1月, 2022 | 平和フォーラム

2022年01月31日

第10回NPT再検討会議を前にした核軍縮の国際的議論

ドウブルー達郎、湯浅一郎

                       

2021年は核軍縮にとって画期的な年であった。1月に核兵器禁止条約(以下、TPNW)が発効し、核不拡散条約(以下、NPT)と並行して2つのトラックで核軍縮の取り組みが進んでいくことになった。2021年1月に発足した米国のバイデン政権は、相手国より先に核兵器を使用しない、核の先行不使用(NFU)をその核兵器政策に取り入れようとしているが、日本は反対しており、その成り行きが注目される。こうした中で、コロナ禍が治まらないことで、2022年1 月に予定されていた第10回 NPT再検討会議、3月に予定されていたTPNWの第1回締約国会議は、ともに延期されてはいるが、2022年の開催が計画されている。これら 2つの核軍縮において重要な国際会議が間近に迫っている中で、日本の役割を含め、核軍縮をどのように進展させていくのかが問われている。そこで、本稿では、ニューヨーク国連本部で2021年10月に第76回国連総会の軍縮を扱う第1委員会に提出された、NPT上の核兵器国であるP5(米国、ロシア、英国、フランス、中国)の声明と核軍縮に関する包括的な決議である日本決議を考察する。

核軍拡の批判に居直るP5(米露英仏中)

10月7日、国連総会第1委員会で核兵器国を代表してフランスが、核兵器国の立場を表明する声明を発表した(注1)。それはNPTの重要性の再確認をするだけのものであり、TPNWへの言及はなかった(翌日のTPNW決議の投票において、P5は、TPNWは国際環境を無視しており、NPTを弱めるという理由でこぞって反対している)。声明は、国際的な緊張を緩和し、国家間の安定、安全保障、そして信用を作り出すことにより、NPTが核軍縮と核不拡散に重要な貢献を果たしてきたことを述べた。そして、NPTはこれからも核軍縮の更なる進展のために不可欠な状態を作り続けるという。声明は、P5が共有する以下のような6つの目標を掲げている。

1.P5間の予測可能性、信頼、相互理解を強化する手段として、また、具体的なリスク低減策として、ドクトリンと核政策に関する対話をとりわけ重視する。

2.NPT再検討会議にとって価値の高いテーマである戦略的リスク削減についての現在進行中の作業を評価するとともに、長期的にこの問題に取り組む用意があることを再確認する。

3.兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)については、軍縮会議(CD)において、核兵器及びその他の核爆発装置のための核分裂性物質の生産を禁止する、多国間の、国際的かつ効果的に検証可能な差別のない条約の交渉を、コンセンサスに基づいて、関係国の参加を得て行うことを支持する立場に変わりはない。

4.核用語集の第2版はほぼ完成している。この用語集は、各核兵器国の核政策に関する相互理解を深めるために重要な、透明性と信頼性を高める手段である。

5.P5は、東南アジア非核兵器地帯の目的を支持する。

6.核の平和利用については、P5はNPTの第3の柱を強化する必要があることを想起し、核技術へのアクセスを拡大し、エネルギー転換における核の役割を支持することに引き続き取り組んでいく。

P5が言うように、NPTは核兵器の拡散を防止し、国際社会を安定させる役割を一定程度果たしてきた。しかし、それは核不拡散を唯一の目的としている条約ではない。そして、核兵器国に核を独占し、永久に持たせることを保証しているわけでもない。NPT第6条は核兵器国を含む全ての国が核廃絶に向けた交渉を誠実に行う義務を負うことを明記している。つまり、NPTのもう一つの目的は核兵器国が核軍縮の義務を果たすことである。しかし、P5の声明からは、その義務を負っているという自覚が見えてこない。それどころか、全ての核兵器国は核兵器の近代化を進めており、それは核軍縮とは正反対の行動である。核ドクトリンにおいて核兵器の役割と重要性を引き下げる主張もない。

さらに、核兵器の非人道性への言及が一切ない。これでは、非人道性を重視するTPNWを推進する国々とのNPT再検討会議での対話は実りのあるものにはならない。まずは、P5として核兵器の非人道性を真摯に認めるべきである。最後の文節で、声明は、「P5は国際平和と安全保障を維持する特別な責任がある。緊張した国際安全保障を考慮すれば、P5間、核兵器国と非核兵器国間の対話の追求と強化が戦略的安定性の鍵となる」と述べている。そうだとすれば、核兵器国が優先的に果たすべき責任は、NPT第6条やNPT再検討会議の最終合意に基づいて、核軍縮を前進させることであろう。

核兵器国の核の近代化を批判しない日本決議

日本は1994年から28回連続で核軍縮のための、いわゆる日本決議を国連総会第1委員会に提出している。日本決議は被爆国である日本が提出し、NPT再検討会議の合意事項を再確認するとともに、核保有国に核軍縮を求め、一部の核保有国からも賛成票を得てきた点で一定の評価を受けてきた。その日本が10月14日に提出した「核兵器のない世界に向けた共同の行動方針と未来志向の対話」は、10月27日に第1委員会において賛成152、反対4、棄権30で採択された(注2)。反対国はロシア、中国、北朝鮮、シリアであった。核軍縮に熱心なブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカから成る新アジェンダ連合諸国(NAC諸国)は棄権した。2017年以降、NAC諸国からの賛成票はない。

