イラク情勢Watch vol.9 05年8月30日
         発行:フォーラム平和・人権・環境  編集:志葉 玲

       毎週更新(予定)


Topics
1)週間イラク報道Pick up
2)ロイター通信、契約カメラマンの解放を米軍に要請
3)サマワ シーア派民兵組織同士の抗争勃発か?
4)日本におけるスンニ派報道に関する疑問
5)シーハン旋風、ブッシュ大統領を脅かす


1)週間イラク報道Pick up

【05.8.30】イラク新憲法 国民投票へ 溝深める見切り発車 スンニ派参加なら否決も(産経)

【05.8.29】イラクが派遣延長要請 首相は積極姿勢(共同)


【05.8.27】イラクでさらなる米兵の犠牲を覚悟する必要=米大統領(ロイター)

【05.8.26】米軍撤退を議会にも要求 イラク戦死兵の母(共同)

【05.8.25】イラク軍の準備でき次第、米国は支配を弱めるべき=米軍高官(ロイター)

【05.8.25】シーア派が衝突し8人死亡、サドル派が各地で攻撃(読売)

【05. 8.24】<意見広告>米テレビ局、反戦の母の放送拒否 波紋広がる(毎日)

 


2) ロイター通信、契約カメラマンの解放を米軍に要請

 24日、ロイター通信は、同通信のために働いていたイラク人ジャーナリストの拘束理由の説明と解放を求めた。25日のロイター通信が伝えた。

 Ali Omar Abrahem al-Mashhadani氏(36)はバグダッドから西へ約100キロのラマディで1年間、ロイター通信の契約カメラマンとして働いていた。連絡が途絶えたのは2週間前。
米軍のスポークスマンも-Mashhadani氏をアブグレイブ刑務所に拘禁していることを認めた。しかし、拘束の理由に関しては一切説明をしていない。

 イラクでは、ジャーナリストが米軍に拘束・虐待・殺害されることが相次いでいる。今月初旬に来日したイサム・ラシード氏も過去3回拘束され、劣悪な環境下で拘禁されていた。本コーナー編集人の志葉も2003年6月に米軍に拘束され、8日間を収容所内で過ごした。そして、-Mashhadani氏の前任者だったイラク人ジャーナリストは昨年11月1日、米軍と武装勢力の間での戦闘の中で射殺された。彼が殺された時の状況をロイター通信は、説明を米軍に求めたが、一切返答は無いという。


3)サマワ シーア派民兵組織同士の抗争勃発か?

 時事通信は28日、自衛隊が駐留するサマワで、イスラム革命最高評議会(SCIRI)の事務所が、サドル師派に襲撃されたことに抗議するデモが行われたことを伝えた。SCIRIもサドル師派も、イスラム・シーア派有力グループで、自前の民兵組織を持っており、28日のデモには、SCIRIの民兵組織「バドル旅団」も参加したという。

 志葉に情報を提供しているサマワ在住の人権活動家の話によると、最近、バドル旅団はサマワにおいても、住民を拘束・尋問しており、非常に恐れられているという。イラクの他の地域においても、治安部隊にバドル旅団のメンバーが加わっていることが多く、これらの治安部隊は占領に批判的な人物を拘束し、残忍な方法で拷問し殺害している。

 サマワの件に関しては、まだ情報収集中だが、最近SCIRIとサドル師派の民兵組織がナジャフ、ナシリア、バスラなどで衝突を繰り返している。両者の対立が激化すれば、サマワ情勢全体や自衛隊員の安全にも悪影響が出てくることは必至だ。


4)日本におけるスンニ派報道に関する疑問

 17日のバグダッドでのバスターミナルでのテロを受けて、日本のニュース番組は「スンニ派武装勢力がシーア派住民が集まるバスターミナルを狙った」と報じたが、このことを耳にした原文次郎さん(日本国際ボランティアセンター・イラク支援担当)は、スンニ派のみを悪者にするような報道に対して以下のように批判した。日本のイラク支援関係者のネットワーク”Iraq Hope Network”のメンバーmlより、本人の許諾を取って転載。
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 「スンニ派武装勢力がシーア派住民が集まるバスターミナルを狙った」と聞いて、まずは目がテンになりました。BBCにしてもアルジャジーラにしてもそこまでは言っていないはずなのに誰がそういうステレオタイプの脚色をつけるのでしょうか?

確かに現場はアマラやバスラなど南部シーア派の多く住む地域へ向かうバスの発着所で、サドルシティにも近いところですから、犠牲者の多くがシーア派の人々であった可能性はありますが、クルド地域のスレイマニアやアルビル方面の発着所でもあります。

昨晩の段階でBBCでは「イラクのTV局の報道によれば」として、容疑者が拘束されたような報道が一時されていますが、最終的に真偽のほどは確かでありません。(BBCの報道も、最後の爆破があったアルキンディ病院の位置をヤルムーク病院の位置と間違えたりしていますから当てになりません。)

「スンニ派武装勢力」と呼ぶのは多分「ザルカウィ派」の含みがあって呼んでのであればある程度は合っていると言えます。ただそれをシーア派と対比させるのは誤解の元だと思います。

知り合いのイラク人(在アンマン)曰く、「犯人が一般のイラク人でスンニ派というのは信じられない。これだけ巧妙な作戦が実行できるのは個人でできるものではなく、イラク軍か警察か、あるいは米軍だろう。あるいはザルカウィ派など、憲法の制定過程を邪魔してイラクを混乱に陥れようという外国からのグループの仕業だろう」 と言っています。

14日付けワシントンポストの報道では、ラマディで少数派のシーア派を追い出そうとしたザルカウィ系グループに対して反発した地元のスンニ派の人々が蜂起して戦ったという報道があります。タイトルもそのものずばり「スンニ派イラク人がシーア派を守って戦闘」です。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/08/13/AR2005081301209.html

スンニ派とシーア派の対立を煽る報道に目を奪われていると、こうした事実に目が届きにくくなると思います。

原 文次郎@アンマン
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5)シーハン旋風、ブッシュ大統領を脅かす

 米兵だった息子をイラクで亡くし、休暇中のブッシュ大統領私邸近くで、大統領への面会とイラクからの米軍の撤退を呼びかけているシンディー・シーハンさん(48)を支援する動きはますます盛り上がってきている。

        

 28日には、『地獄の黙示録』等への出演で知られる映画俳優のマーチン・シーンさんがシーハンさんを訪問、「あまりに多くの人々が沈黙し続けた。シーハンさんの行動が人々が声を上げる契機になってくれればと願っている」と応援のメッセージを送った。イラク帰還兵による平和団体「戦争に抗うイラク帰還兵達(IVAW)」のメンバーも、シーハンさんやシーンさんと共に米軍のイラクからの撤退を呼びかけた。

 米調査会社ギャラップが26日に発表した世論調査によると、ブッシュ大統領への支持が40%、不支持率は56%と共に過去最低の数字となった。8月の間に支持を5ポイント下げるなど、全米で注目を集めているシーハンさんの運動がブッシュ大統領を脅かしていると言えるだろう。



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