深夜までシーア、クルド、スンニ政党等の各勢力の協議が続けられたが、結局まとまらず、期限を7日間延長し、22日まで協議を続けることとなった。

 議論が紛糾している原因には、(1)シーア派信徒の要求するイスラム国家化の是非、(2)クルド人の主張する連邦制の是非、(3)石油利益の分配、などの問題がある。

 シーア派政党は、イスラム色の強い憲法を求めているが、クルド人政党や他の世俗的な政党はこれに反対。サダム政権崩壊後のイラクでは、コーランに記されているイスラム法を解釈する法学者が急速シーア派の民衆の心を掴み、宗教指導者としての役割を果たすだけでなく、事実上、シーア派政党にも絶大な影響力を持っている。一方で、サダム・フセイン政権下では世俗化政策が進められてきたため、イラクの宗教国家化を好まないイラク人も少なくない。クルド人政党もまた世俗的であり、宗教指導者ではなく政党指導者が政治的な力を持ってきたため、これまでもシーア派政党とは度々意見を衝突させてきた。

 シーア派政党による宗教国家化に対しては、イラクの女性団体も非常に神経を尖らしている。サダム・フセイン政権は世俗化政策をすすめ中東の国々の中では最も女性の権利が認められ、社会進出も目覚しかったが、イスラム法に基づく憲法が起草されれば、むしろ現在よりも女性の社会的立場は低くさせられるというのがその主張だ。

 サダム・フセイン政権時代、石油大国のイラクの中でも最大の油田のある北部の街キルクークでは、元々住んでいたクルド人達が大量に強制移住させられ、スンニ派アラブ人の入植が行われた。20万人ものクルド人男性が行方不明になったといわれているが、この時の過酷な経験がイラクのクルド人が自治を求める一因だ。サダム政権崩壊後、キルクークではスンニ派住民とクルド人住民との間の感情的な対立が地域の不安定要因となっている。

 キルクークの帰属問題は単に民族間の問題というだけでなく、今後の石油利権とも大きく関わるため、イラク国家全体の行く先にも大きな影響を与えることは必至だ。クルド人政党は自治区内の石油を優先的に利用する権限を求めている。これに対しスンニ派政党は、「連邦制は国家の分裂を招く」と反対、シーア派政党も当初は反対していたが、イラク・イスラム革命最高評議会を率いるアブデル・アジズ・ハキム師は12日、南部にシーア派自治区の設立を要求。シーア派の多いイラク南部にも油田地帯があるが、今後シーア派内でも自治区設立の動きが活発化すれば、反占領抵抗運動の中心であるスンニ派が孤立することとなり、結果としてイラク憲法制定のプロセス自体が危機を迎える可能性もある。
 
 なお、現在のイラクの政治プロセスは事実上、米国の主導の下に進められているが、イラク・イスラム法学者協会とサドル派という、スンニ・シーア二大勢力とその他の反占領勢力は「Anti -Occupation Patriotic Force(反占領愛国戦線)」を結成、今年2月15日に占領軍撤退のタイムテーブルの明確化、イラク人の占領に抵抗する権利、米主導の政治プロセスの正当性の否定、不当に拘束されているイラク人の解放等を訴える声明を出している。

【参考】イラクの政治プロセス
05年1月30日 国民議会選挙
05年4月28日 移行政権発足
05年8月15日まで 新憲法起草(期限を7日延長)
05年10月15日まで 新憲法をめぐる国民投票
05年12月15日まで 新憲法に基づく選挙、「正式」政権樹立か?



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