今年を含め2017年以降の日本決議にはいくつか特徴がある。まず、TPNWを無視することである。TPNWが核の保有や使用を全面禁止するため、核抑止政策の保持を進める日本政府の政策とは相いれず、「核の傘」を提供する米国への配慮もあり、2017年以降の日本決議は一度もTPNWに言及したことはない。TPNWを表立って否定することはないが、無視する方針を取ることで、TPNWに関しては、核兵器依存国の立場を鮮明にしていると言える。

  

このような対応を続けることは、日本決議が核兵器をめぐる立場の違いを超えて賛同を得ることができなくなることを意味する。その不満からか、オーストリア、ブラジル、アイルランド、インドネシア、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカといった主要なTPNW推進国は、今年の日本決議を棄権した。ちなみに10月8日提出のTPNW決議に対し、日本は、核抑止政策を採る立場から反対したが、日本が核兵器のない世界を目指す以上、TPNWとの肯定的な関係を築くことが求められていることを考えれば、せめて棄権にすべきであった。この日本政府の投票行動は、市民が正確に知っておくべき事実である。

次に、核兵器の近代化や増強に関して、NPT合意に反するとして懸念を表明する記述が全くなかった。核兵器国は、核軍縮の分野で目立った進展がないどころか、過去のNPT合意に違反する行為を取り続けている。中国は核弾頭数を前年比で30発増やして350発とし、核軍縮に逆行している。イギリスも2021年3月に「競争時代におけるグローバルな英国―安全保障・防衛・開発及び外交政策の統合見直し」を発表し、その中で核弾頭数の上限を現在の180発から260発に引き上げる方針を発表した。この2か国の動きは世界的な核軍縮の流れに逆行するだけでなく、より具体的には、2010年NPT再検討会議の最終文書の「不可逆性の原則に従い、保有核兵器の完全廃棄を達成するという核兵器国による明確な約束が再確認されたことに留意する」に明確に反する。

米国とロシアも核弾頭数を減らしているものの、作戦配備数は若干増えており、核兵器の近代化を進め、事実上、核戦力を増強している(注3)。米国とロシアが新戦略兵器削減条約(新START)の延長に2月に合意したことを日本決議は歓迎したが、同じく重要なこととして、核兵器国が核兵器の拡散と使用のリスクを増やしていることに懸念を表明するべきではなかったか。

さらに、日本決議では、NPT再検討会議で積み重ねられた合意の履行に対する姿勢が、2017年から大きく後退した。その後、多くの批判を受けたことで若干の修正をしつつ、2019年には名称を変え、内容も大幅に変化させてきた経緯がある。以下に、その変遷をいくつかの例で見てみる。

今年の日本決議は、前文4節で1995年、2000年、そして2010年のNPT再検討会議の「各最終文書に盛り込まれた誓約履行の重要性を再確認」してはいる。この点について2016年の決議では前文ではなく主文3節において「1995年再検討・延長会議及び2000年、2010年再検討会議の最終文書で合意された諸措置を履行することを求める」としており、それと比べると後退は明確である。

2000年のNPT再検討会議では、NAC諸国の努力により、核兵器国も巻き込んで「核兵器の完全廃棄への核兵器保有国の明確な約束」という文言が最終文書に盛り込まれた。従来、日本は、この点を重視し、例えば2016年決議では、主文第2節で「全てのNPT締約国が第6条の下で誓約している核軍縮につながるよう、保有核兵器の全面的廃絶を達成するとした、核兵器国による明確な約束を再確認する」と明記していた。ところが、2017年決議から、NPT合意の文言をそのまま引用することを止めてしまった。その点では今年の日本決議も同じである。ただし、先に触れたように前文4節で「2000年合意履行の重要性を再確認」しており、まったく無視しているわけでもない。また主文1節では「NPTの全締約国が…同条約の第6条を含むあらゆる側面における完全かつ着実な履行に尽力していることを再確認する」と第6条履行の重要性に触れている。

2000年のNPT最終文書には、加盟国は「安全保障政策における核兵器の役割を低減する」との合意が含まれているが、今年を含めて決議のタイトルを変更した2019年以降、日本決議に、この文言は存在しなくなっている。2016年決議では、主文13節で「加盟国が、核兵器の役割や重要性の一層の低減のために、軍事・安全保障上の概念、ドクトリン、政策を継続的に見直していくことを求める」としていた。そして2017年、2018年決議では文脈を捻じ曲げつつも該当箇所を残していたが、2019年から削除されるという経過を辿っている。

さらに、2010年のNPT再検討会議合意では「核兵器のいかなる使用による壊滅的で非人道的な結末に対する深い懸念」を表明したが、日本はこの点でも関連する表現が後退している。2016年の日本決議の前文にあった「いかなる核兵器使用による壊滅的な人道的結末についての深い懸念を表明」という文言から、2017年からは「いかなる」が削除され、さらに「深い懸念」という、被爆体験に根差した核心的な表現が2019年の決議から削除され、その代わりに「認識する」と弱めた表現が用いられるようになった。今年の日本決議も2017年来の決議と同じ「核兵器使用による壊滅的な人道上の結末を認識し」という文言であった。「いかなる」を削除することによって「人道上の問題を起こさない核兵器の使用がありうる」という主張が含意される。以上から、日本決議は過去のNPT再検討会議合意の履行を求める点において大きく後退したままであることが分かる。

10月11日、日本の小笠原一郎軍縮大使は、第1委員会での演説で、「私たちは緊張が高まり、厳しく、不安定な国際安全保障環境に現在住んでいる。核兵器のない世界を実現する措置はこのような現実を考慮しなければならない」と発言した。日本決議の前文の「効果的な核軍縮と国際的安全保障の強化は相互に補強しあう方法で追求されるべきことを強調し」という文言は、安全保障のために核兵器の役割の低減に消極的である日本政府の立場を示している。そうした考え方の下で、日本決議は、現在の安全保障環境では核軍縮を進めることは困難という核兵器国の認識に合わせる形で作成されている。その結果、米国、英国が決議の共同提案国に名を連ね、それにフランスを加えた3か国が今年の日本決議に賛成することとなっているのである。

来るべき第10回NPT再検討会議と第1回TPNW締約国会議に向けて

日本決議には、TPNWへの言及がなく、NPT第6条履行の不十分性や核兵器の近代化を懸念する指摘がなかった。それに対し、NAC諸国が出した決議「核兵器のない世界へ:核軍縮に関する誓約の履行を加速する」(注4)は、NPTに基づいて核兵器国に核軍縮の義務があることを強調し、その履行を強く促すものであった。両者の主張の違いは核兵器の有用性、危険性、そして非人道性に対する認識の違いに由来する。核兵器に関し明らかに異なる認識があること、そして日本は表向きは核軍縮を主張しているが、実際には核軍縮に消極的な核兵器国側に立っていることを明らかにしている。新型コロナウイルス感染拡大で繰り返し延期されているNPT再検討会議は、核兵器廃絶のアプローチをめぐる核保有国と非保有国の見解の相違を埋め、核兵器国のNPT合意不履行を糾し、過去のNPT再検討会議で作られた合意を実行に移す具体的な措置につき、新たな合意を達成するための重要な機会になる。次の会議がいつ開かれるかは未定だが、2015年NPT再検討会議は最終合意の達成に失敗した以上、再検討会議の意義がこれ以上損なわれないよう、意義のある成果を出さなければならない。

TPNWの第1回締約国会議へのオブザーバー参加に関しても、日本政府は慎重な姿勢を崩しておらず、核兵器禁止に向けて動き出している国際世論を無視している。TPNW第6条は核実験による環境修復と被害者救援について定めているが、会議ではどのようにこの条文を効果的に実施するかを巡って参加国が協議することになる。日本は原爆被害の経験から、被害者の救護策について知識と経験がある。その知見をTPNW締約国会議で披露することで、TPNWの効果的な運用に貢献できるはずだ。加盟するか否かに関係なく、日本が発言権のあるオブザーバーとして参加すれば、会議はより実りあるものになるであろう。「唯一の戦争被爆国」である日本が核兵器の非人道性を強調する条約の会議に出席することには象徴的な意味がある。

日本が、核兵器のない世界の実現のために、被爆国にふさわしい責務を果たすためには、何よりも自らの安全保障を核兵器に依存する核抑止政策をやめる方向を模索することである。折しも2018 年の南北板門店宣言と米朝シンガポール共同声明に始まった朝鮮半島非核化プロセスはその条件を整えてくれている。4年間の停滞があるとはいえ、これらの首脳合意は、未だ生きている。日本が朝鮮半島でのこの動きを支持し、そのうえですでに 非核三原則をもつ日本がこれに加わり、北東アジア地域全体の非核化を提案すれば、「北東アジア非核兵器地帯」条約への道が大きく前進するはずである。第10回 NPT再検討会議を目前にして、日本に求められているのは、そうした核政策を打ち出すことであろう。

注1 P5声明URL。

https://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/1com/1com21/statements/7Oct_P5_EN.pdf

注2 日本決議URL。

https://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/1com/1com21/resolutions/L59.pdf

注3 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)核弾頭追跡チームの推計によると、2021年6月1日現在の世界の核弾頭数は13,130発であるが、作戦配備弾頭は前年より78発増の3800発である。

注4 NAC決議URL。

https://reachingcriticalwill.org/images/documents/Disarmament-fora/1com/1com21/resolutions/L44.pdf

2022年01月24日

ニュースペーパーNews Paper2022.1

1月号もくじ

ニュースペーパーNews Paper2022.1

*表紙 瀕死の憲法9条

*インタビューシリーズ 弁護士指宿昭一さんに聞く
ほんとうの共生社会をめざして

*被爆77周年、原水禁運動の課題を考える

*COP26と問われる日本の石炭火力の方針

*第49回衆議院選挙の結果と当面の課題

*本の紹介「靖國神社聖戦史観」

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